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はなよめの傷
おにいちゃんとおはなし
しおりを挟むグリースは過去を思い出し、自分の中で世界を星々を焼き尽くした憎悪の炎がまた傷口から噴き出すのを感じ、ぐっと手を握った。
「ぐりーすおにいちゃん? どうしたの? おかおこわいよ?」
ルリの声にはっと我に返る、憎悪の炎を抑え込み、笑顔に戻ってルリを見る。
「ごめん、ちょっと昔を思い出したんだ。 血吸われてもいたくなかったんだね」
「うん、そのあとしんそおじちゃんがじぶんいがいちをすわせちゃだめだって」
「そうか」
他の吸血鬼がルリの存在を知ったら、罰を受けようが何をされようが血を求めに走りかねない、甘言でルリから血をもらおうとするのもいるかもしれない、いや確かいた。
その時自分はおらず、アルジェントが対応したが。
後、今のルリは忘れているがこの間の誘拐と凌辱時に散々血を吸われた。
連中は一人残らず焼き殺したので、問題ないが、ルリは「痛い」吸血と「快楽」の伴う吸血、両方を怖がっている。
痛いのは凌辱を思い出しかねないから、快楽は性的行為つまり今のルリにとって「怖いこと」を連想させかねないからだ。
真祖達と人間政府に干渉されない、隠れ里の吸血鬼達は一緒に暮らしている人間たちどちらでもなく「吸血鬼化」もさせない血の吸い方で血をもらって今も暮らしている。
場所はグリースしか知らない。
知られてまた何かあったらたまったものじゃない。
他の吸血鬼は痛みを伴うか、快楽を伴うかの二択しかしらない連中ばかりだ。
そんなところに今のルリを放り込んだら心に傷を負いかねない。
「その後なにかしたのかい?」
「うんとね、げっこうかっておはなのさくおそらのうえのていえんにつれていってもらったの!」
「月光花!? ……そうか……どうだった?」
「きれいだった! おつきさまもおっきくてきれいだった!」
「その後は?」
「そのあとね、おへやにもどってほっとけーきたべたの!」
「美味しかったかい?」
「うん! それでね、たべたらねむたくなったの、あるじぇんとおにいちゃんがはみがきしてくれて、そのあとねんねしたの」
「しんそおじちゃんはなにかしたかい?」
「べっどによこになったらほっぺなでてくれた、そのままねちゃったからあとはわかんない」
ルリの言葉に、アルジェントもヴァイスもルリを傷つけるような行為をしていないと感じてグリースはほっとした。
傷つける行動をしてたら〆るつもりだったのだ。
「……ねぇ、しんそおじちゃんよるおきてるっていってたけど、あさとかはどうしてるのかなぁ?」
「真祖おじちゃんはな、朝と昼は眠ってるんだよ、で夕方から目覚ますの」
「そうなの? おひさまあびないとけんこうにわるいよ」
「吸血鬼はおひさまが苦手だから朝と昼は眠ってるのが大半なんだよ、まぁ真祖おじちゃんはおひさま平気なんだけど、配下の連中がルリちゃんに近寄るの見はるためにあえて眠ったまま監視してるんだよ」
「かんし?」
「見てるってこと、ルリちゃんに近づく悪い奴がいたりしたらアルジェントが対応したりするし、真祖おじちゃんが対応することもある」
「そうなの?」
「そう」
「……ぐりーすおにいちゃんはわるいやつ?」
「俺は悪い奴じゃないよ?!」
「……あるじぇんとおにいちゃんとなかわるい」
「あー……アルジェントの奴は、真祖おじちゃん以外でルリちゃんに近づく奴は大抵の場合嫌いだから、後俺は個人的にも嫌われてる」
「たんになかわるいだけ?」
「そゆこと?」
「……なかよしはむずかしい?」
「難しい」
ルリの言葉にグリースは即答した。
自分は仲良くする気はないわけではない、だがアルジェントの方が皆無なのだ。
アルジェントにとってグリースはルリに近づく悪い虫という認識だ。
さすがに自分を毛嫌いする奴と仲良くするのは難しい。
「ルリちゃんもなかよくできな子とかいなかった?」
「……いた……わたしがなにもしてないのにかみのけひっぱったりすかーとめくったりするおとこのことか、おにんぎょうあそびしてたらおにんぎょうとりあげるおんなのことか」
「できなかっただろう?」
「うん、だからむししたらなんかむこうがかってになきだしてなかよくしなさいっていわれていやってこたえた」
「……」
グリースは此処で初めて気づいた、ルリは恋愛歴皆無、これはルリが原因ではなく、ルリの周囲がルリの傍に近づかせなかったことが原因だと。
ルリは幼少時から男女とわずモテていたのだろう、愛情表現が向こうは好きな子程いじめたいっていうかまってちゃんばっかりだったからルリはそういう輩が嫌いになったのだろう。
つまり――
自分を愛せとある種直接でも間接でも行ってしまっているグリース達は、拒否したい対象なのだろう、大人のルリにとってももし、根っこが同じだったら。
彼女に性的行為をやらかした側にとっては痛い事実をここで突きつけられた。
グリースはさて、どうしたものかと頭を掻いた。
「――ルリちゃん」
「なぁに?」
「ルリちゃんが好きな人ってどんな人?」
「……わかんない」
「わかんないかー」
「うん、みんながかっこいいからすきーとか、かわいいからすきーとか、やさしいからすきーとか、いろいろいったりしてるけど、わたしはよくわかんない」
グリースはルリがこの頃から今同様恋愛的な「好き」が分からないままだと気づいた。
「お父さんとかお兄ちゃんは?」
「すきだけど、おにいちゃんのいってるすきとはちがう」
「なるほど」
グリースは家族愛と恋愛の違いをこの頃からなんとなくだが理解できているのもわかった。
「……男の子と女の子だったらどっちが好き?」
「……どっちだろ? わかんないや」
ルリが異性愛者か同性愛者か、その両方か、もしくはどちらでもないかはわからなかった。
無性愛者だった場合は、ヴァイスにはルリちゃんに愛するのを求めるの諦めろと伝えるつもりだ。
無性愛者に恋愛を強要するのは結構ひどいことだからだ。
「……ぐりーすおにいちゃんはおんなのことおとこのこどっちがすきなの?」
「俺? 実は俺どっちも好き」
「りょうほうすきなんだ」
「そうそう」
「……よくばりさん?」
「……否定できないなぁ」
ルリの言葉にグリースは苦笑した。
人間だった頃、吸血鬼二人に同時に告白されたのだ、男の吸血鬼と、女の吸血鬼。
両性だった自分は、どっちも大事だから、自分は優柔不断だから俺はやめとけと断った。
そしたら二人は、じゃあ両方恋人にしろと迫ってきたのだ。
未だにアレを思い出すとつくづく自分はろくでもないなぁと思った。
両性だったから親から拒否されるように育ち、人間社会でも差別され、行きついた先が吸血鬼と人間の隠れ里だった。
両性ということを差別せず、彼らは受け入れてくれた――だが、滅ぼされた、正義を騙る連中によって。
過去を思い返すたび、グリースの中の憎悪が噴き出す、過去のぬくもりの思い出よりも憎悪の方が遥かに強いのだ、グリースはそれを抑えて、ルリと会話をした。
「りょうほうすきになったきっかけは?」
「あー……恋人がいたんだよ、二人。男性と女性」
ルリは目を丸くした。
「え、こいびとってひとりじゃないの?」
「いや、俺男性と女性両方から告白されたんだ、ただどっちも大事だったし優柔不断だからやめとけって断ったんだよ」
「ことわったの?」
「そう、そしたら二人はじゃあ両方とも恋人にしろと迫られ――俺はそれを受け入れた」
「いやじゃなかった?」
「二人とも好きだったからね、むしろ有難かったよ」
「……そのふたりは?」
「ずーっと昔にしんじゃった。だから俺はいまだ独り身」
「……さびしくない?」
「まぁ、さびしくないといえばうそになるな、でも今は――」
グリースはルリの頭を撫でた。
「ルリちゃんがいるから楽しいかな」
「そっかぁ、わたしもぐりーすおにいちゃんといっしょはたのしいよ」
ルリは無邪気に笑って言う。
「それはよかった」
グリースがそう言うとルリはぬいぐるみを抱いたままグリースに抱き着いてきた。
「えへへ、ぐりーすおにいちゃんだいすき」
「俺もルリちゃんのこと大好きだよ」
抱きしめ返して頭を撫でる。
二千年も怒りを自分の中で燃やし続け、気が狂いそうで、それを見ないようにするために明るく気さくにふるまっていた自分にとって、初めて怒りが収まった相手。
ただ愛おしいと思った可愛らしい、同じ不死人の女の子。
盟約によって真祖――ヴァイスの花嫁になることを強要された可哀そうな子。
自分も、ヴァイスも、アルジェントも愛している愛しい人。
けれども――その結果壊れてしまった人。
逃げ道はどこにもない、あるとしたら自分が再び世界の敵になること。
心優しい彼女はきっと選ばないだろう。
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自分は再び世界の敵になってみせる、吸血鬼も、人間も全て敵に回してでも――
守りたいと思ってしまっているのだ。
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