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君を守るため
しあわせなじかん ~あいつら殴ればよかった!!~
しおりを挟むグリースはヴァイスを不機嫌そうに睨みつけている。
ヴァイスは動かない、近寄れないのだ。
グリースは念のため、強力な結界を隠れ家や自分の住処等に張っている。
自分が許可した相手以外入れない結界、どんな優れた魔術師であってもこの結界を破ることは叶わない、それほど強力な結界だ。
ヴァイスには許可がでていない、だから近づけないのだ。
「……ルリは……どうしている?」
「何でお前に報告しなきゃならないんだ?」
尋ねてきたヴァイスにグリースは嫌味たっぷりに尋ねで返した。
「……」
「散々、ルリちゃんに酷いことしといてよくそんな面できんな? その図太さ羨ましいぜ」
グリースは嫌味を込めてヴァイスを非難する。
「……じゃあ一つだけ教えてやるよ『帰りたくない、怖い』だとよ!!」
ヴァイスはうつむき暗い表情を更に暗くする。
「散々俺がするなって言った事したし、俺がルリちゃんと会う前の対応も酷いし、会ってからも酷いけどな。それに、ルリちゃんが幼児退行した初期の対応も酷かった!! 全部覚えてるんだよ今のルリちゃんは!! お前はルリちゃんの事を乱暴に扱っても壊れない人形程度にしか思ってないんじゃねぇのか?!」
「違う!!」
グリースの言葉に、ヴァイスは即座に顔を上げて否定した。
「じゃあ何だよ、性欲のはけ口にもなる血吸袋か?」
「ふざけるな!!」
「ふざけてんのはどっちだよ!? テメェらだろうが!! ルリちゃんの人生奪うようなことしたのに、ルリちゃんに精神まで踏みにじって、体いたぶって、苦しめて、その上俺との約束も破ってよく面だせたなお前?! 二千年前だったらお前本気で殺してるぞ?! それと今日の俺は夢見が最悪だ!! お前を殺してやりたいくらい!!」
グリースはヴァイスに怒りをぶつける。
「……」
ヴァイスは黙り込んだ。
「言っておくがルリちゃんは帰さねぇぞ、まだロクに動けねぇし、声だってロクにだせねぇ、ようやく表情が変わるようになったばっかりだ」
「……そうか、表情が」
「見せねぇし、会わせねぇからな」
グリースの言葉にヴァイスは再度項垂れた。
「分かったらとっとと帰れ!! それと二度と来るな!! 俺はルリちゃんの療養で忙しいんだ!!」
「……また、来る」
ヴァイスはそう言って姿を消した。
「二度と来るな言ったのに話聞かねぇなあの馬鹿は!!」
グリースは苛立ちながらそう言って、しばらくその場で遠見で城の様子を見てから、ヴァイスが隠れ家の事を誰にも言わず、眠ったのを確認してから隠れ家に戻る。
頭がゆだってるのでシャワーを浴びに行った。
冷水を浴び、頭を冷やす。
頭を冷やし終える頃には体もすっかり冷えていた。
「うわさびぃ」
グリースはそのまま温泉に浸かり、体を温める。
温め終えてから温泉から上がり、脱衣所で下着と服を身に着ける。
ルリはどうしていると思い寝室に向かうとベッドからまた落下して床に這いつくばっていた。
「うわー!!」
グリースは慌ててルリを抱き起しベッドに寝かせる。
「大丈夫? 落ちた時顔とか体とか強くぶつけなかった?」
ルリの顔に触れながら問いかける。
『ううん、いたくない、しろで、された、こととかのほうが、すごい、いたかった、から』
ルリの声になっていない言葉に、グリースは非常に心が重くなった。
――……ヴァイスの奴殴っておけばよかったマジで!!――
ルリに酷いことをしていた一人であるヴァイスが来たのだから、殴ってやればよかったと今更ながら後悔した。
次来たときは約束破りの制裁も込めて殴ってやると決めた。
『どうしたの』
ルリが不安そうな顔をして尋ねてきたので、グリースはヴァイスが来たことは伏せておくことにした、怯えさせかねないからだ。
「ううん、ちょっと今日夢見悪くてさー気分転換に歩こうと思ったらこけるし、シャワーの温度確認忘れて冷水浴びるし、散々だったから今度あいつ等に八つ当たりしにいってやろうって考えてた」
グリースが言うと、かすかな声でルリが笑ってから、何かが頭に浮かんだのか少しだけ不安そうな顔をしてグリースを見る。
『しろから、でたから、もどった、とき、おしおきとか、いたいこと、されない、かな』
「したら即座にもう一回ここに連れてくる、更に帰る期間延長させてもらう。痛いこととかされたら俺にいいな、家出くらいの手伝いはするから」
グリースはルリの頭を撫でる。
『うん、ありがとう』
「どういたしまして」
グリースはルリの頬を撫でる。
「久しぶりに、ルリちゃんのお母さんが作ってくれたご飯食べようか?」
グリースが笑顔で尋ねると、ルリは嬉しそうに頷いた。
グリースは冷えた料理を温めから、テーブルに並べて、ルリの補助を行った。
ルリは前よりも少ない補助で料理を口に運ぶことができるようになっていた。
食事を終えると、グリースは使い魔達に後片付けを任せてルリをソファーに座らせる。
グリースは何となくテレビをつける。
ほとんどのニュースにはつながらない様にしている、ニュースが放映されている時間は何も映らない。
「へー旅行とグルメね」
『じゆうにおそとにでれてたのしくしょくじできるなんて、すてきなこと』
「……」
グリースはルリを抱き寄せて髪を撫でる。
「そうだね」
今のルリにはできない、できなくなっている事だ。
人間の国に戻れば政府の犬がどれだけ排除しようと近寄ってくる。
吸血鬼の国に戻れば不死人特有のフェロモンの所為で吸血鬼達に追われる。
外で安心して風景や食事を楽しめる場所など今のルリにはどこにもないのだ。
まだ五日しか経っていないが、諸悪の根源たちとの接触を断ち切ってしまえばルリの回復は早い方だと感じた。
ただ、回復の中に城でされた事が原因で生まれた状態というのも見えてグリースを腹立たせた。
療養の中でできるだけ控えたい「性行為」、それを城に戻った時怯えなくて済むように慣れさせてほしいと言い出したのもグリースを腹立たせた。
連中が我慢すればいいだけの話なのに、精神がかなり危ういルリが我慢しなきゃいけないのはどういう環境だと。
あの諸悪の根源二人が求めている「愛」を理解できないルリは、自分を「欲のはけ口」扱いとやや認識している節がある。
ルリに「誰かを愛せ」というのは、かなり難易度が高いのだ、これが出来てたらグリースは何一つ悩んでいない。
誰かを愛し、その相手に愛されたらルリの愛はその人物だけのものになる、ヴァイスなら一般的な最良、アルジェントだったら多少ごたつくがヴァイスが許すだろう、自分を愛した場合、わりと問題が起きる、アルジェントが確実に自分を殺しにかかってくる、問題は――それ以外の場合だ。
ルリが一般の人や吸血鬼を愛し、愛された場合その人物とともに幽閉されるか、その人物が殺されるの二択だ。
殺された場合が最悪だ、ルリは完全に精神を壊すだろう。
ヴァイスとアルジェントはの二人はルリを見せたくないという欲で他者から隔離しているが、グリースはその可能性を恐れて今ではルリを完全に他者から隔離した場所に置くことにしているのだ。
初期の頃の政情だったら、家に一時帰宅とかはできたが、今はもうできない。
今のグリースにできることといったら、こうやって隠れ家で一時的に保護する位がやっとなのだ。
もしそれ以上をするとなれば、ルリの望まない道を歩むことになる。
グリースはふぅと息を吐く。
――もう少しどっちもまともなら良かったんだがなぁ――
そんなことを考えながらテレビを見ながらルリの様子にも気を配る。
ルリはテレビを見つめている、羨ましそうな目をしている。
もう手の届かない幸せを、ルリは静かに見つめるしかないのがグリースには辛かった。
『うみ、みにいきたいなぁ』
ルリは遠い目をして声なき声で言う。
「海? ……人がいないけど、それでいいなら連れていけるよ?」
『……ほんとう?』
ルリは目を丸くしている。
無理だろうと思っていたのだろう。
グリースはにっこりと笑ってルリを抱きかかえると、その場から転移した。
転移の光が消えてルリの視界に入ったものは透明度の高いエメラルドグリーンの美しい海と、白い砂浜だった。
グリースはルリを抱きかかえたまま、海に足をつける。
「あーそこまで冷たくないな」
グリースはルリを抱きかかえたままかがむと、ルリはそっと海に手を伸ばし、海水をすくう。
海水はルリの手のひらからあっという間に零れていった。
「潜ってみる?」
『え?』
「大丈夫だから」
グリースがそう言うとルリは頷き、グリースは自分とルリの周囲に術で特殊な膜を張って海の中に潜っていった。
静かに海の中を遊泳する。
ルリは時折近づいてくる小魚たちに手を伸ばしたりして、無邪気な子どものような笑みを浮かべていた。
グリースはこの笑顔が消えるような事態が永遠に来なければいいのにと願った。
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