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ルミナはフローリアの腹違いの姉妹らしい
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「掃除にいったいどれだけの時間をかけるの? まったく、貴族らしいこともできないくせに、庶民のこともできないなんてね!」
「申し訳ありません」
罵倒されながらルミナは、いつ終わるのだろうと思っている。床掃除をできれば食事の支度が始まる前に終わらせてしまいたかった。
(ちょっと無理っぽい。お嬢様、話し出すと長いのよね。特に内容は無いのに……)
これがメイド長のお叱りであれば、ルミナは真面目に聞く。下働きとメイドのやることは違うが、雇い主の不快にならないような態度、時間の使い方などについて参考になることが多いからだ。
しかし「フローリアお嬢様」は、参考になることは一切言わない。なにしろストレス解消で説教をしているだけなのだ。労働者の仕事について全く知識がない。
聞くだけ時間の無駄である。
しかしこのお嬢様は、何かというとルミナに絡んでくる。ルミナはただただ死んだような気分で、お説教を真面目な顔で聞き流すしかなかった。
ルミナはフローリアの腹違いの姉妹らしい。
けれどそういう扱いをされていないので、ルミナは自分を使用人だと考えている。さほど不幸だとは思わない。生まれた瞬間に捨てられ、何ひとつ口にすることなく死ぬ赤子だっている。
「わかったら、さっさとその汚らしい服を着替えなさい。本当に、気持ちの悪い子!」
「……申し訳ありません」
えっ、何、と内心慌ててルミナは顔をあげた。
いつものストレス解消だと思っていたが、何か指示があったらしい。着替え?
「グズグズするなって言ってるのよ!」
「……っ!」
フローリアが手にしていた扇を投げた。
確実に顔に当たるコースだったが、避けたところで怒りをかうだけだ。ルミナはぎゅっと目を閉じた。
「……?」
「なっ……」
衝撃はなく、目を開けるとフローリアが震えていた。慌てて視線を向けると扇は床に落ちていた。
ルミナは不思議に思う。
絶対に当たると思ったのに。
「……何をボサッとしているの!」
「はっ、はいっ!」
同じように怪訝そうな顔をしていたメイドが、慌てて扇を拾い上げ、ハンカチで拭ってフローリアに渡した。
完璧に整えられた化粧に似合わない赤い顔をして、フローリアが扇を受け取った。
「避けるなんて、自分の立場がわかっていないようねっ!」
そして振り上げた。
今度は投げず、確実にルミナを殴るつもりのようだ。飾りのついた、それなりの重さのある扇だ。これは顔のどこかが切れるか、打撲跡が残るのは避けられないだろう。
しかし、なんだか。
なんだか気になって、ルミナは今度は寸前まで薄っすらと目を開けて見ていた。フローリアの扇はまっすぐに振り下ろされる。
勢いよく。
「あ」
だがフローリアの肘が、なぜかカクンとおかしな方向にズレた。誰かがちょんと叩いたくらいの動きだったが、あまりにも不自然に、フローリアの扇は違った方向へ行く。
ルミナの肩をかすめた。
「なっ、なっ、この、避けるなと言っているでしょう、忌々しい、恩知らずめっ!」
避けてなどいない。
ルミナは動きもせずに異様な光景を見つめているだけだ。
(お嬢様、何かご病気なのかしら?)
相手を殴ろうとした手が変なふうに動く病気だ。あまり聞いたことはなかったが、そうとしか考えられない。
フローリアの手はおかしいが、背は伸びているし、両足はしっかりと体を支えている。
その足が苛立ちのままに踏み出された。
「思い知りなさい!」
上手くいかないことに腹を立てたらしいフローリアは、どうやらバケツを蹴ろうとしたようだ。中にある汚れた水を、ルミナにかけようとしたのだ。
今度ばかりは上手くいくだろうと思われた。
「あっ?」
だが足もずれた。
フローリアの足は、バケツのちょうどフチを踏んでしまった。
「キャァッ!?」
バケツはフローリアの足の裏を起点にして、勢いよくひっくり返った。汚水がほとんどまっすぐ上に飛び上がる。
それをかぶったのは、まさにバケツを踏みつけたフローリアだった。
「えっ…………い、いやあああっ!」
貴族令嬢が汚水を浴びた経験などあるわけがない。フローリアはずぶ濡れになってしばらく呆然としていたが、理解した現状に耐えられなかったのだろう。
ずぶ濡れのままで逃げ出した。
「申し訳ありません」
罵倒されながらルミナは、いつ終わるのだろうと思っている。床掃除をできれば食事の支度が始まる前に終わらせてしまいたかった。
(ちょっと無理っぽい。お嬢様、話し出すと長いのよね。特に内容は無いのに……)
これがメイド長のお叱りであれば、ルミナは真面目に聞く。下働きとメイドのやることは違うが、雇い主の不快にならないような態度、時間の使い方などについて参考になることが多いからだ。
しかし「フローリアお嬢様」は、参考になることは一切言わない。なにしろストレス解消で説教をしているだけなのだ。労働者の仕事について全く知識がない。
聞くだけ時間の無駄である。
しかしこのお嬢様は、何かというとルミナに絡んでくる。ルミナはただただ死んだような気分で、お説教を真面目な顔で聞き流すしかなかった。
ルミナはフローリアの腹違いの姉妹らしい。
けれどそういう扱いをされていないので、ルミナは自分を使用人だと考えている。さほど不幸だとは思わない。生まれた瞬間に捨てられ、何ひとつ口にすることなく死ぬ赤子だっている。
「わかったら、さっさとその汚らしい服を着替えなさい。本当に、気持ちの悪い子!」
「……申し訳ありません」
えっ、何、と内心慌ててルミナは顔をあげた。
いつものストレス解消だと思っていたが、何か指示があったらしい。着替え?
「グズグズするなって言ってるのよ!」
「……っ!」
フローリアが手にしていた扇を投げた。
確実に顔に当たるコースだったが、避けたところで怒りをかうだけだ。ルミナはぎゅっと目を閉じた。
「……?」
「なっ……」
衝撃はなく、目を開けるとフローリアが震えていた。慌てて視線を向けると扇は床に落ちていた。
ルミナは不思議に思う。
絶対に当たると思ったのに。
「……何をボサッとしているの!」
「はっ、はいっ!」
同じように怪訝そうな顔をしていたメイドが、慌てて扇を拾い上げ、ハンカチで拭ってフローリアに渡した。
完璧に整えられた化粧に似合わない赤い顔をして、フローリアが扇を受け取った。
「避けるなんて、自分の立場がわかっていないようねっ!」
そして振り上げた。
今度は投げず、確実にルミナを殴るつもりのようだ。飾りのついた、それなりの重さのある扇だ。これは顔のどこかが切れるか、打撲跡が残るのは避けられないだろう。
しかし、なんだか。
なんだか気になって、ルミナは今度は寸前まで薄っすらと目を開けて見ていた。フローリアの扇はまっすぐに振り下ろされる。
勢いよく。
「あ」
だがフローリアの肘が、なぜかカクンとおかしな方向にズレた。誰かがちょんと叩いたくらいの動きだったが、あまりにも不自然に、フローリアの扇は違った方向へ行く。
ルミナの肩をかすめた。
「なっ、なっ、この、避けるなと言っているでしょう、忌々しい、恩知らずめっ!」
避けてなどいない。
ルミナは動きもせずに異様な光景を見つめているだけだ。
(お嬢様、何かご病気なのかしら?)
相手を殴ろうとした手が変なふうに動く病気だ。あまり聞いたことはなかったが、そうとしか考えられない。
フローリアの手はおかしいが、背は伸びているし、両足はしっかりと体を支えている。
その足が苛立ちのままに踏み出された。
「思い知りなさい!」
上手くいかないことに腹を立てたらしいフローリアは、どうやらバケツを蹴ろうとしたようだ。中にある汚れた水を、ルミナにかけようとしたのだ。
今度ばかりは上手くいくだろうと思われた。
「あっ?」
だが足もずれた。
フローリアの足は、バケツのちょうどフチを踏んでしまった。
「キャァッ!?」
バケツはフローリアの足の裏を起点にして、勢いよくひっくり返った。汚水がほとんどまっすぐ上に飛び上がる。
それをかぶったのは、まさにバケツを踏みつけたフローリアだった。
「えっ…………い、いやあああっ!」
貴族令嬢が汚水を浴びた経験などあるわけがない。フローリアはずぶ濡れになってしばらく呆然としていたが、理解した現状に耐えられなかったのだろう。
ずぶ濡れのままで逃げ出した。
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