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「まあ、ちょっとそんな気はしてたんですよ。わざわざ言って王が仕事を放棄したら嫌だったから黙ってたんですけど」
「ひどいぞ! おまえ、おまえ、そんなことのためにルミナがひどい目にあってもいいと!」
「生きてさえいれば良いじゃないですか」
補佐官が言う。
なんて冷徹なのだ。ひどい。とても精霊とは思えない。
いや、精霊すぎる。
だいたい精霊なんて番以外のことはどうでもいいのだ。そうだった。ああ、ルミナは俺が守らなければ。
まあ、そのぶん精霊は人を悪意を持っていじめたりなんてしないので、そこは安心だ。俺の番、王の后として懐いてくれている。
でも心配だ。何があるかわからない。
ああそばにいたい。そばにいたいぞ。助けてくれルミナ。
「あのフローリアというのと、同い年だってあなたも知っていたでしょう」
「……そうだったな……」
つまるところルミナはもう16だった。
あんなに小さくて可愛いのに。
もっとも、数日前が誕生日という、際どいところだったそうだ。まあ16になっていたからこそ、どこぞの金持ちに嫁ぐという話が出たらしいのだが。
気づかなかった自分が恥ずかしい。番以外はどうでもいいが、番のことなら何でも知っておきたいのだ。知れることを知らなかった、そんなのは怠慢だ。
反省したので俺は今でも時々は、ルミナの血縁上の父と姉の様子を見ている。毎日、悪戯されて楽しい日々を送っているようだ。屋敷に客人を呼ぶこともできず、貴族という面倒な枷から解き放たれる日も近い。良かったな。
そしてきちんと16だったルミナを精霊界に迎え入れた俺は、今でも精霊王だ。
「はあ。なんのしがらみもない一精霊になるのも良いかと思ったんだが」
「そんなの許しませんよ。次の王を選ぶまで国が荒れます。すると私の番が迷惑を被ることになります」
「……まあそうか」
国のため民のため、つまりは番のために補佐官している男の言葉は重みが違う。
俺が王として頑張っているのもルミナのためになるのなら、投げ捨てるわけにはいかない。誠心誠意、精霊界のために力を尽くそうではないか。
「おおっ! 仕事の時間が終わったぞ。ルミナの時間だ!」
「はいはい。さっさと帰ってきてくださいよ」
「はっはは二度と帰りたくないが?」
だが恐ろしい補佐官がいるので無理だろう。
俺は急いで執務のための空間から逃れ出て、まっすぐにルミナのところへ向かった。探す必要などない。心が通じ合った番なのだ。
ただ声をかけるのには、一呼吸して時間を置かなければならなかった。じゃないとみっともなく縋り付いてしまうからだ。ルミナには立派な王様を見て欲しい。
「ルミナ」
「……お仕事は?」
「終わった。君も休んでほしい」
王の番であるルミナはなにもする必要がない。だというのに、落ち着かないからといってあちこちの掃除をしている。
精霊界はふわふわした世界なので、掃除なんて本当は必要がないのだ。だがルミナが「掃除」したあとは魅力的で美しい色に変わる。ルミナの存在が染み込んでいる。ああ……羨ましい。
「俺も壁になりたい……」
「ふふっ。だめよ、がんばって、王様」
「がんばる。ルミナのために」
「ありがとう」
ルミナは嬉しそうに笑って俺に抱きついてくれた。
「……でもな、あれだぞ、ルミナが俺の膝にいてくれればもっと頑張れ、」
「だめよ」
「うっ」
かわいい。
俺の口につんと指をあてて黙らせた、なんて小悪魔だ、悪い子だ、かわいい、いい子だ。
「ずっと一緒にいるなんて……なんか……恥ずかしいし」
「うぐっ」
かわいいが限界突破だ。俺はやっぱりこの子をさらって誰もいない場所で二人きりでとか考えたが、ルミナに嫌われてはまずい。
ルミナは人間なのだ。
人間には人間の理屈がある。それを無視してしまえば、心は手に入らない。なによりルミナは笑っていないといけない。
「その、だから、お仕事が終わったら……」
「ああ! すぐに終わらせる。……から、今までのご褒美を」
「……もう」
ルミナはとてもとても小さな声で「しかたないなあ」と言って、俺の頬にキスをしてくれた。俺はみっともなく崩れた顔をしてしまったが、それを見てルミナが嬉しそうなのでよしとした。
かっこいいところを見せたいが。
ルミナは俺がへなちょこなところも好きらしい。それならいいのだ。
「がんばって、……」
そうして俺の名を囁いてくれる。
精霊王となったときに名は失ってしまったので、これはルミナがつけてくれた名だ。それを聞くたび俺は、自分がとても素晴らしいものになったように思うのだ。
ああ。
「幸せだなあ」
「……そ。よかった」
私も、という言葉はやっぱり小さいが、俺の耳にはきっちり届いた。精霊王がとても幸せなものだから、精霊界は今日もほわほわ桃色の空気に包まれている。
「ひどいぞ! おまえ、おまえ、そんなことのためにルミナがひどい目にあってもいいと!」
「生きてさえいれば良いじゃないですか」
補佐官が言う。
なんて冷徹なのだ。ひどい。とても精霊とは思えない。
いや、精霊すぎる。
だいたい精霊なんて番以外のことはどうでもいいのだ。そうだった。ああ、ルミナは俺が守らなければ。
まあ、そのぶん精霊は人を悪意を持っていじめたりなんてしないので、そこは安心だ。俺の番、王の后として懐いてくれている。
でも心配だ。何があるかわからない。
ああそばにいたい。そばにいたいぞ。助けてくれルミナ。
「あのフローリアというのと、同い年だってあなたも知っていたでしょう」
「……そうだったな……」
つまるところルミナはもう16だった。
あんなに小さくて可愛いのに。
もっとも、数日前が誕生日という、際どいところだったそうだ。まあ16になっていたからこそ、どこぞの金持ちに嫁ぐという話が出たらしいのだが。
気づかなかった自分が恥ずかしい。番以外はどうでもいいが、番のことなら何でも知っておきたいのだ。知れることを知らなかった、そんなのは怠慢だ。
反省したので俺は今でも時々は、ルミナの血縁上の父と姉の様子を見ている。毎日、悪戯されて楽しい日々を送っているようだ。屋敷に客人を呼ぶこともできず、貴族という面倒な枷から解き放たれる日も近い。良かったな。
そしてきちんと16だったルミナを精霊界に迎え入れた俺は、今でも精霊王だ。
「はあ。なんのしがらみもない一精霊になるのも良いかと思ったんだが」
「そんなの許しませんよ。次の王を選ぶまで国が荒れます。すると私の番が迷惑を被ることになります」
「……まあそうか」
国のため民のため、つまりは番のために補佐官している男の言葉は重みが違う。
俺が王として頑張っているのもルミナのためになるのなら、投げ捨てるわけにはいかない。誠心誠意、精霊界のために力を尽くそうではないか。
「おおっ! 仕事の時間が終わったぞ。ルミナの時間だ!」
「はいはい。さっさと帰ってきてくださいよ」
「はっはは二度と帰りたくないが?」
だが恐ろしい補佐官がいるので無理だろう。
俺は急いで執務のための空間から逃れ出て、まっすぐにルミナのところへ向かった。探す必要などない。心が通じ合った番なのだ。
ただ声をかけるのには、一呼吸して時間を置かなければならなかった。じゃないとみっともなく縋り付いてしまうからだ。ルミナには立派な王様を見て欲しい。
「ルミナ」
「……お仕事は?」
「終わった。君も休んでほしい」
王の番であるルミナはなにもする必要がない。だというのに、落ち着かないからといってあちこちの掃除をしている。
精霊界はふわふわした世界なので、掃除なんて本当は必要がないのだ。だがルミナが「掃除」したあとは魅力的で美しい色に変わる。ルミナの存在が染み込んでいる。ああ……羨ましい。
「俺も壁になりたい……」
「ふふっ。だめよ、がんばって、王様」
「がんばる。ルミナのために」
「ありがとう」
ルミナは嬉しそうに笑って俺に抱きついてくれた。
「……でもな、あれだぞ、ルミナが俺の膝にいてくれればもっと頑張れ、」
「だめよ」
「うっ」
かわいい。
俺の口につんと指をあてて黙らせた、なんて小悪魔だ、悪い子だ、かわいい、いい子だ。
「ずっと一緒にいるなんて……なんか……恥ずかしいし」
「うぐっ」
かわいいが限界突破だ。俺はやっぱりこの子をさらって誰もいない場所で二人きりでとか考えたが、ルミナに嫌われてはまずい。
ルミナは人間なのだ。
人間には人間の理屈がある。それを無視してしまえば、心は手に入らない。なによりルミナは笑っていないといけない。
「その、だから、お仕事が終わったら……」
「ああ! すぐに終わらせる。……から、今までのご褒美を」
「……もう」
ルミナはとてもとても小さな声で「しかたないなあ」と言って、俺の頬にキスをしてくれた。俺はみっともなく崩れた顔をしてしまったが、それを見てルミナが嬉しそうなのでよしとした。
かっこいいところを見せたいが。
ルミナは俺がへなちょこなところも好きらしい。それならいいのだ。
「がんばって、……」
そうして俺の名を囁いてくれる。
精霊王となったときに名は失ってしまったので、これはルミナがつけてくれた名だ。それを聞くたび俺は、自分がとても素晴らしいものになったように思うのだ。
ああ。
「幸せだなあ」
「……そ。よかった」
私も、という言葉はやっぱり小さいが、俺の耳にはきっちり届いた。精霊王がとても幸せなものだから、精霊界は今日もほわほわ桃色の空気に包まれている。
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