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はなよめの傷
からだがおかしいの ~発情~
しおりを挟むヴァイスはルリの頬に触った。
今までよりも何処か熱を帯びている。
医師に見せるべきかと思ったが、不死人の症状を見れる医者などこの国には居ない。
体の異変に怯えているルリを優しくなでて、抱きかかえ、ルリの部屋へと転移する。
ベッドに寝かせ、毛布をかけて、枕元にぬいぐるみを置いてやる。
ルリは体の異変が怖いのかぐずぐずと泣き始めた。
「こわいよぅ……」
「傍にいる、落ち着いてほしい」
ヴァイスは頬を撫でながら、涙をぬぐってやる。
「やっほールリちゃん……何、ヴァイスお前ルリちゃんに何しやがった?!」
転移魔術で部屋に侵入してきたグリースは笑顔を浮かべていたが、ルリの様子を見てヴァイスを睨みつけた。
「早とちりは止めぬか。……体がおかしいと言っているのだ、確かに熱も平常時より高い……」
「病気? いやおっかしいなぁ、俺の情報だと不死人は病気とは無縁なはずなんだが……」
グリースも近づき、ルリの体の状態を術で診る。
グリースの顔が引きつる。
「……」
「どうしたグリース」
「いや、あの、これ、マジ?」
「ルリ様お早うござい……真祖様、ご休憩の時間では? そしてグリース貴様相変わらず邪魔……ルリ様? どうなされたのです?」
アルジェントも部屋に入ってきた、この時間帯は棺の中で休んでいるはずの自分を心配して声をかけ、グリースを邪魔者扱いしようとした時、ルリの異変に近づき、かがんでルリの手を握る。
「……熱い……おい、グリース、貴様不死人は病気とは無縁と言ってなかったか?」
アルジェントは引きつった表情をしているグリースを睨みつけた。
「いや、これ風邪とかじゃなくて、その、いや、おれも、ちょっとその……」
「はっきり言え!! ルリ様が苦しんでおられるのだぞ!!」
アルジェントが怒鳴り、グリースの服の襟をつかむ。
「……怒るなよ?」
「アルジェント、グリースから離れよ。グリース申せ、怒りはせぬ」
ヴァイスはアルジェントに命令すると、アルジェントはグリースの服から手を離し、グリースから離れた。
グリースは非常に気まずそうな顔をしたまま、しばらく無言でようやく口を開いたかと思えばとんでもないことを言った。
「ルリちゃん、発情してる」
「「は?」」
思わずアルジェントと声が重なった。
「おい、グリース貴様ふざけてるのか?!」
アルジェントが怒りを隠さず、グリースを睨みつけるが、グリースはカチンときたらしい。
「嘘じゃねぇよ!! じゃあ、お前が調べろよ!!」
「ああ、そうさせてもらう」
アルジェントはルリに近づき、優しく額を撫でながら口を開いた。
「ルリ様、少し診させていただきますね」
「……うん」
ルリは弱弱しい熱っぽい喘ぎ声のような声を言いつつ弱弱しく頷いた。
アルジェントの青い色の目がわずかに光る。
「え……? そ、そんなまさか……?!」
「な、言ったろ」
アルジェントが狼狽えた声を上げる、どうやらグリースが診たのと同じ結果のようだ。
「……グリース、お前発情したことはあるのか?」
「二千年生きてるけど一度もねーぜ!! だから驚いてんだよ!!」
グリースは困惑した表情を浮かべながら答えた。
「……ちょっくら俺人間政府の研究機関侵入してある情報全部覚えてくる」
「すまん」
グリースは姿を消した。
目当て研究機関の場所は残念ながらヴァイスは見つけれていない、グリースは知っているようだが、教えようとしない。
教えたら戦争勃発になりかねないのを分かっているからだ。
ヴァイスはルリの頬を撫でつつ、息を吐く。
「真祖様、お休みになられた方がよろしいのでは……」
アルジェントが声をかけるがヴァイスは首を振った。
「ルリがこのような状態では休むに休めぬ」
「……しんそ、おじちゃん……」
「どうしたルリ」
「……おかあさんたちだいじょうぶかなぁ、ぶじ、かなぁ……」
ルリは自分の体の異常で苦しんでいる中でも、人間の国にいる家族たちを心配しているようだった。
人間の国にいる配下の情報では、政府が多少は監視しているようだが、様々な事が重なり、まともに監視できる状況ではなくなっているようだ。
ただ、金銭援助がされているだけという状態らしい。
家族に危害が加えられているという情報はない。
「……大丈夫だそうだ、無事だとも」
「なら……よかった」
ルリは声を絞り出すように言った。
再び辛そうな熱っぽい小さな、切なげな声がルリの口からこぼれる。
その様にぞわりと欲情しかけるが、ヴァイスは必死に押さえ込む。
今のルリは「性行為」は「怖いこと」なのだ、欲情のまま抱いてしまえば、ルリの今までの信頼を裏切ることになる。
何とか欲情を押さえ込みながら待っていると、げんなりした表情のグリースが姿を現した。
「どうだったのだ?」
「……まぁ、色々見たくない情報もみたけど、ぶっちゃけよう、発情はどうやら不死人の女だけの症状らしい」
「男にはないのか?」
「女だけみたいだ、まぁ、その女の不死人ルリちゃん以外に今のところ一人しかいないから百パーセントって言いきれないんだけどさ」
グリースはげんなりした表情のまま続ける。
「……不死人の女はどうやら孕む要素が強いらしい、人間は卵子製造には上限があるけど、不死人になった途端その上限が無くなる、常に妊娠しようと肉体は働くらしい。その反動で、性行為――つまり妊娠させるような行為が行われないと、体が発情すると思われる、ってのが俺が調べた調査内容の一部だ。推測しかできない、何せ不死人の女はこの世に現在二人しかいないんだ」
「……ルリ様と、人間の国にいる者ですか」
「そ、以前幼児退行したルリちゃんじゃなくてこちらにしないかーって言われてた奴」
「……その女がどんな実験をされているかはどうでもいい、ルリ様のこの状況をどうすればいいか答えがないではないか!」
「いや、察しろよ」
怒鳴るアルジェントに、グリースはげんなりとした表情で返した。
「……おい、まさか」
「やっと察したか」
「『性行為』することで発情は収まるんだよ」
グリースの発言に、周囲の空気がしんと鎮まり、ルリの熱っぽい喘ぎ声じみた声だけが耳に届く。
「できる訳がないだろう!!」
「俺だってやりたくねーよ!!」
アルジェントがグリースに噛みつくように言うと、グリースは噛みつくように反論した。
「時間経過で治ったという記録はなかったのか?!」
「残念ながらありませんでしたー!! あったらそっちも報告してるっつの!!」
噛みつく様な会話をしているアルジェントとグリースを見て、ヴァイスは額を抑えて盛大にため息をついた。
「……だが、このままだとルリはずっとこのままなのだろう?」
「まぁー現時点の情報だとね、もしかしたら例外があるかもしれないけどな」
「……一週間、一週間様子を見るとしよう」
「一週間ですか?」
「ああ、状態がよくなれば手を出さず見守る、だがそれで状態が悪化した場合は……」
「……この中の誰かがルリちゃんに『怖いこと』をする、と」
「「「……」」」
部屋の空気が再び鎮まり、ルリの喘ぎ声のような声だけが響く。
「やべぇ、今回俺立候補できる気がしねぇ、中身が幼女だもん」
グリースが頭を抱えた。
「貴様が嫌われ役になればいいと思うが、貴様がルリ様を抱くというのも非常に不愉快だ!!」
「……私が」
「ヴァイステメェは立候補すんな!!」
「真祖様、貴方様はこの嫌われ役になるのをやるのはお止め下さい!!」
「……何故だ」
「言っちゃ悪いがお前この三人で一番好感度低いんだぞ、余計下げてどうする」
「真祖様が嫌われるようなことがあれば困ります!」
「……だが、お前たちはどうやってやるのだ」
ヴァイスの言葉に、グリースは少し考えて答えた。
「ルリちゃんは術にはかかりやすい、だから眠ってもらうかなり深めにな」
「……それならルリ様が怖がることもない……!!」
「まぁ、万が一目を覚ました場合も考えてヴァイス、お前は止めておけ」
「……」
「で、問題は俺とアルジェント、どっちがその役目をやるかだ」
「私がやる、貴様にルリ様を抱かせるのだけは断固反対だ」
「おーありがてぇな、俺も中身が幼女だと抱ける気がしなかったんでな」
アルジェントの言葉にグリースは皮肉たっぷりの表情で返した。
アルジェントはグリースを睨みつけている。
ヴァイスは心の中で深いため息をついた。
ある意味蚊帳の外扱いになっているのが辛かったのと、グリースにルリからの好感度が一番低いという事実を告げられて落ち込んだのだ。
低いのに、運悪く目覚めて、また近づいてくれなくなるのは堪える。
元から許可を出していたアルジェントならまぁいいだろうと、自分を納得させた。
頭の中に、この状態のルリに、カルコスがまた危害を加えたらという考えが浮かんだ。
アレの忠誠心は歪すぎる。
未だに、ルリの事を軽んじているのだ、ヴィオレの罰を受けながら。
カルコスにはしばらくの間城の外の任務を命じようと、決めた。
「じゃあ、とりあえず、ルリちゃんの様子見な」
「分かっている」
「……治まればよいのだが……」
ヴァイスは祈るように呟いた。
一週間、三人はルリの様子を見守り続けた。
ルリの様子は一日経つごとに悪化していき、一週間経過する頃には――
汗で体が濡れ、並人間や吸血鬼では正気を失いかねない程のフェロモンを放ち、体の疼きのひどさにベッドから起き上がることもままならなくなっていた。
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