圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み!!

圏ガクのコンビニ事情

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 先に待つ楽しみを意識すると、不毛な作業にも一つ一つクリアしていく達成感のようなモノが生まれ、仕事は初日のトラブルが嘘のように順調だった。担当する場所は変われど、作業内容はどこも似たり寄ったり、慣れも大きいのだろうが、一緒に組んで仕事をしている小吉さんに「もうお前は草取りのプロだな! 免許皆伝だ!」と言ってもらえるくらい庭掃除の技術が上達した。

 中には偏屈な爺さん婆さんもいたが、キレイになった庭を見ると、礼はなくとも誰もが喜んでくれたので、その内に腹も立たなくなった。もちろん、感謝してくれる人もいて、そんな時、逆にどうしたらいいのか分からなくなったりもした。拝むように手を合わせて「ありがとうありがとう」と連呼する婆さんに、小吉さんの迷う事なく張り上げる「どういたしまして!」という言葉に『ありがとう』に返す言葉が『どういたしまして』だったと思い出して苦笑する。

 なんせオレにとっては、まともに言った事のない台詞だ。孤立無援に弱肉強食が蔓延る感謝とは無縁の荒んだ生活で、すっかり忘却していた言葉を取り戻し、小吉さんに倣い久し振りに口にすると、妙にこそばゆい感じがしたが悪くはなかった。

 圏ガク生とは思えない健全な生活がすっかり板に付いた頃、村主さんの口から『夏祭り』という言葉が出始めた。個別の作業を割り振られていない連中が、道具の確認や会場の整備に駆り出され、普段は文句しか垂れ流さない残留一年の間にも、なんだかんだ言いながら浮かれた空気が漂い出す。

 そんな中、オレらには関係のない、むしろ邪魔にしかならない大事な会議や集まりも多くなり、午後からの自習は短縮され、夏祭りまでの間は早めに帰校する事になった。

「園芸部の畑が見たいのか? そっか、前に来た時は暗かったもんな」

 急に空いてしまった夕食までの時間を自習に費やす気にはなれず、オレを置いて談話室の作業へ行ってしまった先輩を多少恨みながらも、前々から行きたいと思っていた小吉さんの畑に同行させてもらう事にした。

 キラキラと目を輝かせ、園芸部秘伝の畑へ続く道を教えてくれる小吉さんと並び、一度通った一年寮へ続く道を行く。鬱蒼と茂った雑草が目隠しになり、日の高い時に見ても先に開けた空間があるとは思えなかったが、よくよく足下を注意して見れば、頻繁に人の出入りがある事が踏みしめられた雑草で分かる。それに、ちゃんと木も剪定してあるらしく、くねくねと蛇行しながら歩けば、葉っぱや蜘蛛の巣には一度もぶつからず、目的の場所に到着する事が出来た。

「小吉さん、毎日ここに通ってるんだ」

 整備された秘密基地めいた園芸部の畑に感心していると「あったりまえだろ」と小吉さんは胸を張って頷く。

「毎日欠かさず世話しなきゃ、すぐ野菜ダメになるんだぞ」

 農薬などを一切使っていないらしく、一度でもサボると、虫が食い荒らしてボロボロになってしまうそうだ。さっそくしゃがみ込み、雑草を引き抜き始めた小吉さんに続く。

「夏祭りの屋台にな、オレの作った野菜も使ってもらえるんだ」

 せっせと小さな雑草の芽を摘み取りながら、小吉さんは嬉しそうに教えてくれる。普段食べているトマトやキュウリが頭に思い浮かび、冷やしトマトとキュウリの屋台かと聞けば、笑いながら違うと言われてしまった。

「あっちの方にあるんだけどな、とうもろこしを焼きとうもろこしにするんだ」

「とうもろこし! 小吉さん、オレ、とうもろこし好きだ! 食べたい!」

 そんな物まで作ってしまうのかと、驚きと感心で勢いがつき、今晩の夜食にしようと即座に提案したのだが、小吉さんは慌てて両手を振り回し、立ち上がってとうもろこしを探そうとするオレを制止する。

「わわわ、だから、とうもろこしは夏祭りに使うんだって。だだだだから、とうもろこしは夏祭りまで我慢しろ」

 一本くらい大丈夫だよと説得を試みたが、焼いて食べるとうもろこしは絶品だからと、逆に説得されてしまった。

「ちゃんと夷川の分は用意してもらえるよう、先生に言っとくから、な?」

 ちゃっかりと取り置きの約束をしてもらい、夏祭りの楽しみを増やしつつ、明日の仕事について聞こうとしたら、何故か小吉さんから「ごめん」といきなり謝られてしまう。

「明日、は、おれ山下りないんだ。そそそそもその、お腹が痛いから。うん」

 そんなふうには見えなかったが、体調が悪いのかと心配すれば「今じゃなくて、その明日なんだ痛いの」と訳の分からない説明をされる。仮病かと問えば、全力でそうじゃない本当に痛いんだとこれまた嘘を塗りたくった。

「何かあるの?」

 どう見ても怪しい小吉さんの態度に、面白い事があるんじゃないかという嗅覚が働き、逃がすまいと一歩踏み込んでみる。最初こそ「違う違う」と否定していたが、小吉さんの涙にも慣れてしまったオレに泣き脅しは効かない。根比べに持ち込むまでもなく「誰にも言うなよ」とくどい程に前置きしてから、小吉さんは明日の予定を実に興味深い単語と共に教えてくれた。

「明日は闇市の荷物運びがあるんだ」

 どこかアングラな響きのある闇市という言葉もそうだが、荷物運びという作業内容で数日前に先輩が言っていた妙な事を思いだした。

『あんまり遅くなると他の連中と鉢合わせちまうしな』

 山を徒歩で往復する時に鉢合わせになる連中、普通に考えれば往復のバスか橘さんの車以外はないはずだ。この山は学校が所有しているという事で一般人の立ち入りは考えられない。なら、誰と鉢合わせになるのか、その答えがきっとコレなのだ。

「おれら二年が学校に残ってるの、それが理由なんだ。闇市が取り扱う大量の商品を学校に持ち込むのを手伝うんだ。だから、おれら四人以外の奴に知られたらヤバイんだよ。在庫の場所とか特定されたら大変なんだ。だから、おれらが闇市を手伝ってるって誰にも言わないでくれ」

 なるほど、二年が残っている本当の理由はそれなのか。「ももももちろん、部活も大事なんだぞ」と複雑そうな顔を見せる小吉さんに、オレは根本的な事を尋ねてみた。

「てか闇市って何?」

 なんとなく想像はつくが、今まで耳にした事のない存在だったので、一年には利用不可な施設なのかもしれないと思ったのだが、小吉さんはちょっと大袈裟に驚いて見せた。

「お前、一学期の間、一度も闇市を使わず過ごしたのか?」

 その名前すら初耳だと伝えると「まあ、一年は頻繁に使える場所じゃないか」と納得したように頷き、闇市について色々と教えてくれた。 

 学生専用の何でも屋、ザックリ言うとそれが闇市の正体だった。金さえ出せば、大抵の物は手に入れられる、圏ガクのコンビニと言った所か。校舎の生徒用玄関に本来なら学校行事を書いておく為の黒板があるのだが、落書きだらけのその黒板が闇市への唯一の連絡手段らしい。直接的な単語は避け、隠語で欲しい物を書き記すと、その日立つ市で商品を購入する事が出来るのだとか。

「闇市はその日によって場所が変わるんだ。一箇所に在庫を置いておくと、盗みだそうとする奴が絶対に出て来るから、おれらも知らない秘密の場所に隠してある。倉庫の場所だけじゃなくて、今残ってるおれら以外は番長くらいしか闇市の正体を知ってる奴はいないんだ。だから、手伝いしてるのも内緒にしないとダメなんだ」

 だいたいの事情は察した。完全な秘密主義を理解した上でオレは無理を言ってみる。

「二学期に売る分を運び込むんだろ。なら、オレらも手伝うってのはどう? オレも先輩も絶対に秘密は漏らさないって約束出来るよ。人手は多い方がよくない? 四人はちっと厳しいだろ」

 オレの提案に小吉さんは青ざめる。

「だ、だだだダメだぞ! 手伝うなんて、その、もってのほかだし、それ、そそれに金城先輩に言うのも絶対にダメだ! 明日荷物運びがあるのを金城先輩にも言ったらダメだからな!」

「なんで? その闇市の事なら先輩は知ってるよ。自分と出くわさないようにって気も遣ってたし」

 簡単に仲間に入れてもらえるとは思っていなかったが、どうして先輩をそこまで警戒する必要があるのか全く分からなかった。他の奴ならいざ知らず、相手はあの先輩なのだ。小吉さんは何を心配しているのか。

「いや、だって、なぁ? 金城先輩、闇市ではいいカモにされてるし……その分を取り戻そうって、なるかも、ししししれないだろ。だ、だっだっだだから! 金城先輩に言ったらダメなんだ!」

 闇市でカモにされている。意味が分からず、けれど不穏な言われように、つい号泣させるくらいの勢いで、小吉さんに迫る。そうして、泣きながら小吉さんが説明してくれた事は、オレにとっても他人事ではなく、思わずショックでぶっ倒れそうになった。

「おれ見たんだ。金城先輩が闇市で買い物してる所。そしたら、一年が利用する時よりも高い値段ふっかけられてて、てか、もうぼったくりとしか言えないような値段でやり取りしてた」

 闇市は学年や肩書きみたいなモノで物価が変動するらしく、上級生になるほど安く、また下級生になるほど同じ商品でも高い値段でやり取りされる。その辺の匙加減は闇市の主観、要するに好き嫌いで値段が変わってくるそうで、具体的な先輩への数字を聞けば、恐ろしい事に元値の十倍近い額を請求されていた。

「普通に詐欺だろッ! その闇市とかいう奴とっ捕まえて、先輩の金取り返してやる!」

「ぜぜぜったい、絶対そうなるっておぉぉ思ったから、ぃい言いたくなかったんだよぉ!」

 走り出そうとしたオレの腰に小吉さんが飛びついてきて、二人して畑で転がり回る。土まみれになってようやく冷静さが戻って来ても、納得出来るはずもなく、小吉さんを適当に言いくるめ、その場を後にした。
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