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蜜月
迷う心
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「せんぱいが、おかしくなった。いきなり泣き出して、それなのに自分では気付いてなくて、すごい戸惑ってる感じがした。大丈夫って言ってるけど、絶対に大丈夫じゃあなくて、一人で何か思い詰めたように辛そうな顔、してる」
不安が言葉として一気に噴き出すと、オレの中に残った答えを理性が静かに拾い上げた。
「オレが先輩を『かっちゃん』って呼んだから」
寮長の表情に感情が滲む。それだけで十分だった。
「『かっちゃん』って呼ばれてたんだな、先輩」
沈黙がオレの答えに確信をもたらす。オレは姿勢を正し、寮長と真っ直ぐ向き合った。
「先輩の名前の由来だけなんて生ぬるかった。オレも全部知りたい。先輩が大事に思ってた事や先輩を大事に思ってた人の事を」
先輩がどれくらい重たいモノを背負っているのか知りたい。先輩が話してくれるまで待ってやりたい気持ちもある。でも、それじゃあ間に合わない。卒業までの時間が短すぎる。
「僕が所持している手帳の写しを全て持って来させよう。明日まで待て」
オレが頭を下げると、ふと寮長の気配から緊張が解けた気がした。頭を上げ少しだけ表情を窺うと、気のせいかもしれないが寮長は僅かに穏やかな顔をしていた。物珍しく思い眺めていたせいか、寮長はオレの視線に気付き「なんだ」と気配を尖らせる。
「なんか、いつもと雰囲気が違うなって思っただけ」
思ったそのままを伝えると、息を吐いたのか笑ったのか判断が難しい反応を頂いた。
「こちらの方が落ち着くんだ」
指先で眼鏡に軽く触れながら寮長は言う。そういう意味ではなかったのだが、以前使っていた眼鏡とは少しデザインが違っているようだった。
性悪が言っていたように寮長は部屋の様子を言及するような事はしなかった。ただ普段より気持ち寛いで見えた。余計なおせっかいが頭をよぎったが、オレにも余裕はなく明日の約束を確認して自室に戻った。
狭間が一緒に作ってくれた解読表を確認した後、窓の外を眺めた。無理矢理にでも部屋に居座って、先輩が話してくれるのを根気強く待つべきだったか悩む。オレがしようとしている事は意味があるのか迷う。
「オレなら……何をして欲しい」
そっとしておいて欲しい。自問自答に思わず呻く。先輩の部屋に居座るのが可愛らしく思える。明日からオレは先輩の過去を無断で覗き込むのだ。それを先輩が望んでくれる可能性はあるんだろうか。日和った自分がまた問いかけてくる。
オレに手帳を読む資格なんてあるんだろうか、と。
例え資格があろうとなかろうと、オレに出来る事があるならやらない理由はない。一晩眠れずに考えまくった結果がコレだった。手帳を読んで先輩の過去に何があったのか知れたとして、自分に出来る事があるのかは本気で分からない。それでも、何もやらずに後悔するのは嫌だと思った。
麻痺して居座る眠気を追い出そうと、約束もないまま外へ出る。暗く冷たい空気を吸い込み、白い息を吐く。当たり前のように誰もいないグラウンドまでやって来て、先輩が一人で黙々と走っている姿を求めていたんだなと自覚する。
自分の甘さを思い知り、気合を入れ直す為にオレは走ろうとしたが、背後に気配を感じて全力で振り返ってしまう。
「む? そこにいるのは夷川か。こんな朝早く何をしている」
オレの儚い期待を打ち砕いたのは、旦那様と別行動中ならしい執事もどきだった。隠す必要もないので「少し走ろうと思って」と答える。すると、真っ黒な森の奥から唸り声のようなエンジン音が聞こえてきた。
不安が言葉として一気に噴き出すと、オレの中に残った答えを理性が静かに拾い上げた。
「オレが先輩を『かっちゃん』って呼んだから」
寮長の表情に感情が滲む。それだけで十分だった。
「『かっちゃん』って呼ばれてたんだな、先輩」
沈黙がオレの答えに確信をもたらす。オレは姿勢を正し、寮長と真っ直ぐ向き合った。
「先輩の名前の由来だけなんて生ぬるかった。オレも全部知りたい。先輩が大事に思ってた事や先輩を大事に思ってた人の事を」
先輩がどれくらい重たいモノを背負っているのか知りたい。先輩が話してくれるまで待ってやりたい気持ちもある。でも、それじゃあ間に合わない。卒業までの時間が短すぎる。
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オレが頭を下げると、ふと寮長の気配から緊張が解けた気がした。頭を上げ少しだけ表情を窺うと、気のせいかもしれないが寮長は僅かに穏やかな顔をしていた。物珍しく思い眺めていたせいか、寮長はオレの視線に気付き「なんだ」と気配を尖らせる。
「なんか、いつもと雰囲気が違うなって思っただけ」
思ったそのままを伝えると、息を吐いたのか笑ったのか判断が難しい反応を頂いた。
「こちらの方が落ち着くんだ」
指先で眼鏡に軽く触れながら寮長は言う。そういう意味ではなかったのだが、以前使っていた眼鏡とは少しデザインが違っているようだった。
性悪が言っていたように寮長は部屋の様子を言及するような事はしなかった。ただ普段より気持ち寛いで見えた。余計なおせっかいが頭をよぎったが、オレにも余裕はなく明日の約束を確認して自室に戻った。
狭間が一緒に作ってくれた解読表を確認した後、窓の外を眺めた。無理矢理にでも部屋に居座って、先輩が話してくれるのを根気強く待つべきだったか悩む。オレがしようとしている事は意味があるのか迷う。
「オレなら……何をして欲しい」
そっとしておいて欲しい。自問自答に思わず呻く。先輩の部屋に居座るのが可愛らしく思える。明日からオレは先輩の過去を無断で覗き込むのだ。それを先輩が望んでくれる可能性はあるんだろうか。日和った自分がまた問いかけてくる。
オレに手帳を読む資格なんてあるんだろうか、と。
例え資格があろうとなかろうと、オレに出来る事があるならやらない理由はない。一晩眠れずに考えまくった結果がコレだった。手帳を読んで先輩の過去に何があったのか知れたとして、自分に出来る事があるのかは本気で分からない。それでも、何もやらずに後悔するのは嫌だと思った。
麻痺して居座る眠気を追い出そうと、約束もないまま外へ出る。暗く冷たい空気を吸い込み、白い息を吐く。当たり前のように誰もいないグラウンドまでやって来て、先輩が一人で黙々と走っている姿を求めていたんだなと自覚する。
自分の甘さを思い知り、気合を入れ直す為にオレは走ろうとしたが、背後に気配を感じて全力で振り返ってしまう。
「む? そこにいるのは夷川か。こんな朝早く何をしている」
オレの儚い期待を打ち砕いたのは、旦那様と別行動中ならしい執事もどきだった。隠す必要もないので「少し走ろうと思って」と答える。すると、真っ黒な森の奥から唸り声のようなエンジン音が聞こえてきた。
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