不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

文字の大きさ
52 / 96
傷深き花嫁

まだ、怖い

しおりを挟む


 グリースは城の状態を見る。
 ごろごろと人間の死体があちこちで転がっていたが、しばらくすると死体は消えてなくなった。
 城に「食われた」のだろう。
 城が「食った」情報はヴァイスに伝えられる、人間政府はどうなるのだろうかと思った、今のままだと確実に国を統治する機関としての機能を失いつつある。
 この国からの制裁と、この国への賠償で国はガタガタだ。
 二千年生きてる吸血鬼はほとんどいないから当時の事でガタガタ文句を言う奴はいないだろう、文句を言う奴は全部グリースが全て滅ぼしている。
 真祖であるヴァイスの対応だ、人間への憎悪は消えていない、だがしかし、愛する妻の家族は人間、無碍に扱う事をしたら妻から反感を買いかねない。
 両方の行動がグリースの興味を引いた。

「……あの、いつまでこの状態?」
 ルリの気まずそうな声にグリースははっとする。
「ああ、ごめんごめん」
 グリースはルリをベッドに座らせる。
 ルリは何かひどく疲れているのか、そのままベッドに横になった。
「……『目を覚ました』だけなのに、なんか体が疲れてる……頭も重いし……」
「自然な起き方じゃなかったんだろう、本当はもっと時間がかかっても不思議じゃなかった」
 グリースはルリの額を撫でる。

 そう、本来のルリがまた主人格として出てくるのには早すぎとグリースは感じていたのだ。
 幼いルリの怯えようを見て、幼い自分にそれを押し付けている事への罪悪感が出たのだろう。
 罪悪感から起きた目覚めはあまり好ましいものではない、ルリはもっと休んでいるべきだった。
 こんな時期に城を強襲してきた連中に生きながら燃え続ける苦しみを味合わせてやればよかったと少しばかり思った。

 実際ルリの目はまだ、暗い色に染まって見える。
 しばらく無理強いなど行わずゆっくり休ませるべきだろう、と思うが問題はあの二人だ。
 元のルリが目覚めたことで感情の制御が効かず暴走しかねない、今のルリはまだヒビだらけの器をようやく接着剤でくっつけて形を保っている状態だ。
 ちょっとの衝撃でまた壊れかねない。

 闇が形を作る。
「ルリ」
「……んぁ?」
 眠りに落ちかけたのかぼんやりとした表情でルリはヴァイスを見ていた。
 少し不機嫌そうだがルリは起きようとしたが動きがおぼつかないのでグリースは支えた。
「ルリちゃん、無理すんな。横になってな」
「ルリ構わぬ、無理はするな」
「……じゃあそうする……」
 ルリは再びグリースに体を補助されながらベッドに横になった。

――しばらく精神安定剤が必要だなこれは――

 ルリの精神状態を「診て」グリースは不安定な目覚めになった事に舌打ちする。
 ルリは意識を保っているのも酷くらしいのか、眠りに落ちた。
「グリース、ルリの状態はどうだ?」
「非常に不安定だ、しばらくは薬持ってくるわ。後、お前ルリちゃんに無理強いだけはすんな、いいな。後ルリちゃんを不安定にしそうなものとか、事案からは遠ざけろ、いいな」
「そうか……」
「強引な覚醒だったからな、今回の襲撃が原因だ、まだ負傷しているのところに更にショック与えての覚醒だから良くはない」
「ルリ様は?!」
 アルジェントがヴァイスからの用事を全て終わらせてきたらしく部屋にやってきた。
「今は寝てる、ヴァイスにも言ったが、今のルリちゃんは非常に不安定だ、無理強いするな、不安定にしそうなものとか、事案からは遠ざけろ、ルリちゃんの精神が安定状態になるにはまだまだ時間が必要だ」
 ヴァイスはアルジェントにも釘を刺す。
「じゃあ、俺はルリちゃんの状態『診た』からそれに合った薬作ってくる、くれぐれも対応に気をつけろよ」
 グリースはそう言って部屋から姿を消した。

 アルジェントは腹立たしいが、ルリの状態に関しては一番把握しており、あらゆる事柄に精通しており、吸血鬼の中でもそれらの専門に特化しているであろう人物よりも優れているグリースの言葉を聞かざる得ない状況に苛立った。
「アルジェント、私は部屋に戻る、ルリに刺激を与えるような輩が来ないようここで見張りをしておれ」
 主はそう言って、部屋の扉を直して姿を消した。
 アルジェントはベッドに近づき、膝を立ててルリを見る。
 表情は苦しそうだ。
 うなされているのが分かった。
 口からは「やめて」、「痛い」、「怖い」といった言葉が発せられている。
 アルジェントはルリの手を握った。
「ルリ様、もう大丈夫ですから、ですからお願いします、今度こそ、どうかどうか――」
 アルジェントは最後の言葉を飲み込んだ。
 今までのように言えなくなってしまった。

 自分の事も愛してほしいという感情が強くなってしまったからだ。


 真っ暗だ。
 だが、手とかが自分の体に伸びてくる。
 動けない。
 やめて、痛い、怖い。
 犯される感触もする。
 やめて、やめて、やめて――!!
 なんとか手を伸ばす、誰かが掴んだ。


 手を掴まれる感触でルリは目を覚ました、汗で体が非常に不快だ。
 視界がまだぼやける、ゆっくりと視界のぼやけが取れていき、目に入ったのは。
 自分の手を握るアルジェントの姿だった。
 脳裏にアルジェントにされた行為がぶわりと蘇る。
 ルリは恐怖に顔を染めて、アルジェントの手を振り払い、背中を向けて震える。
 ガチガチと歯が鳴る。
 毛布にくるまり、震える。

 中身が幼い自分にも手を出した、幼い自分も出れなくなった後は手を出さなくなったが、今はどうか分からない。
 真祖も。
 グリースだけは不思議と恐怖心がなかった、彼との行為はふわふわして記憶がほとんどないからだ、また彼だけは幼子の自分に手を出さなかった。
 だけれど――

 愛しているかは別だった。
 この三人の誰もルリは愛していないのだ。
 また、もし愛せと強要されたら、また自分が壊れるんじゃないかという恐怖が頭にこびりついている。
 壊れたら、今度こそ自分が無くなってしまいそうで怖かった。

「……ルリ様」

 呼ばれる、だが怖くて声が出ない。
 唇が震える、「でていけ」と叫ぶこともできない。

――怖い――
――貴方が怖い――

「ルリ様、お願いです、こちらを向いてください、怖いことは致しません。グリースからの薬をお飲みください」
 アルジェントの声が聞こえる。
 薬といった、嘘じゃないのなら、多分大丈夫だろう、でも嘘だったらと思うと体が動いてくれなかった。
 アルジェントの足音がした。
「ルリ様、大丈夫です、ですから薬をお飲みください」
 ルリの向いてる方に移動して、薬と水の入ったグラスを見せてきた。
 ルリはなんとか起き上がり、薬を口に入れ、水を飲み干した。
 空になったグラスを渡す。
 上半身を起こしてるのも辛くて、またベッドに倒れこみそうになった。
 アルジェントがルリの体を支えて、ルリを静かに寝かせた。
 アルジェントは心配そうな顔をしながら、ルリの頬を撫でてきた。
 ルリは怖くて、体をこわばらせる。
「……ゆっくりお休みください」
 アルジェントはそう言ってルリに頭を下げると、部屋から出て行った。
 部屋から出る音がしたのだ。
 ルリは息を吐いた、少し落ち着いたのだ。
 ルリは部屋の真っ黒な天井を見ながらしばらくぼんやりしていた。
 眠気がやってきた。
 ルリはその眠気に抗うことなく、眠りに落ちた。


 綺麗な花畑だ、幼い自分が膝枕をしている。
『いたいいたいだよ、うごいたらだめだよ』
 そう言っても気になったので腕を見る。
 治ったと思っていたのに、また傷がはっきりとついていた、血がにじんでいる。
 全身痛むので起き上がってみるとあちこち傷だらけだ。
 服も血で滲んで汚れているし、裂けている。
『おねえちゃん、いたいいたい』
 幼い自分がルリをもう一度寝かせる、膝枕をし、髪を優しく撫でている。
『おねえちゃん、いまたくさんいたいいたいがまたでてきちゃってるから、むりしちゃだめだよ』
「……良くなったと思ってたけど、無茶だったのかやっぱり」
『……おにいちゃんたちもおじちゃんもこわくないよ』
 幼い自分が言い聞かせるように言う。
「……でもされたことが頭にこびりついてるの、当分は無理そう」
『いたいいいたいがつらくなったら、ここでやすめばいいよ』
「……最悪それも考えるわ」
 ルリはそう言って目を閉じた。


 目を覚ましたら、歪な日常が始まるのだ。
 その歪さが、自分を壊す恐怖を抱えながら、ルリは夢の中で少しばかりの休息に浸る。
 目を覚ましたら、少しでも幸せになれるようにと願いながら。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...