ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。

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# 24 昇華

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いったいこれは何の悪い冗談?

滝つぼのある斜路エリアを登頂したところで、いつの間にか周囲にいたはずのモリや歩茶がいなくなっていた。

深い霧に包まれていて、遠くは全然見通せない。見えているのは、ボクシングのリングの中に自分が立っているということだけ。

いつ着替えたのか、豆丸は赤いボクサーパンツに両手に大きめのグローブをはめていた。

カーン、とテレビでしか聞いたことのないゴングの音が響いた。

深い霧のせいで、反対のコーナーに誰かいるのはなんとなくわかっていたが、近づいてきた人物は、豆丸のいかなる予想をも超えていた。

対戦相手は豆丸のそっくりさん。

いや、そっくりさんというより同一人物。鏡でよく見る瓜二つの姿を見間違えるはずはない。

積極的に攻めてきた。
こっちは戸惑い、ろくに構えも取っていないのに、容赦なく殴りかかってきた。そして、運動神経まで豆丸そのもの。プロのボクサーどころか、小学生でももうちょっとマシなパンチが打てそうなほど、とろくてぬるいパンチだった。

だけどそれはこちらにも言えたこと。
豆丸のパンチも偽豆丸のパンチも、当たったり当たらなかったり、ダメージというより互いにスタミナの方が先に尽きた。

息切れしすぎて、胃の中の変な臭いが込み上げている。

グローブが大きすぎて、お互い有効打にならない。これじゃいくら殴り合っても勝敗なんてつきそうもない。

弛んだ腹に白髪交じりの頭。これが他の人から客観的に見る豆丸の姿だと思うと、恥ずかしくなる。

豆丸は生涯、一度だけ小学生の頃、友達と本気で喧嘩したことがある。それ以来、自分が拳を握って、人を殴ることになろうとは夢にも思っていなかった。

ボクシングって、3分に1回休憩をはさむんじゃないの?
正確には計っていないが、3分はとうに過ぎているのはたしか。相手は息切れしながらも豆丸への攻勢をやめる気配はない。

一発だ……。一発K.Oを狙おう。

無闇に殴っても、スタミナを悪戯に消費するばかり。現に偽豆丸のパンチは、頬に直撃しても、多少痛いと感じるくらいで意識が飛ぶほどではない。

ガードを上げて、相手に無駄打ちさせて、豆丸の方はスタミナをなるべく温存する。数分後、殴ることすら、しんどそうな偽豆丸が出来上がった。

ボクシングの漫画で覚えた顎を横から当てて意識を刈り取るパンチ。カッコいい呼び名があるが、覚えていない。だけど、やってみる価値はある。

スローモーション映像でも見てるかのような、ゆっくり放たれた大振りのパンチ。そのパンチをかいくぐりながら、丁寧に相手の顎を狙ってグローブを振り抜いた。

いやー、自分が崩れていくのはあまりいい気分はしない。

偽豆丸が白目を剥いて、前のめりに倒れて、マットに沈んだ。

しばらく様子を見ていると、カウントを誰かが数えていたが、リングの外で決着を知らせるゴングの音が鳴り響いた。

「サイキック・コアの圧縮率、臨界突破。生体拡張リミッターの強制解除に成功しました」

えええっ? 何て? 
よくわからない単語が集団暴走し始めた。おじさんそれを聞いて頭がパニックになりそう。

「〝器の昇華〟にチャレンジしますか? Yes/No」

一行だけ、空中に静止し、豆丸の決定を待っている。

器の昇華。
よく理解できないが、「昇華」という位だから何かしら恩恵がありそう。

特に補足の説明とかはないが、「Yes」のボタンを押した。







一瞬で、周囲の風景が変わった。

先ほどまでリングの中にいたのに、白と茶色のチェック模様の床の上に立っている。

碁盤目状で、その配置からチェスを見立てた配置になっているのがわかった。

豆丸がキングの駒の代わりで、他の駒の位置には見知らぬ老若男女の人々がそれぞれの配置についていた。

自分のいる場所から移動しようとしたら、透明な壁にぶつかった。前後左右どこも同じだった。

相手方は、剣やら槍で武装した兵士たち。一方、豆丸側に配置されている人たちは武装などしておらず、とても戦えるようには見えない。

白く半透明な巨大な手が、真っ暗なチェス盤の外から伸びてきて、相手側のポーンを前に進めた。

こちらのターン。
だが、一向に相手側のような指し手は現れない。

もしかして、豆丸が動かすのだろうか?
動かしたい駒……若い男性を凝視すると、男性の身体が白い幕に包まれた。そこから動かしたいマスを見ると、そのマス目の縁が同じく白く光ったので、さらに凝視すると男性がそのマスまで移動した。

他の駒役の人を動かす場所を探るべく男性から目を離そうとした瞬間、盤面の男性が一瞬だけ揺らいだ気がした。ゲームでいうラグのような挙動。 だが、その後しばらく様子を見てみても、他になんの変化も見られない。気のせいだったのか。豆丸にもわからない。

それにしても、こうやって、チェス風に行うのか……。

それから3手後に相手のポーンが先ほどの男性の斜向かいにやってきたので、駒を取られてしまうことになった。

腰に提げていた剣を抜き、男性を袈裟斬りにする相手ポーン。若い男性が断末魔を上げて、床に倒れた。

──嘘。なにこれ?

数秒後に倒れて息を引き取った男性が、チェス盤の床にズブズブとまわりに飛び散った血とともに沈んでいく。

まったく見ず知らずの他人。
でも、自分の采配で、目の前で人が死んだ。

その事実に豆丸は、吐き気を催し、マスの端で吐いた。

さらに2手後、今度はこちらのポーン役の豆丸と同年代の男性が相手側のポーンに斜め前に隣接した。こちら側のアクションはなく、ただ、相手のポーンが床に沈んでいくだけ。ゲームには一応なっているが、あちらの演出が下種すぎて、途中で何もかも放り出したくなったが、どこにも降参できるボタンは見つからない。勝つか負けるかしか、この狂ったデスゲームを終わらせる手段はないようだ。

巨大なチェス盤を舞台にした殺戮は、豆丸の精神を蝕み発狂する一歩手前まで追い込んだ。

残りは、クイーン役の女性とビショップの少女、そしてキング役の豆丸のみ。対して、相手はまだ駒が5体も残っている。そして、豆丸側の方が劣勢。早くてあと数手以内にチェックメイトされそうなところまできた。

負けたくない、死にたくない、死なせたくない……。

脳が中から熱で溶けてしまいそうなほど、何十何百と頭の中で試行錯誤したが、勝つ道筋どころか、チェックメイトから逃れる手すら見つからなかった。

どこかに勝つヒントがないか、豆丸は生涯で最も脳を酷使した。

──待てよ?

あれって、もしかして。

絶体絶命のピンチを打開する術を閃いた。

これでうまくいけばいいが……。









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