腹違いの弟くんの執着

ひぽたま

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プロローグ 〜ごめんねの雨〜

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「ごめんね」

 高校三年生の初冬。
 冷たい雨の降る歩道橋の上で、私は泣きながら葵くんに謝った。

「ごめんね。葵くんと私、腹違いの姉弟だったんだって。それがわかっていて城之内先生は、私に葵くんの家庭教師をさせていたんだって。私の学費を援助して、いずれ城之内病院で働かせるために。そのとき葵くんが私に反発して、家を出て行っちゃったりしないようにって――ひどいよね。私、なんにも知らなかったの。でも、結果的に葵くんをすごく裏切ることになっちゃって、ごめんね」

 中学二年生の葵くんは、腕を伸ばして私に傘をさしかけながら、呆然としている。
 彼と知り合ったのは三年前。葵くんがまだ小学生のとき。
 ずっと背がちっちゃくて、中学生になってから少しだけ伸びたけれど、まだ私より頭半分くらい小柄だ。
 だけどまっすぐな目をした、可愛い男の子。

「なに急に言いだしてんの? あかねーちゃん、悪い夢でも見た?」

 うん、そうだね。
 私も悪い夢のなかにいるのかと、いまでも思っているくらいだもの。

「城之内先生がまだお医者さんの見習いのとき、スナックでアルバイトしていた私のママと恋人同士になったんだって。だけど先生は、葵くんのおじいちゃんである城之内病院の院長に気に入られて婿養子に入るように勧められたから、ママを捨てたの」
「あかねーちゃんが生まれていたのに?」
「ううん、別れたのは、生まれる前」

 葵くんは小二のときから不登校で、三年前、息子の将来を心配した城之内先生が、行きつけのスナックのママの娘である私に家庭教師を依頼した。
 先生は、いつもお店の隅っこで宿題をしていた私が地元でも進学校の高校に受かったとき、とても喜んでくださっていたから。

『一人息子の葵は、いま小学五年生なんだけれど、ずっと小学校に通えずにいるんだよ。勉強がきらいというわけではないんだが、とにかく集団になじめないらしくて。あかねちゃんならのんびりしているから葵と仲良くなれそうな気がするんだ。バイト代も弾むから。どう?』

 どうと言われても――私はガリ勉だけど人に教えた経験はなかったし、友達だって多いほうじゃない。
 だけど、小さい頃から風邪をひくと、時間外でも診てくださる先生に恩返ししたい気持ちはあったし、やっぱりアルバイト料をもらえるというのも魅力だった。
 とりあえず試してみて――という気持ちで家庭教師を引き受けてみた結果。
 葵くんと、とても仲良くなれたんだ。
 初対面の彼の印象は、とっても可愛い『女の子』だった。あまり外で遊ばないせいか色白で、華奢で小柄でおとなしそう。ただ話してみると私のほうがまるで同年代と話している気分になるくらいに考え方がおとなびていて、地頭がいいのだとすぐにわかった。
 葵くんのほうも、教えに来たはずの私が世間について彼より物知らずで、勉強以外のことはまるで不器用だとわかると警戒心が融けたらしく、
『あかねちゃん、あかねーちゃん』
 と、愛称で呼んで慕ってくれるようになった。
 引きこもりだったくせに、私が休日に出かけるというと必ずついてきたがって、
『だってあかねーちゃん、一人じゃ迷子になりそうで、頼りないもん』
 なんて、生意気なことを言うから、可愛くならないわけがない。

 ちなみに勉強は、やる気にムラがあるだけで練習問題もほぼ全問正解。
 ただ、いくら勉強ができても学校に行く気にはなれないようだったので、ある日私は強硬手段に出た。
『葵くんが中学校に入っても学校に行けないようだったら、あかねーちゃんは役立たずだってクビにされちゃうかも』
 ちょっと脅すだけのつもりだったんだけど……効果てきめん。
 葵くんは、それまで見たこともないくらい真剣な顔になって私に言った。
『いやだよ。あかねーちゃんが来てくれなくなるなら、おれ一生中学校なんて行かない。あかねーちゃんが毎日来てくれるなら、学校に通う』
『じゃあ、葵くんが中学校に慣れるまでは毎日様子を見にくるね』
『そういう意味じゃないよ。慣れるまでとかじゃなくって……』
『?』
 私は首を傾げて続きを待ったが、真新しくてぶかぶかの学ランを着た葵くんはぷいっと顔を背けて、
『……今はいい』
 と言った。
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