投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ

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マイラ様は嘘つきでした。

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 震えながらマイラがひざまずいた。
 リーリエは闇を見るのをやめて振り返り、首を傾げた。

「やはりあなたこそが、」
 マイラが言う。
 その瞬間、リーリエは背をぞわぞわと悪寒が走るのを感じた。後ずさると闇に近づいたが、地面がリーリエを放り出すことはない。

「聖女リーリエ様」
「……!」

 リーリエは一瞬、目の前が真っ白になるのを見た。

「どうか、」
 マイラはひたすらに土を見て、そこに頭を押し付ける。
 もはやどうしようもなかった。リーリエが自主的に動かない以上、マイラはこうして願うしかないのだった。
 リーリエが聖女であり、この国を救えるという安堵はすなわち、国を滅ぼすのは自分だということだ。マイラはその重みに耐えられない。

「どうか、祈ってください」

 リーリエはよろめき、マイラを見下ろした。
 マイラは泣きそうに潤んだ瞳で見返してきた。とても見覚えのある瞳だった。

 そう、リーリエを祈らせるために、いろんな侍女がそんな目をした。同情を乞い、泣きながら願った。祈ってください。
 祈ってください。祈ってください。祈ってください。

 祈ってください、リーリエ様。

「嫌よ!」

 縋るように言っておきながら、リーリエのために何ひとつしてくれない。リーリエの気持ちをわかろうともしない。対価を何ひとつくれない。リーリエはもうわかっていた。
 そんな顔は嘘だ。

「聖女はマイラ、あなたよ!」

 リーリエは拒絶と、そして激しい怒りを感じていた。
 裏切りだ。これは、ひどい裏切りだった。優しいふりをして結局、ただリーリエを祈らせたいだけなのだ。

「いいえ、違う……違うのです、リーリエ様、私は聖女ではありません」
「聞きたくない!」
「わ、私が間違っていたのです。他の誰でもないリーリエ様こそが聖女です!」

 マイラはひたすらに頭を下げるしかない。
 こうしている間にも、消失はじりじりと地面を削っている。そしてリーリエの足元だけがそれに逆らい、取り残されているのだった。

 消失の速度は決して早くはない。だが確実に、どうしようもない闇に吸い込まれていく。マイラの町はもう数日も保つまい。

「お願いします。私の故郷を、どうか……助けて……」
「知らない!」

 リーリエの頭にあるのはただ純粋な怒りだった。
 こうしてマイラが頭を下げてまで祈りを願うことも、ひどく嫌な、不愉快なことだ。いっそこのまま闇に飛び込んで新しい国へ行ってしまおうか。

 それがいいのかもしれない。
 だが頭を過るのはユーファミアのことだ。行くのならば彼女も一緒がいい。ユーファミアもまた、祈らされているのだから。
 助けなければ。

 そうだ、こんなことをしている場合ではなかった。

「リーリエ様!」

 這いつくばるマイラの横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。
「離して!」
「ど、どうか……私達を見捨てないでください」

 リーリエはこの言葉も嫌いだ。
 祈って。民を見捨てないで。国を守って。ろくに見たこともない彼らのために慈悲をと言う。

「……マイラ!」
 その時、駆けつけてきたのは御者の男だった。
 マイラに離れていろと言われていたが、リーリエの前で平伏するさまを見てたまらなくなったのだ。彼はマイラを助け起こし、リーリエの手を払いのけた。
「あっ」
 絶望の声をあげたのはマイラだ。

 リーリエは少し驚いたが、そのままマイラの横を通り抜けた。
「待って……!」
「マイラ、いったい何をされた? ……いや、ここは危ない。離れるぞ」
「リーリエを……っ」

 男はマイラを抱き上げ、消失の続く場所をあとにした。彼らがいなくなるとすぐに、その地はさらさらと溶けて消えた。
 肌にぞわりと恐怖が走る。

「リーリエ!」
 聖女の背中は振り返らずに走っていく。追いかけようとしたマイラは、男に引き止められてしまった。

「あいつに何を言われたんだ?」
 男にとってマイラは守るべき存在だ。見目がよく、努力家の少女は、とにかく人を惹きつけてしまう。

「そうじゃない……そうじゃないの、追いかけて……」
「……わかった。だが、先に安全な場所へ」
「追いかけて! お願い、間に合わなくなる……」

 男はマイラを見、リーリエの背中を見て、ためらった。
「早く! お願い……!」
「……歩けるんだな?」
「歩けるわ。馬車で待ってる」

 マイラがしっかり立てるのを確認してから、男はリーリエの背を追って、町に入っていった。
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