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蜜月
風呂掃除の助っ人
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「あ、蕎麦忘れてんじゃん」
旧館を出て校舎に戻る途中で、今日の夕食を忘れているのに気が付いた。ラーメンなら先輩の部屋にストックはあるだろうが、担任から「大晦日は全員蕎麦を食え」とお達しがあったので、少し迷ったが取りに戻る事にした。
「お、夷川だ。荷物いっぱいだな。半分持つぞ」
すると、今度は旧館の玄関先で小吉さんと出くわした。所々に泥を付けて、一仕事してきた感のある小吉さんは、疲れを感じさせない元気な声でありがたい提案をしてくれる。
「じゃあ、ちょっとコレ、鍋なんだけど持って待ってて」
手ぬぐいで手を拭いて両手を差し出してくれたので、遠慮なく鍋を手渡す。身軽になったオレは、食堂にダッシュして、蕎麦を袋に放り込み、そこに詰められるだけ菓子とジュースも追加して、小吉さんの元へと戻った。
鍋を受け取って部屋に帰ろうと思ったのだが、重たいだろうと小吉さんが一緒に運んでくれる事になった。
「部屋でぜんざい食うのか?」
「うん、餅もあるよ。あーでも、その前に風呂掃除が待ってるけどな」
数日前の重労働を思うとうんざりする。思わず反射的に「小吉さんも一緒にどう?」と聞いてしまった。
「いいよ。ちょっと暇だったから、おれも手伝うぞ」
小吉さんのありがたーい申し出に思わずガッツポーズをしてしまった。キャンプ場の掃除で十分すぎるくらい疲れたので、二人きりの風呂掃除は正直キツかったのだ。ありがたく小吉さんの手を借りよう。
「…………稲継先輩も暇かな」
「朝から女神の所に行ってるはずだから、ちょっと今どこで何してるのかは分かんないな」
ありがたーい助っ人も一人より二人の方が更に負担は減る。そう思ったのだが、稲っちの召喚は無理そうだった。
「さっき山センに会ったんだけど、アイツ小吉さんの五百円もう使ってた。取り返せなくてごめん」
歩きながら、五百円の事を伝えると、小吉さんはオレの顔色を窺いながら不安そうな表情を見せた、
「その、山センと、け、けけけんかとかしてないよな?」
「してない。話しただけだよ。話した時にはもう使われてたんだ」
山センが廊下に吐き出したジュースに使われたとは言えなかった。昨日のうちに山センを捕まえていたら、少なくともジュース一本分は小吉さんに返してやれたのに。
「そっか、ならいいや」
全面的に山センが悪いのにオレまで申し訳なく思えてきて、それに対して一人で苛々していると、小吉さんは怒るでも悲しむでもなく、いつも通り明るくそう言った。
「……小吉さんは自分の好きな物とか買いたくないの? まあ、たかが五百円で買える物なんて肉まんやジュースくらいだけどさ」
なくなってしまった物をアレコレ考えても仕方ないとは思うのだが、小吉さんの諦めの良さについ問いかけてしまった。すると、何故か嬉しそうな顔がこちらを向いた。
「昨日、夷川に貰った肉まん。久し振りに食べたけど、あれ美味しかったなぁ」
小吉さんの反応に思わず脱力する。
「ちょっと冷めてたけどね」
肉まん一つで、こんな顔を見せられたら、もう何も言う事はなくなった。
山センが新年会をやろうとしている事を喋っていると、あっと言う間に部屋へ戻って来られた。「ただいまー」と扉を開けると、部屋に先輩の姿はなかったが「おかえり」と声だけは出迎えてくれる。先輩の声は隣の教室、オレらが午前中に苦労して掃除したキャンプ場から聞こえた。
「お邪魔します!」
「おぉ、小吉も一緒か」
キャンプ場を覗けば、焚き火代わりの石油ストーブが、しっかり運び込まれていた。
「こっちの部屋にはストーブがあるんですね。あっ! 分かったぞ、これを温めるんだな」
小吉さんは鍋をちょっと持ち上げ、オレの方を見て言う。
「うん、当たり。風呂掃除とか終わってからかな。夕方ぐらいからオレたちここでキャンプしようと思ってるんだ。小吉さんも一緒にやらない?」
重たい思いをして、六人分の餅とぜんざいを運んで来たので、手始めに小吉さんを誘ってみた。ぜんざい貰った時に嬉しそうな顔してたので、喜んでくれると思ったのだが「夕方かぁ」と小吉さんのテンションは下がってしまった。
「風呂掃除は大丈夫なんだけどな、夕方からは山センたちと先に約束をしてて無理なんだ」
山センが言っていた新年会の準備か。ちょっと残念な気もしたが、先輩との二人きりを邪魔されないなら有りかと頭を切り替える。
「風呂に行く前に、こいつの試運転をしてもいいか?」
食料をキレイに拭いた机の上で広げていると、先輩がガリガリと妙な音を立てながら言った。見ると年季の入った石油ストーブにライターで火を点けようとしていた。
「うわ、なんかすげぇレトロ」
ボボボと中心部分に火が広がっていく。物珍しくて真剣に見つめていると、二人が『見るの初めてか?』という顔を向けてきた。
「家にあったのはボタン一つで暖かいのが出てくるやつだった」
ファンヒーターだっけ? そんな感じのやつ。先輩の部屋やじいちゃんが使っているのは電気ストーブなので、石油ストーブは初だった。学校とか塾は基本エアコンで冬でも暑いくらいだったしな。
旧館を出て校舎に戻る途中で、今日の夕食を忘れているのに気が付いた。ラーメンなら先輩の部屋にストックはあるだろうが、担任から「大晦日は全員蕎麦を食え」とお達しがあったので、少し迷ったが取りに戻る事にした。
「お、夷川だ。荷物いっぱいだな。半分持つぞ」
すると、今度は旧館の玄関先で小吉さんと出くわした。所々に泥を付けて、一仕事してきた感のある小吉さんは、疲れを感じさせない元気な声でありがたい提案をしてくれる。
「じゃあ、ちょっとコレ、鍋なんだけど持って待ってて」
手ぬぐいで手を拭いて両手を差し出してくれたので、遠慮なく鍋を手渡す。身軽になったオレは、食堂にダッシュして、蕎麦を袋に放り込み、そこに詰められるだけ菓子とジュースも追加して、小吉さんの元へと戻った。
鍋を受け取って部屋に帰ろうと思ったのだが、重たいだろうと小吉さんが一緒に運んでくれる事になった。
「部屋でぜんざい食うのか?」
「うん、餅もあるよ。あーでも、その前に風呂掃除が待ってるけどな」
数日前の重労働を思うとうんざりする。思わず反射的に「小吉さんも一緒にどう?」と聞いてしまった。
「いいよ。ちょっと暇だったから、おれも手伝うぞ」
小吉さんのありがたーい申し出に思わずガッツポーズをしてしまった。キャンプ場の掃除で十分すぎるくらい疲れたので、二人きりの風呂掃除は正直キツかったのだ。ありがたく小吉さんの手を借りよう。
「…………稲継先輩も暇かな」
「朝から女神の所に行ってるはずだから、ちょっと今どこで何してるのかは分かんないな」
ありがたーい助っ人も一人より二人の方が更に負担は減る。そう思ったのだが、稲っちの召喚は無理そうだった。
「さっき山センに会ったんだけど、アイツ小吉さんの五百円もう使ってた。取り返せなくてごめん」
歩きながら、五百円の事を伝えると、小吉さんはオレの顔色を窺いながら不安そうな表情を見せた、
「その、山センと、け、けけけんかとかしてないよな?」
「してない。話しただけだよ。話した時にはもう使われてたんだ」
山センが廊下に吐き出したジュースに使われたとは言えなかった。昨日のうちに山センを捕まえていたら、少なくともジュース一本分は小吉さんに返してやれたのに。
「そっか、ならいいや」
全面的に山センが悪いのにオレまで申し訳なく思えてきて、それに対して一人で苛々していると、小吉さんは怒るでも悲しむでもなく、いつも通り明るくそう言った。
「……小吉さんは自分の好きな物とか買いたくないの? まあ、たかが五百円で買える物なんて肉まんやジュースくらいだけどさ」
なくなってしまった物をアレコレ考えても仕方ないとは思うのだが、小吉さんの諦めの良さについ問いかけてしまった。すると、何故か嬉しそうな顔がこちらを向いた。
「昨日、夷川に貰った肉まん。久し振りに食べたけど、あれ美味しかったなぁ」
小吉さんの反応に思わず脱力する。
「ちょっと冷めてたけどね」
肉まん一つで、こんな顔を見せられたら、もう何も言う事はなくなった。
山センが新年会をやろうとしている事を喋っていると、あっと言う間に部屋へ戻って来られた。「ただいまー」と扉を開けると、部屋に先輩の姿はなかったが「おかえり」と声だけは出迎えてくれる。先輩の声は隣の教室、オレらが午前中に苦労して掃除したキャンプ場から聞こえた。
「お邪魔します!」
「おぉ、小吉も一緒か」
キャンプ場を覗けば、焚き火代わりの石油ストーブが、しっかり運び込まれていた。
「こっちの部屋にはストーブがあるんですね。あっ! 分かったぞ、これを温めるんだな」
小吉さんは鍋をちょっと持ち上げ、オレの方を見て言う。
「うん、当たり。風呂掃除とか終わってからかな。夕方ぐらいからオレたちここでキャンプしようと思ってるんだ。小吉さんも一緒にやらない?」
重たい思いをして、六人分の餅とぜんざいを運んで来たので、手始めに小吉さんを誘ってみた。ぜんざい貰った時に嬉しそうな顔してたので、喜んでくれると思ったのだが「夕方かぁ」と小吉さんのテンションは下がってしまった。
「風呂掃除は大丈夫なんだけどな、夕方からは山センたちと先に約束をしてて無理なんだ」
山センが言っていた新年会の準備か。ちょっと残念な気もしたが、先輩との二人きりを邪魔されないなら有りかと頭を切り替える。
「風呂に行く前に、こいつの試運転をしてもいいか?」
食料をキレイに拭いた机の上で広げていると、先輩がガリガリと妙な音を立てながら言った。見ると年季の入った石油ストーブにライターで火を点けようとしていた。
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