【完結】幼なじみが気になって仕方がないけど、この想いは墓まで持っていきます。

大竹あやめ

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「俺ね、義兄さんと一緒なんだよ」

次の日、やっぱり何故か仲良く食卓を囲んで朝食を食べていた三人は、恒昭の家出の詳しい事情を聞きだしていた。

恒昭の言う事情とは、血が繋がっていなくても似るところがあるらしい、彼のセクシャリティのことだ。

「俺んとこ、シングルマザーでしかもそいつに虐待されてたから施設に入れられたんだけど、そこを坂田家に拾われてさ。大体やんちゃな俺にピアノとかテーブルマナーとか教えることから間違ってる」

複雑な環境をさらりと言ってしまえるのは、恒昭の良いところだろう。しかし、その態度は恩着せがましい坂田家の両親には良く映らなかったようだ。

「お前は育ててやってるのに恩を感じないのかとか、跡継ぎを産めとか……俺ゲイだけどって言ったら暴れちゃってさ。それでも、実の子のことは一切口にしねぇの」

それで、この人たちは、子供のこと道具にしか見てないんだろうな、と感じたらしい。博美も、やはりな、とため息をついた。

博美の実家は大物資産家の家系だが、今の坂田家にはちゃんとした跡継ぎがいない、とその手の世界では話題になっているらしい。

それを知った幸太は、妙に納得していた。初めて会った時から所作も何もかも綺麗だったから、いいとこの坊ちゃんなんだろうな、とは感じていたようだ。

「俺、初めて義兄さんと会ったときに一目惚れして、あんなに綺麗で何でもこなせる人なのに、どうして俺を養子にしたんだろうって思っていろいろ調べたら……こいつが出入りしているのが分かって」

こいつ、のところで恒昭は幸太を睨む。唯一頼れる人が恋人と仲良くやっていて、嫉妬したようだ。手紙の内容もわざと誤解を生ませるようなものにしていたらしい。

そこまで聞いたら、博美も恒昭に同情せざるを得なくなった。あの坂田家に逆らってしまった以上、生きにくくなってしまったのは目に見えている。

「あのな、それで兄弟ではなくなった兄貴を頼ってくる辺りが、まだ甘いんだよ」

「何だって?」

それまで黙って聞いていた幸太が、初めて口を挟んだ。せっかく穏やかに話が終わりそうだったのに、恒昭にも剣呑な空気が漂う。

「あんたの憧れの兄貴は家を追い出された後、どうしたと思う? 家に帰れない、でも部屋を借りるには未成年だから親の署名がいる。それで博美がやった行動は決して良いとは言えない。でも、生きるために必死に全部一人でやって、今がある」

博美も口を挟んではいけない、と黙って話を聞いていた。これは恒昭を責めている言葉じゃない、発破をかけているのだ。睨んでいた恒昭も、真剣な顔つきになる。

(やっぱり、幸太はおせっかいだね)

博美は苦笑した。関わった以上は最後まで責任を持つ彼は、やはり好きで堪らない。

「お前の親がそうであるように、ゲイである以上、弾かれるのは当たり前と思え。それから社会的地位はしっかり掴め。マイノリティとして生きる以上、お前も覚悟を決めろ。パートナーがいるならなおさら」

これは幸太が自分自身に課した言葉なのだろう。恒昭は顔を赤くすると、何で分かるんだ、と喚いた。

「それを相談したくてここに来たんじゃないのか?」

やはり人の心を読むのが得意な幸太は、もれなく恒昭の行動もお見通しだったようだ。反対する両親と、恋人と、どう付き合っていくのか、決めなければならない。

「じゃ、おせっかいついでにもう一つ。勉強は無駄にはならないから甘んじて受けろ。分籍の相談なら知り合いを紹介してやる。まずは、二十歳までだな」

それなら一つじゃなくて三つだ、と博美は心の中で笑いながら、言葉の意味を理解した恒昭を見て一つうなずいた。二十歳まで分籍するのは無理なのだ、それまでは坂田家の子供として生きるしかない。しかし、幸太はさらに言葉を続ける。

「そして、いくら戸籍をいじったところで、親子関係は解消されない。それは養子縁組でも同じだ。死ぬまで親子は親子だ」

「……」

幸太の思いがけない言葉に、博美は絶句した。だとしたらこの八年間、何のために悩んでいたのだろう。戸籍上一人になったから、家族はいなくなったのだと思い込んでいたのだ。

それを幸太は知っていて、兄弟に聞かせたのか。

「だから、博美たちも兄弟だよ」

幸太の言葉が、博美の胸を突き刺した。笑顔を向ける幸太に、思わず目頭が熱くなって俯く。

「……よし」

恒昭が立ち上がった。

「義兄さん、俺、よくばりだから親も恋人も取る。認めさせる。だから、義兄さんも認めてもらえよ」

「え……?」

博美が顔を上げると、やる気に満ちた恒昭の瞳が見つめていた。

「兄弟の力で、認めさせよう。俺も頑張るから」

「そうだな、俺も挨拶に行きたいし」

「え? ちょ、ちょっと!」

席を立ちあがった幸太は、慌てる博美など無視だ。話が急展開すぎて、ついていけないのは博美だけ。

手早く食器を片づけた幸太は、まさか今から行くの? と躊躇う博美の顔を覗いてくる。眼鏡の奥の瞳が、笑っていた。

「大丈夫だ。卑屈なことさえ言わなければ、きっと何も言われない」

「でも……」

卑屈でネガティブなのは博美の専売特許だ。幸太は簡単に言うけれど、本当は親の顔を見るのも怖い。

「俺と一緒になるにしても、後ろめたさを感じたまま過ごすのは嫌だろ?」

「……うん」

頼りなくうなずくと、幸太は軽く頭を撫でてくれた。こんなに優しい触れ方をされてしまったら、博美は素直に言うことを聞くしかない。

それは長年付き合ってきた中で、幸太が博美の扱いを心得た、技の一つだ。

「さ、行こう」
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