圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み!!

男としての矜持

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「なッ何見てんだテメェッ!」

 予想外の光景に膨らんでいた恥ずかしさがパンと破裂して、オレは近くにあった桶を掴んで股間を隠し、先輩に食って掛かった。

「あー……すまん。別に深い意味はないんだ」

 先輩は申し訳なさそうな顔をした後、へにゃっと表情を崩して「お前は色んな所がかわいいなと思って」と、聞き捨てならない事を言いやがった。

 オレは手にしていた桶をスパーンと投げ捨て、隠そうとしていた股間を誇示するように仁王立ちする。

「オレのどこが『かわいい』って?」

 屈辱的な言葉を取り消せと言う代わりに、オレの男らしさを見せつけ、その認識を書き換えてやる。

 確かに掘られる気はあるが、女役に回ろうとオレは男だ。ちんこを『かわいい』呼ばわりされて、黙ってはいられなかった。

 規格外の山センや皆元と比べれば、不本意ながら小さいと言わざるを得ないが、全国平均(推定)は軽く上回るサイズだと自負している。

「……おぉ!」

 先輩の顔の前に咥えろと言わんばかりに、ちんこを突き出す。怒りのせいか、羞恥心で押さえていた性欲が解放されたせいか、フル勃起が完了している。感嘆の声を上げながら、物珍しそうに先輩が指先でつっついてもビクともしないのだ。

「セイシュンは元気だな」

 グッと指先でちんこを押される。気持ちよさを求めて腰が動きそうになるのを堪えると、先輩が指を離し、勢いよくちんこがはね返る。

「小さいのにすごくパワフルだ」

 先輩の決定的な一言で、風呂場は戦場と化した。屈辱度合いで言えば『かわいい』など足下にも及ばない、まさにオレに対する挑発としか思えない事を言いやがったのだ。

「予定変更だ……オレが先輩を掘る!」

「な、なんかまずい事、言っちまったか?」

「テメェをヒィヒィ鳴かせて、大失言を後悔させてやる! とっととケツ出せオラ」

 先輩のジャージを下ろそうと、腰を落としてタックルを決めようとしたが、オレが本気だと悟った先輩は「落ち着け」と言いながら避けやがった。浴場の隅に積み上げてある風呂桶に激突して、派手に音を立ててしまったが、形振り構っていられず、オレは手当たり次第にその桶を先輩にブン投げる。

 頭に昇った血は中々おさまらず、オレらは数分間、風呂桶で合戦を繰り広げた。オレらじゃないか、オレが一方的に桶を投げつけ、先輩はその大半を見事にキャッチして片付けていたからな。それがまた腹立たしくて、ワザと狙いを外して投げまくったのが悪かった。

 騒ぎに気付いた担任が何事かと駆けつけ、何故かオレだけビンタを食らい、半泣きで浴場を片付ける事になってしまった。その横で先輩は正座をさせられ延々と説教を食らい、片付け終わるとオレだけ担任に摘まみ出され、結局いつも通り、先輩の風呂を食堂で待つ流れになってしまった。

「なんでこんな目に遭うんだ」

 夏休みもあと三日という事で、反省室行きだけは免れたが、その代償としてジンジン痛む頬に触れる。完全に腫れ上がっている顔を鏡で見るのが恐かった。けれど、確認しない訳にはいかない。

「そんな……あんまりだ」

 食堂内にある手洗い場の前に立ち、曇った鏡に映る自分の顔を見て、その場にガックリと膝を付いた。右頬がパンパンに腫れ上がっている。こんなみっともない顔で、色っぽい展開に持ってくのは無理だ。ただでさえ、男の名誉を守る為に行動して、小さくない軋轢が生まれてしまっているのに! 

 絶望的な結果に泣けた。風呂での事は謝ればいいとしても、いや謝るのもちょっと違う気もしてるんだが、いやいやとにかく謝って仲直り出来たとしても、こんな冗談みたいに腫れ上がった顔では、先輩をその気にさせるなんて不可能だ。

 明日には治まるだろうか……絶望感で正直立つ気力も湧かなかったが、少しでも冷やして元に戻そうと冷蔵庫に向かおうとしたら、入浴を終えた先輩と出くわした。

「アイス食べて冷やすか?」

 そっと頬に触れる先輩の顔が、笑いを堪えているふうには見えなかったのが唯一の救いだった。オレは素直に「うん」と頷いて、先輩に付いて厨房へ向かう。

「今日のアイスはケーキの形をしてるんだ。セイシュン、食べたいだけ切っていいぞ」

 無事にひと夏、残留一年から隠し通せた最後のアイスを引っぱり出して来た先輩は、包丁を差し出しながら、少し誇らしげだ。

「今、腹減ってないから、これだけでいいよ」

 包丁を受け取ると1センチほど切って、ヒョイとそのまま口に放り込む。デコレーションのチョコレートをパリパリさせながら、包丁の柄を先輩へ返した。

 風呂場での事を引きずるオレを気遣ってなのか、素なのか分からないが、期待に目を輝かせている先輩を無視して、随分と素っ気ない態度を取ってしまう。

「そうか……じゃあ残りは、明日にするか」

 残念そうに肩を落とす先輩は、自分ではアイスを一口も食べず、元通り箱にしまって冷蔵庫へと戻した。

 きっと、オレが喜ぶだろうと思って選んでくれたのに、色々と重なりすぎてオレの気持ちは盛り上がってくれない。気持ちも体も萎えてしまい、知らず溜め息まで出る始末だ。

 そんな弱気で先輩と一戦交える事が出来ると思ってんのかッ! と、自らを鼓舞してみるが、鏡に映ったおたふくのような自分の顔を思い出すと、アッと言う間にそれらは溜め息に変わる。

「セイシュン、いい物があったぞ。これで顔を冷やしとけ」

 呆然としているオレの頬に、先輩は心地良い冷たさを与えてくれた。小さな保冷剤を軽く見せてくれた後、先輩はそれごとオレの頬を包み込むように手を添え、極々自然にオレの顎を少し持ち上げた。

 一瞬だけ先輩と目が合う。先輩の目が閉じられたと同時に、先輩の唇がオレの口に押し当てられる。口を開けと言いたげな、優しげな唇の愛撫に、身を委ねようと少し力を抜くと、強引に隙間から舌をねじ込まれた。

 浴場と同じく、誰が入って来てもおかしくない(現に食堂で飲んだくれてる教師の誰かがビールを取りに入って来るかもしれない)場所なので、軽く触れる程度を想像していたオレは、驚いて体が硬直してしまう。

 こっちの戸惑いに付け込み、先輩はオレを壁に押しつけ、貪るようにキスを続行しようとしてきた。

 あまりに予想外で、半ば窒息しながらも、ギブを伝えるべく先輩の背中をバンバン叩くと、ようやく満足したのか、最後の一吸いを終えるとパッと拘束を解いてくれた。

「おや、夷川君に金城君ですか」

 先輩が離れ、ようやく一呼吸出来たオレは、食堂へと続く扉から聞こえてきた声に、思わず呼吸が止まった。

「ハイッ! あの、コレ、氷を貰いに寄りましたッ! すぐ出ますッ! お休みなさいッ!」

 先輩の手から保冷剤を奪って、霧夜氏に確認してもらうべく突き出し「そうですか」とオレの顔を見て納得してくれたのを見届け、直角におじぎをして一目散にその場を逃げ出した。

 旧館を出て校舎に転がるように飛び込み、そこでようやく自分が全力疾走していた事に気が付く。ゼイゼイと荒い呼吸と、思い出したかのように吹き出す汗に任せて、オレは階段に腰掛ける。

「セイシュン、急に走り出して、どうしたんだ?」

 少し遅れて先輩も校舎へ戻って来た。怪訝な表情を向けられ、オレはせっかく落ち着いて来た呼吸を更に荒げるように怒鳴る。

「どうしたって、そりゃこっちの台詞だ! いきなり盛ってんじゃねーよッ! 場所選べ! あんなの見られたら、どう言い訳するつもりだ!」

 突発的に発情しやがって、訳分かんねぇんだよ。もうちょっと状況見て行動しろ。言い方が女々しくて嫌だが、ちょっとくらいムードとか考えてもいいんじゃね?

「お前こそ、なんでいきなり怒るんだ」

 オレの言葉に先輩は、ムスッと明らかに不機嫌そうな顔を見せた。考えている事は同じらしく、当然のように『訳が分からない』という表情を見せられ、黙っていられる程オレは大人ではなかった。てか、男として黙っていられる訳がなかった。
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