不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

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君を守るため

こわくなくなれば ~全部お前らが悪い!!~

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 ルリがグリースに連れていかれてから四日が過ぎた。
 アルジェントはいつものように部屋に入る。
 いつもなら、ルリが眠っているか、起きて――

『おはよう』

 そう言ってくれていた。
 だが、その愛しい人は何処にもいない。
 ベッドに近寄り、シーツを撫でる。
 ぬくもりの感触はもうとっくに消えている。

――お会いしたい、この腕で抱きしめたい――

 唇を噛み、泣きたくなるのを堪える。
 指をガリガリと噛む、血が滲むほどに。

――嗚呼、アレが憎いグリースが憎い、羨ましい、疎ましい、消し去ってやりたい――

 愛しい人を連れ去ったグリースへの負の感情がぐるぐると渦巻く。
 血がぽたりと垂れた。
 アルジェントはそれを見て我に返り急いで床に着いた血を雑巾を出現させて拭う。
 そして雑巾を術で洗濯場へ転移させる。
 自分の指を見る、傷は消えていた。
 ふと思い出す、ルリの傷跡は痕跡が残るようになっていた。
 首筋には噛まれたと思われる場所に凹みのような物があった。
 不死人なら傷は全て消えてしまうはず、なのに残るようになった、何故?
 フェロモンも、日に日に薄くなっていった。

 それ以上に、このままグリースが二度と会わせないようにするのではないかという不安があった。

――お会いしたい、どうかあの声をもう一度、そしてもう一度この腕で――

 アルジェントは、此処に居ない最愛の人への思いをただ募らせた。


 配下の者が血が注がれたグラスを持ってヴァイスの元を訪れた。
「要らぬ、下がれ」
 ヴァイスは配下の者に言う。
「真祖様、今日もお飲みになられないのですか?」
 配下の者が不安そうに尋ねてきた。
「飲まぬ、もう一度言う下がれ」
 配下の者は二度目の言葉に、グラスを持ったまま静かに玉座の間を後にした。
 ヴァイスは一人玉座に腰をかけ、深いため息をついた。
 四日が過ぎた。
 一日一日が酷く長く感じる。
 ルリが居なくなってから、全ての時間が酷く長く感じ、一日を過ごすことが苦痛にすら感じられるようになった。
 血も飲む気になれない。
 配下の者が夜伽役の娘をを連れてきたときは、怒鳴り声を上げて追い返した。
 ルリ以外抱く気になれない。
 確かに今考えれば酷いことをしてしまったと思う。
 血を吸い、抱くごとに体は日に日に弱まっていった。
 グリースが来る前日には体が全く動かず、吸血した痕の塞がりも遅く血が首からだらだらと流れていた。
 読唇術を覚えてはいたが、ルリは何も言わなかった。
 何か言いたい事は無かったのか、それとも自分には何を言っても聞いてくれないと思われているのか――おそらく後者だろう。
 自分は要求ばかりし、無理やり血を吸い、体を開かせた。
 無理やり自分の妻にした、家族から引き離して。
 最初の頃なら思い直して帰してやるという選択肢もできたかもしれない。
 だが――

 今はもう、できない。

――傍にいてほしい、もう一度声を聴かせて欲しい、どうか自分を愛してほしい、抱きしめさせてほしい――

 ルリを深く愛しすぎて、離れている今が酷く苦痛なのだ。
 グリースが返さないという選択肢を取ったらどうするべきか、あの存在には勝てないのだ、自分が焼き尽くされる。
 ヴァイスは深いため息をつき、項垂れた。
「ルリ……お前は今どうしているのだ……」
 ヴァイスの呟きに答える者は誰もいない。


「あーニュースとかクソだからそれ以外のがやっぱいいなぁ、こういう動物の番組俺も好きよー」
 グリースはルリとソファに座って、テレビを見ていた。
 座ってるのも支えが必要だった体は、座っているのは自分で保てるようになっていた。 だが、ルリはグリースに甘えているのかグリースに寄りかかってテレビを見ている。
 グリースはルリを見る。
 無表情に近かった表情は、今テレビを見て笑っている。
 だが、まだ声は上手く出ない。
「ルリちゃん、猫好きなの?」

『うん』

 ルリはにっこりと微笑んで答えた。
 四日でかなり改善しているとグリースは思った。
 しかし、まだ城には返せないと思った。
 傷跡などの痕跡はすべてもう綺麗に影も形もなく消えたが、動くのはまだ危なっかしいし、助けを求める場合の「声」が出ないのが問題だ。
 城に来たときとまではいかないが、できる限り精神の状態も肉体の異常もない状態で返すつもりだ。
「……ルリちゃん」
 グリースは少し真面目な声色でルリに声をかけた。

『なあに』

「……城に帰るの、怖い?」

『こわい』

「どこが怖い?」

『また、みんなが、わたしにようきゅうするのがこわい、あいしてとか、からだとか、そういうのがこわい、わたしはあいがわからないから』

「……そっか、まぁまだ帰さないよ安心して。だってまだロクに動けないし、声だって出ないだろう? 帰すとしても元気になってからだよ!」
 グリースは何時もの調子で喋る。
 ルリはグリースを見て、そして何か考えるような雰囲気を出す。
 グリースの服の袖を引っ張る。
「ん? どうしたのルリちゃん」
 ルリの口の動きを読み、グリースの顔が一気に引きつった。
「え? ちょっと待ってルリちゃん君――」

「セックスとかそれ関係怖いんでしょう?」

 グリースがルリに確認するように尋ねると、ルリは頷いた。

『でも、かえったらされるから、なれないと』

 ルリの声のない言葉に、グリースは額に手を当てた。
「……出てくる前にあの二人軽くボコっとけばよかったマジで」
 グリースは深いため息をついた。
 我慢し続けて爆発するルリを少々歪に愛しすぎている二人を思い出し頭痛がした。
 確かに、やるなと言ってもあの二人だ、我慢が最終的にできなくなり手を出すだろう。
 幼児の時最初手を出して以降、よく我慢できたものだと結構驚いたものだ。
 自分が目を離した途端ご覧のあり様だったが。
 一生監視してないといけないのではないかと憂鬱になりそうだったところに、ルリのとんでも発言で頭がフリーズしかけた。

『せいこういになれさせて』

 ――という発言は、爆弾発言だった。
 グリースはルリの手を見る、わずかに震えている。
 少しでも自分の心が傷つかずにいれるようになりたいため、怖いのを我慢しているのが分かった。
 グリースははぁ、とため息をついて髪をかきあげる。
「……わかった、でも、怖いならマジ髪引っ張るなり、腕つねるなりしてね!? ……後、あいつらが強要する可能性があるタイプとは違うかもしれない、それも理解してくれ」
 グリースの言葉にルリは頷いた。
 グリースは絶対噛みついてくるだろうアルジェントと、自分にはそのような事を頼んでこないということに凹むヴァイスの姿が見えた。
 両方が噛みついてきた場合は「日頃の行いだバーカ!!」と罵ってやる気はある。

 あの二人はルリの意思無視して性行為等に及んだりしていたのだ、まずそういうのが来ると考えれる思考がおかしい。

 ただ、今回の頼み事、グリースにはハードルが高いものだった。
 健康的で、元気で、そういうのに興味があるお年頃で、痛いのが苦手という感じであったら喜んでお願いごとを聞いてあげただろう。
 だが今のルリは、不健康で、元気もなく、興味どころか恐怖行為の一つになっていて、快感が苦痛に感じかねないという状態の上、そんなルリに自分は欲情しづらくなっている。
 術と気合でなんとか行為を行う事はできるが、非常に罪悪感が頭に付きまとう。

 罪悪感どころか、独占欲が満たされる思考の持ち主であるアルジェントとヴァイスの思考が非常に羨ましくないものだが羨ましかった。
 何か悲しくて怖い事を克服するために怖い事させなきゃならないんだと頭が痛くなった。

「――ちょっと薬とか足りてるか確認してくるから、ルリちゃんはテレビ見ててここでいい子にしててね?」

『うん』

 グリースは頷いたルリの髪を優しく撫でると、避妊用の薬が足りてるか、期限は大丈夫か確認し、昨日使ったのであと残りわずかということを認識したので急いで転移し薬を補給しに行った。

――嗚呼、もう全部あの野郎どもが悪い!!――
――ルリちゃんを帰す時二人ともぶん殴る!!――

 グリースは苛立ちをルリにではなく、ルリの状態を悪化させた二人に向けた。



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