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10、美味しいものは正義
しおりを挟むパーティーが終わると、後宮の使用人達用の調理場に向かう。
「アイシャ様!? このようなところに来てはなりません!」
側妃用の調理場ではないからか、見張りの兵に止められた。通さないの一点張りで困り果てていると、
「通しなさい」
「陛下!?」
陛下が後ろに立っていた。
「なぜこちらに?」
陛下はパーティーが終わる頃には、中庭の会場から姿を消していた。
「君が何をしようとするか、見当がついていたからな。作るのだろう?」
その通り。使用人達の為に料理を作ろうと、調理場に行くところだった。
「ちょうどいいところに来てくれました。使用人の食事用の調理場を、お貸しいただきたいのです」
使えるものは、陛下だって使う。
「君には敵わないな。やりたいようになりなさい。君には、自由が似合う」
自由……それは、ずっと願っていた。
やりたいようにしていいだなんて、私にとっては一番嬉しいことかもしれない。
「ありがとうございます!」
陛下が料理長に頼んでくれて(料理長は、王宮と後宮全ての調理場の料理長を担っている)、使えるようにしてくれた。
「皆さん、私の言う通りに作っていただけますか?」
この世界の材料で作れるものを考え、使用人達に下ごしらえをしてもらう。
作るのは、お好み焼きにコロッケにハンバーグ、ピザにフライドポテトに唐揚げ。それから、うどん……と言いたいところだけど、醤油がないから麺を細めに切ってナポリタン風にしたうどんパスタ! 相変わらずネーミングセンスゼロだけど、美味しく出来たから良しとしよう!
出来上がった料理を、次々に使用人用の食堂へと運んでもらう。食堂には、バイキング形式で料理を並べてもらった。
「皆さん、今日は子供達の為に沢山のお菓子を作ってくれたり、子供達の為に働いてくれてありがとうございました。私から感謝を込めまして、今日の食事を作らせていただきました。どうぞ、お召し上がりください」
珍しい料理と美味しい匂いに釣られて、次々に使用人達が集まって来る。
「私も、いただいてよろしいのですか?」
エリーは食べたくてうずうずしていた。
「もちろん! エリーにも、食べて欲しい」
早速、食べ始めたエリーに続くように、皆が食べ始める。
「美味い!」
「こんなに美味しいものを食べられるなんて幸せ!」
「アイシャ様、ありがとうございます!」
料理を美味しそうに食べている使用人達。
その中に、何故か陛下の姿もあった。
「何をしているのですか?」
隠れるようにして料理を食べていた陛下は、私に見つかって気まずそうな顔をしている。
「アイシャ、今日の料理も美味い!」
この人は、褒めれば許されると思っているのだろうか。
「私が言うのもなんですけど、陛下はご自分の立場をわきまえてください!」
まったく……
食い意地がはっているところは、私にそっくり。
「すまない……」
怒られてシュンとする姿は、何だか可愛い。
この日がきっかけで、使用人達と仲良くなることが出来た。料理のレシピを料理長に教え、何時でも食べれるようになり、後宮での暮らしが前よりも楽しくなっていた。
そんな時、事件が起きた。
「陛下!? 陛下に会わせて下さい!」
陛下の食事に毒が盛られ、陛下は生死の境をさ迷っていた。
陛下の寝室の前で兵に止められながら、会わせて欲しいと何度も頼む。
寝室のドアが開くと、中から王妃様が姿を現した。
「静かにしなさい。たかが側妃ごときが、陛下の寝室の前で騒ぐとは何事なの? 私の許可なく、この無礼な側妃を部屋の中に入れることを禁じます!」
王妃様は兵達にそう命じると、自室へと戻って行った。
証拠はないけど、犯人は王妃様だ。だけど、陛下を殺すつもりはないようだ。
陛下が毒の入れられた料理を食べた時、途中で王妃様が止めたと使用人に聞いた。殺したかったなら、止めたりはしないだろう。
王妃様の目的は、私に罪を着せること。今、兵に捕まえさせないのは、陛下が意識を取り戻した時に、陛下自身に私を捕らえさせようとしているからだと思う。王妃様は、私と陛下が一緒にいることが気に入らなかった。それは分かっていたけど、嫌がらせは私に直接して来ると思っていた。まさか、こんなことをするなんて……
あんのクソ女! 許せない!
お嬢様育ちのバカ女になんて、負けるもんか!
私はキャバクラで、散々性格の悪い女達と渡り合って来た。しかも死因は餓死。そんな私に、怖いものなんてない!
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