幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
69 / 77
二章

怖いセリーナ

しおりを挟む

「セリーナ様がいらっしゃった意味……ですか? 私には、検討もつきません」

 動揺する様子もない。ホークス公爵とは、大違いだ。けれど、私も動揺はしない。良くも悪くも、ガレスタ王国での経験が私を強くしてくれた。

「ホークス公爵が、すべて話してくれました。公爵は、私につくそうです。これでも、私がきた意味が理解できませんか?」
「ええ、理解できません。ホークス公爵がなにをお話したかは存じませんが、私がお話することはなにもありません」

 侯爵は、まったく動じていない。

「ランドルク公爵が企てていることの証言も、ハーレス侯爵が不正をしていることもわかっています。ですから、侯爵が認めようが認めまいがどちらでもかまいません。私はただ、あなたに正しいことをする機会を与えたかっただけです」

 正直なところ、自分から罪を認めてこちら側について欲しかったけれど、欲に目が眩んだ人間にこれ以上なにを言っても無駄だろう。

セリーナ様が、ずいぶんとお優しい言葉をかけてくださる。ですが、ここから無事に帰れるとお思いですか?」

 とは、クリスティ様の誕生パーティーの時のことを、言っているのだろう。
 すべてを知っていると話したのだから、そう来るだろうと思っていた。

「動くと斬る」

 カタリーナがハーレス侯爵の首元に、剣を突きつける。

「な……!? これは、どういうことですか? 私が叫べば、あなた方はおしまいだ!」

 侯爵は、ようやく動揺を見せた。
 ホークス公爵と一緒に来たのは、正解だったようだ。侯爵は信用して、応接室に使用人を入れなかった。カタリーナは気づかれることなく、簡単に背後を取ることができた。

「ご紹介しますね。スフィリル帝国の剣術大会で優勝した、私の護衛のカタリーナです。どうぞ、叫んでみてください。侯爵が声を発する前に、その首が落ちてしまうでしょうけれど」

 満面の笑みを浮かべて、侯爵にそう告げる。
 私の後ろで、ホークス公爵がカタカタと震えているようだ。すぐに私につくことを決めて、よかったと思っているだろう。
 自分でも、残酷な言葉を平気で口にしている自覚はある。カタリーナのことを言えないな……

「……私はグルダの侯爵だ。そんなこと、できるはずがない」

 首元に剣を突きつけられているのに、まだ強気な態度を崩さない。けれど、声はずいぶんと小さい。叫ぼうとしていると、誤解されないためだろう。

「できますよ。陛下から、罪人を斬り捨てる許可をいただいています。協力しないのなら、侯爵に用はありません」
「な……!?」

 まあ、嘘だけれど。
 そもそも、ルギウス様と会ったのはずいぶん前のことだ。
 これはスフィリル帝国にいる時、ドレイ事件で私が危険な目にあったことを心配して、叔父様が出してくださった許可だ。陛下とは言ったけれど、陛下とは言っていない。

「おまえは、バカだな。セリーナに手を出せば、スフィリル帝国が黙っていない。そんなに死にたいのか?」

 カタリーナ……その方は、まだ侯爵なのだけれど……

「あなたがしてきたことは、許されないことです。私たちに協力するのなら、命だけは助けると約束しましょう」

 カタリーナの言葉がきいたのか、ハーレス侯爵はようやく大人しくなり、私の提案にのることを決めた。

「侯爵にも、一緒に来ていただきます。一ヶ月後には王宮に集まることになっているのですから、かまいませんよね?」

 ハーレス侯爵は、素直に了承する。
 屋敷を出ると、グランディ王国の護衛十人が到着していた。
 ロイド叔父様への手紙を頼んだ時、待機している護衛十人ほどにハーレス侯爵邸へ来るようにと伝言を頼でいた。

「ハーレス侯爵とホークス公爵は、ハーレス侯爵家の馬車にお乗りください。カタリーナがご一緒いたします」

 二人をカタリーナに見張らせ、私は一人でホークス公爵家の馬車に乗る。
 レイビス様にはカタリーナと離れないように言われているけれど、カタリーナに見張りを任せたのには理由がある。次の場所に着くまでに、ハーレス侯爵も従順になっていることだろう。
 護衛を増やしたのは、これから会う貴族も皆連れていくことにしたからだ。侯爵にも言った通り、一ヶ月後には王宮に集まることになっているのだから、このまま連れて行っても問題はないだろう。
 シェリルからもらった地図によると、次の屋敷までは十二時間ほどかかる。
 気を張っていたからか、一人になると一気に力が抜けた。

「クゥン……」

 バッグの中から顔を出したクウを抱き上げて、膝の上に乗せる。

「レイビス様はきっと、私より上手くできているのでしょうね」
「クゥンクゥン」

 同調しているのか、膝から可愛らしい前足を伸ばしてくる。……いや、ただ単に顔に触りたいだけのようだ。いつも頬ずりしているから、それを要求しているみたいだ。
 抱き上げて頬ずりすると、満足したのかまた眠ってしまう。クウの可愛らしい姿に癒されながら、いつの間にか私も眠りについていた。


その頃、レイビスは────

「優しく話しているうちに、協力を申し出た方がいい」

 二人目の貴族を脅していた。
 交渉を持ちかけることもなく、話を聞くこともなく、問答無用で協力を強制する。

「……ご協力いたします」

 グランディ王国の王太子に脅され、逆らえる者などいない。効率的だが、レイビスらしくはない。

「殿下、もう少しやりようがあると思いますが?」

 護衛の一人が、レイビスらしくないやり方に疑問を口にする。

「俺は、なによりセリーナが心配なんだ。一刻も早く、彼女と合流したい。だから、一番効率のいい方法を選んだだけだ」
「殿下らしくないと、セリーナ様に怒られますよ」
「覚悟の上だ」

 ある意味、なによりセリーナを大事に思うレイビスらしかった。
 
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。