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はなよめの傷
おねえちゃんとおはなし、せんそうのおはなし
しおりを挟むルリは不思議な空間に居た。
昨日と似ている感じの空間だ。
ただ違うのは、足元が花畑になっていて、少し明るい。
花畑に昨日の女の人が横たわっている。
まだ傷がたくさんあるが、昨日より、少なくなったように見えた。
ルリは女の人のところに行き、体を抱きしめる。
『……人間政府にとって私は道具か……』
「でもおにいちゃんとおじちゃんたちがまもってくれるって」
『……そう、あんなに傷つけたのにね、守るなんて、おかしいわ……』
女の人は泣いているようだった、でもどこか笑っているようにも聞こえた。
「おにいちゃんたちもおじちゃんたちもやさしいよ、おねえちゃんのきずがよくなるのをきっとまってるよ」
『……私ね、怖いの。私が目を覚ましたら、またあんな扱いをされるんじゃないかって……』
「……それはわかんない、それはとてもこわいこと、つらいことだもんね……」
ルリは「怖いこと」を強要される怖さは覚えていた。
『……真祖の花嫁、花嫁って幸せなイメージがあるのに、花嫁の私は不幸せしか感じてないの……笑っちゃうなぁ……』
悲しそうな声で女の人は言う。
「……わたしもはなよめなの?」
『そうよ、貴方は私だから、貴方も花嫁よ、真祖の花嫁』
「……なんかそんなかんじしないの……しんそおじちゃんのはなよめっていわれてもよくわからないの」
『真祖の花嫁っていったいなんなのかしらね? 性欲のはけ口? 子どもを産むための道具?』
「……しんそおじちゃんのかぞく?」
女の人の言葉に、つけたすようにルリは言う。
『……家族、家族、家族……家族、かぁ』
「おねえちゃん?」
『ふふ……だとしたら、今の貴方たちの状況はそう、とても不思議な家族ね』
「……うん、そうだね」
『私の時も、そうだといいなぁ……』
女の人は羨ましがるように呟いた。
また、ルリの体と心が痛くなった。
ルリは目を覚ました。
「……ゆめ、きのうのゆめのつづき?」
ルリは首を傾げた。
外を見ると朝日が昇っている。
「……あのおねえちゃん、げんきになるといいなぁ」
ルリの「夢」の中でぐったりと倒れている女の人の事を呟く。
少しずつ良くなっているようだが、まだ起き上がって、自分と向き合って話をしてくれないのだ。
早くちゃんと向き合って話をしたいとルリは思った。
「ルリちゃん、おはよう」
声にルリは声がした窓の方を見ると、グリースが立っていた。
「ぐりーすおにいちゃんおはよ! きょうもあそびにきてくれたの?」
ルリはぬいぐるみを抱きしめてベッドから下り、グリースに近寄る。
「そうだよー」
グリースはにっこりと笑いながらルリの頭を撫でる。
ルリはグリースからほのかな花の香りを感じ取った。
「ぐりーすおにいちゃん、おはなもってないのに、おはなのにおいする」
「ああ……」
グリースは表情を変えた、どこか悲しそうな顔だ。
「……墓参りに行ってきたんだよ」
「おはかまいり? おにいちゃんのたいせつなひと?」
「うん、ずーっと昔に戦争で死んだ、俺の大事な人達の墓参り」
「せんそう?」
「……そう、戦争」
「せんそうってなぁに?」
「……自分達こそが正義だ! って言って、殺し合うことだよ、場合によっては無関係な人も殺される、反対する人達は迫害され、場合によっては殺される」
「……こわい」
ルリはぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて呟いた。
「そう、とっても怖くて恐ろしいことがずーっと昔にあったんだ」
「……またせんそう、おきるとか、ないよね」
「……」
ルリの言葉に、グリースは無言になった。
――また、戦争、か――
今度戦争が起きたら、人間側が負けるのは目に見えている、だから人間政府は吸血鬼側の頂点に立つ真祖の顔色をうかがいつつ、戦争が起きたとき勝てるような方法を模索している最中だ。
――日中攻め込む?――
――不可能だ、真祖の力で朝を夜に変える事ができる。――
――水を流す?――
――意味はない、真祖が水を干上がらせる――
――聖なる物を使う?――
――吸血鬼の数に対して圧倒的に足りない、二千年まえの戦争でほとんどが俺が燃やした、あるのはレプリカ、レプリカにそんな力は無い――
――神に祈る?――
――愚かな、神はとっくにすべてを見捨てている――
――真祖を殺す――
――人間たちには不可能だ、殺せるのは自分だけ――
だから、人間政府は不死人を大量に欲しがっている。
不死人をうまく活用できれば、吸血鬼を滅ぼすのに使えるのではないかと。
――うまくいくわけがない――
グリースが、政府達によって精神を壊された不死人を全て「殺して」るからだ。
どんどん数が減り、何とか増やそうと焦っているからこそ、不死人の「女」という希少な存在を政府はなんとか手元に戻そうとしているのだ。
ルリ以外にでてきた不死人の「女」、彼女の扱いは良くないものなのは想像できた。
だが、ルリと違って今回の不死人の死亡原因が自業自得なので助けようと言う気にはならなかった。
自業自得の結果不死人になった連中にはグリースは冷たい。
だが、そうじゃない、不慮の事故などや、無差別殺人に巻き込まれた、誰かをかばったなどそういう内容の場合はグリースは慈悲深く接する。
ルリの件はルリを引いた車が全面的に悪い、ルリ以外にも被害者が出たことで家などまで特定され徹底的に叩かれ続けているらしいが、グリースにとってどうでもいいことだった。
ルリは善人というわけではない、いたって普通の女性だ。
魔性ではない、人柄で人に愛されるタイプの可愛らしい女性、周りが近づく悪い虫を追い払いたくなるような守ってあげたくなるタイプの女性だ。
そんな本来のルリは、今も表に出ず、深い傷を抱えたまま閉じこもっている。
グリースはルリを抱きかかえ、ベッドに連れていく。
ベッドに座らせ、その隣に腰を下ろす。
「……ぐりーすおにいちゃん?」
グリースは上手く笑えなかった、怒りを抑えるので必死だ、ルリには何か辛いのかと思われるような表情になってしまう。
そのままルリの頭を優しく撫でる。
「……ルリちゃん、正直に言うと、今も人間と吸血鬼の国同士の仲は良くない。場合によっては戦争が起きかねない」
「……ほんとう?」
「ああ、だから今、ルリちゃんはこの国、このお城に居なきゃいけない。人間の国に戻ったら戦争が起きかねないんだ。それくらい今人間の国は吸血鬼の国に対して問題行動を起こしている」
「どうして?」
「……人間は吸血鬼を滅ぼしたいんだよ。吸血鬼は人間を滅ぼすと自分たちも滅んでしまうけど、人間はそうじゃない」
「……そうなの?」
「だから、人間は吸血鬼を滅ぼす方法をいまだに模索している、正確にはヴァイス――真祖を滅ぼす方法を」
「しんそおじちゃんをほろぼす?」
「殺すってことさ」
「……だめだよそんなこと、こわいよ」
「……二千年前、戦争が起きたきっかけはなんだと思う?」
「なんだろう?」
「人間が真祖の前の人間の妻と、その間にできた息子を殺したからさ」
「……どうして?」
「その当時、宗教の力が強かった。病気とかは悪魔がついてるとか言ってそれを払うって名目で宗教の関係者は金を得ていた」
「……それでびょうきなおるの」
「治らない、治らないのは信心不足だっていって余計金とかをせびっていた、そんな中、ほとんどお金もとらず、今みたく薬とかでの治療を真祖の前のお嫁さんはやってたんだ、幼い息子もそれを手伝っていた」
「……」
「それが邪魔だった、だから殺した、自分たちの商売の信仰の布教の邪魔になるとね」
「……そんな……」
「それに真祖は激怒した、結果戦争が起きたんだ」
「……」
怯えた表情をするルリにグリースは何とか微笑みかけ両手で頬を包むように触り、額を合わせる。
「だから、真祖は二度と奪われたくないんだよ。自分の妻を、花嫁を、ルリちゃんを。人間の連中はルリちゃんに酷いことをし続ける、そうしたら――」
「……あのおねえちゃんも傷つく?」
ルリの言葉に、グリースは頷いた。
この子どものルリも、大人のルリも傷ついて、精神が壊れてしまうだろう。
人間政府の不死人の研究者達は精神が壊れた方が扱いやすいと思ってそういう扱いをするだろう。
「だからルリちゃん。君は知らない連中には気を付けなければいけない、人間政府の役人には気を付けて」
「……うん」
グリースは頬から手を離し、額を合わせているのを離し、ルリの頭を撫でる。
「ルリちゃん、あと、知らない吸血鬼にもだよ。真祖から言われているだろうけど」
「うん、しらないひとたちにはきをつける」
「いい子いい子」
グリースがそう言って頭を撫で続けると、ルリは嬉しそうにはにかんだ。
ヴァイスの人間への憎悪はまだ残っている。
そして現在の人間政府がやろうとしている事には我慢するのも限度が来ている状態だ。
ルリが居るから、戦争が起きずに済んでいる。
もし、ルリが人間政府に連れ去られるようなことがあれば――
二千年前の戦争が再び始まる、そうすれば人間の国は滅んで、ほとんどの人間は吸血鬼のために血を提供するだけに生かされる家畜状態になるだろう。
そうでない人間も吸血鬼からよい扱いはされないだろう。
だから――
戦争だけは、避けねばならない。
その時は再び、自分が世界の敵になる、グリースはその覚悟があった。
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