圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

年内最後のご挨拶

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「谷垣先生が先生だってすぐに確認出来たから、それで大丈夫だったぞ」

 生徒手帳の教師版みたいなのがあるんだろうか。

「夷川が殴ろうとした店員さんな、あの人、圏ガクの卒業生だったみたいで、谷垣先生を知ってたんだ。それで、店長さん? もそうですかーって、別に事務所に行かなくてもよくなったんだぞ」

 殴ろうとなんてしてない! てか小吉さん、それでいきなり飛び出して来たのか。つーか、圏ガクの卒業生なら仮に殴り合いになってもセーフだろ。

「……セイシュン」

 容赦なく先輩の拳が、頭をゴリゴリと痛めつけてきた。全力で謝罪していると、病院の中から担任が顔を出し、オレら三人を顎で呼びつけた。

 残念ながら、じいちゃんは知り合いの所に出かけているらしく不在だったが、響先生と娘さんに挨拶をして、オレらは再び車に戻る。

 そのまま帰校するのかと思ったが、何故か見慣れた道を走り、いつもの公民館に立ち寄った。

 駐車場にはド派手なスポーツカーが停車しており、持ち主である精勤な村長は、オレらが車を降りる前に玄関口から顔を出してくれる。

「買い出しご苦労様です。小吉君がケガをしたって聞きましたけど、大丈夫ですか?」

 田舎のネットワーク恐るべしだ。どこで知ったか、鼻血を吹いた小吉さんを気遣う村主さんは、チラッとこちらを向くと状況を悟ったらしく、いつもの調子で笑い担任の曖昧な返答で納得してくれる。

 二人の会話に耳をすませると、今回の買い出し資金の出所を知る事が出来た。村主さんが地域復興券なる商品券を寄付してくれたらしい。担任は恐縮していたが、村主さんは「持ちつ持たれつ、ですよ」と笑い飛ばし、疲れただろうとオレらを手招きし、お茶でも飲んでいけと勧めてくれた。

 弁当を食べる温かい場所とお茶を提供してもらい、味気ないと思うようになったコンビニ弁当を食っていると、村主さんが買い出しの内容を聞いてきた。

「年越し蕎麦は買って来た?」

 いつもなら小学生みたいに全力で答えるのだが、買い出しに参加出来なかった小吉さんは沈黙している。先輩の方を見上げると、答える気はなさそうな穏やかな視線が向けられていた。

「普通のインスタントですけど、メモに書いてあったので、蕎麦は全員分買ってきました……けど、蕎麦でないと駄目な意味とかあるんですか?」

 どちらかと言えば、うどんの方が好きなのだ。どうせなら、あの平べったい麺にデカイ揚げが入っているやつが食べたかった。

「今時の若い子は知らないかー。なら、食べる前に……これ、読んでみて。お正月のあれこれが載ってるから」

 村主さんから地域の広報紙? みたいな物を手渡される。ペラペラと捲ると正月の過ごし方とか、そういう特集がされていた。

 食事を終えた後「在庫処分中だから協力よろしくね」と賞味期限のあやしい大量の饅頭や煎餅を貰った。

「あと、こっちは君たちの分はありません。先生たち用ね」

 そう言われて、冷凍された物が入っている発泡スチロールのボックスを手渡される。小吉さんが元気よく中身を聞くと、市販されている冷凍のおせち料理だと教えてくれた。

「君たち全員分を用意しようか迷ったんだけど、若い子が好き好んで食べるような物じゃないからパスしました。もし、興味があるようなら、先生に上手におねだりしてちょうだい」

 どうやら『おせち』の代わりが、今日の買い出しの収穫物だったらしい。

「色々とありがとうございます」

 ありがたさが天井知らずで、自然と礼を口にしてしまったのだが、オレの「ありがとうございます」に小吉さんが大声でハモってきたので、おかしな感じになって笑われてしまう。

「どういたしまして。こちらこそ、色々とお手伝いして貰ってすごく助かりました。ありがとうね」

 村主さんの言葉に少しばかり居心地が悪くなる。素直に受け取れるほど、図々しくはなれなかったのだ。日頃の行いは大事だなと痛感する。

 どっさり土産を持たされたオレたちの元へ便所に行っていた担任が戻ってくると、当然何事だと驚いた。

「谷垣先生も一年間お疲れ様でした。少しはご自身も労ってあげて下さいね」

 年中無休の居残り教師に対する心遣いもありがたい。

「あともう一つお土産あるから、ちょっと荷物置いて来てもらえる?」

 どれだけ持たせれば気が済むのか。ありがたさが飽和する。てか、やっぱりオレの膝の上に小吉さんを乗せるしかなさそうだった。

「由々式さんが、お正月何もしてあげられないからって急遽作ってくれたのよ。お餅は餅つき大会のお裾分けね」

 寸胴って言うんだろうか、ほんのり温かくて僅かに甘い匂いのする蓋付きの鍋みたいなのを渡される。

「ぜんざいですか!」

 小吉さんが鼻を利かせて全力で叫ぶと「正解」と即座に答えてくれた。

「年寄りじゃないから大丈夫だと思うけど、焦って食べて喉に餅詰めないようにしてね」

 最後に寸胴と二十人分の餅(多分一人三個くらいありそう)を頂き、オレたちはようやく買い出しの帰路についた。

 車内はいっぱいだったが、それぞれが荷物を抱えて座るという方法で、なんとか互いを抱えなくて済んだが、これらを下ろす作業を思うとドッと疲れてしまい、帰りの車内は爆睡してしまった。
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