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新学期!!
制裁、ふたたび
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そして、翌日も夕食後の同じ時刻に寮長から呼び出しを食らった。
「まあ、そうなるよな」
今日は狭間も性悪も掃除に来なかったのか、荒れ果てた寮長の部屋で一人ぼやく。ざっくりと自分の居場所を確保し(ゴミを隅に避けた)床に這いつくばり懐かしい気持ちにさせてくれるわら半紙の束へ、つらつらと反省を綴りながら今日の放課後を思い出すと、燃え滓のような笑いが漏れた。
寮長の申し出を受け、放課後の私塾を引き継いでもらった訳だが、予想通りコウスケはまともに話すら聞かず「オレは部屋で待ってるねん」と連れて行く事すら出来なかった。後々フォローは必要だろうが、とりあえずスバルを引き離しておけば、阿呆な事というか、オレを語るコウスケがスバルとイチャつく事もない。
根本の解決には程遠いが、これなら状況が悪化する事はないと安堵した。が、甘かった。
特に疑問も抱かず、スバルは付いて来てくれたのだが、新館食堂の一角、恐らくいつも寮長が優雅なティータイムなるものを過ごしている場所にあったのは、見慣れない道具一式。オレらの為に用意されていたのは、墨汁に硯に筆に半紙、書道の道具だった。
意味が分からず、優雅に紅茶を召し上がっておられる寮長に説明を求めれば「お前たちに必要なのは教養だけではない。まずはそれを受け入れる精神を持つべきだ。乱れきった心を整える所から始めよう」と訳の分からない事を言い出し、写経をするよう指示された。
内容の理解出来ない文字を写すだけでは意味がないと、席についたオレらに寮長は一つ一つ説明してくれようとしたのだが、何が気に言ったのかスバルは寮長を無視して、機嫌良く写経をし始めた。
けれど、スバルは図々しくも寮長におやつを要求しやがり、内心はビクビクしていたのだが、いつもの事らしく、オレも新館クオリティのおやつをご馳走になった。
ここまではいい。問題はここからだった。オレらは説明されてもちんぷんかんぷんな写経を黙々とこなしていたが、スバルの集中が唐突に切れた。
「えべっさん、ここまでのご褒美にちゅーしてよ」
ミミズがのたくったような墨で汚れた半紙をオレに突き出し、さも当然のようにご褒美を要求した。一瞬で凍りついた寮長の目をオレは一生忘れない。
ご褒美制度を取り消そうと、オレは必死で説得を重ねたが、努力虚しくスバルの要求はエスカレート。
「じゃあ、ぜんぶできたらさぁ……えっちしよ」
寮長の良識を軽く飛び越えてしまった。
「…………雫、春日野を反省室へ連れて行け」
その命令は適切ではあるが、適当ではなかった。
「自分で蒔いた種だもんな……なんとかしないと」
墨汁の飛沫と怒声罵声が蘇る。顔は洗ったが、前衛的な模様のように染み込んだ墨汁のにおいが反省を加速させる。
捕まえようとする執事モドキと抵抗するスバルが暴れまわり、小綺麗な食堂の一角は真っ黒に染まった。その程度なら、謝って掃除をすれば済んだかもしれないが、取っ組み合いの中で不幸にも墨汁の容器が飛んではいけない方向に飛んだ。
断じてオレ一人のせいではないが、結果として、寮長の頭に墨汁をぶちまけてしまった。怪我必至の硯でなく、プラスチックに入った安っぽい容器で良かった、不幸中の幸いだったと思う……のだが、これをやったのは二度目だったと思い出す前に、感情の一切感じられない寮長の声が、オレを再びこの部屋へ来るよう告げたのだ。
「まあ、前回と比べれば、まだオレの首の皮は繋がってる感ある。うん」
あれ以上の無礼は中々ないだろうと安心する事も出来るのだが、それ以上に迷惑ばっかりかけてるなと更なる反省の材料になってしまった。
言い渡された反省文を書き終え、オレは自主的に部屋の掃除に着手した。
呼び出された時刻に部屋を訪れたのだが、寮長は反省文という課題を置いてリハビリに出かけてしまったのだ。戻るまでの間、一人でしっかり反省をしろという事だと思うが、その事実が既に恐い。もっと分かりやすく怒ってくれたらいいのに。こういうの苦手だ。ただただ反省するしかない。
「リハビリだって言ってたけど、もっとちゃんとした所でやった方がいいと思うんだけどな」
じいちゃんが悪いとは思わないが(全力贔屓目)酒瓶抱えた付き添いでは危ないのではないかと心配になる。反省文も終わったし、掃除も……ゴミは一通りまとめた。きれいになったとは口が裂けても言えないが、オレは狭間じゃあない諦めよう。
前に見た階段側のスペースでリハビリしているだろうから、様子を見に行くかと思い立った瞬間、タイミング良く扉を叩く音がした。
「はい、今開けます」
寮長に胡麻をするチャンスを逃したオレは、こってり怒られる事を覚悟して扉を開いた。
「………………」
「…………っと、待ってくれ。なんで黙って閉めるんだ? 中に入れてくれ」
予想外のモノに遭遇して、見なかった事にしようとしたのだが失敗した。足先を突っ込まれ扉が閉まらない。オレは構わず力を込めて閉めようと試みるが、扉はビクともせず隙間から覗く視線に動揺する。
「まあ、そうなるよな」
今日は狭間も性悪も掃除に来なかったのか、荒れ果てた寮長の部屋で一人ぼやく。ざっくりと自分の居場所を確保し(ゴミを隅に避けた)床に這いつくばり懐かしい気持ちにさせてくれるわら半紙の束へ、つらつらと反省を綴りながら今日の放課後を思い出すと、燃え滓のような笑いが漏れた。
寮長の申し出を受け、放課後の私塾を引き継いでもらった訳だが、予想通りコウスケはまともに話すら聞かず「オレは部屋で待ってるねん」と連れて行く事すら出来なかった。後々フォローは必要だろうが、とりあえずスバルを引き離しておけば、阿呆な事というか、オレを語るコウスケがスバルとイチャつく事もない。
根本の解決には程遠いが、これなら状況が悪化する事はないと安堵した。が、甘かった。
特に疑問も抱かず、スバルは付いて来てくれたのだが、新館食堂の一角、恐らくいつも寮長が優雅なティータイムなるものを過ごしている場所にあったのは、見慣れない道具一式。オレらの為に用意されていたのは、墨汁に硯に筆に半紙、書道の道具だった。
意味が分からず、優雅に紅茶を召し上がっておられる寮長に説明を求めれば「お前たちに必要なのは教養だけではない。まずはそれを受け入れる精神を持つべきだ。乱れきった心を整える所から始めよう」と訳の分からない事を言い出し、写経をするよう指示された。
内容の理解出来ない文字を写すだけでは意味がないと、席についたオレらに寮長は一つ一つ説明してくれようとしたのだが、何が気に言ったのかスバルは寮長を無視して、機嫌良く写経をし始めた。
けれど、スバルは図々しくも寮長におやつを要求しやがり、内心はビクビクしていたのだが、いつもの事らしく、オレも新館クオリティのおやつをご馳走になった。
ここまではいい。問題はここからだった。オレらは説明されてもちんぷんかんぷんな写経を黙々とこなしていたが、スバルの集中が唐突に切れた。
「えべっさん、ここまでのご褒美にちゅーしてよ」
ミミズがのたくったような墨で汚れた半紙をオレに突き出し、さも当然のようにご褒美を要求した。一瞬で凍りついた寮長の目をオレは一生忘れない。
ご褒美制度を取り消そうと、オレは必死で説得を重ねたが、努力虚しくスバルの要求はエスカレート。
「じゃあ、ぜんぶできたらさぁ……えっちしよ」
寮長の良識を軽く飛び越えてしまった。
「…………雫、春日野を反省室へ連れて行け」
その命令は適切ではあるが、適当ではなかった。
「自分で蒔いた種だもんな……なんとかしないと」
墨汁の飛沫と怒声罵声が蘇る。顔は洗ったが、前衛的な模様のように染み込んだ墨汁のにおいが反省を加速させる。
捕まえようとする執事モドキと抵抗するスバルが暴れまわり、小綺麗な食堂の一角は真っ黒に染まった。その程度なら、謝って掃除をすれば済んだかもしれないが、取っ組み合いの中で不幸にも墨汁の容器が飛んではいけない方向に飛んだ。
断じてオレ一人のせいではないが、結果として、寮長の頭に墨汁をぶちまけてしまった。怪我必至の硯でなく、プラスチックに入った安っぽい容器で良かった、不幸中の幸いだったと思う……のだが、これをやったのは二度目だったと思い出す前に、感情の一切感じられない寮長の声が、オレを再びこの部屋へ来るよう告げたのだ。
「まあ、前回と比べれば、まだオレの首の皮は繋がってる感ある。うん」
あれ以上の無礼は中々ないだろうと安心する事も出来るのだが、それ以上に迷惑ばっかりかけてるなと更なる反省の材料になってしまった。
言い渡された反省文を書き終え、オレは自主的に部屋の掃除に着手した。
呼び出された時刻に部屋を訪れたのだが、寮長は反省文という課題を置いてリハビリに出かけてしまったのだ。戻るまでの間、一人でしっかり反省をしろという事だと思うが、その事実が既に恐い。もっと分かりやすく怒ってくれたらいいのに。こういうの苦手だ。ただただ反省するしかない。
「リハビリだって言ってたけど、もっとちゃんとした所でやった方がいいと思うんだけどな」
じいちゃんが悪いとは思わないが(全力贔屓目)酒瓶抱えた付き添いでは危ないのではないかと心配になる。反省文も終わったし、掃除も……ゴミは一通りまとめた。きれいになったとは口が裂けても言えないが、オレは狭間じゃあない諦めよう。
前に見た階段側のスペースでリハビリしているだろうから、様子を見に行くかと思い立った瞬間、タイミング良く扉を叩く音がした。
「はい、今開けます」
寮長に胡麻をするチャンスを逃したオレは、こってり怒られる事を覚悟して扉を開いた。
「………………」
「…………っと、待ってくれ。なんで黙って閉めるんだ? 中に入れてくれ」
予想外のモノに遭遇して、見なかった事にしようとしたのだが失敗した。足先を突っ込まれ扉が閉まらない。オレは構わず力を込めて閉めようと試みるが、扉はビクともせず隙間から覗く視線に動揺する。
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