46 / 96
はなよめの傷
よくないこと ~襲撃されそして忠義の首は落ちた~
しおりを挟む唇を離すと、ルリは安心したような顔をした。
ルリにとって「怖いこと」などをしなかったという安心感だろう。
「……他に誰かにキスをねだったりしたか?」
ふと気になり、ヴァイスはルリに尋ねた。
「ぐりーすおにいちゃんとあるじぇんとおにいちゃん。あるじぇんとおにいちゃんなんか『おそれおおくてできない』っていったのに、ぐりーすおにいちゃんとちゅーしたら、るりのくちはんかちでごしごししてからちゅーした」
何となく予想はついていたが、自分だけじゃない事がヴァイスには少し残念だった。
「でもみんなしたいれてこない、あのこわいひとしたいれてきたの、だからまだおくちへん、はみがきしたのに」
どうやらルリは口内も舌で犯された感覚がどうやってもぬけないのに嫌な気分になっているようだ。
「それをあの二人には言ったか?」
「ううん、ちゅーだけ、なんかこうろんしてたからいったらこまるかなって」
「……では、もう一度キスをしてよいか、舌でお前の舌に触れたい」
「……それいじょうしない?」
「しない」
「ならいいよ」
ヴァイスはルリの薄紅色の唇に再び唇を重ね、今度は舌を入れた。
ルリの何処か怯えて引っ込んでいる舌に、軽く自分の舌を触れさせ、それで口づけを終えた。
「……すこしへんなのぬけた」
「そうか、それで我慢してくれ」
「うん」
本当は舌を絡ませたかったが、それではルリの信頼を裏切りかねない為、ヴァイスは我慢しながらそう答えた。
「あのね、ゆめのなかのおねえちゃんがよくないことがおきるきがするっていってたの」
「そうか」
精神的に閉じこもったことで本来のルリの第六感が鋭くなっているのだろうかとヴァイスは思った。
ヴァイスもそんな予感はしていた。
人間政府の行動を監視しておかなければならないし、配下たちの監視も強めねばならない。
今回のような事が起きない為に。
ヴァイスは腕の中のルリの髪を撫でる。
出会った時より少しばかり伸びた気がする。
黒い髪、髪が長くなれば美しいだろうと思った。
幼いルリは伸ばしてくれるかもしれないが、本来のルリに戻ったらバッサリ切りそうな予感がした、彼女が髪を伸ばす行為を面倒くさがっていたというのが記載されていたのを思い出す、頭が重くなるのが嫌らしい。
「……さて、今日は何をしたい?」
「……なんだろう、きょうはおもいつかないや、やすんだりしてたのに、すごく、つかれた……なんでだろう……」
ルリは急にうとうとし始めた、本人は休んでいたつもりだが、精神的な負荷が多くて休めてなかったのだろう。
その上、その精神的な負荷が多すぎて、疲労にも今まで気づかなかった、先ほどの口づけで、疲労がどっと表面化したのだろう。
「よい、今日はもう休め」
ヴァイスはルリをベッドに寝かせ、毛布をかける。
「……こわいことおきないといいなぁ」
「大丈夫だとも」
ヴァイスはルリの頭を優しく撫でた。
ルリは小さく頷くと、静かに目を閉じた。
しばらくすると、小さな寝息がヴァイスの耳に届いた。
ヴァイスは部屋を暗くし、部屋を後にした。
それから一週間が経過した。
一週間は何事もなく平和だった。
一週間経過したその日グリースは隠れ家のベッドから起き上がり、ルリの元へ行く準備をする。
鏡で身なりを整える、女でも男でも髭が生えるというが、両性で全く生える気配のない顔を見ながら、変化の一つもない自分の体になんとか今日も納得した。
その直後、違和感を察知した。
人間の国で大量の空間転移が発動したのだ。
グリースはその情報を見て、どこに転移先を見る、場所は吸血鬼の国の真祖の城。
「ついにやりやがったか阿呆共は!!」
グリースは空間転移しようとしたが、バチンとはじかれる。
「連中、色々対策取りやがったなぁ、だが甘いな、転移方法は一つだけじゃないんだよ!!」
グリースはそう言って隠れ家から姿を消した。
『怖い音がきこえる』
大分明るくなり、綺麗な花畑に座っている女の人はルリにそう言った。
「こわいおと?」
ルリは怯えた顔で女の人に尋ねる。
『良くないことがおこる、そんな気がするの』
「また『こわいこと』されるの?」
『……分からない……本当にごめんなさい』
「どうしたの?」
『そういう辛いのばかり貴方に押し付けて、臆病でごめんなさい』
女の人はうつむきルリに謝った。
「……おねえちゃんきずついたからしかたないよ」
ルリは困ったように笑って女の人の頭を撫でた。
ルリは目を覚ました。
いつもの部屋のはずだが、何か違和感を感じる。
ガンガン!!
扉をたたく音にルリは怯えた。
ぬいぐるみを抱きしめ、部屋の隅に移動する。
同時にパリンパリン、パキン、と甲高い何かが壊れる音がたくさん聞こえた。
扉が壊される。
見たことのない恰好をした、何か怖い物を持った人達が入ってきた。
「いたぞターゲットだ!! 確保しろ!!」
その人物達はルリの所に近寄ってルリの腕をつかんだ。
「やだ! はなして!!」
ルリは怖くて逃げようとしたが、ルリの腕をつかんだ人物の力の方がとても強く、また髪もひっぱられ、痛みを感じてルリはぬいぐるみを手放してしまう。
体を拘束され、抱えられ連れていかれる。
「いや! たすけて! たすけておにいちゃん!!」
そう叫ぶと、ルリを連れ去ろうとした人物達の一部が氷漬けになった。
「ルリ様を返せ」
聞き覚えのある声に、声のした方を向ければ、怒った顔をしたアルジェントがいた。
アルジェントは城に突如した不法侵入者達を氷漬けにしながら、ルリの部屋に急いだ。
アルジェントがルリの部屋に近づくと、ルリを拘束し、無理やり連れて行こうとしている者達の姿が目に入った。
串刺しにしてやりたかったがそれを見たらルリが怯えてしまいかねないと、一部の連中を氷漬けにした。
「ルリ様を返せ」
怒りを隠さず、言う。
武装集団は銃を向けてきた。
陣を展開し防御を取るが、銃弾に何かが込められているのか、陣に少しずつ亀裂が入っていく。
「ルリ様目を閉じていてください!!」
大声でルリに向かって言うとルリは困惑したようだったがすぐ目をぎゅっと閉じた。
アルジェントは身体強化を行う。
武装集団の連中の首をねじ切り、銃弾が向けられれば死体を盾にして防ぎながら接近して頭を握りつぶした。
ルリを捕えている最後の一人になるとルリを救出してからかかと落として頭から胴体まで真っ二つにした。
周囲にすさまじい血の匂いが充満する。
「ルリ様、まだ目は閉じていてください」
アルジェントがそう言うとルリは頷いた。
アルジェントは安全な場所がないか城の様子を見るがどこも武装集団がいる。
下手に動くとルリに危険が及ぶ。
主の部屋に武装集団がいる、主が対処しているようだが、主の部屋に連れていくのも得策ではない、武装集団は主の部屋を目指している。
ではどうすればいいかと思案していると足音が聞こえた。
「いたぞ、女を確保しろ!! 怪我を負わせてもかまわん!! 不死人だ!!」
忌々しい愚者共の言葉に、アルジェントは我慢ができなかった。
愚者たちを氷で串刺しにして次々と殺害していく。
しかし、数が多すぎた。
一度まだ拘束されたルリの拘束を引きちぎり、空間の隅に座らせ。
「ここで待っていてください、お守りしますから」
「うん」
不安そうなルリに優しく微笑んでから、武装集団を見て冷徹な表情に戻る。
――ルリ様は守らねば、その結果死ぬことになろうとも――
武装集団の足元が凍る。
次々と凍結し、ガシャンと崩れていった。
武装集団はパニックに陥っているようだった。
アルジェントは冷徹な表情で、弾丸が自分の体をかすろうとも動じず、一人ずつ着実に葬り去っていく。
パニックに陥っていたらしい一人が何かに気づいたように叫んだ。
「女を狙え!! 不死人だから大けがさせても死なないはずだ!! 奴の弱点だ!!」
「?!」
鋭い刃がルリに向かって放たれた。
「ルリ様!!」
アルジェントはルリを庇った。
ルリの耳に何かを切断したような音が聞こえた。
顔を上げる。
「あるじぇんと、おにい、ちゃん?」
アルジェントの首がごとりと落ち、血が噴き出した。
「あ、あ、あ」
「いやあああああああああああああ!!」
ルリの悲鳴が城内に響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる