3 / 9
3、ラクセルの変化
しおりを挟む「…………ナ様! エリアーナ様!」
「……ん……」
目を覚ますと、臣下達が心配そうな顔でエリアーナを見ていた。
「お部屋に、お戻りになられなかったのですか?」
執務室に戻った後、仕事をしながらいつの間にか眠っていた。
「……すみません。私、眠っていたのですね」
「無理をし過ぎです。少し、お休みになってください」
「そうですね。少しだけ、眠って来ます」
頑張り過ぎて身体を壊してしまったら、意味がない。そう考えたエリアーナは、自室で眠ることにした。
自室に戻り、ベッドに横になると、相当疲れていたのかすぐに眠りについていた。
眠りについたばかりのエリアーナの部屋のドアが開き、中に誰かが入って来る。
「こんな時間に寝ているとは、いい身分だな」
気配に気付き、少しだけ目を開く。エリアーナの目に映ったのは、ラクセルの姿だった。
「……殿……下? どうされたのですか?」
部屋の前には侍女が居たが、王太子であるラクセルに逆らえるはずもない。
寝ている間に部屋に入って来たラクセルに嫌悪感を抱きながらも、エリアーナは冷静に対応する。
「少し、話をしようと思ったんだ」
「お座りください」
いつもとは違うラクセルの様子に、エリアーナはベッドから起き上がり、ラクセルにソファーへ座るように促す。
「お前、なぜ私に興味を持たないんだ?」
エリアーナもソファーに座ったのを見てから、ラクセルは話し出した。大事な話があるのかと思えば、自分に興味を持たないエリアーナに疑問を持っただけのようだ。
「逆にお聞きしますが、なぜ私が殿下に興味を持つとお思いなのですか?」
初めて会った時から、ラクセルにバカにされていた。そんな相手を愛せるはずがない。
「私の容姿は、こんなに完璧なのだぞ!? 私を好きにならない女などいない!」
本気でそう思っているのか、ラクセルの顔は真剣そのものだ。
「私は殿下の妻ですが、心は自分でどうにか出来るものではありません。どんなに容姿が良くても、心が美しくなくては好きになることは出来ないのです。容姿しか見ない女性がお好みでしたら、いくらでも側妃をお迎えください」
(側妃がいるなら、私は私のやれることをやるだけだ。その為に、沢山学んで来たのだから)
「お前は、私の心が美しくないと言うのか!?」
自由にしていいと言われたのに、何が不満なのだろうか。ラクセルは激怒し、テーブルをバンっと力いっぱい叩いた。自分の心が美しいとでも思っているように見える。
「そう申し上げたつもりですが、何がご不満なのですか? まさか、陛下の意識がお戻りにならないというのに、側妃をお迎えになるような方の心が美しいとでもお思いなのですか?」
激怒しているラクセルに、顔色一つ変えないエリアーナ。それが余計に腹が立ったようで、ラクセルの怒りはおさまらない。
「お前はいつだって涼しい顔で、私をバカにする! 私は王太子だ! お前は、私の妻にしか過ぎない! 私を支えるのが、お前の役目ではないのか!?」
支えるどころか、ラクセルの仕事を全てやっているというのに、これ以上どうしろというのだろうか。ラクセルの横暴な態度に、エリアーナは深いため息をついた。
「私はこの国と陛下に、誠心誠意お仕えしているつもりです。私にだって、心はあります。尊敬出来ない方に、どうお仕えしろと仰るのですか? これ以上私に、どうしろと仰るのですか……」
愚痴を言うことも、弱音を吐くこともなかったエリアーナが、初めて感情的になった。
王太子妃になることも、未来の王妃になることも、彼女が望んだことではない。望んだことではなくても、国の為、国民の為に努力し続けて来た。それを、否定された気がしていた。
いつも涼しい顔をしていたエリアーナが、感情的になった姿を見て、ラクセルは自分の気持ちに気付いた。何でも言うことを聞く女性などつまらない。思い通りにならない彼女に、惹かれ始めているのだと。
だが、それを認めたくなかった。美しい自分が、なぜ平凡な容姿のエリアーナに惹かれなければならないのか。プライドだけは高いラクセルは、エリアーナに優しくすることはなかった。
「おまえは私の妻だ。妻は、夫の道具でいればいい。私の代わりに仕事をし、せいぜい私に捨てられないように怯えながら過ごすんだな」
乱暴にドアを開けて、部屋から出て行くラクセル。
ラクセルの態度を見て、エリアーナは安堵していた。
(感情を出してしまったけれど、冷たく突き放してくれて良かった。今更優しくされても、殿下への気持ちが変わることはない。私を道具だと言うのなら、仕事をするだけの人形になろう。殿下の愛情など、求めたりしない。私が大切な人達、陛下や王妃様、臣下達や国民の為に生きていけばいい)
エリアーナは、何かが吹っ切れた気がしていた。
眠るのを諦め、また執務室へと歩き出す。
仕事が好きなわけではないが、彼女にはそれ以外することがなかった。好きなこと、やりたいことなど考えたことがない。国の為に仕えること以外、エリアーナには何もなかったのだ。
213
あなたにおすすめの小説
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い
buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され……
視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~
Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。
さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。
挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。
深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。
彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。
【完結】愛してきた義妹と婚約者に騙され、全てを奪われましたが、大商人に拾われて幸せになりました
よどら文鳥
恋愛
私の婚約者であるダルム様との婚約を破棄しろと、義父様から突然告げられました。
理由は妹のように慕っているマーヤと結婚させたいのだと言うのです。
ですが、そんなことをマーヤが快く思うはずがありません。
何故ならば、私とマーヤは本当の姉妹のように仲が良いのですから。
あまりにも自信満々に言ってくるので、マーヤの元へこのことを告げます。
しかし、そこでマーヤから驚くべき言葉を告げられました。
婚約者のダルム様のところへ行き、助けを求めましたが……。
行き場を完全に失ったので、王都の外へ出て、途方に暮れていましたが、そこに馬車が通りかかって……。
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
拗れた恋の行方
音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの?
理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。
大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。
彼女は次第に恨むようになっていく。
隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。
しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる