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第153話
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「お久し振りです、聡明なる若君」
「授業前の忙しない時に割り込んで悪かったな、神父」
「いえ、領主家には当方の専属司祭を受け入れてもらい、教会施設の運営に宛がう多額の寄進も頂いています、少々のことなら問題になりませんよ」
為政者との繋がりは大事なので、今後とも良しなにと言い添え、人好きのする顔で老獪な御仁が微笑む。
こんな奴しか居ないな、地母神教会の司祭と呆れていれば屋敷で雇ったクレアや、自由奔放なリィナの面倒を見ている件にも触れて、白斑の頭を下げてきた。
若輩である自身との年齢差を考慮したら、あまりに遜られても要らぬ誤解が立ちそうなため、俺も丁寧な言葉で応じて角が立たないように纏める。
緩りと姿勢を戻した相手は一拍挟み、僅かに交わらせた視線を誘導しつつ、修道院の女児らに教師役を強請られて、困り顔になっている年若い司祭の娘を見遣った。
「何やら微笑ましい光景ですが、これでは勉強の続きが始められませんな」
「うぐぅ、次の授業、私が担当しても?」
「折角の機会です、ここは文武両道と名高い次期領主に指導してもらいましょう」
「また、急な無茶振りを……」
即座に断ってやろうと考えたものの、新しいことに興味が移ろい易いのか、初等科くらいの子供達に人狼娘ごと囲まれ、きらきらの眼差しを向けられてしまう。
適宜、教会絡みの場所へ出入りしていた経緯もあり、顔見知りと言っても差し支えない一人が小首を傾げ、恐る恐るといった様子で問い掛けてきた。
「…… ジェオ様、教えてくれるの?」
「そうだな、未来の納税者に教育を施すのも領主家の務め」
さっき、誰かが槍術より体術の授業と発言していたことも踏まえ、矢尽き刀折れようとも足掻けるよう徒手空拳での立ち廻りを教えてやろうと思い、運動着への着替えを促したところでフィアが慌てて割り込む。
「ま、まさかとは思いますけど、“いつもの如く” ですか?」
「あぁ、相手が拙くても侮るに能わず、ついでにウルリカも鍛えてやろう」
「むぅ、なんか、背筋がぞわぞわする」
「これ、きっと駄目なやつ」「うぅ~、早まったかも?」
負けても命を奪われない状況で極限状態に追い込み、“死合うことの本質” や “殺し殺される覚悟” の持ち方を教えるのだと宣えば、本能で危機を察した人狼の少女と子供達が引き波さながらに離れていった。
その光景にも動じず、笑顔を絶やさない御仁が柔和な雰囲気のまま一言もの申す。
「ふむ、着替えの手間も掛かりますし、皆も座学の方が宜しそうですな」
「致し方ない、教える科目は好きに選ばせてもらうぞ」
「えぇ、若君と同志フィアの二人にお任せします」
御随意にと頷いた初老の司祭は、空いた時間にやりたいことでもあるのか、踵を返して授業の場である写本室より立ち去っていく。
それを見送った後、聖書の増刷に使う活版印刷機の傍まで歩み、作業台に積まれていた麻紙数枚と鋏を二つ手に取ってから、俺は簡素な黒板の前へ移動した。
「授業前の忙しない時に割り込んで悪かったな、神父」
「いえ、領主家には当方の専属司祭を受け入れてもらい、教会施設の運営に宛がう多額の寄進も頂いています、少々のことなら問題になりませんよ」
為政者との繋がりは大事なので、今後とも良しなにと言い添え、人好きのする顔で老獪な御仁が微笑む。
こんな奴しか居ないな、地母神教会の司祭と呆れていれば屋敷で雇ったクレアや、自由奔放なリィナの面倒を見ている件にも触れて、白斑の頭を下げてきた。
若輩である自身との年齢差を考慮したら、あまりに遜られても要らぬ誤解が立ちそうなため、俺も丁寧な言葉で応じて角が立たないように纏める。
緩りと姿勢を戻した相手は一拍挟み、僅かに交わらせた視線を誘導しつつ、修道院の女児らに教師役を強請られて、困り顔になっている年若い司祭の娘を見遣った。
「何やら微笑ましい光景ですが、これでは勉強の続きが始められませんな」
「うぐぅ、次の授業、私が担当しても?」
「折角の機会です、ここは文武両道と名高い次期領主に指導してもらいましょう」
「また、急な無茶振りを……」
即座に断ってやろうと考えたものの、新しいことに興味が移ろい易いのか、初等科くらいの子供達に人狼娘ごと囲まれ、きらきらの眼差しを向けられてしまう。
適宜、教会絡みの場所へ出入りしていた経緯もあり、顔見知りと言っても差し支えない一人が小首を傾げ、恐る恐るといった様子で問い掛けてきた。
「…… ジェオ様、教えてくれるの?」
「そうだな、未来の納税者に教育を施すのも領主家の務め」
さっき、誰かが槍術より体術の授業と発言していたことも踏まえ、矢尽き刀折れようとも足掻けるよう徒手空拳での立ち廻りを教えてやろうと思い、運動着への着替えを促したところでフィアが慌てて割り込む。
「ま、まさかとは思いますけど、“いつもの如く” ですか?」
「あぁ、相手が拙くても侮るに能わず、ついでにウルリカも鍛えてやろう」
「むぅ、なんか、背筋がぞわぞわする」
「これ、きっと駄目なやつ」「うぅ~、早まったかも?」
負けても命を奪われない状況で極限状態に追い込み、“死合うことの本質” や “殺し殺される覚悟” の持ち方を教えるのだと宣えば、本能で危機を察した人狼の少女と子供達が引き波さながらに離れていった。
その光景にも動じず、笑顔を絶やさない御仁が柔和な雰囲気のまま一言もの申す。
「ふむ、着替えの手間も掛かりますし、皆も座学の方が宜しそうですな」
「致し方ない、教える科目は好きに選ばせてもらうぞ」
「えぇ、若君と同志フィアの二人にお任せします」
御随意にと頷いた初老の司祭は、空いた時間にやりたいことでもあるのか、踵を返して授業の場である写本室より立ち去っていく。
それを見送った後、聖書の増刷に使う活版印刷機の傍まで歩み、作業台に積まれていた麻紙数枚と鋏を二つ手に取ってから、俺は簡素な黒板の前へ移動した。
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