圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み!!

キュー出大作戦!

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 誰もが寝静まった真夜中の校内は、不気味な空気を頭から被り、オレらを覆っているかのようだった。

 足早で旧館に潜入(と言っても夏休みは一切施錠がされておらず、入りたい放題なのだが)すると、人気のない廊下を真っ直ぐに反省室へと向かい、狭苦しい物置に飛び込んだ。

 善は急げと、反省室の入り口に手をかけたが、先に逃げ道を確保すると二人は窓辺へと向かってしまった。仕方なく一人でチャレンジしてみたが、予想以上の重さに危うく腰を抜かす所だったので、逸る気持ちを抑え三本の鍵を握り、真下にいるはずの先輩を少し思う。

 こうして先輩の存在を意識すると、どこにいるのか分からない不安からは解放され、自分が単純に心配しているだけではないと思い知る。

 今、オレの中にあるのは、先輩の無事を確認出来ていない不安と、先輩がすぐ近くにいる事への喜び、そして沸々と煮えたぎる怒りだった。

 もちろん、キャンプをすっぽかされた事への怒りではない。また、遠足の時と同じように一人で責任を負おうとする事に対して、悲しいとか情けないとか思う余地なく、腹が立っていたのだ。反省室から引っ張り出したら、容赦なく蹴り飛ばしてやる、そう心が決まるとタイミングよく二人が戻って来た。

 反省室の扉、山センに倣って蓋と呼ぶ方が正確なソレは、取っ手が四つ付いていた。二人で開ける事を前提とした作りだが、オレらは三人で力を合わせて、ようやく動かす事が出来た。

 その事実に少しばかりゾッとしながらも、ひんやりと少し澱んだ空気が漏れ出てくる階段に視線をやる。手が痛いと文句を垂れながら持ち場に戻る二人を見送り、オレはすっかり慣れた調子で反省室への階段をゆっくりと下りた。

「先輩……先輩、いる?」

 他に誰もいないと分かっていても、すぐさま大声で呼びかけるのは躊躇われて、声を潜め先輩を呼んでみた。眠っているのか、返事は聞こえなかったが、階段を下り一番手前の部屋を覗き込むと、ベッドに腰掛けた先輩が驚いた顔をして出迎えてくれる。

「セイシュン、お前……こんな所で何をしてるんだ」

 先輩の姿を目にして、思わず鉄格子に飛び付き無事を喜んだが、そんなオレを完全に無視して、先輩は冷静な、いやハッキリと冷たい突き放したような口調でそう聞いてきた。

「何って、先輩を助けに来たんだよ。ほら、鍵もあるんだ。ちょっと待ってて、今開けるから」

 オレはそんな先輩に気付かぬ振りをして、順番に鍵を差し込み扉を開いて見せた。

「外で山センたちも待ってるから、早く行こう。こんな所、早く出よう」

 扉が開いたというのに、ベッドから腰を上げてくれない先輩は、明らかな苛立ちを含んだ声で「出てどうするんだ」と言う。その雰囲気に一瞬だけ躊躇ったが、オレは独房の中へと足を踏み入れ、先輩の手を掴んだ。

「先輩は何も悪い事やってないじゃんか。それなのに反省室にぶち込まれるのは納得出来ねぇよ」

 先輩が早めに学校に戻ったのは、きっとオレが泣き言を言ったからだ。なら、その罰を受けるのは先輩じゃなくオレでないとおかしい。それを伝えると、先輩は立ち上がり手を振りほどいた。

「別にお前の為に帰ってきた訳じゃない。向こうでの生活が面倒になっただけだ」

 力任せに二の腕を掴まれ、痛みに思わず呻く。

「分かったら、山本たちの所へ戻れ」

 そのまま先輩に引き摺られ、独房の外へと投げ捨てられた。打ちっ放しのコンクリで出来た床の冷たさが、痛みと共に体に染み込んで、頭の中が何もないのにいっぱいになる。

 先輩の言っている事も分かる。こんな事をしても何にもならない。余計に事態をややこしくする。ちょっと考えたら分かる事だ。でも、何もせずただ待っているだけなんて嫌だったんだ。だって、約束、したから。

「キャンプ……行こうって、約束した。ずっと前から、オレ、楽しみにしてたのに……そのせいで、先輩がヤバイとか、そんなのどうしろって言うんだよ。オレだって何かしたい。先輩にしてもらうばっかじゃなくて、オレも先輩に何かしたいんだよ!」

 ガキみたいで嫌になるが、キャンプと口にして、不安や不満がどんどん膨らみ、頭の悪そうな言葉になって外へと吐き出される。一度ぶっ壊れた涙腺は、どうやって直すのか、ゆるまったままで視界がジワリと歪む。情けなくて、手の甲で必死に目元を擦っていると「キャンプ」と先輩が小さく呟くのが聞こえた。

「ごめんな、セイシュン。約束したのにな」

 いつもの優しい声に、繕う事も忘れて顔を上げると、さっきまでの慣れない態度が剥がれ落ちた、平常運転の先輩が悲しそうな顔でオレを見ていた。

「ごめんで済んだら警察いらねぇだろ!」

 オレは自分に活を入れる為、そう宣言して先輩を連れて帰る為に立ち上がる。先輩の手を取って連行するのは物理的に無理だ。先輩はオレ一人が引っ張って動かせるような奴ではない。

 ならば、どうするべきか。上に待機している山センと小吉さんの助けを借りる……などは愚策だ。助けを借りるなら、目の前にいる本人。先輩自らに動いてもらう。

 先輩に背を向けて、反省室の奥へと走る。オレの予想外の行動に、先輩は遅れて独房から飛び出して来たが、もう間に合わない。奥の独房に飛び込み、内側から鍵をかけて鉄格子から飛び退くと、数秒遅れて先輩の腕がオレを捕まえようと伸びてきた。

「お前なぁ、なんでこんな無茶するんだ。自分から反省室に閉じこもる奴なんて、前代未聞だぞ」

 二分の一の確率だったが、見事に当たりの鍵を引き当てたオレは、独房での立て籠もりに成功した。

「一緒に出るって言ってくれるまで、絶対にここから出ないからな!」

 先輩がすごく困った顔をしている。困らせるのは本意ではないが、このまま大人しく帰る気にはなれないのだ。

「別に出たくないなら、出なくてもいいよ。その代わりオレもここにいる。先輩と一緒に反省する!」

「セイシュンは反省する事なんて何もないだろ。夏休みも奉仕作業を頑張ってたじゃないか。こんな馬鹿な事はしなくていいんだ」

 先輩の言葉にオレは鍵を部屋の奥にあるベッドへ投げ捨て、鉄格子に駆け寄り反論する。

「先輩だってそうだろ! 談話室の補修とか図書室の片付けとか、いっぱい手伝ってたじゃねぇか。なのに、なんでこんな所に入れられてんだよ」

 言いたい事を先輩にぶつけると、気持ちが落ち着くどころか、どんどん追い詰められて、先輩の顔を見るのが辛くなってきた。俯いて、自分の手に視線を落としながら、止まらなくなった気持ちを一つずつ口にする。

「先輩、オレの事、面倒になったのかよ」

 きっとオレを帰らそうとして、突き放したのだと分かっていても、先輩に拒絶されて平気な顔をしていられなかった。

「オレの事、嫌いになった?」

 面倒ばっかりかけてるのは自覚済みだ。それでも、一緒にいると楽しいと言ってくれて嬉しかった。先輩もオレの事を好きでいてくれていると思っていた。それが全部オレの自惚れからくる誤解だなんて思いたくない。

 上には山センや小吉さんがいるのに、何を考えているんだか。ボタボタと涙が落ちる。泣くのってどうやって止めるんだろう。どうやって我慢したらいいのか、今は分からず、先輩の沈黙に堪えられなくなり、オレは静かに泣いていた。

 泣き脅しで何を言わせたいんだ、オレは。そんな自嘲にようやく涙を止める気力を見いだした時、鉄格子を握り締めた手に先輩の手が重なった。

「セイシュンといると、ん、そうだな……確かに面倒だなと思う時もあるな」

 率直な意見に心が折れそうになるが、楽しそうな笑いを含む声に望みを託し、なんとか踏み止まる。

「でも、面倒な所も含めて、セイシュンと一緒にいるのが好きなんだ」

 好きの言葉に泣いているのも忘れて、全力で顔を上げてしまった。先輩は困ったように笑って、鉄格子の内側へ手を伸ばし、オレの目元を拭う。

「こうなるだろうって分かってたんだ。色んな人に迷惑をかけるって分かってた。でも、欲が出たんだ。少しでも多く、お前と一緒に過ごしたいって。だから、反省室送りにされたのは、単純に俺の我が儘のせいで、お前の事情は一切関係ない」

「……わかった」

 オレは素直に頷き、ベッドから鍵を持って来て、鉄格子の少し手前で立ち止まった。早く鍵を渡せと腕を伸ばしてくる先輩を真っ直ぐ見つめて、覚悟を決める。

 予定は狂ったが、今ここで告白する。鉄格子越しにするとは、夢にも思わなかったが、邪魔が入らなければどこでもいい。三日あっても足りるか不安だったが、先輩の言葉を聞き一晩で口説き落とす決意が出来た。

「セイシュン? 分かってくれたなら、早く鍵を渡してくれ」

 散々オレを煽る告白を聞かせた先輩は、用は済んだとばかりに鍵を強請る。

「先輩の言い分は聞いた。だから、今度はオレの番だ」

 急なチャンスに思考が追いついていない。時間を稼ぐよう、ゆっくりと言葉を続ける。

「先輩がオレと一緒にいたいって思ってくれてるのは十分伝わったよ。でも、一人でその責任を負うのは許せないんだ。オレだって、先輩と同じ気持ちなんだから」

 先輩の謹慎が終わるのをただ待つ事しか出来なかった、遠足の時の悔しさや情けなさを思い出しグッと鍵を握り締める。

「『先輩』だからとか言うなよ。今回は自分一人で責任被っていい気になんてさせないからな」

 先輩の表情には動揺が見えた。

「先輩が一日でも早く出られるよう、オレも動く。先生や……必要なら警察にも話す。オレが夏休み前に先輩に泣きついた事とか、オレが先輩にキャンプ連れて行けって言った事も、全部話すよ」

「そんな事しても意味ないんだ。分かってくれセイシュン」

「意味ないとか言うな! そりゃ、本当に意味ないかもしんないけど、でもオレだって先輩の為に何かしたいんだ! 好きな奴がこんな所に閉じ込められてるのに、黙って見てるなんて男のする事じゃあねぇだろ」

 オレを宥めようとする先輩が、少し眉を顰めて妙な顔をしている。オレが口走った言葉に気付いたようだ。勢いはついた、あとは目を見て本気だと伝えればいい。

 オレは先輩が好きだ。

 たった一言、目を見て言えばいい。見つめた先、先輩の目はどこか怯えるように揺れていた。ようやく確信を持てた……先輩はオレの気持ちを知っている。理解している。

 先輩がずっと気付かないふりをしてきた、オレの気持ちを全部ぶち込む。
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