圏ガク!!

はなッぱち

文字の大きさ
360 / 411
蜜月

キャンプらしさは大事

しおりを挟む
「部屋、だいぶ暖まってきたな」

 そう言うと、先輩が上着を脱ごうとしたので、オレは待ったをかける。

「暖かいのはいいけど、暖かすぎるのはキャンプっぽくない」

 オレの主張に先輩は『えぇ~』という困った顔をした。「少しの間ストーブ消すか」と言い出したので、これまた待ったをかける。

「焚き火ないとキャンプっぽくないじゃん。ストーブは消したら駄目だって」

「じゃあどうしたらいいんだ?」

 先輩が本格的に困惑し始めたので、オレは素早く行動で正解を教えてやる為、開けられる窓という窓を全開にした。

「換気も必要だって、ストーブにも注意書きしてあったし、一石二鳥だろ」

 冷たい空気が入り込み、部屋の温度は一気に下がった。うむ、外っぽさが増して部屋の中って感じが減った。今だけだろうが、冷たい空気も気持ちがいい。

「どうせ換気するなら、廊下の窓も開けて風通そう」

 一度、凍えるくらいの方が、ストーブの有り難みが分かっていい。そう思い教室を飛び出し、廊下の窓も全開にした。さすがに寒くて、ストーブ前にとんぼ返りしたが、ぬるくなった空気が澄んで全力でキャンプっぽくなったように思う。

「湯冷めしないか?」

 心配そうに先輩が頭を撫でてくる。風呂で温もった体温はとっくに冷めているだろうが、心配には及ばない。先輩の胸に思い切り抱きついてやった。すると、先輩はコートの中にオレを入れてくれた。招かれるまま背中に手を回すと、一瞬で冷えた指先が先輩の熱を吸う。

「先輩こそ、寒くない?」

 返事の代わりか、ギュッと強く抱きしめられる。ちょっとした悪戯心で、先輩の腰を撫でるように、服の中に手を入れてみた。背中を逆撫でして、指先で傷痕をなぞる。

「なぁ、セイシュン……窓、閉めていいか?」

「開けたばっかじゃん……なんで?」

 同じ気持ちなので、理由なんて聞かなくても分かるのだが、もったいぶって聞いてやる。

 外は暗くなったとは言え、ちょっと時間的には早い気もしたが、こっちも一瞬でスイッチが入ってしまった。

「新年早々、お前が体調崩したら大変だろ」

 そう言って先輩が遠慮のない手付きで、オレのケツを撫でだしたのだが、遠くの方、正確には冷蔵庫の扉が開く気配を感じて、オレらは慌てて正常な距離に戻った。

「うおッ! 寒っ!」

「誰だ、窓開けやがったのは!」

 冷蔵庫付近の窓には手を出していないのだが、廊下を吹き抜ける風は、冷蔵庫前の空気もしっかり冷やしたらしい。矢野君と稲っちの怒声が聞こえたので、対応するべくオレは気持ちを切り替える。

 邪魔された感が強くて、文句の一つも言ってやろうと廊下に顔を出すと、獲物を見つけた二匹の二年が駆け寄って来た。

「このクソ寒い中、阿呆みたいに窓開けやがったのはてめぇか、夷川ッ」

 怒鳴る矢野君に気を取られていたら、もう一人に襟ぐりを掴まれてしまった。稲継先輩は容赦なくオレを廊下の窓際までズルズルと引きずる。

「ちょ、稲継先輩、待ってよ。てか、短気すぎんだろ。分かった、窓閉めるから、って人の話し聞けよ!」

 開いている窓に追い詰められ、上半身を窓の外に押し出されてしまった。何度もやられているので、慣れたと言いたいが、こんな状況に慣れる奴はいない。窓枠を掴んでとりあえず謝罪を試みようとしたが、その前に先輩が教室から顔を出した。

「俺が換気したいから窓を開けろって言ったんだ。稲継、セイシュンを下ろしてやってくれ」

 先輩の声を聞くや、窓の外に出ていた体が物凄い早さで引き戻される。そして襟ぐりを掴んでいた手も秒で離され、大真面目な顔の稲っちに襟を正された。

「多少寒いが、部屋の空気を入れ換えたいと思ってな。もうすぐ閉めると思うから、少しだけ見逃してくれないか?」

 上級生にしおらしく頼み事をされた二人は血相を変え「金城先輩がお望みなら、窓の一つや二つ自分たちに任せて下さい」そう言うと、全力で廊下の窓を全開にし始めた。

 一箇所だけでなく、廊下全ての窓が開くと、気温が完全に外と変わらなくなる。急に冷えたせいでくしゃみが出てしまう。それを見て、先輩は忠誠心の塊みたいな後輩に再度声をかけた。

「寒いから五分以内に全部閉めてくれ」

 開けると言ったり閉めろと言ったり、なかなかに圏ガクの上級生らしい物言いだ。先輩は大声で呼びかけた訳じゃあないが、律儀に「はい!」と返事する二人がいじらしい。

「ん、じゃあ俺らは晩飯の準備でもするか」

 キャンプ場に戻ると、先輩は窓を閉めてお湯の準備を始めだした。少しの間だったが、寒さが身に染みてストーブが恋しくなる。

 本日の晩飯、インスタントの蕎麦を二つ抱え、元の位置に椅子へと戻った。稲っちたちのおかげで、さっきまであったエロい雰囲気はキレイさっぱり入れ換えられてしまったが……まあ、いいだろう。せっかくのキャンプ、裸で過ごすのも情緒が無い。

 とは言え、ストーブで湯を沸かすのは時間がかかりそうだったので、いつもの湯沸かし器を持って来て情緒なく蕎麦を作った。餅を焼くのは楽しいが、湯が沸くのを眺めて待つのは、つまらなかったのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

狂わせたのは君なのに

一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※この物語はフィクションです。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...