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傷深き花嫁
おやすみなさい、お早う ~目覚め~
しおりを挟むルリは明るい花畑で女の人とお話をしていた。
「それでね、昨日はね……」
『ふふ、それは良いことね』
女の人は笑顔でルリの頭を撫でていた。
長い髪は短くなり、表情がはっきり見えるようになった。
花畑は素敵な空間になった。
ただ、ルリに一つだけ気がかりがあった。
「……おねえちゃん、あしのやつ、とれないの?」
『……』
女の人の足には枷と鎖がついていた。
その枷と鎖の所為で女の人はここから動けないのをルリは知っていた。
「おねえちゃん、だいじょうぶだよ」
ルリが女の人の頭を撫でる。
『……まだ、怖いの、色んな事が怖いの……』
ルリは女の人を抱きしめた。
「おにいちゃんたちとおじちゃんがまもってくれるよ」
『……私はまだ、その三人も怖いの……』
グリースが部屋に入ると、ルリはまだ眠っていた。
ルリの発情事件から一か月が経過した。
ヴァイスとアルジェントとヴィオレが配下たちの動向と人間政府の動向に神経をとがらせている。
人間政府は、真祖の城を強襲したということをこちら側とマスメディアに責められ、関係者は全員逮捕される事案になったり、与党、野党、官僚、研究機関も色々吸血鬼側にバレたら不味い情報が何故かマスメディアと吸血鬼側にバレて責められ、政府の状態はがったがただ。
ルリの実家や友人たちを見ているが、彼らを監視していたり何か接触する余裕もなくなっている。
国として傾きかけているのだ。
あと、聖なるものを作っていた宗教団体も関係者と「聖女」も逮捕され全員刑務所に入れられている。
真祖の命を狙うようなものを作った責任を取らされたのだ、作らねばよかったのに、身勝手な正義は身を亡ぼすなぁと、グリースは思った。
「ん……」
ルリが目を覚ます、グリースはベッドに近寄り、ルリの顔を覗き込む。
「ルリちゃん、おはよう」
「ぐりーすおにいちゃんおはよう」
「『おねえちゃん』は元気だった?」
そう問いかけるとルリは困ったような顔をした。
「おねえちゃん、いろんなことがこわいって……おにいちゃんたちとおじちゃんもこわいって……」
「……そっか」
グリースは寂し気に笑ってルリの頭を撫でた。
傷は大分癒えただが、恐怖心が消えない、それが枷となって元のルリが表にまだ出てこれない原因なのだろう。
恐怖心を作ったのは自分たち、そしてこれまでの事。
人間政府の行い、配下の暴走。
また、それが起きたら。
幼いルリは自分達が守ってくれると言っただろう、だが元のルリは自分達のこともまだ怖いのだ。
もし、表に出て前のようなことがあったら、そう怯えているのだ。
こればっかりは時間をかけてそれがほどけるのを待つしかないとグリースは心の中でため息をついた。
「ルリ様、おはようございます。グリース貴様は失せろ」
「あるじぇんとおにいちゃんおはよう、あとおくちわるいのめー」
「グリース様、今すぐご帰宅のしていただけないでしょうか?」
「遠回しかつ丁寧になっただけじゃねぇか!!」
アルジェントの発言にグリースは腹を立てた。
まだ力の差は広いが、アルジェントも成長要素があるなら、グリースと並ぶかもしれない。
そうなると色々面倒が増えると、グリースの頭痛の種にもなっていた。
「ヤな奴が不死人になったから面倒だな本当」
「貴様と同類扱いだけは心外だ」
「こっちもだよ馬鹿野郎」
「おにいちゃんたち、けんか、め!」
ルリは頬を膨らませてすねるので、口喧嘩はそこで中断した。
「分かってる、ルリちゃん、さて今日は何をしたい?」
「分かっております、ルリ様。何をご要望でしょうか?」
「えっとねー」
グリース達がルリに何をしてほしいか尋ねるとルリは考え始めた。
今日も平穏そうだなぁ……とグリースが考えているとグリースの耳に何かが破壊される音が聞こえてきた。
アルジェントの耳にも届いたのか、アルジェントは立ち上がり、険しい表情をした。
ルリにも聞こえているらしい、この音に怖いイメージを抱いているのか、グリースにしがみついてきた。
『皆の者』
グリースとアルジェントの耳に真祖の声が響く。
ルリには聞こえてないのか、グリースにしがみついたままだ。
『人間政府から「吸血鬼を滅ぼす」という名目をうたった組織が兵器などを奪ってこちらに攻撃を仕掛けているそうだ、速やかに皆殺しにしろ』
「――ルリ様、申し訳ございません、私急用ができました、ですので失礼いたします。ルリ様、くれぐれも部屋から出てはいけませんよ」
「……うん」
ルリが小さく返事をするとアルジェントは微笑み一礼して部屋から出て行った、部屋に幾重にも結界がはられ、鍵がかかる音がした。
「ぐりーすおにいちゃん……」
「俺は今回ここにいる、ルリちゃん大丈夫だよ」
ルリを抱きしめる。
ルリは少しだけ安心したようだった。
グリースの耳に様々な音が届く。
どうやら相手は相当厄介な代物を持っているらしい。
こんな代物を隠し持っていたのが知られれば人間政府はかなり立場が危うくなるだろう。
否、もう既に危うい。
人間の国の内部ではもう「吸血鬼の技術も上だから任せて自分たちは従う側に回る方がいい」という声の方が多くなっているのだ、人間政府の隠ぺいしていたことと、この城を強襲したことで。
だが、一部の「吸血鬼がいない方が人間は発展する」という連中が今回問題行動を起こしたのだろう。
馬鹿な連中だ、ある意味無敵の真祖と、強大な魔術を扱う不死人がいる場所に攻め込んでいるのだ、他の連中ならともかく、この二人が敵に回った時点で敗北は確定だ。
人間政府は一体どのような謝罪をするのか、グリースは他人事だが興味がわいた。
バリンと高い音と破壊音が聞こえた。
「……ルリちゃん、目を閉じて耳を塞いで」
「……うん」
グリースはルリを抱きかかえてそういうと、彼女は大人しく従い目を閉じて耳を塞いだ。
「ここにも吸血鬼の仲間がいるぞ!!」
「殺せ、殺せ……?!」
入ってきた連中の一人が一瞬で燃え上がり灰と化した。
「――炎の不死人グリースに喧嘩を売ったのはお前たちだ、全員死ね」
グリースはぎろりと睨みつけ、武装集団を一人残らず燃やした。
悲鳴を上げることなく、全員灰になった。
「……掃除はアルジェントに任せるか……?」
グリースは異変に気付いた。
ルリがぐったりしているのだ。
「どうした、ルリちゃん! おい!!」
花畑でルリは女の人に抱き着きながら泣いていた。
「こわいよぉ、こわいよぉ」
『……』
「おにいちゃんたちとおじちゃんたちがまもってくれる、でもこわいよぉ」
『……』
女の人は無言だった。
泣きじゃくるルリの頭を無言で撫でている。
『……大人が子どもを守らなきゃそうよね、私はお母さんにそう守られてきた……』
ぐずぐずと泣きじゃくる「ルリ」の頭を撫でながら女の人――否、ルリは目を開けた。
ガチャン
足の枷が落ちる。
「ごめんね、今までいっぱい私の代わりに怖い思いをさせて」
『……おねえちゃん?』
「もう一度、頑張ってみる。それまでゆっくり休んでいて」
『……うん、おねえちゃん、がんばってね』
「うん、頑張るから」
ルリがそう言うと、「ルリ」は花畑に横になり眠った。
ルリは幼い自分の頭を撫でて、立ち上がった。
目の前が白くなる。
「……ん」
「ルリちゃん!」
グリースはルリが意識を取り戻したことに安堵の息を吐いた。
「心配したよ、どうしたんだい、ルリちゃん。何か具合が悪いのかい?」
「……えーとこれ、どういう状況なのグリース」
「?!」
グリースはルリの発言に目を見開いた。
呼び方が「ぐりーすおにいちゃん」では無くなった、幼い口調でも無い。
つまり――
「ルリちゃん、ようやく目覚めてくれたんだね……!!」
「よくわからないけど、子どもの私にばっかり怖い目に合わせてて大人の私が引きこもったまんまなのにそろそろ腹たってきたの!」
「それは人間政府に言ってくれ」
本来のルリは目覚めるなり、グリースに不満をぶつけてきた。
「あと名前忘れたけど、なんなの赤い髪の男!! 人のこと雌とか言いやがってマジ死ね!!」
「あーあいつか、大丈夫、死んだ方がマシって罰をヴァイスの奴が与えたから」
「……ならいいか。ところで何が起きてるの?」
「『吸血鬼は滅べ!』という連中が暴走して真祖の城を強襲してます、絶賛強襲した連中は殲滅されている、以上」
「……教科書で真祖には何も通じないって習わなかったのかなー……」
ルリは遠い目をしていた。
「ルリ様、ご無事ですか!!」
「……うん……無事だけど……」
「!? る、ルリ様!?」
ルリの反応にルリの安否の確認に来たアルジェントも動揺していた。
「元のルリちゃんに戻った、以上」
「そういうことになるかなー」
「し、真祖様に報告しなくては!!」
アルジェントはそう言って姿を消した。
ルリは深いため息をついた、今後への不安等が混じったため息だ。
「目が覚めたのはいいけど、まだ怖いのは変わりないんだよね……」
そう言うルリの表情は明るいものではない、怯え等暗い色に染まっている。
「……」
グリースは彼女にかける言葉が見つからず、彼女を抱きかかえたまま、そっと髪を撫でた。
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