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3、お飾り妻
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2人の時間を邪魔されたからか、さっきまで楽しそうな声だったジュラン様が不機嫌そうに返事をした。
こんなことで、怯むわけにはいかない。意を決して、ドアを開けて中に入った。
「何の用だ?」
私の顔を見ることなく、不機嫌どころか怒ったように言い放つ。彼の青い瞳に、私はもう映ることがない。
ジュラン様はソファーに座り、膝の上にシンシアさんを横抱きにして乗せている。その姿はあまりに自然で、2人が夫婦なのではないかと思えて来る。
私は1度も、あんな風に触れられたことはない。
胸が苦しい……愛する人が、私以外の女性と……
「用がないなら、出て行け。お前の顔など見たくない」
ショックで声が出ない私に、容赦なくキツイ言葉を浴びせてくる。
こんな扱いを受けなければならない程、私が何をしたの?
そう聞きたかったけど、感情的になったら負けだと思った。
「お聞きしたいことがあります。私の顔を見たくない程お嫌いなのに、なぜ離婚しないのですか?」
そんなことも分からないのかという顔をする、ジュラン様。
呆れているのが伝わって来る。
「離婚などありえない。他の令嬢は、君より醜いからな。俺は、美しいシンシアと居たいんだ。だが、平民のシンシアと結婚をしたら、父上は弟のカーターを跡継ぎにする。俺がノーグル侯爵家を継ぐには、お前が妻でなくてはならないんだ」
悪びれもせず淡々と語るジュラン様に、ゾッとした。
やっぱり、この人の考えなんて分かるはずもなかった。なぜ私が、この人の為に犠牲にならなくてはならないの? こんな扱いをされているのに、無条件で彼に従うなんてありえない。
彼を愛していた気持ちが、消え去って行く。幸せだった2年間が、まるでモヤがかかったみたいに思い出せなくなる。
「……離婚してください」
そう言ったところで、素直に離婚してくれるはずがない。それが分かっていても、言わずにはいられなかった。
「しないと言ったはずだ。それに俺と別れたら、お前のような醜い女と誰が結婚してくれるんだ? お前は、大人しく俺の奴隷でいろ」
鼻で笑いながら、彼は私を侮辱してくる。
「クスクス……ジュラン様、そこまで言ったら、流石に可哀想じゃないですか。奥様、泣かないでくださいね?」
私を奴隷だというジュラン様。私を見ながら、クスクスと笑う愛人。
この人達は、人を何だと思っているのだろう……
「用がすんだなら出て行け。その顔を見ていると、吐き気がする」
この部屋に入って来てから、ジュラン様は一度も私の顔を見ていない。それでも吐き気がするというなら、別れればいい。なぜ、こんな屈辱に耐えなくてはならないのか……そう思ったけど、考え直した。
「失礼します」
部屋から出て、ドアを閉める。
素直に部屋を出たのは、彼の言う通りにしようと考えたからではない。この先、自分の子を産めないどころか、他人の子を自分の子として育てるなんて耐えられない。いいえ……その子でさえ、私には触れさせもしないだろう。
幸せな結婚のはずだったのに、結婚して全てが変わってしまった。もう二度と戻ることはない。
私は、ジュラン様に復讐しようと決めた。
彼が望んでいるのは、お飾りの妻。言うことを素直に聞いていれば、シンシアさんのお腹が大きくなるまでは好きに過ごせるはず。
シンシアさんが子を産んだ時、ノーグル侯爵に全てを話す。そうしたら、ジュラン様はノーグル侯爵家を継ぐことは出来ないわ。
その日から私は、好きに生きることにした。
ただ、ガーゼだけは毎日貼っていた。理由は、ガーゼがないと外出することを許されなかったからだ。
「これからは、食事を部屋でとるようにとのことです」
メイドのカーラは、私の部屋を訪れて眉ひとつ動かさずにそう言った。カーラは、ジュラン様がシンシアさんの為に雇ったメイドだ。
元から居た使用人達は、少なからずシンシアさんに嫌悪感を抱いていた。その為、シンシアさんに尽くしてくれるメイドが必要だったのだ。
私の顔を見たくないジュラン様は、使用人を使って命令してくる。私が食事を部屋でとるようになると、シンシアさんは、食事を本邸の食堂でとるようになった。
そして、1ヶ月が過ぎた。
「ベロニカ、出かけるから準備して」
ベロニカは、最近この邸のメイドになったばかりだ。元々は、クルーガー伯爵家のメイドだったのだが、お父様にお願いしてこの邸のメイドにしてもらった。お父様からの好意だと思ったジュラン様は、申し出を断ることが出来なかった。
お父様はまだ、ジュラン様とのことを何も知らない。お父様は古い人間だから、貴族に愛人がいるのは普通のことだと考えている。ジュラン様が離婚を望んでいない以上、愛人に子供が出来たからといって、離婚することは許さないだろう。
ベロニカと共に、友人のキャロルの邸へお茶会に出かける。
社交の場には、結婚してから1度も出席をしていなかった。ジュラン様は、私を同伴せずに1人で参加していたからだ。
キャロルは、もうすぐ結婚をする。シンシアさんのお腹が大きくなっている時期だから、結婚式には出席させてはもらえないだろう。
一言でも祝いの言葉を伝えたかったから、お茶会に参加することにした。
オシャレをするのは、1ヶ月ぶり。顔に貼ってあるガーゼが、全てを台無しにしている。
邸に着くと、キャロルが出迎えてくれた。
「来てくれてありがとう! 会いたかったわ!」
「私も、キャロルに会いたかった!」
キャロルは嬉しそうに私の手を引き、お茶会の会場である庭園に連れて行く。
「皆様! ローレンが来てくれました!」
キャロルの言葉に、皆いっせいにこちらを向いた。
なぜここに居るのか分からないといったような顔で、皆が私を見てくる……。どうやら、私は歓迎されていないようだ。
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