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はなよめの傷
はなかんむり ~人間の悪意~
しおりを挟む普段の静けさと穏やかさが戻った花畑でアルジェントはようやくルリの耳につけているイヤホンを外し、仕舞った。
「もういいですよ、ルリ様」
優しい表情と声色でルリに話しかける。
ルリは顔をうずめるのを止め、振り向く。
目の前には綺麗な花畑が広がっていた。
「わぁ……!!」
アルジェントはルリを花畑に立たせる。
ルリは花に夢中だ。
「きれいなおはなたくさん!!」
「でしょう?」
ルリは少し不安げな顔をして振り向いてきた。
アルジェントは何事かと心の中で警戒する。
「……しんそおじちゃんにおはなのかんむりあげたらよろこぶ?」
予想外の答えだった、上げたら喜ぶだろう、だが――
「よろこばれるとおもいますが、そのままお渡しになったら花が全て枯れてしまいます」
「え、なんで?」
「吸血鬼が触れると花は枯れてしまうのです、ですから吸血鬼の真祖様にそのままお渡しするとすぐ壊れてしまいます」
「……そうなの……」
「ですが――」
アルジェントはかがんでルリの頬を優しく撫でながら微笑んで答える。
「私がお手伝いすれば、花冠の花が枯れることなく真祖様にお渡しできるかと」
「ほんとう?」
ルリが首をかしげる。
「ええ、花冠ができたらお渡しください。私が枯れぬようにいたしますので」
「うん!」
ルリは嬉々として花冠を作り始めた。
アルジェントは酷く穏やかな気持ちでその光景を見つめていた。
「できた!」
ルリは綺麗な花冠を一つ作った。
そしてアルジェントに渡した。
「では」
アルジェントは花冠を丁寧に持つと、もう片方の手の人差し指で軽く花冠を触った。
魔法陣が花冠を包み、回転し、そして光の粒になってはじけた。
「わぁ、あるじぇんとおにいちゃんまほうつかい?」
「しがない魔術師です」
アルジェントはそう言うと、花冠をルリに返した。
「ルリ様からお渡しになると喜ばれるでしょう」
「ほんとう?」
「ええ」
アルジェントは微笑みながらルリの頭を撫でた。
花畑で、ルリとアルジェントは穏やかに時間を過ごしていると、日が暮れ始めているのに気づいた。
「ルリ様、お部屋に……一度戻った後お風呂ですね」
「うん」
アルジェントは花冠を持ったルリを抱きかかえて、一度部屋に戻った。
ベッドの上に花冠をルリは置いた。
転移し、浴室に向かう。
いつものように服を脱がせ、体の汚れを落とす手伝いをし、最後にお湯の張った浴槽に浸からせる。
今日のは甘い花の香のするお湯だ。
しばらく浸かってから、上がらせ、タオルで塗れた体を拭き、タオルで体をくるんで転移し、部屋へと戻る。
ショーツと露出の低いネグリジェを取り出し、身に着けさせる。
ルリは着替え終わると、花冠をもってベッドに腰をかけた。
「きょうもこわくないかな?」
「大丈夫ですよ」
昨日のしょげて非常に情けない表情の主と今日の主は違うだろうと少しだけルリは怯えているようだ。
アルジェントはルリの頬を優しくなでた。
「では失礼しますね」
「あ、まって」
「はい?」
ルリはアルジェントの頬にキスをしてきた。
アルジェントは硬直する。
――あああああああああああああああああああああああああああああああ!!――
――嬉しいのですが、主に申し訳がああああ!!――
心の中で葛藤しまくる。
「またね」
ルリの声にも動揺してしまう、しかし表に出さず、頑張って微笑んだまま一礼し、部屋を後にした。
部屋に戻り、キスされた頬を抑えたまま、顔を真っ赤にする。
声が聞こえないのが救いだった。
「ああ、ルリ様が可愛すぎる、愛しすぎる、心臓が破裂しそうだ!!」
少し冷静になりたくて、冷蔵庫の冷却材を額につけた。
「……ああ、でも主に申し訳がああああ……」
少し頭が冷えた途端、主への忠誠度の高さ故に申し訳なくなり、壁に頭をうちつけた。
「……」
ルリは窓の外を見た、お日様が沈んで、お月様が出ている。
昨日みたくあまりこわくないといいなぁ、と思いながら、待っていると、自分の周囲が少しだけ暗くなる。
少しだけ怯えながら、顔を上げると昨日とは違って何処か怖い表情をしている「しんそ」が居た。
ヴァイスはルリを見て、彼女が怯えた表情をしているのを見て、どうやら怒りを内に収めきれずに来てしまっていたのかと気づいた。
ふうと息を吐き、少し微笑むと、ルリの怯えが薄まる。
ヴァイスはルリの隣に腰を下ろし、ルリの頭を撫でる。
「すまぬ、愚者共がろくでもないことを考えていたことを知らされてな、それに怒っていただけだ」
「おろかもの?」
「悪い意味で頭の悪い連中のことだ」
「……ろくでもないことってなに?」
「……お前に『怖いこと』をさせようと考えていた」
「!!」
ルリの表情が怯えの色に染まる。
昼間の件はヴァイスの耳にも届いていた。
グリースが対処したが、それでも怒りが収まらなかったヴァイスは人間政府の所に顔をだし、グリースの脅しでも、まだ企んでいる連中を肉塊にした。
次は全員残らず肉塊にすると、更に脅して、戻ってきたのだ、だが連中のくだらない研究の実験にルリを使おうと考えていたことに怒りが収まらなかったのだ。
「だからお前をよこせと言ってきたから、そんなことを言い出せぬように対処してきたのだ、ただ怒りが中々収まらなくてな、お前を怖がらせてしまったようだ、すまぬな。お前には怒ってはおらぬよ」
「……本当?」
「ああ、本当だとも」
ヴァイスはルリの頭を優しく撫でながら言う。
「……よかった」
ルリは安心したような表情を見せた。
ヴァイスは視線を下に向けると、ルリの手に何かもってるのが分かった。
見たところ花冠のようだ、しかも吸血鬼が触っても枯れぬよう術がかかっている。
「それは?」
「これ、しんそのおじちゃんに」
「私にか?」
「きゅうけつきはおはなさわったらかれちゃうってあるじぇんとおにいちゃんいってて、てつだってもらったの」
「アルジェントがか……なるほど」
「もらって、くれる?」
「……勿論だとも」
ルリはぱぁっと花のような笑顔を見せた。
ヴァイスはルリから花冠受け取った。
花冠は枯れなかった。
ルリは花冠が枯れないのも見て安心したような顔をした。
「だが、私が被るには愛らしすぎる、机に飾らせてもらおう」
「それでいいよ」
ルリはヴァイスの言葉を否定しなかった。
受け取ってもらえただけで嬉しいようだった。
「……その、今日は私の部屋でもよいか? 怖いなら違う場所を探す」
「……『こわいこと』しないなら、しんそおじちゃんのおへやでいいよ」
「……もちろんだとも」
ヴァイスは花冠をつぶれぬように持ったまま、ルリを抱きかかえ、闇を使って転移した。
闇が消えるとヴァイスの部屋だった。
ヴァイスはルリをベッドに座らせ、花冠を机に飾ってから、ルリの隣に腰を下ろした。
「ねぇ、しんそおじちゃん、あのはこなに?」
ルリはヴァイスの寝床――棺を指さした。
「ああ、あそこが私の普段の寝床だ」
「……せまくないの?」
「まぁ、少しは」
「やっぱり」
ルリはくすくすと笑った。
「さて、今夜は何をしてほしい」
「しんそおじちゃん、なにかおはなししてくれる?」
「話か……」
ヴァイスは頭の中に仕舞っていた、息子が生きてた頃、彼にしてあげた話の数々を思い出し、それらを一つずつルリに話し始めた。
ルリはその話に熱心に耳を傾けていた、時折なんで、といった質問もしてきたが、ヴァイスはかつての様に答えた。
話を三つ終えた頃、ルリがうとうととし始めた。
「――今宵はここまでとしよう」
「うん……」
ルリを抱きかかえて、ヴァイスは闇に包まれ転移した。
ルリの部屋に戻り彼女をベッドに寝かせた。
ルリは体を起こして、手を伸ばしてきたのでヴァイスはかがんだ。
するとルリはヴァイスの頬にキスをしてきた。
「おやすみのちゅー。おやすみなさい……」
ヴァイスは驚いた表情を一瞬浮かべたが、すぐに穏やかな表情になり、ルリの頬にお返しのキスをして、寝かせる。
「おやすみ、ルリ。よい夢を」
そう言って部屋を暗くする。
しばらくすると、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。
ヴァイスはその場から姿を消し、自室へど戻った。
「ルリ、愛しの妻よ――」
ヴァイスは花冠を見て呟く。
「人間政府などに、お前はやらぬ。人間などにもう二度と愛しの者を奪われてたまるものか……!!」
ヴァイスの吐き出すような言葉へ意見するものはここには誰もいなかった。
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