〖完結〗容姿しか取り柄のない殿下を、愛することはありません。

藍川みいな

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3、ラクセルの変化

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 「…………ナ様! エリアーナ様!」

 「……ん……」

 目を覚ますと、臣下達が心配そうな顔でエリアーナを見ていた。
 
 「お部屋に、お戻りになられなかったのですか?」

 執務室に戻った後、仕事をしながらいつの間にか眠っていた。

 「……すみません。私、眠っていたのですね」

 「無理をし過ぎです。少し、お休みになってください」

 「そうですね。少しだけ、眠って来ます」

 頑張り過ぎて身体を壊してしまったら、意味がない。そう考えたエリアーナは、自室で眠ることにした。

 自室に戻り、ベッドに横になると、相当疲れていたのかすぐに眠りについていた。
 眠りについたばかりのエリアーナの部屋のドアが開き、中に誰かが入って来る。

 「こんな時間に寝ているとは、いい身分だな」
 
 気配に気付き、少しだけ目を開く。エリアーナの目に映ったのは、ラクセルの姿だった。

 「……殿……下? どうされたのですか?」

 部屋の前には侍女が居たが、王太子であるラクセルに逆らえるはずもない。
 寝ている間に部屋に入って来たラクセルに嫌悪感を抱きながらも、エリアーナは冷静に対応する。

 「少し、話をしようと思ったんだ」

 「お座りください」

 いつもとは違うラクセルの様子に、エリアーナはベッドから起き上がり、ラクセルにソファーへ座るように促す。

 「お前、なぜ私に興味を持たないんだ?」

 エリアーナもソファーに座ったのを見てから、ラクセルは話し出した。大事な話があるのかと思えば、自分に興味を持たないエリアーナに疑問を持っただけのようだ。

 「逆にお聞きしますが、なぜ私が殿下に興味を持つとお思いなのですか?」

 初めて会った時から、ラクセルにバカにされていた。そんな相手を愛せるはずがない。

 「私の容姿は、こんなに完璧なのだぞ!? 私を好きにならない女などいない!」

 本気でそう思っているのか、ラクセルの顔は真剣そのものだ。

 「私は殿下の妻ですが、心は自分でどうにか出来るものではありません。どんなに容姿が良くても、心が美しくなくては好きになることは出来ないのです。容姿しか見ない女性がお好みでしたら、いくらでも側妃をお迎えください」

 (側妃がいるなら、私は私のやれることをやるだけだ。その為に、沢山学んで来たのだから)

 「お前は、私の心が美しくないと言うのか!?」

 自由にしていいと言われたのに、何が不満なのだろうか。ラクセルは激怒し、テーブルをバンっと力いっぱい叩いた。自分の心が美しいとでも思っているように見える。

 「そう申し上げたつもりですが、何がご不満なのですか? まさか、陛下の意識がお戻りにならないというのに、側妃をお迎えになるような方の心が美しいとでもお思いなのですか?」

 激怒しているラクセルに、顔色一つ変えないエリアーナ。それが余計に腹が立ったようで、ラクセルの怒りはおさまらない。

 「お前はいつだって涼しい顔で、私をバカにする! 私は王太子だ! お前は、私の妻にしか過ぎない! 私を支えるのが、お前の役目ではないのか!?」

 支えるどころか、ラクセルの仕事を全てやっているというのに、これ以上どうしろというのだろうか。ラクセルの横暴な態度に、エリアーナは深いため息をついた。

 「私はに、誠心誠意お仕えしているつもりです。私にだって、心はあります。尊敬出来ない方に、どうお仕えしろと仰るのですか? これ以上私に、どうしろと仰るのですか……」

 愚痴を言うことも、弱音を吐くこともなかったエリアーナが、初めて感情的になった。
 王太子妃になることも、未来の王妃になることも、彼女が望んだことではない。望んだことではなくても、国の為、国民の為に努力し続けて来た。それを、否定された気がしていた。
 
 いつも涼しい顔をしていたエリアーナが、感情的になった姿を見て、ラクセルは自分の気持ちに気付いた。何でも言うことを聞く女性などつまらない。思い通りにならない彼女に、惹かれ始めているのだと。
 だが、それを認めたくなかった。美しい自分が、なぜ平凡な容姿のエリアーナに惹かれなければならないのか。プライドだけは高いラクセルは、エリアーナに優しくすることはなかった。

 「おまえは私の妻だ。妻は、夫の道具でいればいい。私の代わりに仕事をし、せいぜい私に捨てられないように怯えながら過ごすんだな」

 乱暴にドアを開けて、部屋から出て行くラクセル。
 ラクセルの態度を見て、エリアーナは安堵していた。

 (感情を出してしまったけれど、冷たく突き放してくれて良かった。今更優しくされても、殿下への気持ちが変わることはない。私を道具だと言うのなら、仕事をするだけの人形になろう。殿下の愛情など、求めたりしない。私が大切な人達、陛下や王妃様、臣下達や国民の為に生きていけばいい)

 エリアーナは、何かが吹っ切れた気がしていた。

 眠るのを諦め、また執務室へと歩き出す。
 仕事が好きなわけではないが、彼女にはそれ以外することがなかった。好きなこと、やりたいことなど考えたことがない。国の為に仕えること以外、エリアーナには何もなかったのだ。

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