72 / 155
第72話 ~とある専属司祭の視点③~
しおりを挟む
「皆様のご協力、ありがたく思います。つきましては中央広場に拠点設営の許可をもらえると嬉しいのですけど… 特に問題はありませんか?」
猫を被った半人造の少女が愛想笑いなど浮かべ、会話の合間に後続の手引きで現着した四台の荷馬車を指さす。
幌に覆われた内部には十数名を収容できる天幕が五張り、そこに滞在する修道士や冒険者らを賄う食料と調理器具、生活必需品が積まれていた。
「一応、広場を借りたいと事前に聞きましたが、支援団は郊外に野営地を構えているはず、理由をお伺いしても?」
「感染抑制のため市街地に入った者は本営から離れ、そのまま活動を続けるので内々の拠点が必要となります、スピネージ議長」
素朴な疑問を感じた御仁に淀みなく説明すると、会話の区切りを付けたリィナは振り返って、集めた衆目ごと私に水を向けてくる。
さりげない御膳立てを受け入れて、先ほどの遣り取りで横道に逸れ掛けたのを反省しつつ、一呼吸置いて言葉を繋いだ。
「広場を租借する件、ご理解と協力を頂けますか?」
「…… 分かりました、ご自由にお使いください」
「さて、許可も出たし… やるよ、皆!」
「「応ッ!!」」
僅かに悩んだ御仁が頷けば、猫を投げ捨てた幼馴染の指揮で冒険者らが動き、護衛対象の修道士も巻き込みながら天幕の骨組みに取り掛る。
忽ち活気づく彼らの姿に鼓舞されて、こちらも最初の難関と言える問題を片づけるべく、街の実質的な統括者である議長殿と司教様を視界に収め直した。
「ここに至るまでの途上、少なくない遺体が道端に転がっていました。俗に言う “瘴気”、私達が病原体と呼ぶものの拡散を抑えるなら、適切な弔いは不可欠です」
仮に人々が接触を避けても鼠は腐肉を漁り、その血を吸った蚤が媒介して、病気の原因を街にばら撒くのだと強調する。
耳を傾けていた二人は其々に小さく唸り、何とも言えない表情になった。
「理屈は理解できるが、残念なことに人手が足りない」
「伝染病による死者の数だけ、瘴気が漏れない深さの墓穴を掘るのは難しいかと」
「えぇ、それは私達も存じ上げています」
「ッ、まさか、火葬を!?」
察しの良い司教様が眉を顰め、私の言葉を先んじて切り取る。
彼ら普公派は “新しき契約の書” に定められた復活の日を重んじるので、魂の還るべき肉体を焼くのに抵抗があるのだろう。
「心情は分かりますけど、聖書で明確に禁止されていませんし、我らが神は如何なる状態であろうと蘇らせてくれますよ。聖母を遣わせてくれた至高の御方ですから」
「ぐっ、全能たる神に不可能はないが……」
猶も言葉を濁す格上の御仁や、付き添いの聖職者らに対して、古代ローウェル帝国の時代は普通に火葬も行われていたこと、戦地から遺骨を持ち帰るために焼くことも例に挙げて諭す。
柔軟な解釈が許される地母神派の末席で良かったと心底思いつつ、頑なな彼らをあの手この手で説き伏せれば、連鎖的に議長と官吏らも火葬を認めてくれた。
(うぅ、市政に携わる人達が合理主義で助かりました)
なんとかジェオ君の思惑通りに運びそうで、抱えた重荷が下りてほっと一息する。
不意に肩を叩かれて返り見ると生暖かい目つきのリイナがいて、こちらの気疲れを労う体裁で軽く揶揄してくるも… 一々翻弄されずに先方との談合を切り上げ、天幕で少し休ませてもらうことにした。
猫を被った半人造の少女が愛想笑いなど浮かべ、会話の合間に後続の手引きで現着した四台の荷馬車を指さす。
幌に覆われた内部には十数名を収容できる天幕が五張り、そこに滞在する修道士や冒険者らを賄う食料と調理器具、生活必需品が積まれていた。
「一応、広場を借りたいと事前に聞きましたが、支援団は郊外に野営地を構えているはず、理由をお伺いしても?」
「感染抑制のため市街地に入った者は本営から離れ、そのまま活動を続けるので内々の拠点が必要となります、スピネージ議長」
素朴な疑問を感じた御仁に淀みなく説明すると、会話の区切りを付けたリィナは振り返って、集めた衆目ごと私に水を向けてくる。
さりげない御膳立てを受け入れて、先ほどの遣り取りで横道に逸れ掛けたのを反省しつつ、一呼吸置いて言葉を繋いだ。
「広場を租借する件、ご理解と協力を頂けますか?」
「…… 分かりました、ご自由にお使いください」
「さて、許可も出たし… やるよ、皆!」
「「応ッ!!」」
僅かに悩んだ御仁が頷けば、猫を投げ捨てた幼馴染の指揮で冒険者らが動き、護衛対象の修道士も巻き込みながら天幕の骨組みに取り掛る。
忽ち活気づく彼らの姿に鼓舞されて、こちらも最初の難関と言える問題を片づけるべく、街の実質的な統括者である議長殿と司教様を視界に収め直した。
「ここに至るまでの途上、少なくない遺体が道端に転がっていました。俗に言う “瘴気”、私達が病原体と呼ぶものの拡散を抑えるなら、適切な弔いは不可欠です」
仮に人々が接触を避けても鼠は腐肉を漁り、その血を吸った蚤が媒介して、病気の原因を街にばら撒くのだと強調する。
耳を傾けていた二人は其々に小さく唸り、何とも言えない表情になった。
「理屈は理解できるが、残念なことに人手が足りない」
「伝染病による死者の数だけ、瘴気が漏れない深さの墓穴を掘るのは難しいかと」
「えぇ、それは私達も存じ上げています」
「ッ、まさか、火葬を!?」
察しの良い司教様が眉を顰め、私の言葉を先んじて切り取る。
彼ら普公派は “新しき契約の書” に定められた復活の日を重んじるので、魂の還るべき肉体を焼くのに抵抗があるのだろう。
「心情は分かりますけど、聖書で明確に禁止されていませんし、我らが神は如何なる状態であろうと蘇らせてくれますよ。聖母を遣わせてくれた至高の御方ですから」
「ぐっ、全能たる神に不可能はないが……」
猶も言葉を濁す格上の御仁や、付き添いの聖職者らに対して、古代ローウェル帝国の時代は普通に火葬も行われていたこと、戦地から遺骨を持ち帰るために焼くことも例に挙げて諭す。
柔軟な解釈が許される地母神派の末席で良かったと心底思いつつ、頑なな彼らをあの手この手で説き伏せれば、連鎖的に議長と官吏らも火葬を認めてくれた。
(うぅ、市政に携わる人達が合理主義で助かりました)
なんとかジェオ君の思惑通りに運びそうで、抱えた重荷が下りてほっと一息する。
不意に肩を叩かれて返り見ると生暖かい目つきのリイナがいて、こちらの気疲れを労う体裁で軽く揶揄してくるも… 一々翻弄されずに先方との談合を切り上げ、天幕で少し休ませてもらうことにした。
51
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです
一色孝太郎
ファンタジー
前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。
これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。
※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します
※本作品は他サイト様でも同時掲載しております
※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ)
※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる