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6、あなたが大嫌い
しおりを挟む会場に到着すると、ジュラン様はさっさと1人で先に行ってしまった。『共に出席する』 と言っていたのに、置いていかれた。ますます、私を連れて来た意味が分からない。
馬車から降りて会場の中に入ると、この前のお茶会の時と同じで、皆がジロジロとこちらを見てくる。
「ローレン?」
声をかけて来たのは、キャロルだった。キャロルは、婚約者のダグラス・オージー伯爵と出席していた。
「ローレンが、夜会に来るなんて珍しいわね。ようやく、私の婚約者を紹介出来るわ!」
オージー伯爵の手を引いて、少し先からこちらへ向かって歩いて来た。
「ダグラスよ。私の愛する人」
頬を染めて、幸せそうな笑顔を見せるキャロルを見ると、私も幸せな気持ちになった。
キャロルには、愛する人と幸せになって欲しいと心から思っている。
「初めまして、ローレンです」
「初めまして、ダグラス・オージーです。お話は、キャロルから毎日のように聞いています。とても心が綺麗な方だとか」
キャロルが、私のことをそんな風に話してくれていたなんて嬉しい。
オージー伯爵も、嫌な顔ひとつせずに笑顔で接してくれている。キャロルが選んだ人は、とても素敵な人で安心した。
「私なんかよりもずっと、キャロルの方が心が綺麗ですよ。キャロルを、幸せにしてあげてください」
「ローレン……ありがとう!」
目に涙をいっぱい溜めながら、私の両手を握るキャロル。
「あら、最近はよく会うわね。皆が楽しんでいるのに、そんな顔で来るなんて、空気が悪くなるとは思わないの?」
私を見つけたマリアンが、また嫌味を言いに近寄って来た。
「空気を悪くしているのは、マリアンじゃない!」
キャロルは、私を背にかばうように前に立つ。
「キャロルのくせに、生意気ね。ローレンが居ないと、何も出来なかった弱虫だったのに、どうしちゃったの?」
「俺の婚約者を、侮辱するのはやめろ!」
「オージー伯爵、女性同士の話に割り込んで来るなんて、不躾じゃなくて?」
キャロルは、あまり社交的な方じゃない。見た目が地味だからと、令嬢達に虐めにあっていた。その虐めのリーダー格だったのが、マリアンだった。それが許せなかった私は、すぐにキャロルと友達になった。マリアンは、それが面白くなかったのか、私を敵視するようになった。
「不躾なのは、あなたの方よマリアン」
大人しくしていなければならないのは分かっているけど、我慢が出来なかった。
「ローレンたら、そんなマヌケな顔で偉そうにしても、怖くなんかないわ。夫に愛されない女なんて、哀れね」
この前のお茶会の時のように、皆に聞こえるように大きな声で話すマリアン。マリアンの少し先に、ジュラン様の姿があった。まるで他人事のように、こちらの様子を見ている。
あなたなんかに、何も期待していない。
「憐れなのは、君の方だ」
この声……
振り返らなくても、誰なのか分かってしまった。
……ロード侯爵だ。
私には関わらないように、レイバンが伝えてくれたはずなのに……
「な!? 私は憐れなんかじゃありません! なぜロード侯爵が、ローレンを庇うのですか!?」
「そうだ! なぜハンクが、俺の妻を庇う? ローレンに近付くな。ローレンは、俺のものだ!」
他人事のような態度だったのに、ロード侯爵が現れるとすごい勢いで近付いて来た。
ジュラン様が、夜会に私を連れて来た理由がやっと分かった。ロード侯爵に、みんなの前で私を自分のものだと言うためだった。
私のことなど何とも思っていないくせに、ロード侯爵の優しさを踏みにじるジュラン様が許せないと思った。ロード侯爵はただ、私に同情しているだけだ。それは分かっているのに、私の心は彼に惹かれ始めていた。
「それなら、もっと大切にしたらどうなんだ? ローレンを守るのが、お前の役目だろう!? 」
「……もう、やめてください。私がここに来たのが、間違いだったのです。帰ります」
ロード侯爵にご迷惑をおかけしたくなかったのに、結局ご迷惑をおかけしてしまった。ジュラン様にどう思われようと、ここには居たくない。
「帰るぞ」
ジュラン様は、私の手を引いて会場から連れ出す。今すぐこの手を、振り払ってしまいたいという感情が押し寄せて来る。私達が愛し合っていないことを、ほとんどの人が知っているのに、この茶番は何なのだろう。
それでも私は、彼と完全に別れるために茶番を続けなくてはならない。これは、彼の本性を見抜けずに愛してしまった、愚かな私への罰なのだろう。
手を引かれたのは、会場から出るまでだった。会場から出ると、ジュラン様は手を離して1人で馬車に乗った。私はドレスの裾を持ち上げ、自分で馬車に乗り込む。
「お前まさか、ハンクに色目を使っているのか!?」
馬車が走り出すと、いきなり怒鳴り散らされた。
「そんなこと、していません!」
「あいつは、お前のことなんか何とも思っていないからな! あいつに色目を使っても無駄だ! お前のような醜い女は、誰にも愛されはしない!」
この人は、どれほど私を侮辱すれば気がすむのだろうか……
ロード侯爵に惹かれ始めているのは事実だけど、色目を使ったことなんて1度もない。
ジュラン様、私はあなたが大嫌い。
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