圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

寮長の目にも涙

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 部屋に侵入する爪先を押しだそうと、本気で蹴り飛ばすのだがビクともせず、扉を閉める事へと全力するが、それには扉が耐えられなかった。嫌な音がしたと思ったら、ドアノブを毟り取っていた。

「これ……直るかな?」

 残骸となったドアノブを力なく持ち上げると、悲しそうな声で「セイシュン」と呼ばれてしまう。見せてみろと手を差し伸べてくれた先輩に、ドアノブを手渡して部屋に招き入れる。

「んー、応急処置は……難しいだろうな。でもドアノブを取り換えるんじゃなくて、扉自体を入れ替えるなら、葛見が戻る前に片付けられる」

 大丈夫だと、いつもみたく先輩が笑う。グリグリと頭を撫でてくれる。それが堪らなくて、オレは先輩に飛び付いてしまった。当たり前みたいに抱きしめてくれる、それが嬉しくて気を抜くと泣き出してしまいそうで恐かった。

「よし、じゃあ早速作業に取りかかろう。いつ葛見が戻って来るか分からないからな」

 こっちの気も知らず、先輩は工具を探してくると背中を向ける。それをさせまいとオレは先輩の腕を引いた。

「それは後でいいよ。明日にでもオレが直しとくから」

「このままじゃあ葛見に見つかるぞ。扉は俺が直しといてやるから、お前は部屋の中を片付けろ。理由は後で聞くが、人の部屋の中で暴れまわるのは駄目だ。葛見が戻る前に片付けちまおう」

 オレが他人の部屋で憂さ晴らしに暴れまわるような奴だと先輩は思っているらしく結構ショックだった。確かに人の部屋の扉は壊したけども。

「寮長の部屋はこれがデフォなんだよ。てか、オレだって見かねてちょっと片付けたし」

「そうなのか。じゃあ、セイシュンも扉を入れ替えるの手伝ってくれ」

「それは明日オレがやっとく」

 先輩は不思議そうに首を傾げる。

「ちゃんと寮長には報告するよ。オレが壊したって。扉は謝ってから直す」

 幸い、扉自体は閉まる。寝るのに不便する事はない……と思いたい。放課後、既にやらかしているので、まとめて説教を受けようと開き直っているだけなのだが、先輩は妙に感心した顔を見せた。

「分かった。セイシュンがそう言うなら、このままにしておこう。ん、じゃあ、そうだな……これを二つともお前にやる」

 口には出さないが、ちゃんと筋を通す事へのご褒美だろうか。先輩はオレの前に二本の野菜ジュースを置いた。遠慮なく受け取り、狭い部屋の中、二人対面で座れる場所を確保する。

 先輩もその場所を認識してくれたのか、オレの前に腰を下ろしてくれた。

「二本もいらない。一本返す」

 何から話したらいいのか分からず、オレはさっき貰ったジュースを先輩に手渡した。「二本は多いか」と先輩は素直に受け取り、パックにストローを刺した。

「今なら冷えてるぞ。飲まないのか?」

 頭の中が混乱していて、悠長にジュースを飲もうという気は起きず、生返事をしていると、先輩の手が伸びてきてジュースを奪った。くれるって言ったくせにと、飲みもせず文句を垂れそうになったが、先輩はオレの分もストローを刺して、もう一度それを手渡してくれる。

 そこまでされたら飲まない訳にはいかない。チビチビと野菜ジュースを口にすると、先輩が言う通り冷たくて美味しかった。

「せんぱいは……寮長に会いに来たの?」

 平常運転の先輩を前に、気まずさは多少あるものの、オレの妙な緊張も解けてきた。そっぽ向きながら興味なさ気に言うと、困ったように笑う気配がした。

「いや、セイシュンに会いに来たんだ」

 先輩は照れ臭そうに笑いながら言う。オレの口からは「ふーん」と可愛げのない相槌。けれど、必死に抑えようとするも、嬉しくて視線だけは先輩の方を向いてしまう。

「葛見から、セイシュンが正気を失っているって聞いて、その、なんだ……心配でな」

 寮長っ!! 言い方!! 
 寮長の差し金だろうとは思ってたけど『正気を失っている』って酷くないか。精神異常をきたしているってダイレクトに伝えたら、そりゃ先輩だって飛んでくるよ。何やってんだオレは!

「ごめん……こんなつもりじゃあなかったのに。クソッ、あんな偉そうな口叩いて、先輩の邪魔するとか……ほんと、ありえねぇよ」

 穴があったら入りたい。オレは姿勢を正して床に穴でも掘る勢いで頭を下げた。

「悪い、違うんだ。葛見が声をかけてくれたからじゃあない。俺がセイシュンに会いたいと思って来たんだ。だから、謝らないでくれ」

 床に手をついたまま顔を上げると、気まずさの欠片も、暢気の欠片も見当たらない、真剣な顔をした先輩が居た。

「お前には情けない所を山ほど見せちまった。心配かけて、本当にすまなかった」

 今から武道の試合でも始めるのかと思うような、隙のない動作で先輩は静かに頭を下げた。自分の姿と比べてしまえば、真逆だなと少し可笑しかったが、先輩の真剣さのおかげで自嘲が漏れる事はなかった。
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