圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

ぼったくり

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「決めたの?」

 責めるような響きにならないよう気を配ると、感情の籠もらない冷たい声になってしまった。でも、先輩の纏う空気には丁度良かった。

 真っ直ぐ向けられる視線に『温さ』は微塵もない。知らない人みたいだと、ぼんやりした思考で、真剣さを受け止める。何処かへ行ってしまう予感はない。知らぬ寂しさではなく、オレの知らない先輩に出会う期待とでも言うのか、穏やかな感情がじんわりと広がり、先輩の言葉を黙って待つ。

「俺には、何が正しいのか、分からないんだ。ここで人らしい暮らしをさせて貰って得たのは、自分のしてきた事の重さを漠然と実感する程度で」

 溢れそうになる溜め息を飲み込む。先輩が自覚している重さは、きっと実感する程度なんて生易しいモノではない。それに『正しさ』という物差しも持ち合わせているのだろう。途方もない大きさの『間違い』を抱えながら。

「だから……何も理解していないのに、ただなんとなくって理由で、答えを出すのは止めにした」

 迷いのない、力強い視線を受け止める。

「セイシュンや、芭灯さん、先生たちが示してくれた事をやってみる所から始めようと思う」

 声は出さずに頷く。すると、フッと先輩の緊張が途切れて、ふにゃっとした笑みが浮かんだ。

「本当は俺に出来る事があるのか、少し……いや、結構疑ってはいるんだけどな」

「できるよ。先輩なら」

「ん」

「先輩のケツ叩けるオレもいるし」

 先輩は少し声を出して笑った。それから、気が抜けたのか、先輩は後ろに手を付いて天井を見上げながら息を吐いた。オレも緊張していたのか、知らず強ばっていた体が緩む。チビチビ飲んでいたジュースをいつもの勢いで吸い込むと、数秒で紙パックがクシャッと変形した。

「あ、あと、今日はこれを渡しに来たんだ」

 先輩の飲みかけジュースを虎視眈眈と狙っていたのだが、それを遮るように先輩はオレとの間に紙袋を置いた。

「何これ?」

「駄菓子だ」

 オレの疑問に、先輩は胸を張って答えてくれたのだが、何故駄菓子? という疑問が更に増えた。手土産に持って来たのかと思い、紙袋を受け取り中を覗き込むと、確かに色々な種類の菓子が入っていた。何から食べようかと、卑しくも中身の選別を始めたオレへ先輩は待てとばかりに口を開いた。

「春日野への褒美には、コレを使って欲しい」

 紙袋がグシャリと音を立てる。震える指先が思わず紙袋を閉じるように握り潰していた。

「……………………寮長から、どこまで聞いた?」

 指先の震えは体全体に広がり、視界までもが揺れ出す。もちろん、先輩の方を見るなんて事は出来ない。駄菓子の入った紙袋を凝視しながら尋ねると「全部だ」と怒ったような呆れたような声が聞こえた。

「いくら春日野が珍しく勉強しているからと言って、セイシュンを春日野にやらないでくれ」

「してないからッ! オレは絶対に先輩以外とはちゅーしてないから!」

 誤解だと必死で反論する。紙袋を投げ捨て、顔を上げると不機嫌そうな先輩と目が合った。自分のしでかした事とは言え辛すぎる。泣きそうだ。縋るように目で訴えていると、先輩はムスッとしたまま紙袋に手を伸ばした。

「葛見から事情は聞いてる。だから、コレを持って来たんだ」

 紙袋をひっくり返し、中身をぶちまけながら先輩は続ける。

「セイシュンを褒美にするのは止めてくれ。これだけあれば春日野が気に入る物もあるだろ」

 チョコレートに飴に煎餅、クッキーにグミ、じいちゃんが気に入ってしまったスバルのおやつであるサラミの小さいやつも入っている。一通り買ってみたという豊富なラインナップにオレは恐る恐る尋ねた。

「これ、もしかして、闇市で買った?」

 チラッと見てしまった先輩の財布の中身を思い戦慄する。購買に菓子類は売っていないので当たり前なんだが、当然のように頷かれて慟哭した。

「な、なんでいきなり泣くんだ!? 春日野用に買ってきたが、もちろんセイシュンの分だって入ってるから泣くな。ほら、先に好きなのを選べ、な?」

 究極の無駄遣いをさせてしまった。後悔で泣き崩れたオレに、先輩は慌てて駄菓子を握らせようとしてくる。

「…………せんぱい、これ、いくらだった?」

 手のひらに乗せられたチョコレート。一口で食べられる定番の駄菓子だ。

「金の事を気にしてるのか? ただの駄菓子だぞ。どれも良心的な値段で譲ってくれたから、お前が泣く理由なんてない」

 馬鹿だなあと、頭をグリグリ撫でて誤魔化そうとする先輩に、再度いくらだったか尋ねると明るい口調で答えが返ってきた。

「サービスしてくれてな、どれも一個二百円だった」

 オレは自分を全力で罵って、その場に崩れ落ちた。またオレのせいで、先輩がぼったくりの被害に遭ってしまった。せっかく闇市から金を取り返せたのに。

「そんな大袈裟に泣かれると、情けなさが込み上げてくるんだが」

 菓子の数を数え、嗚咽をもらしながら被害総額を計算していると、拗ねたような声が聞こえてきた。紙袋一つにおさまる駄菓子としては破格の額にオレは悟る。闇市をぶっとばす、もといクーリングオフだ。
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