14 / 45
別人なのか?
7
しおりを挟む
歳上の職員の事は『〇〇さん』と呼んでいるし、会社の直属の後輩の自分が呼び捨てにされるのも不思議ではない。
見てくれの良さは本人の生まれ持った物だろうし、チヤホヤしているのはオバサマたちであって、別に支部長自ら甘えている訳でも、それを仕事に利用している訳でもない。
(じゃあ何……?私が嫌いなのは、あのデカイ声か?それとも生理的にあの見てくれが無理なのか?)
だけど、ゆうべの緒川支部長の話し方や雰囲気はとても穏やかだったし、むしろどこか幼くも気弱そうにも感じた。
たしかにあの格好や話し方では、お客さんにも部下にも頼りなく見られるような気がする。
そして耳元で囁くように話す優しく甘い声が、耳の奥に蘇る。
『もっとホントの俺の事を知ってよ。俺ももっと菅谷の事知りたい。菅谷が、好きだから』
『俺の彼女になって。これでもかってくらい、めちゃくちゃ大事にするから……』
あの声で甘い言葉を耳元で囁かれ、不覚にもドキドキして、思わずうなずいてしまった。
(……あれは反則……。そんな支部長、私は知らない……)
倉庫で強引に抱きしめられて『付き合って』と言われた時とはまた違う。
あの時は執拗に耳を攻められて、無理やりキスまでされたけれど、イヤだと思いこそすれ、1ミリたりともドキドキなんてしなかった。
(なんて言うか……会社にいる時と仕事の後は、やっぱり別人?もしかして二重人格?)
そんな人と少しの間でも付き合えるのだろうかとか、仕事の後の緒川支部長なら少しくらいは一緒にいてもいいかなとか、一人の人に対して相反する自分の考えに収集がつかなくなり、愛美は大きなため息をついた。
(もうわけがわからん……。コーヒーでも飲んで頭冷やそう)
コーヒーを入れて席に戻ると、支部の電話が鳴った。
受話器を取ると、こちらが社名を名乗るより先に相手の声がした。
『もしもし』
緒川支部長の低い声が愛美の耳に響く。
普段直接耳にする声と、受話器越しに聞く声は違う気がした。
「支部長……お疲れ様です、菅谷です」
『もう高瀬戻ってる?』
「いえ、まだです」
『峰岸主管は?』
「新人さんの職域訪問に付き添われて、まだ戻られてません」
『そうか……。高瀬が戻ったら俺に電話するように言って。あと、峰岸主管には3時からの営業部の会議に遅れないように言っといて』
「わかりました」
愛美は緒川支部長からの業務連絡を電話連絡票にメモした。
『あと……菅谷』
「はい、なんでしょう」
『今日の夜、できるだけ早く仕事終わらせるから、先輩の店で待ってて』
「わかりました……って……えっ?!」
さきほどの流れで業務連絡が続いているのだと思っていた愛美は、これが個人的な用である事に気付いた途端に焦ってしまい、手にしていたペンを思わず強く握りしめた。
電話連絡票に下ろしたペン先からインクがにじみ出し、黒いシミを広げていく。
「何か予定ある?それとも迷惑?」
「いえ……そういうわけでは……」
「じゃあ約束な。菅谷……」
「はい?」
「……好きだよ」
緒川支部長は突然あの甘い声でそう言って電話を切った。
愛美の耳に緒川支部長の甘い声の余韻が残る。
(な、な、なんだ今の……?!)
慌てて受話器を置き、愛美は熱くなった頬を両手で覆った。
心臓がうるさいくらいにドキドキと音を立てる。
(急にこんなの心臓に悪い……!!支部長のくせに、こんなことに支部の電話を使うなんて!!仕事中の私用電話禁止!!)
しばらく経って、支部に戻った高瀬FPが机の上の電話連絡票に目を留めた。
「あれ?支部長から、僕に電話あったんですか?」
「はい」
「わざわざ支部の電話に?」
「え?」
愛美は高瀬FPの言葉に首をかしげた。
支部の電話に業務連絡があったことの何が不思議なんだろう?
「用があるなら僕の携帯に直接電話すればいいのに……」
高瀬FPはニヤリと笑って愛美を見た。
「割とあからさまですよね、支部長って」
「えっ?それって……」
愛美の小さな問い掛けには答えず、高瀬FPは笑いを堪えながら自分の席に戻って、ポケットから取り出した携帯電話で支部長に電話を掛けた。
(たしかに高瀬FPの言う通りだ。支部の職員に用があるなら、その人の携帯に直接電話すれば済むのに……って事は……!)
愛美は支部長が出先から支部に電話してきた目的がやっとわかり、赤くなった頬を隠すようにうつむいて拳を握りしめた。
(仕事中に何考えてんだ、あの男は……!!それにドキドキする私もどうかしてるだろ……!!)
見てくれの良さは本人の生まれ持った物だろうし、チヤホヤしているのはオバサマたちであって、別に支部長自ら甘えている訳でも、それを仕事に利用している訳でもない。
(じゃあ何……?私が嫌いなのは、あのデカイ声か?それとも生理的にあの見てくれが無理なのか?)
だけど、ゆうべの緒川支部長の話し方や雰囲気はとても穏やかだったし、むしろどこか幼くも気弱そうにも感じた。
たしかにあの格好や話し方では、お客さんにも部下にも頼りなく見られるような気がする。
そして耳元で囁くように話す優しく甘い声が、耳の奥に蘇る。
『もっとホントの俺の事を知ってよ。俺ももっと菅谷の事知りたい。菅谷が、好きだから』
『俺の彼女になって。これでもかってくらい、めちゃくちゃ大事にするから……』
あの声で甘い言葉を耳元で囁かれ、不覚にもドキドキして、思わずうなずいてしまった。
(……あれは反則……。そんな支部長、私は知らない……)
倉庫で強引に抱きしめられて『付き合って』と言われた時とはまた違う。
あの時は執拗に耳を攻められて、無理やりキスまでされたけれど、イヤだと思いこそすれ、1ミリたりともドキドキなんてしなかった。
(なんて言うか……会社にいる時と仕事の後は、やっぱり別人?もしかして二重人格?)
そんな人と少しの間でも付き合えるのだろうかとか、仕事の後の緒川支部長なら少しくらいは一緒にいてもいいかなとか、一人の人に対して相反する自分の考えに収集がつかなくなり、愛美は大きなため息をついた。
(もうわけがわからん……。コーヒーでも飲んで頭冷やそう)
コーヒーを入れて席に戻ると、支部の電話が鳴った。
受話器を取ると、こちらが社名を名乗るより先に相手の声がした。
『もしもし』
緒川支部長の低い声が愛美の耳に響く。
普段直接耳にする声と、受話器越しに聞く声は違う気がした。
「支部長……お疲れ様です、菅谷です」
『もう高瀬戻ってる?』
「いえ、まだです」
『峰岸主管は?』
「新人さんの職域訪問に付き添われて、まだ戻られてません」
『そうか……。高瀬が戻ったら俺に電話するように言って。あと、峰岸主管には3時からの営業部の会議に遅れないように言っといて』
「わかりました」
愛美は緒川支部長からの業務連絡を電話連絡票にメモした。
『あと……菅谷』
「はい、なんでしょう」
『今日の夜、できるだけ早く仕事終わらせるから、先輩の店で待ってて』
「わかりました……って……えっ?!」
さきほどの流れで業務連絡が続いているのだと思っていた愛美は、これが個人的な用である事に気付いた途端に焦ってしまい、手にしていたペンを思わず強く握りしめた。
電話連絡票に下ろしたペン先からインクがにじみ出し、黒いシミを広げていく。
「何か予定ある?それとも迷惑?」
「いえ……そういうわけでは……」
「じゃあ約束な。菅谷……」
「はい?」
「……好きだよ」
緒川支部長は突然あの甘い声でそう言って電話を切った。
愛美の耳に緒川支部長の甘い声の余韻が残る。
(な、な、なんだ今の……?!)
慌てて受話器を置き、愛美は熱くなった頬を両手で覆った。
心臓がうるさいくらいにドキドキと音を立てる。
(急にこんなの心臓に悪い……!!支部長のくせに、こんなことに支部の電話を使うなんて!!仕事中の私用電話禁止!!)
しばらく経って、支部に戻った高瀬FPが机の上の電話連絡票に目を留めた。
「あれ?支部長から、僕に電話あったんですか?」
「はい」
「わざわざ支部の電話に?」
「え?」
愛美は高瀬FPの言葉に首をかしげた。
支部の電話に業務連絡があったことの何が不思議なんだろう?
「用があるなら僕の携帯に直接電話すればいいのに……」
高瀬FPはニヤリと笑って愛美を見た。
「割とあからさまですよね、支部長って」
「えっ?それって……」
愛美の小さな問い掛けには答えず、高瀬FPは笑いを堪えながら自分の席に戻って、ポケットから取り出した携帯電話で支部長に電話を掛けた。
(たしかに高瀬FPの言う通りだ。支部の職員に用があるなら、その人の携帯に直接電話すれば済むのに……って事は……!)
愛美は支部長が出先から支部に電話してきた目的がやっとわかり、赤くなった頬を隠すようにうつむいて拳を握りしめた。
(仕事中に何考えてんだ、あの男は……!!それにドキドキする私もどうかしてるだろ……!!)
1
あなたにおすすめの小説
ヒロインになれませんが。
橘しづき
恋愛
安西朱里、二十七歳。
顔もスタイルもいいのに、なぜか本命には選ばれず変な男ばかり寄ってきてしまう。初対面の女性には嫌われることも多く、いつも気がつけば当て馬女役。損な役回りだと友人からも言われる始末。 そんな朱里は、異動で営業部に所属することに。そこで、タイプの違うイケメン二人を発見。さらには、真面目で控えめ、そして可愛らしいヒロイン像にぴったりの女の子も。
イケメンのうち一人の片思いを察した朱里は、その二人の恋を応援しようと必死に走り回るが……。
全然上手くいかなくて、何かがおかしい??
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる