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壊れゆく花嫁
盟約の不死人と真祖、私は始まりを聞く
しおりを挟む「盟約の不死人……?」
ルリは聞き返す、男か女か性別不明の人物――グリースはにっこりと笑って頷いた。
「吸血鬼と人間かこれ以上争わないよう武力で両方押さえ付けて盟約を結ばせたから盟約の不死人さ」
「……」
ルリは考えた。
人間と吸血鬼の盟約。
盟約の花嫁。
「お前が諸悪の根源かああああ!!」
ルリはベッドから飛び出してグリースの服を掴んでがくがくと揺さぶる。
「いやいや、それは誤解だよお嬢さん。俺は盟約を結べと言っただけで、決めたのは人間のお偉いさんとヴァイスだよ」
「ヴァイス? 誰それ」
ルリはグリースの服から手を離した。
「あれ、あいつ嫁さんにも言ってなかったの、お嫁さんに位名前教えろよなー」
「……真祖のこと?」
「そ」
ルリはここで真祖の名前を初めて知る。
自称盟約の不死人グリースは、続ける。
「戦争の原因知ってる?」
「知らない」
「ヴァイスの奥さんと息子さんを人間が殺したからだよ」
グリースは淡々とルリに伝えた。
「え……」
「奥さんは人間、息子さんはハーフね、両方とも人間のために色々やってたのに、それをよく思わない連中が二人を殺しちゃったのさ」
真祖の口からではなく、あって間もないグリースから真祖の過去を告げられルリは戸惑った。
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「……グリースは人間だったんでしょう? どうやって説得したの?」
「あ、俺ね戦争時も穏健派の吸血鬼と人間の集落に住んでてね、吸血鬼の恋人二人や血のつながってない家族と暮らしてたんだけど、吸血鬼と人間、両方に襲撃されて全員殺されて俺も一回死んだの」
「え」
ルリは悲惨に感じる内容をなんでもないことのように言うグリースに戸惑いを覚えた。
「でさー不死人だったから死んだけど死ななかったわけよ、俺一人だけ生き残ったわけ、憎かった、吸血鬼も人間もみーんな憎かったから――」
「殺して、殺して、殺しまくった」
「老若男女、人間吸血鬼問わず殺しに殺しまくって――両陣営を追い詰めた」
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「そこまでいって、これじゃ俺、恋人とか友達殺した連中以下になってるじゃん、って自己嫌悪に陥った」
グリースは淡々と続ける。
「滅亡に追いつめられてる両陣営に俺は提案した、盟約を結べ、二度と戦争しないという盟約を、じゃなきゃ滅ぼすと」
「……返答は?」
「両陣営その提案を飲んだよ、じゃなきゃ滅ぼせる力を持った奴に滅ぼされちまうんだからな、生きるか死ぬか、反発した奴らはいたが――」
「みんな俺が見せしめに殺した」
恐ろしいことを平然と言うグリースが、ルリは酷く怖い存在に思えた。
「盟約を決めてる時、真祖が俺に尋ねたんだ『お前は死ねぬのか』と、俺は答えた『二度と死ねない』試しに色んな方法で死んで見せた、でも――体は元の状態に戻った、何をしても死ねないと理解した真祖はこう言った『もし、不死人の女がこの世に現れたら私の妻にさせよ』とな」
「え、なんで?」
「それは俺も分からない、真祖の言い出した言葉を人間側は飲んだ。だから盟約に『不死人の女は真祖の花嫁とする』という内容も入れられた」
「あんた否定しなかったの?!」
「俺男でも女でもないから、ま他人事だったんで別にいいかなーって」
「やっぱりアンタも諸悪の根源だ!!」
「そんな悪くいわないでくれよ」
グリースは肩をすくめる。
「まさか、こんなことになるとは思わなかったんだからさ」
「私の人生散々だよ!!」
ルリはグリースに噛みつかんばかりの勢いで言う。
「そんなにヴァイスの花嫁が嫌ならさー」
グリースはルリを抱きしめた。
「俺の花嫁にならない? 俺なら奴も手だしできないよ?」
グリースの言葉に、ルリは戸惑う。
「そうしたらさ、嫌いなヴァイスに調教じみたセックス毎晩されなくて済むし、君のお母さんの所にだって帰してあげられる」
グリースの囁きが、ルリにとって悪魔の囁きのように聞こえた。
「それに――」
「俺だったら、もっと優しく、気持ちよく抱いてあげる、言わなくたって好きな箇所を愛撫して――」
「私の妻に何をしているグリース」
闇がグリースの腕の中から、ルリを引きはがし、ルリを包むと人の形を成す。
それは真祖だった。
「やぁヴァイス、元気だねぇ、そして殺気ばりばりじゃん」
グリースは笑い顔のまま手をひらひらさせている。
真祖は怒りを隠すことなくグリースに向けている。
ルリは真祖の腕の中で、困惑していた。
「それに今おねむの時間なのに起きてくるなんてすごいなぁ、お嫁さんの扱いアレなのに取られたくないんだ」
「貴様、その口引きちぎってやろうか?」
「それは御免こうむる! 死ぬ位やつなら痛みはそこまでないんだけど、死なないレベルだと痛いのはめっちゃ痛いからな!」
グリースは両手を上げた。
表情は相変わらずへらへらとした笑い顔だが。
「――で花嫁さん、どうする? 君が望むなら俺ヴァイスのこと倒して君を開放してあげられるよ」
「貴様……!!」
「でも、そんなことしたらまた戦争が……」
「俺がどうにかする」
グリースは初めて真面目な顔をした。
ルリは思わず手を伸ばしそうになった、がその腕を真祖がすさまじい力でつかみ手を伸ばさせてくれなかった。
「はーん、本人の意思をそうやって邪魔してまで花嫁さんを手元から離したくないんだぁ」
グリースはやや軽蔑の眼差しを真祖に向ける。
「ルリ、今のそいつは愉快犯だ、甘言に惑わされるな」
「愉快犯とはこれまた酷い!!」
グリースは大げさに肩をすくめる。
「花嫁――いや、ルリちゃんだったかな、言っとくけど俺は嘘は言っていない。君が望むならいつだって君をここから出してあげよう、戦争だって起こさなようにしてあげよう」
「――戦争を起こさないだと? 反論した者は皆殺しにするの間違いだろう」
真祖は怒りと軽蔑の表情でグリースの言葉に反論する。
「それが一番てっとり早いだろう?」
グリースは悪びれもなく答える。
ルリは怖くなってきた、だがそれをすがっていい相手がどこにもいない。
「ほら、ヴァイス、ルリちゃん離してあげたら? 怖がってるじゃないか」
「貴様に怯えているのだ阿呆」
「それは否定しない、でもヴァイス、君にも怯えている」
「……」
真祖は黙った。
「ヴァイス、2000年もの間に愛する人との正しい愛し方も忘れたのかい?」
「……貴様が言えたことか!!」
グリースの言葉に真祖は反論した。
「ちょっと覗き見たけどあのセックスはないね、体格差は仕方ないけど縛って一方的に責めるのはよくない、あの愛撫は酷いよ、キスもそうだけどね」
グリースは見てきたかのように言い出した。
ルリはそれが恥ずかしくて憤死したくなった。
――あのセックス見られてたの?!――
――嫌だ、嫌だ!!――
――あんなの人に見られたくなかった!!――
「あれはセックスじゃないね、調教だよ。本人の意思を無視したゲスがやるタイプの調教」
グリースは笑みは浮かべているが、軽蔑の眼差しを真祖に向けている。
灰色の風が吹いて視界と感覚が途切れる。
風が止むと、真祖の腕の中から、グリースの腕の中に移動していた。
「キスだってそう」
グリースは薄紅色の唇をルリの額に優しく当てる。
次は瞼に、その次は頬に、そして最後に――唇にそっと優しくキスをされた。
「これくらい優しくしないと、血を吸った後の血の味がするファーストキスなんて喜ぶ女の子はいないよ?」
初めての優しいキスにルリは戸惑った。
その直後、悪寒が走った。
振り向くのが怖くてルリはできなかった。
真祖が今までと比べ物にならない位怒りを露わにしている空気で伝わったからだ。
「ほら、怒らない怒らない。そんなんだから君、ルリちゃんにゲス野郎とか言われるんだよ?」
グリースは全く気にしてない調子でルリを抱きしめたまま言う。
「それに俺がセックスするとしても日数を置くよ、そうだねしばらくは一緒にベッドで寝てセックスしてもいいって言いだしたら、一日から四日目までは体を触るだけ、五日目でセックスかな」
グリースはそう言いながら、ルリの体をやさしく触りだした。
ひどくネグリジェ越しだが、酷く優しい触り方だ。
少し頭がふわふわとし出す。
「グリース!! 貴様ふざけるのも大概にせぬか!!」
真祖の怒声でルリは我に返る。
真祖は今度は力づくでルリをグリースの腕から引き離し、自分の腕の中に収めた。
「おお、怖い怖い」
グリースはとぼけた風に言った。
「なぁ、ヴァイスお前が欲しいのは伴侶なの、それとも性欲をぶつける玩具なの、どっち?」
グリースはそう言ってその場から姿をすぅっと消した。
残ったのは、ほのかに甘い香りだけだった。
グリースに抱きしめられた時に香ってきた、優しい甘い香りだった。
「……」
あの時、手を握って連れ出してと言ったら連れて行ってくれたのだろうかとルリは思った。
そしたら、彼は約束通り家に帰してくれるのだろうかと。
彼を愛したら、他の事に振り回されずに、生きられるのだろうかと。
こんな苦しい思いをせずに済むのかと。
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