376 / 411
蜜月
達人たちの対話
しおりを挟む
泣き腫らした顔で校舎に戻ると、誰かに出くわした時に面倒だったので、寒さは身に染みるが外で遊ぶのを続行した。
凧は二人で出来ないので諦め、グラウンドから校舎の出入り口付近に移動し独楽を回してみた。独楽は二人分あったので、軽く練習した後でバトルする事が出来て、思いの外かなりテンションが上がった。
勢いが付きすぎたか先輩が力加減を誤ったのか(多分後者)近くに積んであった煉瓦をまとめて真っ二つに割ったり、校舎の壁を削ったりして、木で出来た独楽は見事にボロボロになってしまったのだが、煉瓦を割る技をオレも習得したくて夢中になっていると、誰かが砂利を踏み駈けてくる音が聞こえてきた。
「マリカの冗談かと思ったが本当だったのか……また随分と健全な遊びをしているな、君たち」
駆け寄って来たのはポンコツ女神で、その表情は呆れているのか感心しているのか分からないが、稲っちに目撃されたら羨む事間違いなしの気安い感じで声をかけられる。
「そろそろ部屋に戻るつもりです。独楽が瀕死なんで」
嫌な予感がしたので、我ながら可哀想な独楽を見せ、その場を辞退しようとするが、意図が伝わらず腕まくりをし出した女神に奪われてしまう。
「この程度で壊れるほどヤワじゃないさ。見てなさい」
紐を巻き風切り音が聞こえるくらいの勢いで独楽を回しやがる女神。力加減を知らない大女の独楽は、先輩の割った煉瓦を次々と弾き飛ばしオレらを攻撃してきた。
「なんか悔しい! オレの時だけ、独楽が煉瓦に負ける!」
「俺が言うのもなんだが、それが普通だからな」
悔しさをバネに再び修行に戻ろうとしたのだが、何かを思い出したらしい女神がそれを阻んだ。
「実は二人に頼みがあるんだ。少し山を下りる事になってしまってな」
女神はこちらの返事も聞かず、その内容を話し始めた。
「さっき来ただろう、あの子を日が暮れる前に家まで送ってくる」
響先生の娘さんを送り届ける為に同行するらしい。
「私がこちらに滞在しているのを知られてしまってな。私を出しに押し掛けて来たので、谷垣先生のご迷惑にならないよう責任を持って家へ帰そうと思っている」
溜め息を吐きながら、女神は本題を直球で投げてくる。
「そうすると先生方のお世話をする人間がいなくなってしまうだろ? そこで君たちに私の代わりを頼みたいんだ」
教師共の世話ってなんだ。明らかにおせちの件で味を占めているとしか思えない女神の言葉に無言の抗議をしてしまう……が、細かい事は気にしない大女には全く通用しなかった。
「ずっと食堂に待機しておけ、という事ですか?」
同じ気持ちだろう先輩は、しっかり言葉にして伝えてくれる。
「いや、それでは君たちが休まらないだろう。夜中の間にサッと片付けと掃除をしてくれたら十分だ。それ以上は望まない」
夜中って教師共の酒盛りが終わってからって事か。それだけでいい、みたいな軽さで言ってくれるが、なかなかにハードだ。
「なら、その作業は俺一人で引き受けてもいいですか?」
オレがどう断ろうか頭を悩ませていると、先輩が勝手な事を言い出した。
「それはなぜだろうか。私としては、手先の器用な夷川が率先してやってくれると安心なのだが」
先輩や女神よりはマシだろうが、オレもそんな期待されるような働きは出来ないと思う。
この場に稲っちを呼び出せたら、全力でこの無茶振りを受け止めてくれるのに残念でならない。そう思いつつ、そんな機能がオレらの間にあったら本気で嫌だが、この現状を伝えるべく稲っちに心の中で強く呼びかけてみる。
「この寮で生活している生徒たちと夷川は仲違いしているんです。だから極力接触させたくない」
オレが稲っちへテレパシーを試みていると、先輩の過保護が発動してしまった。残留一年の顔を見るのは不快だが、同じ場所で生活しているのだから顔を合わす程度は仕方ないだろう。そこまで気にしなくていい、オレが過保護な先輩にそう反論しようとすると、女神が盛大に笑い出した。
「あいつらなら、当分はまともに動けないだろうから、心配しなくても大丈夫だ」
不穏な女神の言葉で、ふと違和感に気付く。教師への挨拶やおせちのアレコレで割と長時間、旧館に入り浸っていたのに残留一年の気配が一切しなかったなと。
「先生方に対する態度があまりに悪かったのでな、少し灸を据えてやった」
思わず何をしたのか聞いてしまった。
「稽古をつけてやっただけだよ。礼儀も基本も何も身に付けていない連中だったので、少し厳しめにな。稲継が手伝ってくれたおかげで一人残さず指導する事が出来た」
女神から逃げ出そうとする残留一年を捕まえるバイトをしてたんだな。生徒を千切っては投げする姿を見ても覚めない稲っちの性欲には感心する。
「金城、君の先生方への態度に指導は必要ないが……一度、手合わせをしないか?」
女神が獲物を狙うような視線を先輩に向けた。単に女神の血の気が多いだけだろうが、女に誘われている先輩を見るのは心臓に悪い。例え何かの稽古だろうと、そんなのを見せられるのはお断りだ。先輩が丸め込まれる前にオレがきっぱり言ってやろうと一歩前に出た瞬間、なぜかゾクッと背筋が粟立った。
「冗談だ。正月から怪我をするのも、させるのも嫌だからな」
女神は肩を竦めて見せた。冗談だと言いながらも、目は一切笑っていないのがオレにも分かった。先輩は終始無言だったが、オレが少し振り返り様子を窺うと、小さく「はい」と固い声で短く答えた。
凧は二人で出来ないので諦め、グラウンドから校舎の出入り口付近に移動し独楽を回してみた。独楽は二人分あったので、軽く練習した後でバトルする事が出来て、思いの外かなりテンションが上がった。
勢いが付きすぎたか先輩が力加減を誤ったのか(多分後者)近くに積んであった煉瓦をまとめて真っ二つに割ったり、校舎の壁を削ったりして、木で出来た独楽は見事にボロボロになってしまったのだが、煉瓦を割る技をオレも習得したくて夢中になっていると、誰かが砂利を踏み駈けてくる音が聞こえてきた。
「マリカの冗談かと思ったが本当だったのか……また随分と健全な遊びをしているな、君たち」
駆け寄って来たのはポンコツ女神で、その表情は呆れているのか感心しているのか分からないが、稲っちに目撃されたら羨む事間違いなしの気安い感じで声をかけられる。
「そろそろ部屋に戻るつもりです。独楽が瀕死なんで」
嫌な予感がしたので、我ながら可哀想な独楽を見せ、その場を辞退しようとするが、意図が伝わらず腕まくりをし出した女神に奪われてしまう。
「この程度で壊れるほどヤワじゃないさ。見てなさい」
紐を巻き風切り音が聞こえるくらいの勢いで独楽を回しやがる女神。力加減を知らない大女の独楽は、先輩の割った煉瓦を次々と弾き飛ばしオレらを攻撃してきた。
「なんか悔しい! オレの時だけ、独楽が煉瓦に負ける!」
「俺が言うのもなんだが、それが普通だからな」
悔しさをバネに再び修行に戻ろうとしたのだが、何かを思い出したらしい女神がそれを阻んだ。
「実は二人に頼みがあるんだ。少し山を下りる事になってしまってな」
女神はこちらの返事も聞かず、その内容を話し始めた。
「さっき来ただろう、あの子を日が暮れる前に家まで送ってくる」
響先生の娘さんを送り届ける為に同行するらしい。
「私がこちらに滞在しているのを知られてしまってな。私を出しに押し掛けて来たので、谷垣先生のご迷惑にならないよう責任を持って家へ帰そうと思っている」
溜め息を吐きながら、女神は本題を直球で投げてくる。
「そうすると先生方のお世話をする人間がいなくなってしまうだろ? そこで君たちに私の代わりを頼みたいんだ」
教師共の世話ってなんだ。明らかにおせちの件で味を占めているとしか思えない女神の言葉に無言の抗議をしてしまう……が、細かい事は気にしない大女には全く通用しなかった。
「ずっと食堂に待機しておけ、という事ですか?」
同じ気持ちだろう先輩は、しっかり言葉にして伝えてくれる。
「いや、それでは君たちが休まらないだろう。夜中の間にサッと片付けと掃除をしてくれたら十分だ。それ以上は望まない」
夜中って教師共の酒盛りが終わってからって事か。それだけでいい、みたいな軽さで言ってくれるが、なかなかにハードだ。
「なら、その作業は俺一人で引き受けてもいいですか?」
オレがどう断ろうか頭を悩ませていると、先輩が勝手な事を言い出した。
「それはなぜだろうか。私としては、手先の器用な夷川が率先してやってくれると安心なのだが」
先輩や女神よりはマシだろうが、オレもそんな期待されるような働きは出来ないと思う。
この場に稲っちを呼び出せたら、全力でこの無茶振りを受け止めてくれるのに残念でならない。そう思いつつ、そんな機能がオレらの間にあったら本気で嫌だが、この現状を伝えるべく稲っちに心の中で強く呼びかけてみる。
「この寮で生活している生徒たちと夷川は仲違いしているんです。だから極力接触させたくない」
オレが稲っちへテレパシーを試みていると、先輩の過保護が発動してしまった。残留一年の顔を見るのは不快だが、同じ場所で生活しているのだから顔を合わす程度は仕方ないだろう。そこまで気にしなくていい、オレが過保護な先輩にそう反論しようとすると、女神が盛大に笑い出した。
「あいつらなら、当分はまともに動けないだろうから、心配しなくても大丈夫だ」
不穏な女神の言葉で、ふと違和感に気付く。教師への挨拶やおせちのアレコレで割と長時間、旧館に入り浸っていたのに残留一年の気配が一切しなかったなと。
「先生方に対する態度があまりに悪かったのでな、少し灸を据えてやった」
思わず何をしたのか聞いてしまった。
「稽古をつけてやっただけだよ。礼儀も基本も何も身に付けていない連中だったので、少し厳しめにな。稲継が手伝ってくれたおかげで一人残さず指導する事が出来た」
女神から逃げ出そうとする残留一年を捕まえるバイトをしてたんだな。生徒を千切っては投げする姿を見ても覚めない稲っちの性欲には感心する。
「金城、君の先生方への態度に指導は必要ないが……一度、手合わせをしないか?」
女神が獲物を狙うような視線を先輩に向けた。単に女神の血の気が多いだけだろうが、女に誘われている先輩を見るのは心臓に悪い。例え何かの稽古だろうと、そんなのを見せられるのはお断りだ。先輩が丸め込まれる前にオレがきっぱり言ってやろうと一歩前に出た瞬間、なぜかゾクッと背筋が粟立った。
「冗談だ。正月から怪我をするのも、させるのも嫌だからな」
女神は肩を竦めて見せた。冗談だと言いながらも、目は一切笑っていないのがオレにも分かった。先輩は終始無言だったが、オレが少し振り返り様子を窺うと、小さく「はい」と固い声で短く答えた。
10
あなたにおすすめの小説
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる