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家畜も色々
家畜の昼食
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「大人の階段、のぼっちゃった感じ?」
問答無用で殴り飛ばした。切った所が引き攣るように痛み、余計に腹が立ったので、ついでに蹴りを入れ部屋へ踏み込んだ。畳に転がったコウスケの襟ぐりを掴み上げ、しっかり目を見てオレはニッコリ笑ってやる。
「スバルがおかしくなってるの知ってて放置しやがったな、てめぇ」
「えべっさん……貞操の危機は回避出来たっぽいね」
真剣な顔でオレを見るコウスケを投げ捨てた。いくら同室とは言え、一度スイッチの入ったスバルを制御は出来ないだろう。コイツが悪い訳じゃないのは十分分かっていたが、キツイ口調になってしまうのはしょうがないと自分で勝手に諦めた。
「なんでもいいから、とっととスバル引き取りに来い!」
そう言うと、他の二人も渋々といった体ではあるが、布団から出てきた。由々式が何か言いたそうな顔でこっちを見ていたが、これまた無視してスバル回収隊を引き連れて部屋に戻る事にした。
ぞろぞろと引き連れて部屋に帰ると、暗い中で小さな影が室内を這い回っていた。狭間がオレや由々式の血で汚れた布団の染み抜きをしてくれていたのだが、その光景は異様でかなり驚かされた。
なんせ、部屋の中央には生け贄のような有様のスバルと皆元が放置され、その様子はなんか黒魔術的な雰囲気がそこはかとなく漂っていたからな。
見ようによっては、狭間が血を塗りつけ魔方陣でも描いているように見えてしまう。状況を知らないコウスケたちにはそれが顕著で、揃って部屋に入るのを拒否しやがったが、オレが蹴り入れて皆元の下からスバルを引きずり出させた。
一応、救出という形になるのか、潰れたスバルはグッタリしてうなされながら眠っている。回収隊が担ぎ上げようとする前に、オレはスバルを身体検査し、例の如く数本の刃物と一通りの文房具を回収した。本当に呆れるくらい危険物を校内に持ち込んでいるらしい。
「ちょ、えべっさん、それどうする気? また盗まれたって大騒ぎするぞ」
コウスケがスバルの(本人曰わく)コレクションに視線をやり、怪訝そうな顔をする。オレはそれらを部屋の隅に投げ捨てた。
「オレが没収したって言っとけ」
投げやりに言うと、コウスケは肩を竦めて「わかった」と答えた。
スバルが運び出された部屋で、オレらは部屋のど真ん中で眠る皆元を囲む奇妙な形で横になった。一年の部屋には鍵が一切ないので、ドア付近に荷物を固め即席のバリケードを作り、ようやく瞼を閉じる。
行水で体が芯から冷え切ったオレは、いつもは枕に敷いて寝ている先輩のスウェットを重ね着してやった。狭間が気を利かせて、むしろ利かせすぎて毎日干してくれているのだろう。先輩の匂いは残っていなかったが、お日様の匂いとでも言うのかな、あったかい感じがして、オレはあっと言う間に眠りに落ちた。
翌日、スバルは普段通りに、何事もなかったかのように絡んで来やがったので、全力でシカトしてやった。コイツの訳の分からない所の一つでもあるが、夕べ死ぬような目に遭わされた皆元に対しても、普段通りで見ているオレとしては気持ち悪い感じがした。
ちゃんと朝食時に夕べ遭った事を説明したのだが、皆元自身は全く覚えていないらしく、まあこっちは仕方ないとは思うんだが、スバルの様子はシカトしているのも忘れて「どうして皆元に対して怒りがないのか?」と聞いてしまいそうになる。
側で騒がれ続けると、つい怒鳴り返してしまいそうで、休憩時間は早々に皆元の席で時間を潰したが、昼休みはスバルは注意され続けても使い続けている学食で食う為、いつも通りオレは皆元と一年が利用出来る旧館食堂である購買に足を向けた。
昼間だけ広げられる購買スペースで皆元が総菜パンを物色している横で、オレは無造作に積み上げられている配給と呼ばれる弁当の一つへ手を伸ばす。
購買、学食共に金を払わなければならない食事なのだが、配給は給食のようなもので希望すれば誰でもタダで食事にありつける。内容は前日の夕食の残りやら、冷凍食品の詰め合わせだ。
正直な所、食えるだけマシというレベルの代物で、配給を利用する奴は殆どいない。大きな弁当箱に量だけは保証されている印象があるが、それも大間違いで誰かが半分食ったんじゃないかと思うような空白がある日も珍しくない。
どうして、オレがそんな食事に当然のように手を伸ばすのかと言うと、もちろん金が無いからだ。期待はしていなかったが、当然のように仕送りは一銭たりとも無かった。そんな予感がありながら、微々たる金を微妙な味のジュースにつぎ込んでいれば、世話ないんだけどな。
改めて反省しながら、期待値だけは多少高い大きな弁当箱を持ち上げると、缶がぶつかる音がして、オレの昼飯が苦行の時間となる事を知る。
広々とした食堂内で、まばらに生徒が(主に一年だ)食事をしている中、オレは先に席を確保しがてら座った。暫くすると、大量の総菜パンを抱えた皆元がやって来て、対面の席に着く。皆元が律儀に手を合わせて食事を開始するのを見送り、オレも渋々弁当の蓋を開けた。
「あぁ? また缶詰か」
その中身を見て、他人事ながら気の毒そうな顔をする皆元。空の弁当箱に並ぶのは、四つの缶詰だった。
こういう事はままある。食材がなかったり、夕食が見事に残らなかったりしたら、非常食用の賞味期限の近い缶詰が放り込まれているのだ。毎度同じ内容の上、この缶詰くそマズイ。非常時なら仕方ないと思える味でも、平時に食える物ではない。今は旨い缶詰も多いらしいが、圏ガクで常備されている缶詰はそんな上等な代物ではなかった。
「好きなの食っていいぞ。あまりに不憫だ」
皆元が自分の昼食をオレの方へと差し出してくれたが、それには首を左右に軽く振ることで断り、缶詰の蓋を全部開いていった。心遣いは有り難いが、これはオレがこれから過ごす三年間の現状なのだ。ずっと施しをしてもらう訳にはいかない。無心でその中身をむさぼり食うが、途中で心が折れてしまい完食は断念した。
口の中の気持ち悪さを洗い流す為に、でかいヤカンで湧かした薄い茶を一気飲みして教室に戻った。早飯が常のオレらは、ものの十五分で帰って来たのだが、席に戻ると妙な物が机の上に置いてあった。購買人気ナンバーワンの焼きそばパンが三つ、投げ捨てられたようにオレの帰りを待っていた。
誰かが勝手にオレの席を使って昼食を取っているのかと思ったが、この席の周辺で食おうと思える猛者はそうはいないだろう。なんせ、スバルの席が真後ろにあるのだ。ならば、どうして焼きそばパンがこんな所にあるのかと思案していたら、皆元が笑いながら片手にあんパンを持ってやって来た。
「お、露骨に差つけて来やがったな」
オレの机にあんパンを置き、近くにあった椅子を引き寄せ腰を下ろす皆元に、どうゆう意味か問おうとすると、おかしそうに視線で背後を見てみろと言ってきた。皆元の背後を見ると、廊下側の窓からこちらを覗いているのはスバルだった。
「昨日の事、謝りたいんじゃないのか?」
皆元は表情で暗に許してやれば? とオレに言っていた。夕べの事を思い出すと苦々しい思いで一杯になるのだが、ガキみたいに落ち着かない視線を寄越すスバルを見ていたら、まあシカトしてるオレも大人げないかなと思わなくもなかった。あと、純粋に腹も減っていた。
「あんパンと焼きそばパン一個を交換してくれ」
皆元のこの提案に心を押されてしまった。特別甘い物が好きという訳ではないが、普段の食事に甘い物は滅多に出ず、目にしてしまうと欲しくなるのが人の性。オレが了承すると、皆元はスバルに向かって何か飲み物買ってこいと叫んだ。
「コーヒー牛乳でいいか?」
それを聞きひょっこりとスバルの後ろからコウスケが顔を出した。なるほど、この謝罪の品はコイツの差し金か。すっかりスバルの保護者が板に付いたコウスケは、ソワソワする問題児に何か耳打ちをした。すると、スバルがパッと嬉しそうな顔をこちらに向けて、開いた窓をハードルのように軽々と飛び越え駆け寄ってきた。
「えべっさーん! あいしてるーぅ」
オレに飛びつこうとしたらしく、両手を広げたまま空中でバタバタしている。皆元がその襟ぐりを掴んで、スバルを猫のように持ち上げていた。その口はまたオレに吸い付こうとしたのかタコのように突き出されており、スバル本人はまるで反省の色が見えなかったが、そう言われるだろうと先に買い込んでいたのだろう、コーヒー牛乳を四本持って、申し訳なさそうな顔をしたコウスケを見ると仕方ないかと思わないでもなかった。
あと目の前のパンが気になってしょうがなかったし、久し振りに飲む甘いコーヒー牛乳も中々そそられたのだ。
コウスケたちも自分のパンを出し、四人で昼食を取ることになった。オレはまともな昼食にありつけて、スバルの事なんてどうでもよくなっていたが、まあ嬉しそうにカレーパンを頬張る奴の顔を見ていたら怒っているのが馬鹿らしくなったので、夕べの事はこちらも忘れてやる事にした。男に襲われたなんて、いつまでも覚えていたい出来事ではないので、丁度良かったのかもしれないと少しホッとしたのも事実だったが。
「焼きそばパンあんま好きじゃねーの?」
一つを腹におさめると、缶詰で底上げしてあったせいか、もう一つに手を伸ばそうという気になれなかった。久し振りに食う総菜パンは旨くて、いつもなら三つくらい平気で食えるのに、今はコーヒー牛乳をチビチビと吸うくらいしか出来ず、そんなオレを不思議そうにスバルが覗き込んできた。
「焼きそばパン嫌いな奴はいないだろ。多分、くそマズイ缶詰で胸焼けしたのかも」
腹をさすり答えると、皆元も珍しそうにオレを見た。
「どっか具合悪いんじゃないか? 夷川が飯残すなんて初めてだ」
普段どんだけ食い意地が張っていると思われているんだオレは……確かに大抵の物は残さず食うけどさ。あの缶詰だって残したのは今日が初めてだし。
「夕べ、すごい髪濡れてたじゃん。それで風邪でも引いたんじゃない?」
コウスケにそう指摘されると、確かに夕べは行水が堪えて布団に入ってからも寒かったと思い当たってしまう。風邪なら余計に食わなければと、無理してもう一つの焼きそばパンも頬張ったが、結局半分も食べられず口を開けて待っていたスバルに押しつけた。
問答無用で殴り飛ばした。切った所が引き攣るように痛み、余計に腹が立ったので、ついでに蹴りを入れ部屋へ踏み込んだ。畳に転がったコウスケの襟ぐりを掴み上げ、しっかり目を見てオレはニッコリ笑ってやる。
「スバルがおかしくなってるの知ってて放置しやがったな、てめぇ」
「えべっさん……貞操の危機は回避出来たっぽいね」
真剣な顔でオレを見るコウスケを投げ捨てた。いくら同室とは言え、一度スイッチの入ったスバルを制御は出来ないだろう。コイツが悪い訳じゃないのは十分分かっていたが、キツイ口調になってしまうのはしょうがないと自分で勝手に諦めた。
「なんでもいいから、とっととスバル引き取りに来い!」
そう言うと、他の二人も渋々といった体ではあるが、布団から出てきた。由々式が何か言いたそうな顔でこっちを見ていたが、これまた無視してスバル回収隊を引き連れて部屋に戻る事にした。
ぞろぞろと引き連れて部屋に帰ると、暗い中で小さな影が室内を這い回っていた。狭間がオレや由々式の血で汚れた布団の染み抜きをしてくれていたのだが、その光景は異様でかなり驚かされた。
なんせ、部屋の中央には生け贄のような有様のスバルと皆元が放置され、その様子はなんか黒魔術的な雰囲気がそこはかとなく漂っていたからな。
見ようによっては、狭間が血を塗りつけ魔方陣でも描いているように見えてしまう。状況を知らないコウスケたちにはそれが顕著で、揃って部屋に入るのを拒否しやがったが、オレが蹴り入れて皆元の下からスバルを引きずり出させた。
一応、救出という形になるのか、潰れたスバルはグッタリしてうなされながら眠っている。回収隊が担ぎ上げようとする前に、オレはスバルを身体検査し、例の如く数本の刃物と一通りの文房具を回収した。本当に呆れるくらい危険物を校内に持ち込んでいるらしい。
「ちょ、えべっさん、それどうする気? また盗まれたって大騒ぎするぞ」
コウスケがスバルの(本人曰わく)コレクションに視線をやり、怪訝そうな顔をする。オレはそれらを部屋の隅に投げ捨てた。
「オレが没収したって言っとけ」
投げやりに言うと、コウスケは肩を竦めて「わかった」と答えた。
スバルが運び出された部屋で、オレらは部屋のど真ん中で眠る皆元を囲む奇妙な形で横になった。一年の部屋には鍵が一切ないので、ドア付近に荷物を固め即席のバリケードを作り、ようやく瞼を閉じる。
行水で体が芯から冷え切ったオレは、いつもは枕に敷いて寝ている先輩のスウェットを重ね着してやった。狭間が気を利かせて、むしろ利かせすぎて毎日干してくれているのだろう。先輩の匂いは残っていなかったが、お日様の匂いとでも言うのかな、あったかい感じがして、オレはあっと言う間に眠りに落ちた。
翌日、スバルは普段通りに、何事もなかったかのように絡んで来やがったので、全力でシカトしてやった。コイツの訳の分からない所の一つでもあるが、夕べ死ぬような目に遭わされた皆元に対しても、普段通りで見ているオレとしては気持ち悪い感じがした。
ちゃんと朝食時に夕べ遭った事を説明したのだが、皆元自身は全く覚えていないらしく、まあこっちは仕方ないとは思うんだが、スバルの様子はシカトしているのも忘れて「どうして皆元に対して怒りがないのか?」と聞いてしまいそうになる。
側で騒がれ続けると、つい怒鳴り返してしまいそうで、休憩時間は早々に皆元の席で時間を潰したが、昼休みはスバルは注意され続けても使い続けている学食で食う為、いつも通りオレは皆元と一年が利用出来る旧館食堂である購買に足を向けた。
昼間だけ広げられる購買スペースで皆元が総菜パンを物色している横で、オレは無造作に積み上げられている配給と呼ばれる弁当の一つへ手を伸ばす。
購買、学食共に金を払わなければならない食事なのだが、配給は給食のようなもので希望すれば誰でもタダで食事にありつける。内容は前日の夕食の残りやら、冷凍食品の詰め合わせだ。
正直な所、食えるだけマシというレベルの代物で、配給を利用する奴は殆どいない。大きな弁当箱に量だけは保証されている印象があるが、それも大間違いで誰かが半分食ったんじゃないかと思うような空白がある日も珍しくない。
どうして、オレがそんな食事に当然のように手を伸ばすのかと言うと、もちろん金が無いからだ。期待はしていなかったが、当然のように仕送りは一銭たりとも無かった。そんな予感がありながら、微々たる金を微妙な味のジュースにつぎ込んでいれば、世話ないんだけどな。
改めて反省しながら、期待値だけは多少高い大きな弁当箱を持ち上げると、缶がぶつかる音がして、オレの昼飯が苦行の時間となる事を知る。
広々とした食堂内で、まばらに生徒が(主に一年だ)食事をしている中、オレは先に席を確保しがてら座った。暫くすると、大量の総菜パンを抱えた皆元がやって来て、対面の席に着く。皆元が律儀に手を合わせて食事を開始するのを見送り、オレも渋々弁当の蓋を開けた。
「あぁ? また缶詰か」
その中身を見て、他人事ながら気の毒そうな顔をする皆元。空の弁当箱に並ぶのは、四つの缶詰だった。
こういう事はままある。食材がなかったり、夕食が見事に残らなかったりしたら、非常食用の賞味期限の近い缶詰が放り込まれているのだ。毎度同じ内容の上、この缶詰くそマズイ。非常時なら仕方ないと思える味でも、平時に食える物ではない。今は旨い缶詰も多いらしいが、圏ガクで常備されている缶詰はそんな上等な代物ではなかった。
「好きなの食っていいぞ。あまりに不憫だ」
皆元が自分の昼食をオレの方へと差し出してくれたが、それには首を左右に軽く振ることで断り、缶詰の蓋を全部開いていった。心遣いは有り難いが、これはオレがこれから過ごす三年間の現状なのだ。ずっと施しをしてもらう訳にはいかない。無心でその中身をむさぼり食うが、途中で心が折れてしまい完食は断念した。
口の中の気持ち悪さを洗い流す為に、でかいヤカンで湧かした薄い茶を一気飲みして教室に戻った。早飯が常のオレらは、ものの十五分で帰って来たのだが、席に戻ると妙な物が机の上に置いてあった。購買人気ナンバーワンの焼きそばパンが三つ、投げ捨てられたようにオレの帰りを待っていた。
誰かが勝手にオレの席を使って昼食を取っているのかと思ったが、この席の周辺で食おうと思える猛者はそうはいないだろう。なんせ、スバルの席が真後ろにあるのだ。ならば、どうして焼きそばパンがこんな所にあるのかと思案していたら、皆元が笑いながら片手にあんパンを持ってやって来た。
「お、露骨に差つけて来やがったな」
オレの机にあんパンを置き、近くにあった椅子を引き寄せ腰を下ろす皆元に、どうゆう意味か問おうとすると、おかしそうに視線で背後を見てみろと言ってきた。皆元の背後を見ると、廊下側の窓からこちらを覗いているのはスバルだった。
「昨日の事、謝りたいんじゃないのか?」
皆元は表情で暗に許してやれば? とオレに言っていた。夕べの事を思い出すと苦々しい思いで一杯になるのだが、ガキみたいに落ち着かない視線を寄越すスバルを見ていたら、まあシカトしてるオレも大人げないかなと思わなくもなかった。あと、純粋に腹も減っていた。
「あんパンと焼きそばパン一個を交換してくれ」
皆元のこの提案に心を押されてしまった。特別甘い物が好きという訳ではないが、普段の食事に甘い物は滅多に出ず、目にしてしまうと欲しくなるのが人の性。オレが了承すると、皆元はスバルに向かって何か飲み物買ってこいと叫んだ。
「コーヒー牛乳でいいか?」
それを聞きひょっこりとスバルの後ろからコウスケが顔を出した。なるほど、この謝罪の品はコイツの差し金か。すっかりスバルの保護者が板に付いたコウスケは、ソワソワする問題児に何か耳打ちをした。すると、スバルがパッと嬉しそうな顔をこちらに向けて、開いた窓をハードルのように軽々と飛び越え駆け寄ってきた。
「えべっさーん! あいしてるーぅ」
オレに飛びつこうとしたらしく、両手を広げたまま空中でバタバタしている。皆元がその襟ぐりを掴んで、スバルを猫のように持ち上げていた。その口はまたオレに吸い付こうとしたのかタコのように突き出されており、スバル本人はまるで反省の色が見えなかったが、そう言われるだろうと先に買い込んでいたのだろう、コーヒー牛乳を四本持って、申し訳なさそうな顔をしたコウスケを見ると仕方ないかと思わないでもなかった。
あと目の前のパンが気になってしょうがなかったし、久し振りに飲む甘いコーヒー牛乳も中々そそられたのだ。
コウスケたちも自分のパンを出し、四人で昼食を取ることになった。オレはまともな昼食にありつけて、スバルの事なんてどうでもよくなっていたが、まあ嬉しそうにカレーパンを頬張る奴の顔を見ていたら怒っているのが馬鹿らしくなったので、夕べの事はこちらも忘れてやる事にした。男に襲われたなんて、いつまでも覚えていたい出来事ではないので、丁度良かったのかもしれないと少しホッとしたのも事実だったが。
「焼きそばパンあんま好きじゃねーの?」
一つを腹におさめると、缶詰で底上げしてあったせいか、もう一つに手を伸ばそうという気になれなかった。久し振りに食う総菜パンは旨くて、いつもなら三つくらい平気で食えるのに、今はコーヒー牛乳をチビチビと吸うくらいしか出来ず、そんなオレを不思議そうにスバルが覗き込んできた。
「焼きそばパン嫌いな奴はいないだろ。多分、くそマズイ缶詰で胸焼けしたのかも」
腹をさすり答えると、皆元も珍しそうにオレを見た。
「どっか具合悪いんじゃないか? 夷川が飯残すなんて初めてだ」
普段どんだけ食い意地が張っていると思われているんだオレは……確かに大抵の物は残さず食うけどさ。あの缶詰だって残したのは今日が初めてだし。
「夕べ、すごい髪濡れてたじゃん。それで風邪でも引いたんじゃない?」
コウスケにそう指摘されると、確かに夕べは行水が堪えて布団に入ってからも寒かったと思い当たってしまう。風邪なら余計に食わなければと、無理してもう一つの焼きそばパンも頬張ったが、結局半分も食べられず口を開けて待っていたスバルに押しつけた。
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