〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな

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1、愛とは……?

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 「ローレン、君を愛している。君のような美しい妻を娶ることが出来て、俺は幸せだ」

 私の名前は、ローレン。クルーガー伯爵の次女に生まれた。
 18歳の誕生日、2年間婚約していた侯爵令息のジュラン・ノーグル様と結婚をした。
 4歳年上で、金色の髪に青い瞳の美しい容姿のジュラン様。とても優しくて、何より私を愛してくださっている。
 2年前の夜会で初めてお会いした時に、ジュラン様に見初められ、熱心に邸に通ってくださり、次第に私はジュラン様に惹かれていった。

 だけど、幸せだったのは結婚式までだった。


 「ジュラン・ノーグル! 貴様の命はここまでだ!!」

 結婚式から帰る途中、数人の男達が馬車の前に立ちはだかった。 使用人が斬られ、馬車の扉が強引に開かれ、ジュラン様が引きずり降ろされた。
 ジュラン様を追いかけて、私も馬車から降りると、

 「い、命だけは、助けてくれ! 金なら、全部持って行って構わない!」

 地面に額を擦りつけながら、ジュラン様は命乞いをしていた。

 「金なんかいるかっ!! 貴様がしたことの報いを受けろっ!!」

 必死に命乞いをしているジュラン様に、剣を振り上げる男性。
 その瞬間、私はジュラン様に駆け寄り、彼を背に庇っていた。そしてそのまま、男性は剣を振り下ろしてきた!

 男性が振り下ろした剣は、私の左頬をかすめ、真っ赤な血が滴り落ちる。
 男性は私がジュラン様の前に飛び出したことに気付き、振り下ろそうとした剣を止めようとしたからか、顔を斬られただけですんだようだ。

 「退けっ! お前に恨みはない!!」

 男性は私を払い除けようとするが、私が退いたらジュラン様は殺されてしまう。

 「彼は、私の夫です! 決して、退きません!」

 すごく怖くて、足がガクガク震えている。だけど、彼を守るためなら命など惜しくない!

 「それなら、お前も死ねーーーッ!!」

 男性はもう一度、剣を振り上げた!
 私は死を覚悟して目をつぶる……

 その時、一際大きな声が辺りに響き渡った!

 「そこまでだ!!」

 目を開けると、その声と共に男性の持っていた剣が地面に落ちて、男性はその場に崩れ落ち膝をついていた。

 声の主は、ハンク・ロード侯爵。この国の近衛騎士団長だ。そして、ジュラン様のご友人でもある。
 ロード侯爵が、男性の剣を振り払ってくれたようだ。

 男性が兵に連行され、安堵からか力が抜けて、私はその場にしゃがみ込んだ。

 「大丈夫か?」

 見上げると、ロード侯爵が手を差し出してくれていた。彼が居なかったら、私はこの世に居なかっただろう。

 「ありがとうございます」

 ロード侯爵の手を借り、立ち上がる。

 「ハンク! 俺の妻に、気安く触るな!!」

 襲われてブルブル震えていたジュラン様が、嫉妬からか、ロード侯爵から私を引き離す。助けてもらったというのに、正直いってその嫉妬は嬉しくない。

 「ローレン……その顔は……!?」

 先程、男性の前に立ちはだかった時に斬られた左頬のことを言っているようだ。掠めただけだと思っていたが、触れてみると思ったよりも深く切れている。
 
 「大丈夫です。ジュラン様がご無事で、本当に良かった」

 ジュラン様は私の手を両手で握りしめ、涙を流した。

 「……すまない。俺を庇ったせいで、君の美しい顔に傷がついてしまった……」

 私の為に涙を流してくれるジュラン様の手を、ギュッと握り返す。本当に無事で良かった。

 私達の乗った馬車を襲った男性達の狙いは、復讐だったようだ。ジュラン様に恋をした平民女性が、結婚のことを知り自害した。ジュラン様に剣を向けた男性は、その女性の父親だった。ロード侯爵は、その計画を知り、男性達を見張っていたことから、駆け付けるのが早かったようだ。
 娘を想っての犯行……だけど、人を殺してしまったのだから、死罪は免れないだろう。
 


 事件からしばらくして、傷口を見るために鏡を見ながら顔のガーゼを外してみる。傷口は塞がっていたが、痕が少し残っていた。

 「ローレン、ガーゼは貼っていなさい!」

 傷口は塞がっていたので、ガーゼをとって部屋から出ると、少し怒ったような声色でジュラン様がそう言った。

 「ですが、傷はもう塞がっています」

 いつもの優しいジュラン様とは別人のように感じてしまい、緊張しながら返事をした。
 傷は塞がっているのだから、ガーゼを貼る必要はない。

 「その醜い顔を、俺に見せないでくれ。隠さないのなら、俺の視界に入るな」

 ジュラン様はそれだけ言うと、私の顔から目を背けて自室に戻って行った。
 まさか、彼がそんなことを言うとは思わなかった。あんなに愛してくれていたのに、顔に傷が出来たら醜いと言い放った。
 もしかしたら、聞き間違えかもしれない……そう思いたいけれど、現実はそんなに甘くなかった。
 それ以来、ジュラン様は私を避けるようになり、同じ邸に住んでいるというのに、顔を合わせることもなくなった。



 そして1週間後、ジュラン様は平民の女性を邸に連れて来た。

 「初めまして、シンシアと申します。奥様の代わりに、私がノーグル侯爵家の跡継ぎを産むことになりました」

 シンシアさんは、笑顔でそう言った。
 言っていることが、全く理解出来ない。
 ノーグル侯爵家の跡継ぎをシンシアさんが産むということは、ジュラン様は私との離婚を望んでいるということだろうか? 

 「シンシアには、離れに住んでもらうことにした。彼女は身篭っているから、優しくしてやってくれ。腹が大きくなりだしたら、お前も邸から出るな。子供は、俺とお前の子として育てる。
 醜い顔のお前を、抱くことが出来ないんだ。分かってくれ」

 
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