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捜索
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しおりを挟む時計の針と書類をめくる音だけが、風紀室を支配する。
そんな時間が少し経った時だった。突如、風紀室の外に騒がしい足音がしたかと思うと、ノックすること無くバタンとドアが開いたのだ。その大きい音に驚いた颯斗が悲鳴を上げて椅子から転がり落ちる。怜毅は釣られて立ち上がると、警戒して毛を逆立てた狼の様に警戒する。一方、煌は長今までの経験からそれ程驚くことはなく、寧ろドアの心配をする。
「おい、ドアが壊れるから静かに開けろと何度言わせる。そもそも、ノックして返事が帰って来てから開けろこのバ会長」
「それどころじゃないだろう!何を呑気な!」
ドアを破壊せんばかりの勢いで強襲してきたのは生徒会長の高宮だ。苦言を呈する煌だったが、被せるように叫んだ高宮の悲鳴じみた声に眉を寄せる。共に駆け込んできた副会長の嵯峨野も紙の様に白い顔色をしている。長い付き合いがあるが、二人がここまで取り乱した姿は見たことがない。復活した颯斗、落ち着いた怜毅の二人と顔を見合わせる。嵯峨野が詰め寄る。
「まさか、まだメール見てないんですか⁈」
「メール?」
切羽詰まったその様子に、首を傾げながらもメールを確認する三人。刹那、その動きが固まる。
差出人は不明。件名も空欄になっているそのメール。
――――――――
はぁい。久しぶりだね。
久しぶりに皆の姿が見れて、嬉しかったよ。元気そうで、何よりだ。
はてさて、面白い噂話を聞いたのだがね?「KronosとNukesのメンツが“皇帝”を探している」「“皇帝”が死んだというと制裁が待っている」
……ちょいと。ツッコミどころ多くない?
そもそも!俺は“皇帝”なんて名乗ったことないんだけど⁈特徴的に心当たりが一つしか無さ過ぎてびっくりしたよ。
そして!勝手に人を殺すんじゃない!俺は生きてるっての!失礼な!放置も気持ち悪いから生存報告くらいはしておくよ。
まぁ、でもついでに言いたいことを一つだけ。龍さん、君、総長ね。あの時の恨み、深いんだから。今度は君の番だザマァ。
んじゃ。もう一度会えることを夢見ながら、もう二度と会わないことを願ってる。
――――――――
「聖……⁈」
颯斗が悲鳴を上げる。動揺を隠せない三人を見て落ち着いた生徒会の二人が、苦悩の表情を浮かべる。
「やっぱりそう思うか?」
「それ以外に居ないだろう……!」
顔を上げた怜毅が呻く。嵯峨野が微苦笑する。
「名前はありませんでしたが、このふざけた文面といい、宛先のラインナップといい、彼かと思いまして」
けど、と嵯峨野の顔が強張る。高宮が深刻な顔をして口を開く。
「“もう一度会えることを夢見ながら、もう二度と会わないことを願ってる”。アイツがよく使っていた言い回しだ。アイツが口にしたのは、もう二度と会いたくない相手と切り捨てたとき、もしくは……」
「二度と会わないと何らかの理由で決意した時」
メールにくぎ付けになっている煌が呟く。皆の案じる視線を受けて顔を上げた煌の瞳には、安堵や歓喜、怒りなどがごちゃ混ぜになっている。形容しがたい色を宿し、煌が地を這う様な呻き声をあげる。
「あの野郎……」
「相変わらずだよねぇ。生存報告してくるくらいには進歩したみたいだけど」
「お前に言われたくはないだろうが、そこには同意してやる」
ため息をつくNukes勢に乾いた笑いを返すKronos勢。皇帝―正式には、聖を名乗っていた―に振り回されるのはいつもの事。それも自分の所だけでなく、周りを巻き込むからタチが悪い。
「入学式。新入生、だな」
「龍?」
低い声で呟く煌。どす黒いオーラを纏う彼をみて、四人が固まる。いち早く立ち直ったのは、煌と犬猿の仲である高宮。今でこそ協力するようになったが、一時期は顔を合わせるたびに殴り合いをしていたのだ。いまでも嫌味の応酬はあいさつ代わりだが。伊達にそんな事をしていない高宮が、愉しそうに言う。
「……“久しぶりに皆の姿が見れて、嬉しかったよ。元気そうで、何よりだ。”って事は、実際にアイツの目で俺たちを何処かからか見ていたという事だ。“面白い噂話を聞いたのだがね?”からこの学園にほど近い所にいるはずだ。外でその噂は余り信じられていないからここまで文句を言ってくる必要はないだろうしな」
「だが、あれでいて思慮深い所があったアイツだ。そう単純に行くか?」
「敢えて絶縁宣言する為だけに……正確にはそれを強調するためにあえてメールしてきたという線は?」
疑問を呈する高宮と怜毅。十分考えられることである。
「確かに頭脳戦が本領分な人だったけど、突拍子もない事をしでかしたり、行き当たりばったりでその後の騒動を楽しむために考えナシな行動をとる事にも定評あったからねぇ。今回は後者だと思うし、そう思いたい」
「性格からして、すぐにでもメールしてくるでしょうし、僕たちの姿を見たのはここ数日という事になる。全員の姿を一気に見られるのは、今日のみですからね。まあ、敢えて言うなら見つからない自信があるかといったところでしょう」
分析と希望的観測を混ぜつつ反論を入れる颯斗と嵯峨野に、煌がニヤリと笑う。
「ちなみに、アイツは俺たちの2つ年下。今年高1になるはずだ」
「……どうやってその情報を?」
「聞きたいか?」
一切プロフィールを明かさなかった皇帝の情報に、颯斗の顔が引きつる。薄い唇を舐めた煌が、雄の色気を全身から立ち上らせる。その様に、皆が一様に察する。
そう言う事か。
一気に緊張感がほぐれ高宮が呆れ顔をする。
「で、どーするよ」
「どうするもこうするもないだろう」
煌が凄絶な笑みを浮かべる。その瞳はひとかけらも笑いの色は無く、冷え冷えとした空気を纏う。
「探し出す。どんな手を使っても。見つからない自信があろうがなかろうが、せっかく本人から姿を現したんだ。最大限利用させてもらうさ」
ここから、学園や夜の街を巻き込む盛大な鬼ごっこが始まった。
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