不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

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はなよめの傷

おにいちゃんとたべるおにぎり ~亡命の魔術師~

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 グリースはルリの頭を優しく撫で続けながら言った。
「……怖いお話だったね、ごめんよ」
「ううん、だいじょうぶ」
「そうか、ありがとう」
 グリースがそう言うと、ルリはぬいぐるみを抱いたままグリースに抱き着いてきた。
「ぐりーすおにいちゃんもよくわからないけどいっぱいるりのためにがんばってくれてるのわかった、いつもありがとう」
 ルリの言葉にずきんと胸が痛んだ。

――追い込んでしまったのは俺たちだっていうのに――

「それとね、きょうもおねえちゃんのゆめをみたの、すこしだけぐあいがよくなってるとおもったの」
「……どうだった?」
「いろいろおはなししてね、さいごにね、いまのわたしとおにいちゃんたちとおじちゃんたちかぞくみたいっていったら、わらったのへんなかぞくねって」
「……」
「それでね、わたしのときもそうだったらいいなぁっていってた」
「夢はそれでおしまい?」
「うん」
 グリースの言葉に、ルリは頷いた。

――家族、家族ね……――

 グリースは少々微妙な気持ちになった。

――あいつらと家族はちょっとなぁ……――

 アルジェントには嫌われている、グリースはヴァイスを二千年まえ死ぬ寸前までぶちのめした、ヴァイスは配下の吸血鬼達が人間達と一緒に、グリースの隠れ里を襲ってグリースの恋人二人を死なせて、グリースを不死人にしたというのがある。
 ヴァイスの件は間接的だが、配下を暴走させたまま放って置いたという罪があるのでそこをいまだにグリースは許していない。
 ヴァイスもその件だけは許されないと自分の罪を受け入れている。

――……めっちゃ複雑な家族じゃん、ちょっとバランス崩れたら殺し合いになるぞこれ――

 グリースは遠い目をした。
 しばらくそうしていると――
「何をしているグリース」
 怒りのこもった、いつも通りの人物、ルリの世話役にしてこの城で最も位の高い魔術師にしてヴァイス(真祖)の忠実な配下――アルジェントが不機嫌を隠さずこちらを見ている。

 ルリに自分の顔が見えていないと分かっていて自分にそうやって敵意を向けるのは正直どうにかして欲しい。

「――ルリちゃん、そろそろ俺帰るね」
「もうかえっちゃうの?」
「うん、ちょっと色々とやることがあってね」
 ルリの髪を優しくすいて頬を撫でる。
「じゃあ、またねのちゅー」
「ちょうだい」
 ルリはグリースの頬に、キスをし、グリースもルリの頬にキスをした。

 それを見たアルジェントの表情がびきぃと音が鳴りそうなほど引きつったのに気づいたのはグリースだけだった。

 グリースはいつものように窓に寄りかかって姿を消した。
 ルリは窓に向かって手を振った。


 アルジェントはまたどうすればいいか悩んだ。

――自分の顔を殴ったら悲鳴を上げられた、なら――

 後ろ向いて、目の前にある頑丈な扉に、頭突きをした。

――昨日程ではないが、痛い――

 自分の魔術でも壊せない程頑丈な物質でできているのだ、使い方によっては人間の頭蓋骨を粉々にすることできる。
 魔術で自分の肉体を硬化してなかったら、痛いどころの話ではなかった。
 主に不敬を働いた吸血鬼が主に首を掴まれぶん投げられ、トマトのようにぶちゃりと心臓も潰れてそのまま死んだというのも聞いたことがある。
 使いようによってはこの建物の材質は危険だったと額の痛みを感じながら思った。
 笑みをはりつけて振り替えると、ルリが不安そうな顔をしてこちらを見てる。
「ルリ様、おはようございます」
「……おはようあるじぇんとおにいちゃん」
 何か言いたそうだ。
「どうなさいましたか?」
「……こけたの? おでこからちがでてるよ?」
 アルジェントは手をあてた。
 痛みの方に気がいって、血が流れているのに全く気付いてなかった。
「え、ええ、先ほど扉を閉める時に足を滑らせました」
「いたい?」
 ルリは不安げにこちらを見ている。
「いいえ、それほど」

――割と痛い――

 本心を押し殺して笑顔でこたえつつ、血をハンカチで拭った後、治癒魔法をかける。
 痛みは大分弱まった。
「ご心配おかけしました」
 ルリに近づき、かがんで言うとルリはアルジェントの額をじっと見つめている。
 すこしして、ルリがアルジェントの額を優しく撫でた。
「いたいのよくなりますように」
「ありがとうございます、ルリ様」
 アルジェントは気持ち的に痛みがより薄まったように感じた。
「では今日は何をいたしましょう?」
「あのね、おねがいがあるの」
「なんでしょう?」
「おにぎりたべたいの……ぐなしの、のりをまいてあるの」
「……『おにぎり』?」
 人間の国で監視され、ロクな食事をとったことのないアルジェントには全く想像のできない食べ物だった。

――なにかを握るのか?――

 とりあえず、裏方のヴィオレに頼もうとアルジェントは一度部屋から出ることにした。
「少々おまちください」
 そう言って、アルジェントはルリが食事を求めた際いつでも提供でくるようにと裏方に回ったヴィオレは厨房にいるだろうと思い厨房へと転移した。
「奥方様は何をご所望ですか?」
 間接的にしか手伝えないヴィオレは奥方からの要望は何かと見た感じ表情は冷静そうに見えてない面では喜んでいるのがまるわかりな雰囲気をだしている。
「それが……おにぎり、と。ぐなしの、のりをまいてあるの、と」
「……具なしのおにぎりですか人間は割と具が入った物を食べているそうですが、奥方様の好みは具なしなのですね……」
 ヴィオレはそう言って、何かの小型の機械を開けた、白い細かい物体がぎっしりつまり、白い煙のようなものが立ち上っている。
「何ですか、それは」
「ご飯です、奥方様の住んでいた地域は米という穀物が主食の地域で、それを殻などを取り精米した、白米と呼ばれる状態の物を水で洗って、水と一緒に炊いてできるものです」
 ヴィオレはラップを広げ、塩をラップの上に振りかけた。
 その上に「ご飯」を乗せ、更に塩をかけて、ラップで包み握った。
 三角上のぶったいになった、ヴィオレはラップをはがし、黒っぽい物体をまいた。
「何ですか、それは」
「海苔です。海藻から作られた物です」
 ヴィオレは同じ調子で、三個程「おにぎり」を作った。
「足りなかったらまた作りますので、奥方様に持って行ってください」
 アルジェントは「おにぎり」の乗せられた皿を持った。
「わかりました」
 アルジェントは頷き、姿を消した。


「ああ、アルジェントが羨ましい!! 私とて奥方様、なにより今の奥方様は幼子と同様、かわいがりたい綺麗なお洋服を着せて差し上げたい一緒に遊んで差し上げたい!!」
 アルジェントが居なくなった厨房でヴィオレはすました顔を崩して地団駄を踏んだ。
 世話役という意味ではヴィオレの方が立場が上だが、実際の階級的にはアルジェントの方が上の立場にあり、年功的にはヴィオレが上であり、非常に複雑な立場なため、ヴィオレは人間のアルジェントに口できつく言う位しかできなかった、彼が自分の立場を自分から低くしているのも分かってるから色々とヴィオレ的には不満が満載だった。
 その上、心から慕っているルリのお世話を間接的にしかできないというのも辛かった、早く元の様に戻ってお世話させていただきたい、ヴィオレはそう思いながら、再び裏方作業を続けた。


 アルジェントは部屋に戻ると、ルリはさっきと変わらずぬいぐるみを抱きしめたまま、ベッドに腰をかけていた。
「ルリ様、こちらでよろしいでしょうか……?」
 ヴィオレを信頼してないわけではないが、「おにぎり」というものを見たことがないアルジェントにとって、これが正解か分からなかった。
「おにぎり!」
 ルリは手を伸ばして、掴んで食べ始めた。
「……」

――なるほど、そういう風に食べる食べ物なのか――

 アルジェントは前回のホットケーキもそうだが、ルリの食べる物の傾向がいまいちよくわからなかった。
 吸血鬼の国に来てから食生活ががらっと変わったが、人間の国でも地域によって食生活が異なるが、混じっているところもあるのかと感じた。
 ルリが言った「おにぎり」は聞いたことがない、だが「ホットケーキ」はこちらに来て食べたことがある、粗末なパンを食べていた隔離場所以外のところでは似た者で「パンケーキ」というのがあるらしいがいまいち区別がつかない。

 ルリは二個目をとり、もう一個に手を伸ばした。
「ルリ様、そんなに一気に食べて……」
「あるじぇんとおにいちゃんもどうぞ」
「え?」
 ルリに「おにぎり」を差し出される。
 断るわけにはいかない。
「ありがとうございます」
 食べたことのないものだ、おそるおそる口を開き、かぶりつく。

 吸血鬼の国に亡命して、初めて出された、食事の味がした。
 優しい味、食べたことのないのに懐かしい味。

「……あるじぇんとおにいちゃんどうしたの? いたいの?」
 気が付いていたら、涙が零れていた。
「いえ、だいじょうぶです」
「おしおしょっぱい?」
「いいえ、美味しいです」
 アルジェントは涙をぬぐって笑顔で言うと、ルリは安心したような顔した。

 ふと思い出したのだ。
 今も隔離され、苦しみを強いられている魔術を使える者達のことを。

――逃げられない彼らをどうやれば救ってやれただろう――

 一人強大な魔力を持って亡命したアルジェントは人間の国で苦しんでいる同胞のことを久方ぶりに思い出した。
 忘れなければ罪悪感に押し潰れそうだからだ。

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