幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音

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お忍び城下町デート

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帝国に関するお勉強とマナー教育がある程度身に付いた実感が沸いた頃。
時間が進むのはとても早く、レイナード皇子の花嫁として帝国に来て半年が過ぎた。
侵略されたのが冬の厳しい時期だったから、帝国では暖かい恰好でいることが多かった。
それが今では、ぽかぽかとした陽気に包まれている。
執事長さんが言うには、この帝国には「四季」というものが存在しているそうだ。
そして、この暖かな季節を「春」というらしい。
なんだかとても風流な言葉だなと感じていた。
午前のマナー教育を受けた後、道具を片づけて自室で紅茶を飲んでいるとレイナード皇子が勢いよく扉を開けて入ってきた。
もうこれが日常化しているので、僕は驚きません。

「はぁー……レイナード様は学習しませんねぇ……」
「ふふ、それがレイナード様なので仕方がありませんよ。鍛練は終わりましたか?」
「ん?あぁ、終わったんだ!それでだな、えっと……ほら、前に城下町に行きたいって言っていただろう?」
「あ!あの時の約束を覚えていていらっしゃったのですね、嬉しいです……!」
「うぐぅ……天使の微笑み……じゃなくて、それで今日の午後は空いているかなと」

そういえば、いつもなら午後からは帝国学のお勉強があるのだが珍しくお休みになっている。
確か執事長さんが「帝国の実際の状況を見るのなら、現地を視察するのが一番ですよ」と言っていた気がする。
なるほど、それが城下町の視察に繋がるわけですね。

「はい、今日はお休みを頂きました。もしかして、レイナード様が連れて行って下さるのですか?」
「その通りだ!それで、服装とか装飾品とかかな……町の人みたいに控えめにする必要があるんだけど……」
「大丈夫です。お手伝いをしていただけますか、シャリアさん」
「喜んでお請け致します。ふふ、私たちの腕がなりますね」

腕が鳴るってそれは腕が痛いのではないのだろうか、と思ったけどなんだかそんな感じではなさそう。
城門前にて待ち合わせをして、僕は身支度を整える。
毎回のごとく対応してくれる若いメイドさんたちは、本当に手際がいい。
町の人に紛れるような恰好を、という指示を的確に行ってくれる。僕の場合は、何故か女装になるんだけど。
それもだんだん慣れてきたような、気がする。たぶん慣れたらいけないんだろうけど。
ぐるぐる考えていると、あっという間に出来上がった。
銀の長い髪を二つに別けて、綺麗な三つ編みが施されている。目の印象を薄くするために、眼鏡というものもつける。
この眼鏡は視力を補助する役目があるんだそうだ。僕の場合は悪いわけではないから、補助用の矯正レンズは入っていない。
それから服装は可愛らしい濃い赤のエプロンドレスで、靴は編み上げのブーツらしい。この靴は着脱が大変そうだ。
最後に日差しを避けるために大き目の帽子を手渡された。
メイドさんたちが絶賛する中、小走りに待ち合わせ場所へと向かう。
城門前には、騎士風の男性が立っていた。レイナード皇子だ。シンプルな服装だけど、やっぱりカッコいい。

「レイナード様、お待たせしました。えっと、おかしくはないでしょうか……?」
「いいや、それより可愛すぎて閉じ込めたい」
「え?」
「あぁ、いやなんでもない!じゃあ、行こうか。あ……今日はお忍びデートなんだから、俺のことはレイと呼んでくれよ?」
「ふふ、わかっていますよ。じゃあ僕のことはアイリと呼んで下さい。女の子のフリをしているので」
「もちろんだ。さて、行こうかアイリ」
「はい、お願いしますね……レイ」

そんな会話をしながら、二人で手を繋いで城下町へと出かけた。
日中だから、というのもあるだろう。城下町は人が多く、とても賑わっていた。
あちこちにお店が並び、どれも僕にとっては新鮮な光景だった。なにより、商人さんたちが笑顔でいる。
ノクターンに来る商人さんたちはみんな嫌そうな顔をしたり、苦い顔をしている人が多かった気がする。
本当にこの帝国はみんなから愛されている国だとわかる。
ふと、途中の屋台で美味しそうな飴を見つけた。僕がじっと見ていると、レイナード皇子が手を引いてその屋台に向かう。

「おじさん、この飴を二つ貰えるか?」
「あいよ!おやおや、もしかしてデートの最中かい?やるねぇ、お前さん!」

少し恥ずかしいけど、嬉しい。照れて帽子で顔を隠してしまった。
そんな様子を見て、レイナード皇子は僕の肩を抱き寄せて、笑顔で返す。

「ははっ、いいだろー?近い内に俺の可愛いお嫁さんになるんだ!」
「れ、レイ……!」
「本当のことだろ?あ、ありがとさん!ほら、アイリ。これリンゴ飴っていうらしいぞ」
「わぁ……ありがとうございます……」

屋台のおじさんから、頑張れよー!と激励を受けながら僕らはその場を後にした。
小ぶりではあるけど、しっかりとした飴だったのでなかなか食べるのが大変だった。
でも、とても甘くて美味しい。食べ終わった後、僕らは一番奥の雑貨屋さんに入った。
そこはとても可愛らしいものばかり置かれていて、きっと女の子たちが好きなんだろうと思われるものが詰まっていた。

「わぁ……可愛いの宝箱みたい……」
「はは、アイリは可愛いことを言うんだな。えーっと……あ、これこれ。すまないが、これをひとつ頼む」

即決で何かを購入していたレイナード皇子の傍に近寄り、清算が終わった後に何かを押し付けられた。
顔を離すと、それは抱っこできるくらいの大きさがある白いウサギちゃんのぬいぐるみだった。

「うさちゃん……ふわふわで可愛い……」
「ははは、やっぱりアイリそっくりだな!そのウサギのぬいぐるみは、俺からのプレゼントだよ」

突然のプレゼントに驚いた。今までも何度か贈り物を貰っているけれど、手渡しされたのは初めてだ。
ぎゅっと抱きしめてそのぬくもりに、レイナード皇子の優しさをかみしめる。

「ありがとうございます、レイ……あ、後でぬいぐるみを天日干ししてもいいか聞いておかないと……」
「天日干し?なんでだ?」
「だって、レイから貰ったものだし……レイと同じ太陽の匂いがすると嬉しいなって……」

その時の僕の顔はどんな顔だったんだろう。少し恥ずかしいけれど、嬉しさいっぱいでたまらなかった。
その表情をレイナード皇子に見せたら、いきなり鼻を抑えている。え、どうしたんだろう。

「わ、悪い……!げ、鼻血が出てる……!」
「えっ、まってレイ。そのまま少し上を向いて……さっきの飴がいけなかったのかな……治癒魔法をかけるね」

レイナード皇子は指示通りに少し上を向き、両手を離してくれた。鼻に両手の指先を添えて、治癒魔法をかける。
仄かな光がレイナード皇子の患部を癒し、無事に止血できたようだった。

「はい、これでもう大丈夫だよ。またレイは無理をしてから来たの?」
「いや、この鼻血はそういうことじゃないんだけどな……ん?どうした、店主?」
「あ、アンタ……その連れの子、治癒魔法が使えるのかい……?どう見ても、大神官様と同じくらいの実力……」
「え、あ!えっと、その……!」
「悪い!このことは内密で頼む!行くぞ、アイリ!」

間近で僕の治癒魔法を見た店主さんが気付いてしまったようだった。
そうだ、この帝国では治癒魔法を使える人というのが大神官さんしかいないんだった。
僕らは慌てて城下町を抜けて、城内へと入る。誰も追いかけてこないのを確認して、同時に大きくため息を吐いた。

「マズいな……国民たちの間では、ひとつ噂が出るとあっという間に広がるんだ。アレクセイが治癒魔法使いだと広まるのも時間の問題だな」
「まだ広まるのは危険だと思うんだけど……」
「うん……まだ俺たちは結婚式を挙げていないから、他国の連中が奪いに来る可能性がある」
「そ、そんなの嫌だよ……!僕はレイじゃないと一緒になりたくない……!」
「俺も早くひとつになりたい……んじゃなくてぇ!とりあえず、兄さんに相談してみよう。あの人、そういうところの根回しは上手いからな」

何か聞いてはいけないことを聞いてしまった気がするけれど、これは一大事だ。
僕が別の国に取られないためにも、急ぐことがある。二人そろって、僕らは執務室へと急いだ。
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