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蜜月
古風な遊び
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オレも正月の遊びをしたくて、逃げ出した冷蔵庫へ戻り道具を借りてきた。
実に正月らしい『賀正』という文字がシンプルに書かれた凧と、紐を巻き付けて回すらしい独楽を二つ抱えてグラウンドへ向かう。本当は羽子板もやってみたかったが、壁にめり込んだ羽根が抜けなかったので諦めた。
「山センたち何やってたんだろ」
矢野君にまた芋を握らされたらどうしようかと思ったが、冷蔵庫に戻ると四人は部屋の隅、芋やら酒やらが出てきた段ボールの山の前で何かをしようとしていた。オレらに見られたくない何かがあるのか、変に絡まれる事もなく、遊び道具の拝借を願い出ると「早く持って行け」と簡単に許してくれた。
「闇市の荷物を運ぶつもりだろう。しばらくは戻らない方がよさそうだな」
「あの段ボールが闇市の商品って事?」
先輩は「多分な」と、興味なさげに答えた。店舗を持たない闇市の隠し倉庫、その在処が目の前にある。そうと分かれば、凧揚げや独楽遊びなんぞしている場合ではない。奴らに気付かれないよう尾行だ! そう提案しようとしたら、いきなり額にバチンと衝撃を食らった。
「いてッ、いきなり何すんだよ!」
オレの額を指先で弾いた先輩は、ムッとした顔で言う。
「セイシュンは今から俺と遊ぶんだろ。どこへ行く気だ」
「荷物多そうだったから、ちょっと手伝ってやろうかなって思っただけじゃん。ただ飯食わせて貰ったし」
口にした言葉の一割くらいは本心なのだが、信用ないらしくガッチリと腕を掴まれ半ば連行されながら校舎を出た。
寒さ対策として厚着はしたが、冷たい風に撫でられ体が震える。
体を動かせば芯まで冷える事はないと知っているので、早速オレは凧の紐を解き、その先を握って全力で走ってみる。凧はガガガと地面を軽く削りながら、全力でオレに引っ張られる。
「凧揚げと言うより、凧の散歩してるみたいだな」
朝のランニングコースを全力疾走して先輩の元へ戻ると、暢気な顔から全く揚がってなかったと報告を受けた。
オレを震わせるくらいの風は吹いているので、風の向きを考えて走るべきだな。つい、いつもの癖でグラウンドを一周してしまったが、正月早々こんなハードな遊びは流行らないだろう。息を整えつつ、今度は先輩と一緒に計画的にやってみる。
風を受ける向きに二人でスタンバイして、先輩に凧を掲げて貰う。そして、向かい風の中オレが全力で走るという計画だ。
冷たい風が吹き付けてくるタイミングを見計らい走る。少し長めに握り締めた糸が引っ張られるような手応えがあり、そっと手を弛めるとスルスルと勝手に上へと伸びていく。
「やった! 先輩、見て見て! 揚がった!」
再び糸をしっかり掴み振り返ると、風を受けて右へ左へ揺れながら空にのぼる凧が見えた。凧を操縦できないか試してみると、風があるおかげで、なかなか攻撃的な動きを再現出来て面白い。
もう一つ凧があれば、先輩と空中でバトル出来たのに……そんな事を考えていると、遠くの方から車のエンジン音が聞こえてきた。
学校にいる教師陣は全員食堂で挨拶をしたので、下山していた誰かが帰ってきた訳ではない。
オレは素早く凧を地面に落とし、それを回収しながら先輩に駆け寄った。
うちの学校に客が来るのは珍しい。嫌でも夏の珍客を思い出してしまうオレは、不安から先輩の手を掴む。
「聞き覚えのない音だな」
近づいて来る荒々しい音に耳を傾けながら、先輩はオレの手を握り返してくれる。オレの不安が伝わったのか、先輩は「冷たいな」と少し笑って、オレの手ごとポケットに手を突っ込み中で指を絡めた。
「…………なんか、ヤバそうなのが来てるね」
先輩と違ってオレには車のエンジン音を聞き分けるなんて真似は出来ないのだが、だんだん近づいて来る異常な爆音のおかげで山道を気が狂っているとしか思えない速度で走行しているらしい事は理解出来た。
「ん、酒を飲んでる感じはしないんだが」
この山奥で飲酒運転する度胸のある奴はいないだろう。冗談抜きで谷底へ転がり落ちるぞ。
先輩の腕に身を寄せながら、校門の方を注視していると、爆音と共に一台のデカイ車がバウンドしながら校内に突入してきた。いかにも山道や荒れ地の爆走くらい余裕
と言いたげな車は、速度を落とす事なくグラウンドの砂を巻き上げながら、こちらに向かってくる。
「前見えてんのか、あれ!? なんか、こっち来てる! 轢く気か!」
イチャついている場合ではないと、慌てるオレとは対照的に「まあ、大丈夫だと思うが」と先輩は暢気だ。
明らかにオレらを狙ってアクセルを踏んでいるとしか思えない車は、オレらを撥ね飛ばす寸前で急停止した。庇うように先輩が前に立ってくれていたので、誰が運転しているのか見えなかったのだが、ドアの開く音がして客は姿を現した。
実に正月らしい『賀正』という文字がシンプルに書かれた凧と、紐を巻き付けて回すらしい独楽を二つ抱えてグラウンドへ向かう。本当は羽子板もやってみたかったが、壁にめり込んだ羽根が抜けなかったので諦めた。
「山センたち何やってたんだろ」
矢野君にまた芋を握らされたらどうしようかと思ったが、冷蔵庫に戻ると四人は部屋の隅、芋やら酒やらが出てきた段ボールの山の前で何かをしようとしていた。オレらに見られたくない何かがあるのか、変に絡まれる事もなく、遊び道具の拝借を願い出ると「早く持って行け」と簡単に許してくれた。
「闇市の荷物を運ぶつもりだろう。しばらくは戻らない方がよさそうだな」
「あの段ボールが闇市の商品って事?」
先輩は「多分な」と、興味なさげに答えた。店舗を持たない闇市の隠し倉庫、その在処が目の前にある。そうと分かれば、凧揚げや独楽遊びなんぞしている場合ではない。奴らに気付かれないよう尾行だ! そう提案しようとしたら、いきなり額にバチンと衝撃を食らった。
「いてッ、いきなり何すんだよ!」
オレの額を指先で弾いた先輩は、ムッとした顔で言う。
「セイシュンは今から俺と遊ぶんだろ。どこへ行く気だ」
「荷物多そうだったから、ちょっと手伝ってやろうかなって思っただけじゃん。ただ飯食わせて貰ったし」
口にした言葉の一割くらいは本心なのだが、信用ないらしくガッチリと腕を掴まれ半ば連行されながら校舎を出た。
寒さ対策として厚着はしたが、冷たい風に撫でられ体が震える。
体を動かせば芯まで冷える事はないと知っているので、早速オレは凧の紐を解き、その先を握って全力で走ってみる。凧はガガガと地面を軽く削りながら、全力でオレに引っ張られる。
「凧揚げと言うより、凧の散歩してるみたいだな」
朝のランニングコースを全力疾走して先輩の元へ戻ると、暢気な顔から全く揚がってなかったと報告を受けた。
オレを震わせるくらいの風は吹いているので、風の向きを考えて走るべきだな。つい、いつもの癖でグラウンドを一周してしまったが、正月早々こんなハードな遊びは流行らないだろう。息を整えつつ、今度は先輩と一緒に計画的にやってみる。
風を受ける向きに二人でスタンバイして、先輩に凧を掲げて貰う。そして、向かい風の中オレが全力で走るという計画だ。
冷たい風が吹き付けてくるタイミングを見計らい走る。少し長めに握り締めた糸が引っ張られるような手応えがあり、そっと手を弛めるとスルスルと勝手に上へと伸びていく。
「やった! 先輩、見て見て! 揚がった!」
再び糸をしっかり掴み振り返ると、風を受けて右へ左へ揺れながら空にのぼる凧が見えた。凧を操縦できないか試してみると、風があるおかげで、なかなか攻撃的な動きを再現出来て面白い。
もう一つ凧があれば、先輩と空中でバトル出来たのに……そんな事を考えていると、遠くの方から車のエンジン音が聞こえてきた。
学校にいる教師陣は全員食堂で挨拶をしたので、下山していた誰かが帰ってきた訳ではない。
オレは素早く凧を地面に落とし、それを回収しながら先輩に駆け寄った。
うちの学校に客が来るのは珍しい。嫌でも夏の珍客を思い出してしまうオレは、不安から先輩の手を掴む。
「聞き覚えのない音だな」
近づいて来る荒々しい音に耳を傾けながら、先輩はオレの手を握り返してくれる。オレの不安が伝わったのか、先輩は「冷たいな」と少し笑って、オレの手ごとポケットに手を突っ込み中で指を絡めた。
「…………なんか、ヤバそうなのが来てるね」
先輩と違ってオレには車のエンジン音を聞き分けるなんて真似は出来ないのだが、だんだん近づいて来る異常な爆音のおかげで山道を気が狂っているとしか思えない速度で走行しているらしい事は理解出来た。
「ん、酒を飲んでる感じはしないんだが」
この山奥で飲酒運転する度胸のある奴はいないだろう。冗談抜きで谷底へ転がり落ちるぞ。
先輩の腕に身を寄せながら、校門の方を注視していると、爆音と共に一台のデカイ車がバウンドしながら校内に突入してきた。いかにも山道や荒れ地の爆走くらい余裕
と言いたげな車は、速度を落とす事なくグラウンドの砂を巻き上げながら、こちらに向かってくる。
「前見えてんのか、あれ!? なんか、こっち来てる! 轢く気か!」
イチャついている場合ではないと、慌てるオレとは対照的に「まあ、大丈夫だと思うが」と先輩は暢気だ。
明らかにオレらを狙ってアクセルを踏んでいるとしか思えない車は、オレらを撥ね飛ばす寸前で急停止した。庇うように先輩が前に立ってくれていたので、誰が運転しているのか見えなかったのだが、ドアの開く音がして客は姿を現した。
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