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圏ガクの夏休み!!
傷心
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数秒程度の時間が異常に長く感じる。出るなと願う気持ちが、自分の中で押し潰された。今すぐ離してしまいたいはずの受話器をグッと握りしめて、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
『…………』
呼び出し音が唐突に途切れた。心臓は動いているのに呼吸が出来ず、黙ったまま向こうの様子を窺うと、公衆電話からの着信を不審に思っているのか、母さんも黙ったままだった。何でもいいから話さないと、焦りながらも呼吸の仕方が思い出せず、ただ喘ぐみたいに必死で口をパクパクさせているとそれは聞こえてきた。
『もしもしー? これね、まみのままのでんわなのよ。もしもしー……あ、ままぁーでんわ』
『やだマミちゃん、ママの電話に触ったら駄目じゃない。ごめんなさい、娘が勝手に出てしまって……あら、切れてしまったのかしら?』
舌っ足らずな聞いた事のない声。聞き覚えはあるのに聞いた事のない声。
『もしもし? あの、どちら様?』
ああ、これは聞いた事があるな。少し険が滲むと、母さんの声は記憶の中の声にちゃんと重なった。
『おにいちゃん! おにいちゃんよ!』
『え?』
電話口で騒ぐガキの甲高い声に血の気が引く。母さんにオレだと言う事がばれてしまう。気付かれる前に受話器を置いて通話を切ればいいのに、どうしても出来ず、祈るような気持ちで耳をすました。
『ナオト君、ナオト君でしょう。喫茶店の場所が見当たらないの? 大丈夫よ、マミちゃんと一緒に迎えに行くわ。今どこにいるのか教えてちょうだい』
何度も繰り返す知らない名前。オレの知らない名前を呼び続ける声がどんどん遠ざかっていく。手が滑って受話器を落としてしまったらしい。
元に戻さないと。そう思って受話器を手に取ってフックに戻したら、大きな音がして受話器がまた落ちた。ピーピーと耳障りな音もする。
「……サボってるの見つかったら、アレじゃん。アレ……アレってなんだっけ。まあ、どうでもいいか」
すごい倦怠感だ。
「手伝いに、戻らないと。小吉さん一人だし」
体が重たくて、動きたくない。でも、ここに突っ立っているよりマシかと思い、公衆電話の上に置いたスマホを掴んだ。
「あ……」
ポケットにねじ込もうとしたのに、何故か思い切り道路にスマホを叩きつけていた。目に見えて壊れていないのが不思議で、衝撃でなにかボタンが押されてしまったのだろう、時刻を表示する割れずに済んだ液晶を踵で何度も踏み付けると、キレイに罅が入り画面は何も映さなくなった。
使い物にならなくなったスマホを見ると、少し体が軽くなる。どうせ、使い道なんてないんだ。何も問題はない。
せっかく体が楽になったのに、わざわざ無駄に荷物を抱える必要はないと、その場を後にする。あんなモノはただのゴミだ。誰かが掃除するだろう。そう思い、ただひたすらに足だけを動かして公民館に戻った。
「夷川君、どこにいたの? 小吉君が心配して探し回ってたわよ。後で声かけてあげてね」
戻った早々、村主さんに見つかってしまった。少し焦ったが、サボっていたとは思われていないらしく、早速荷物運びを押しつけられ、慌ただしく日常に取り込まれる。
「あぁぁあ! みっみっみみ見つけた。えび、夷川! ごごごごごめんな! 見つけるのすごく遅くなった」
言われる通りに体を動かすのは苦痛ではなかったが、小吉さんに見つかって「大丈夫か平気か」と連呼されるのは辛かった。「平気だから」と口にすると、オレの声は落ち着いているのに、小吉さんは泣きそうな顔を見せた。余程オレの顔が強ばっていたようだ。睨み付けてはいないはずだが、小吉さんは逃げるように走り去ってしまった。
罪悪感がない訳ではないが、どうしてか小吉さんを見ていると、胸が苦しくなって嫌な気持ちになるので、目の前から消えてくれるのはありがたい。正直に言うと、小吉さんだけでなく、視界に入る奴ら全員に消えて欲しくて堪らないんだが。
「大丈夫か坊主。重かったら台車使え」
肩に見知らぬ誰かの手が置かれた。オレが顔を上げるより先に、視界に剥げたオッサンが映り込む。地面に転がった缶ジュースを集めていた。それはオレがさっきまで運んでいた物だった。きっと落とした拍子に箱が潰れて中身が転がり出たのだろう。
「……すいません」
しゃがみ込み手伝おうとしたが、オッサンは一人で手早く缶をかき集めると、のろのろとしか動かないオレの手を邪険に払いのけた。
「めんどくせーと思ってんなら、最初っから出てくんな。おめぇみてーのがいっとな、マジメにやってる奴まで一緒くたにされちまうだろが」
「……来たくて来てんじゃねぇよ、こんなとこ」
「あぁあ? 今なん言いよったッ!」
肩をバンと強く押されて、情けなく尻もちをつく。ぼんやりしているせいか、腹も立たない。けれど、その代わりに立ち上がる気力も湧かなかった。
「ちょっとッ! 夷川君、大丈夫? 松原さん、子供相手に手を上げるなんて、あなた何を考えているんですか」
「お、おいおい、大袈裟だろ。ちょっと小突いただけだよ。ちんまいガキじゃねーのよ、そんな大層に騒ぐこっちゃねぇだろ」
どこかで見ていたらしい村主さんがオッサンと口論を始めた。なんか、どちらにもフォローを入れるべきなんだろうが、そんな事が今のオレに出来るばずもなく、またのろのろと立ち上がって「少し休憩を下さい」と申告して人気のない方へと足を動かす。
公民館の裏口を目指して歩けば、思った通り人気がなくてホッとする。建物の影に入ると気のせいか喧騒が遠のき、オレのいる場所だけが切り取られたみたいに感じた。
周りには誰もいない。自分ただ一人。そう意識すると、見えない所で何かが弾けて、壁を思い切り蹴り飛ばした。がむしゃらに蹴り続けたせいで足が痛い。今度は無性に腹が立ち、壁に向かって唾を飛ばし悪態を吐きまくる。
その程度でおさまらず、壁に拳をぶつけた。予想しなかった痛みに思わず体が固まる。それが余計に苛立ちを加速させ、痛みに躊躇した自分を責めるよう、腕を振り上げ壊すつもりで壁に叩きつけた。
「…………」
手首が痛い、痛いくらいに握られ、振りかぶった状態から動けない。
「……何、なんか用でもあんのかよ」
発散出来なかった何かが、勢いよく増殖していく。嫌な感じだ。すごく、嫌だ。
「セイシュン、壁を殴るのは止めろ」
「じゃあ、何を殴ればいいの? そこら辺にいる年寄りにトドメ刺して回れって?」
「そんなに何かを殴りたいなら、お前は俺を殴ればいい」
なんだそれ、何言ってんだコイツ。
「それじゃあ壁を相手にしてるのと変わりないだろ……あんたの体バカみてぇに硬いんだから」
「なら、素手で殴らなければいいだろ。あー……そうだな、コレを使え」
辺りを見回した後、自分の体を漁り、取り出しやがったのは、腰に差していた金鎚だった。いつもと変わらない暢気な顔して「これなら、お前の手は痛くならないぞ」とオレの手を取って金鎚を握らせてくる。
そして目の前の馬鹿は「さあ来い!」と目を瞑って両手を広げた。
「ふざけんなよッ!」
握らされた金鎚を足下に叩きつけてやる。
「別にふざけているつもりはない。何かを殴ってお前が落ち着くなら、俺はいくらでも殴られてやる。心配するな、お前が飽きるまで殴り続けても、俺は立っていられるから」
頭に血が昇る。顔や耳が熱くて、思考まで茹だって、知らず笑いが漏れてくる。空になった手で、いつの間にか、あぁ多分ゴミを解体するのに使った気がする、きっとその時に返し忘れたカッターナイフを引っ張り出した。
思い切り刃を押しだし、逆手で持ち一歩近づく。
「どんなに鍛えていても、刃物で切りつけられたら血は出るよな。なら、オレ、金鎚よりこっちがいい」
オレの言葉に手元に視線をやっても、まるで動じず「わかった」と気安く答えやがる。無性に腹が立って、色んな所が警鐘を鳴らすが、無視して口が動く。
「オレを壊すくらい簡単だもんな。死にたくなかったら、先にオレをぶっ壊せよ!」
「二年前と違って、今はオレ一人だし、楽勝だよな。ほら、やれよ。玩具みたいに壊せるんだろ。やって見せてよ」
「でなきゃ、オレ、本当に先輩が死ぬまでコレ突き立てるよ」
後悔が次々に襲ってくる。顔が見られなくて、心臓の辺りを狙うみたいに睨む。何も反論して来ないのに焦れて、視線を上げるとパンと顔を叩かれたような衝撃を受けた。ただでさえ熱い頭が燃えるように熱くなる。
「オレには出来ないと思ってんだろッ!」
怒鳴りながら手を振りかぶる。視線の先では、オレが変な事を言ったせいで、その表情は悲しい色をしていたが、先輩は笑っていたのだ。それなのに、響いてくる声は有無を言わさぬ迫力が滲んでいた。
「出来ないとは思ってないよ。お前はしないと思ってるだけだ」
一瞬、怯んでしまったオレを見て、先輩は畳みかけるように言葉を重ねる。断言する。
「セイシュンは、誰かを傷付けたりしない」
吐き気のように体の底から、何かが駆け上がってくる。無様に吐き出してしまう予感から、口を押さえたくて手に持っていたカッターナイフを落とした。けれど、出て来たのはゲロではなく、先輩へ酷い事を言ってしまった後悔だった。
「ごめん、せんぱい、ごめん。オレ、ひどいこと、いっぱいいった」
顔や耳の熱が目に集まって、目が熱くて視界がぼやける。目玉が溶け出したみたいに、ボタボタと頬を熱い何かが流れていく。
『…………』
呼び出し音が唐突に途切れた。心臓は動いているのに呼吸が出来ず、黙ったまま向こうの様子を窺うと、公衆電話からの着信を不審に思っているのか、母さんも黙ったままだった。何でもいいから話さないと、焦りながらも呼吸の仕方が思い出せず、ただ喘ぐみたいに必死で口をパクパクさせているとそれは聞こえてきた。
『もしもしー? これね、まみのままのでんわなのよ。もしもしー……あ、ままぁーでんわ』
『やだマミちゃん、ママの電話に触ったら駄目じゃない。ごめんなさい、娘が勝手に出てしまって……あら、切れてしまったのかしら?』
舌っ足らずな聞いた事のない声。聞き覚えはあるのに聞いた事のない声。
『もしもし? あの、どちら様?』
ああ、これは聞いた事があるな。少し険が滲むと、母さんの声は記憶の中の声にちゃんと重なった。
『おにいちゃん! おにいちゃんよ!』
『え?』
電話口で騒ぐガキの甲高い声に血の気が引く。母さんにオレだと言う事がばれてしまう。気付かれる前に受話器を置いて通話を切ればいいのに、どうしても出来ず、祈るような気持ちで耳をすました。
『ナオト君、ナオト君でしょう。喫茶店の場所が見当たらないの? 大丈夫よ、マミちゃんと一緒に迎えに行くわ。今どこにいるのか教えてちょうだい』
何度も繰り返す知らない名前。オレの知らない名前を呼び続ける声がどんどん遠ざかっていく。手が滑って受話器を落としてしまったらしい。
元に戻さないと。そう思って受話器を手に取ってフックに戻したら、大きな音がして受話器がまた落ちた。ピーピーと耳障りな音もする。
「……サボってるの見つかったら、アレじゃん。アレ……アレってなんだっけ。まあ、どうでもいいか」
すごい倦怠感だ。
「手伝いに、戻らないと。小吉さん一人だし」
体が重たくて、動きたくない。でも、ここに突っ立っているよりマシかと思い、公衆電話の上に置いたスマホを掴んだ。
「あ……」
ポケットにねじ込もうとしたのに、何故か思い切り道路にスマホを叩きつけていた。目に見えて壊れていないのが不思議で、衝撃でなにかボタンが押されてしまったのだろう、時刻を表示する割れずに済んだ液晶を踵で何度も踏み付けると、キレイに罅が入り画面は何も映さなくなった。
使い物にならなくなったスマホを見ると、少し体が軽くなる。どうせ、使い道なんてないんだ。何も問題はない。
せっかく体が楽になったのに、わざわざ無駄に荷物を抱える必要はないと、その場を後にする。あんなモノはただのゴミだ。誰かが掃除するだろう。そう思い、ただひたすらに足だけを動かして公民館に戻った。
「夷川君、どこにいたの? 小吉君が心配して探し回ってたわよ。後で声かけてあげてね」
戻った早々、村主さんに見つかってしまった。少し焦ったが、サボっていたとは思われていないらしく、早速荷物運びを押しつけられ、慌ただしく日常に取り込まれる。
「あぁぁあ! みっみっみみ見つけた。えび、夷川! ごごごごごめんな! 見つけるのすごく遅くなった」
言われる通りに体を動かすのは苦痛ではなかったが、小吉さんに見つかって「大丈夫か平気か」と連呼されるのは辛かった。「平気だから」と口にすると、オレの声は落ち着いているのに、小吉さんは泣きそうな顔を見せた。余程オレの顔が強ばっていたようだ。睨み付けてはいないはずだが、小吉さんは逃げるように走り去ってしまった。
罪悪感がない訳ではないが、どうしてか小吉さんを見ていると、胸が苦しくなって嫌な気持ちになるので、目の前から消えてくれるのはありがたい。正直に言うと、小吉さんだけでなく、視界に入る奴ら全員に消えて欲しくて堪らないんだが。
「大丈夫か坊主。重かったら台車使え」
肩に見知らぬ誰かの手が置かれた。オレが顔を上げるより先に、視界に剥げたオッサンが映り込む。地面に転がった缶ジュースを集めていた。それはオレがさっきまで運んでいた物だった。きっと落とした拍子に箱が潰れて中身が転がり出たのだろう。
「……すいません」
しゃがみ込み手伝おうとしたが、オッサンは一人で手早く缶をかき集めると、のろのろとしか動かないオレの手を邪険に払いのけた。
「めんどくせーと思ってんなら、最初っから出てくんな。おめぇみてーのがいっとな、マジメにやってる奴まで一緒くたにされちまうだろが」
「……来たくて来てんじゃねぇよ、こんなとこ」
「あぁあ? 今なん言いよったッ!」
肩をバンと強く押されて、情けなく尻もちをつく。ぼんやりしているせいか、腹も立たない。けれど、その代わりに立ち上がる気力も湧かなかった。
「ちょっとッ! 夷川君、大丈夫? 松原さん、子供相手に手を上げるなんて、あなた何を考えているんですか」
「お、おいおい、大袈裟だろ。ちょっと小突いただけだよ。ちんまいガキじゃねーのよ、そんな大層に騒ぐこっちゃねぇだろ」
どこかで見ていたらしい村主さんがオッサンと口論を始めた。なんか、どちらにもフォローを入れるべきなんだろうが、そんな事が今のオレに出来るばずもなく、またのろのろと立ち上がって「少し休憩を下さい」と申告して人気のない方へと足を動かす。
公民館の裏口を目指して歩けば、思った通り人気がなくてホッとする。建物の影に入ると気のせいか喧騒が遠のき、オレのいる場所だけが切り取られたみたいに感じた。
周りには誰もいない。自分ただ一人。そう意識すると、見えない所で何かが弾けて、壁を思い切り蹴り飛ばした。がむしゃらに蹴り続けたせいで足が痛い。今度は無性に腹が立ち、壁に向かって唾を飛ばし悪態を吐きまくる。
その程度でおさまらず、壁に拳をぶつけた。予想しなかった痛みに思わず体が固まる。それが余計に苛立ちを加速させ、痛みに躊躇した自分を責めるよう、腕を振り上げ壊すつもりで壁に叩きつけた。
「…………」
手首が痛い、痛いくらいに握られ、振りかぶった状態から動けない。
「……何、なんか用でもあんのかよ」
発散出来なかった何かが、勢いよく増殖していく。嫌な感じだ。すごく、嫌だ。
「セイシュン、壁を殴るのは止めろ」
「じゃあ、何を殴ればいいの? そこら辺にいる年寄りにトドメ刺して回れって?」
「そんなに何かを殴りたいなら、お前は俺を殴ればいい」
なんだそれ、何言ってんだコイツ。
「それじゃあ壁を相手にしてるのと変わりないだろ……あんたの体バカみてぇに硬いんだから」
「なら、素手で殴らなければいいだろ。あー……そうだな、コレを使え」
辺りを見回した後、自分の体を漁り、取り出しやがったのは、腰に差していた金鎚だった。いつもと変わらない暢気な顔して「これなら、お前の手は痛くならないぞ」とオレの手を取って金鎚を握らせてくる。
そして目の前の馬鹿は「さあ来い!」と目を瞑って両手を広げた。
「ふざけんなよッ!」
握らされた金鎚を足下に叩きつけてやる。
「別にふざけているつもりはない。何かを殴ってお前が落ち着くなら、俺はいくらでも殴られてやる。心配するな、お前が飽きるまで殴り続けても、俺は立っていられるから」
頭に血が昇る。顔や耳が熱くて、思考まで茹だって、知らず笑いが漏れてくる。空になった手で、いつの間にか、あぁ多分ゴミを解体するのに使った気がする、きっとその時に返し忘れたカッターナイフを引っ張り出した。
思い切り刃を押しだし、逆手で持ち一歩近づく。
「どんなに鍛えていても、刃物で切りつけられたら血は出るよな。なら、オレ、金鎚よりこっちがいい」
オレの言葉に手元に視線をやっても、まるで動じず「わかった」と気安く答えやがる。無性に腹が立って、色んな所が警鐘を鳴らすが、無視して口が動く。
「オレを壊すくらい簡単だもんな。死にたくなかったら、先にオレをぶっ壊せよ!」
「二年前と違って、今はオレ一人だし、楽勝だよな。ほら、やれよ。玩具みたいに壊せるんだろ。やって見せてよ」
「でなきゃ、オレ、本当に先輩が死ぬまでコレ突き立てるよ」
後悔が次々に襲ってくる。顔が見られなくて、心臓の辺りを狙うみたいに睨む。何も反論して来ないのに焦れて、視線を上げるとパンと顔を叩かれたような衝撃を受けた。ただでさえ熱い頭が燃えるように熱くなる。
「オレには出来ないと思ってんだろッ!」
怒鳴りながら手を振りかぶる。視線の先では、オレが変な事を言ったせいで、その表情は悲しい色をしていたが、先輩は笑っていたのだ。それなのに、響いてくる声は有無を言わさぬ迫力が滲んでいた。
「出来ないとは思ってないよ。お前はしないと思ってるだけだ」
一瞬、怯んでしまったオレを見て、先輩は畳みかけるように言葉を重ねる。断言する。
「セイシュンは、誰かを傷付けたりしない」
吐き気のように体の底から、何かが駆け上がってくる。無様に吐き出してしまう予感から、口を押さえたくて手に持っていたカッターナイフを落とした。けれど、出て来たのはゲロではなく、先輩へ酷い事を言ってしまった後悔だった。
「ごめん、せんぱい、ごめん。オレ、ひどいこと、いっぱいいった」
顔や耳の熱が目に集まって、目が熱くて視界がぼやける。目玉が溶け出したみたいに、ボタボタと頬を熱い何かが流れていく。
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