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壊れゆく花嫁
私が不死人だとこうして分かったわけだがそんなのは聞いてない!
しおりを挟む横断歩道を渡ろうとしていた。
信号は青。
なのに、車は猛スピードで突っ込んできた。
そして私は車に引かれた。
ぶつりとそこで意識が途切れた。
人だかりが集まる、警察がやってくる。
警察はぶつかって止まった車から運転者を下ろした。
救急車が来る、横たわる傷一つない少女を搬送しようとした。
むくりと少女は起き上がった。
「……ん? 夢? 車に引かれた気がしたんだけど……」
救急隊員が何かに気づいたのか連絡を始めた。
少女の耳には「不死人の女性が見つかった」とだけ聞こえた。
「えーと、ルリさんですね」
病院に連れていかれた少女――ルリは検査をひとしきり受けた後医師の診断を受けていた。
「年齢は20歳ですよね?」
「はい」
「性別は女性」
「はい」
「そしてスピード100キロ越えの車に引かれた」
「スピードは分からないけど車に引かれたのはあってます」
「痛いところは?」
「ありません」
医師はレントゲンなどの資料を全て見ながら答えた。
「検査結果異常はありませんでした、貴方は健康体そのものです」
「事故にあったのに?」
ルリは首を傾げた。
「……そのことなのですが、ルリさん貴方は人間じゃありません」
「は?」
「『不死人』です」
医師の言葉に、ルリは頭の中の知識を総動員した。
「……えっと、確か『殺せず、死なず、老いず、排泄もせず、飢えもせず、吸血鬼のような弱点も何も持たない存在』ですよね」
「ええ、そして人間と吸血鬼の盟約をご存じですか?」
「えーっと、人間と吸血鬼が共存して生きる為の取り決めってくらいしか」
医師は困ったような顔をして口を開いた。
「人間から次『不死人』見つかったかつ、その『不死人』が女性場合、真祖の妻にすることが盟約で決まってるんですよ」
「……は?」
ルリは瑠璃色の目を丸くした。
翌日から大忙しだった、家に人間と吸血鬼の役人が来て取り決めやらなにやらルリがよくわからないまま進められたのだ。
ルリは拒否権はあるかと聞いたところ、そろって「ない」と即答して落胆した。
母親は大泣きしてルリにすがり、兄は普通通りに見えていつもこなしている家事で料理を焦がしたり皿を割りそうになったり内心動揺しているのが分かったし、嫁に行った姉は卒倒して寝込んだと義兄に言われるし、祖母も寝込むと家の中は悲惨な状態になった。
友達も家に押しかけてきてもう会えないのかなどと聞いてきた。
それがわからずルリは答えられなかった。
「どうしてこうなった」
今までなんとかなるの精神できたルリだが、この時ばかりは嘆いた。
そしてついに、家を離れる日がやってくる。
見送りはない、全員寝込んでしまったからだ。
嫁に行く変わりに、この家は政府から大きな援助があるとのことだが、ルリは末の子、かなり可愛がられて育った、数年前に亡くなった父と祖父も大層可愛がり、嫁にはやらんとまでいっていたほどだ。
ルリは全員の寝室を回り、挨拶をすませる。
自分の荷物、ノートパソコンや本、服、ゲーム機そのほかもろもろは既に送った。
残ってるのは自分の身一つ。
吸血鬼の役人らしき男が魔法陣の前にいる。
「奥方様早くなさってください、真祖様がお待ちです」
「お願いだからせかさないでよ」
「「ルリー!」」
夜だというのに、友達がやってきた。
「どうしたのみんな?!」
「見送りに来たの、また会えるよね?」
「うーん、わからない」
「limeで繋がってるから大丈夫だよね!」
「うん、それは大丈夫」
「何かあったら連絡してね!」
「うん、わかった、じゃあね」
役人が咳をしてせかしてくるので、ルリはカバンを背負って魔法陣へと飛び込んだ。
周囲の景色が変わる。
都会、それもすごく発展している都会の景色に。
そしてそれと真逆の巨大な城がそびえたっていた。
「わー……」
吸血鬼の役人が案内する、また魔法陣で場所を移動する。
広く豪奢なシャンデリアがつけられたテレビなどで見た王宮の一室のような場所だった。
「真祖様、『不死人』の者をお連れしました」
役人はそう言うと姿を消した。
「ちょ、ちょっと」
ルリは慌てる、こんな広い空間に一人取り残されても困る、と。
「ほう、お前が『不死人』か」
「わ、わかんないけどそうみたいですが?」
突然聞こえる声に、ルリは変な口調になって答える。
「私は確かめるまでは信じぬ性質でな、確かめさせてもらうぞ」
「は?」
首に牙が食い込む感触がした。
「ギャ――!!」
ルリは絶叫した。
自分の首に噛みついている何かを弾き飛ばした。
「な、な、な、な、な、何する……あれ? 噛まれた痕が消えてる?」
ルリは首を抑えて戸惑った、確かに首に牙が食い込んだのだ、だがその痕跡はもうない、残しているのはわずかに服についた血の跡位だった。
黒い影は人型になる。
背の2メートルはあるだろうと思う程高く、顔色は蒼白、髪は闇色、目は真紅、顔つきは非常に整っていて、髭を生やしている壮年の男性だった。
「ふむ、血の味といい、噛まれた痕も残らぬか、間違いなくお前は私が求めた『不死人』そして――」
男――真祖はルリを抱き寄せた。
「私が求めた花嫁だ」
真祖はルリをじっくりと見つめる、品定めするように。
「ふむ、年齢と見た目が一致せぬが悪くない、髪も好みの黒だだが短いのが勿体ない。目はよい青色だ、宝石にも劣らぬ、見た目は私の好みだ、問題は性格」
「……マジで私嫁にする気ですか?」
ルリは引きつった表情で真祖を見る。
外見年齢だけで判断すると、ルリ的にはこの真祖と歩くと確実に補導されると思った。
「好いた男か女でもいるのか?」
「いや、特にはいないんですけれど……」
ルリは心の中で汗をだらだらと流した。
学校で習ったことがある。
真祖――吸血鬼たちを統べる偉大そして恐るべき支配者。
日光も、聖なる物も、白木の杭も流れ水も何一つ通じぬ恐るべき吸血鬼。
彼の意思一つでまた戦争が起きかねない為、機嫌を損ねるような行為はしてはならない。
と。
そんな恐ろしい存在が目の前にいるのだ。
大昔の戦争で人間はその当時の三分の一にまで減少したと言われている。
何より謎なのはその戦争を終わらせた「不死人」という存在の嫁を欲しがる、ということである。
ルリはどう考えても理由がさっぱり思いつかなかった。
この真祖の機嫌を損ねたら、また戦争になるんじゃないかとルリは思った。
そんなことになったら、文化とか魔術とかの発展が異常な吸血鬼に人間が勝てる要素なんてほぼない。
今の人間は信仰心も薄いのが多い、ただ結果変な宗教がはやったことはある。
聖なる物なんてほとんど残ってない、有効な手段といえば白木の杭だが真祖には効かない。
ルリは察した、人類の運命は自分にゆだねられていると。
――無理だし無茶苦茶だ!!――
「いや、その考えなおしてくれません? 私不死人らしいけど20年しか生きてない小娘なんで」
「年の差が何だという」
「恋愛経験ゼロなんで男性づきあいはその……」
「それがどうしたというのだ?」
「いやー多分次の不死人の女性の方の方が美人かと……私美人じゃないんで」
「お前が好みだ」
「……諦めてくれる気はないんですか?」
「二千年、二千年まったのだぞ」
ルリは察した、この真祖、ルリを花嫁にしないという選択肢を持ってないということを。
「媚びを売るという事をせぬのもよいな」
真祖はじっとルリを見つめている。
ルリは視線をそらしてそれに耐える。
「……嫁にならないとだめですか?」
ルリは冷や汗をかき、視線をそらしながら問う。
「盟約通りならばな、お前に思い人がいるなら諦めよう、だが居らぬならば――」
「お前はこれより私の妻だ」
ルリの顔を無理やり真祖の方を向かされ、口にキスをされた。
ファーストキスは血の味がした。
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