幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
71 / 77
二章

再会

しおりを挟む

 バイゼル侯爵の屋敷は、ホークス公爵の屋敷よりも立派だった。
 侯爵は他国にこの国の情報を流し、見返りに多額のお金を受け取っている。
 グルダはクリスティ様の件で、グランディ王国からもスフィリル帝国からも恨みを買っていると噂が流れている。
 ただその噂は、あの日誕生パーティーに出席した他国の参加者が流したのだろう。叔父様にお会いするために、パーティーには様々な国の王族と貴族が参加していた。
 スフィリル帝国皇帝は、溺愛している姪を傷つけたクリスティ王女を許せず、死ぬよりもつらい目に合わせているという噂も流れているそうだ。
 グランディの国王とスフィリル帝国皇帝に、グルダの国王は圧力をかけられ、国王の座から退いたとも言われている。そしてグランディ王国は、グルダを手に入れるために第一王女を嫁がせようとしている……と。
 あの一件は傍から見ればそう思われるかもしれないと、考えるべきだった。これは、私の蒔いた種だと思い知らされる。
 バイゼル侯爵は、その噂を利用した。スフィリル帝国に恨まれているグルダなら、簡単に手に入れられると他国に話したのだろう。

 屋敷の敷地内に馬車を止めると、ホークス公爵と私、そしてカタリーナとともに屋敷の中へと通される。

「公爵が私の屋敷を訪れるとは、珍しいですね。なにかあったのですか?」

 議会まで、あと三週間と少し。普段は訪ねて来ない公爵がわざわざ屋敷を訪れたのだから、なにかあったと思うのが普通だろう。

「侯爵に、折り入って話があってきました」

 深刻そうな顔をする、ホークス公爵。ずいぶんと、演技が板に付いてきた。
 大変なことが起きているのではと、バイゼル侯爵はすぐに応接室へ通してくれた。

「実は……私はもう、ランドルク公爵に従うのを辞めることにしました」

 ソファーに座ると、すぐに本題に入る。
 私の身分を明かさず、まずはホークス公爵が先に話をするというのがスコフィールド子爵の考えだった。

「ホークス公爵!? とても正気だとは思えません! あと少しで、グルダは我々のものになるのですよ!?」

 子爵の案は、正解だった。バイゼル侯爵は、ペラペラと自分の罪を話し出す。

「侯爵こそ、正気ですか? この国は、ランドルク公爵家のものになるだけです。我々はいつ捨てられてもおかしくない、ただの道具に過ぎません」
「捨てられる? そんなことはさせない! この国を攻めるようにと、私が他国を説得したのだ! ランドルク公爵は、私の娘とサイモン殿下を婚姻させると約束してくれた!」

 感情的になり、全部自供してくれた。侯爵は、ホークス公爵よりも単純なのではと思えてくる。

「それは、もう叶うことはないでしょう」
「なに!? 護衛ごときが、口を挟むな!」

 ゆっくりとホークス公爵の隣に腰をおろし、バイゼル侯爵の顔を見る。

「さんざん私の話を他国に流していたのに、顔もご存知なかったとは笑えますね」

 バイゼル侯爵が、私の顔を認識していないのは最初からわかっていた。だからこそ、子爵の案が上手くいった。
 侯爵はランドルク公爵の使いに出ていて、クリスティ様の誕生パーティーに出席していなかったのだ。

「ま……さか……」
「初めまして、セリーナ・ブランカと申します。侯爵が流した情報、偽りだらけですよ? 他国に情報を売るなら、正確なものでないと。侯爵は、グルダの周辺諸国からお命狙われてしまいますね」

 もちろんこれは、侯爵が流した情報ではない。ただ、否定はしなかっただろう。

「セ、セ、セリーナ様!? わ……私は、そのような情報を流してなどいません!」
「そうですよね。侯爵が流したのは、グルダの軍事機密ですものね」
「そうです! 私は、セリーナ様の情報は一切流していません!」

 軍事機密は、国の存亡に関わる。大それたことをしたという自覚は、ないのだろうか。
 他国が誤解しているとわかっていながら訂正はせず、それを利用し、軍事機密を流してグルダ王国に攻め入るよう誘導した。

「私はグルダを危険に晒したあなた方が、許せません。侯爵、ここで死にますか? それとも、私たちに協力しますか? カタリーナ……」

 カタリーナは剣を抜き、バイゼル侯爵の喉元に突きつける。

「セ……リーナ様?」
「先程、あなたは罪を自白しました。グランディ王国も、スフィリル帝国も、グルダの友好国です。グルダを裏切ったあなたに、選択肢を与えて差し上げます。どうなさいますか?」

 カタリーナの剣が侯爵の喉元に触れ、真っ赤な血がツーッと流れる。

「も、もちろん、セリーナ様に協力いたします」

 死を突きつけられ、バイゼル侯爵は大人しく協力することを選んだ。

「賢明なご判断ですね」

 周辺の国々が攻めてくるのは、ルギウス様に責任を追求するため……そのために、大勢の民が犠牲になる。侯爵がしたことは、決して許されることではない。
 私たちに協力したところで、侯爵は反逆罪に問われる。きっとバイゼル侯爵は、協力すれば命は助かると思っているのだろう。
 けれどハーレス侯爵の時とは違い、命だけは助けると約束するつもりはない。親切にそれを、教えてあげる気もない。
 軍事機密漏洩という重い罪を犯した侯爵への罰は、ルギウス様にお任せしよう。

 屋敷の外に出ると、なぜか騒がしかった。

「セリーナ!」

 騒ぎの中心から、大好きな人の声が聞こえる。これは、幻聴? そう思いながらも、レイビス様の姿を探す。

「レイビス様……?」

 レイビス様が、私に駆け寄って来るのが見えた。嬉しくて、私も走り出す。
 彼は私を思い切り抱きしめ、私もそれに応える。

「会いたかった……」
「私もです……」

 どうしてレイビス様がここにいるのか、聞きたいことはたくさんあるけれど、今はこのままでいたい。
 八日ぶりに会えた愛しい人の腕の中で、張り詰めていた気持ちがスーッと溶かされていく。ずっとこうしていたいけれど、そうもいかない。

「どうしてこちらに?」

 名残惜しそうにするレイビス様から身体を離し、疑問を口にする。

「心配するな。五人の貴族から協力は得ている」 
「ずいぶん早かったのですね! さすが、レイビス様です!」
「そんなに褒められると、言いにくいのだが……」

 どこか歯切れが悪い。

「五人とも強制的に協力させたから、情報を漏らさないように全員連れてきた」

 問答無用で、協力しないなら殺すと脅したそうだ。私もついさっき脅してしまった手前、彼を責めることはできない。
 それに、全員連れてきてくれたのには感謝している。

 次の屋敷まで九日ほどかかったけれど、ブレナン伯爵は驚くほどあっさり協力を申し出てくれた。
 ランドルク公爵に不満を抱いていたのと、私たちを敵に回したくないというのが理由だ。
 これで、残り一人になった。
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。