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傷深き花嫁
まだ、怖い
しおりを挟むグリースは城の状態を見る。
ごろごろと人間の死体があちこちで転がっていたが、しばらくすると死体は消えてなくなった。
城に「食われた」のだろう。
城が「食った」情報はヴァイスに伝えられる、人間政府はどうなるのだろうかと思った、今のままだと確実に国を統治する機関としての機能を失いつつある。
この国からの制裁と、この国への賠償で国はガタガタだ。
二千年生きてる吸血鬼はほとんどいないから当時の事でガタガタ文句を言う奴はいないだろう、文句を言う奴は全部グリースが全て滅ぼしている。
真祖であるヴァイスの対応だ、人間への憎悪は消えていない、だがしかし、愛する妻の家族は人間、無碍に扱う事をしたら妻から反感を買いかねない。
両方の行動がグリースの興味を引いた。
「……あの、いつまでこの状態?」
ルリの気まずそうな声にグリースははっとする。
「ああ、ごめんごめん」
グリースはルリをベッドに座らせる。
ルリは何かひどく疲れているのか、そのままベッドに横になった。
「……『目を覚ました』だけなのに、なんか体が疲れてる……頭も重いし……」
「自然な起き方じゃなかったんだろう、本当はもっと時間がかかっても不思議じゃなかった」
グリースはルリの額を撫でる。
そう、本来のルリがまた主人格として出てくるのには早すぎとグリースは感じていたのだ。
幼いルリの怯えようを見て、幼い自分にそれを押し付けている事への罪悪感が出たのだろう。
罪悪感から起きた目覚めはあまり好ましいものではない、ルリはもっと休んでいるべきだった。
こんな時期に城を強襲してきた連中に生きながら燃え続ける苦しみを味合わせてやればよかったと少しばかり思った。
実際ルリの目はまだ、暗い色に染まって見える。
しばらく無理強いなど行わずゆっくり休ませるべきだろう、と思うが問題はあの二人だ。
元のルリが目覚めたことで感情の制御が効かず暴走しかねない、今のルリはまだヒビだらけの器をようやく接着剤でくっつけて形を保っている状態だ。
ちょっとの衝撃でまた壊れかねない。
闇が形を作る。
「ルリ」
「……んぁ?」
眠りに落ちかけたのかぼんやりとした表情でルリはヴァイスを見ていた。
少し不機嫌そうだがルリは起きようとしたが動きがおぼつかないのでグリースは支えた。
「ルリちゃん、無理すんな。横になってな」
「ルリ構わぬ、無理はするな」
「……じゃあそうする……」
ルリは再びグリースに体を補助されながらベッドに横になった。
――しばらく精神安定剤が必要だなこれは――
ルリの精神状態を「診て」グリースは不安定な目覚めになった事に舌打ちする。
ルリは意識を保っているのも酷くらしいのか、眠りに落ちた。
「グリース、ルリの状態はどうだ?」
「非常に不安定だ、しばらくは薬持ってくるわ。後、お前ルリちゃんに無理強いだけはすんな、いいな。後ルリちゃんを不安定にしそうなものとか、事案からは遠ざけろ、いいな」
「そうか……」
「強引な覚醒だったからな、今回の襲撃が原因だ、まだ負傷しているのところに更にショック与えての覚醒だから良くはない」
「ルリ様は?!」
アルジェントがヴァイスからの用事を全て終わらせてきたらしく部屋にやってきた。
「今は寝てる、ヴァイスにも言ったが、今のルリちゃんは非常に不安定だ、無理強いするな、不安定にしそうなものとか、事案からは遠ざけろ、ルリちゃんの精神が安定状態になるにはまだまだ時間が必要だ」
ヴァイスはアルジェントにも釘を刺す。
「じゃあ、俺はルリちゃんの状態『診た』からそれに合った薬作ってくる、くれぐれも対応に気をつけろよ」
グリースはそう言って部屋から姿を消した。
アルジェントは腹立たしいが、ルリの状態に関しては一番把握しており、あらゆる事柄に精通しており、吸血鬼の中でもそれらの専門に特化しているであろう人物よりも優れているグリースの言葉を聞かざる得ない状況に苛立った。
「アルジェント、私は部屋に戻る、ルリに刺激を与えるような輩が来ないようここで見張りをしておれ」
主はそう言って、部屋の扉を直して姿を消した。
アルジェントはベッドに近づき、膝を立ててルリを見る。
表情は苦しそうだ。
うなされているのが分かった。
口からは「やめて」、「痛い」、「怖い」といった言葉が発せられている。
アルジェントはルリの手を握った。
「ルリ様、もう大丈夫ですから、ですからお願いします、今度こそ、どうかどうか――」
アルジェントは最後の言葉を飲み込んだ。
今までのように言えなくなってしまった。
自分の事も愛してほしいという感情が強くなってしまったからだ。
真っ暗だ。
だが、手とかが自分の体に伸びてくる。
動けない。
やめて、痛い、怖い。
犯される感触もする。
やめて、やめて、やめて――!!
なんとか手を伸ばす、誰かが掴んだ。
手を掴まれる感触でルリは目を覚ました、汗で体が非常に不快だ。
視界がまだぼやける、ゆっくりと視界のぼやけが取れていき、目に入ったのは。
自分の手を握るアルジェントの姿だった。
脳裏にアルジェントにされた行為がぶわりと蘇る。
ルリは恐怖に顔を染めて、アルジェントの手を振り払い、背中を向けて震える。
ガチガチと歯が鳴る。
毛布にくるまり、震える。
中身が幼い自分にも手を出した、幼い自分も出れなくなった後は手を出さなくなったが、今はどうか分からない。
真祖も。
グリースだけは不思議と恐怖心がなかった、彼との行為はふわふわして記憶がほとんどないからだ、また彼だけは幼子の自分に手を出さなかった。
だけれど――
愛しているかは別だった。
この三人の誰もルリは愛していないのだ。
また、もし愛せと強要されたら、また自分が壊れるんじゃないかという恐怖が頭にこびりついている。
壊れたら、今度こそ自分が無くなってしまいそうで怖かった。
「……ルリ様」
呼ばれる、だが怖くて声が出ない。
唇が震える、「でていけ」と叫ぶこともできない。
――怖い――
――貴方が怖い――
「ルリ様、お願いです、こちらを向いてください、怖いことは致しません。グリースからの薬をお飲みください」
アルジェントの声が聞こえる。
薬といった、嘘じゃないのなら、多分大丈夫だろう、でも嘘だったらと思うと体が動いてくれなかった。
アルジェントの足音がした。
「ルリ様、大丈夫です、ですから薬をお飲みください」
ルリの向いてる方に移動して、薬と水の入ったグラスを見せてきた。
ルリはなんとか起き上がり、薬を口に入れ、水を飲み干した。
空になったグラスを渡す。
上半身を起こしてるのも辛くて、またベッドに倒れこみそうになった。
アルジェントがルリの体を支えて、ルリを静かに寝かせた。
アルジェントは心配そうな顔をしながら、ルリの頬を撫でてきた。
ルリは怖くて、体をこわばらせる。
「……ゆっくりお休みください」
アルジェントはそう言ってルリに頭を下げると、部屋から出て行った。
部屋から出る音がしたのだ。
ルリは息を吐いた、少し落ち着いたのだ。
ルリは部屋の真っ黒な天井を見ながらしばらくぼんやりしていた。
眠気がやってきた。
ルリはその眠気に抗うことなく、眠りに落ちた。
綺麗な花畑だ、幼い自分が膝枕をしている。
『いたいいたいだよ、うごいたらだめだよ』
そう言っても気になったので腕を見る。
治ったと思っていたのに、また傷がはっきりとついていた、血がにじんでいる。
全身痛むので起き上がってみるとあちこち傷だらけだ。
服も血で滲んで汚れているし、裂けている。
『おねえちゃん、いたいいたい』
幼い自分がルリをもう一度寝かせる、膝枕をし、髪を優しく撫でている。
『おねえちゃん、いまたくさんいたいいたいがまたでてきちゃってるから、むりしちゃだめだよ』
「……良くなったと思ってたけど、無茶だったのかやっぱり」
『……おにいちゃんたちもおじちゃんもこわくないよ』
幼い自分が言い聞かせるように言う。
「……でもされたことが頭にこびりついてるの、当分は無理そう」
『いたいいいたいがつらくなったら、ここでやすめばいいよ』
「……最悪それも考えるわ」
ルリはそう言って目を閉じた。
目を覚ましたら、歪な日常が始まるのだ。
その歪さが、自分を壊す恐怖を抱えながら、ルリは夢の中で少しばかりの休息に浸る。
目を覚ましたら、少しでも幸せになれるようにと願いながら。
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