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眠り姫とともに~一緒に夢を見よう~
たすけて ~君の言葉を聞かせて~
しおりを挟むルリが城に戻る日、ルリは言い出したけれど不安なのかぬいぐるみを抱きしめ、スマートフォンを握りしめている。
「やっぱり怖い?」
「……うん」
グリースの問いかけにルリは不安そうな表情のまま頷いた。
「やっぱりやめる?」
「……ううん」
グリースの言葉に、ルリは不安そうな顔のまま否定した。
グリースはふうと息を吐き頭を掻く。
「……いつ行く?」
「……もう、行く」
「……分かった、じゃあ」
グリースはルリを抱きかかえた。
そして隠れ家の外へ出て、扉に術で鍵をかけてから、転移術を使って城のルリの部屋へと転移した。
部屋に転移すると相変わらず綺麗なままだった。
埃も見当たらない。
グリースがルリをベッドに座らせると、ルリは枕元にぬいぐるみを置いた。
スマートフォンは持ったままだ。
「俺は今日はいつまでいればいい?」
グリースはかがんで、ルリを見る。
ルリはぎゅっとグリースの服の袖を掴んでいる。
「……今日は……寝るまで……傍に……居て」
「わかった」
グリースが頷くと、ルリは安心したような表情を浮かべた。
ガチャリと扉が開く音にルリの表情は怯えに染まり、持っていたスマートフォンを置いてグリースの手を握り始めた。
手が震え、汗ばんでいる。
「――ルリ様、お帰りなさいませ」
静かだが、何処か喜びを隠せてない声が耳に届いた。
だがルリには恐怖を与える声にしか聞こえていないようだ、ルリは返事をすることもできない。
――無理……いや、彼女が言った時また連れて行けばいい、今はそうしよう――
グリースは自分の片手を両手でしっかりと掴んでいるルリの髪を撫でる。
「無理しなくていいんだよ……」
優しく声をかけるが、ルリは手をしっかりと握ったまま小さく首を振った。
グリースはルリがかなり無理をしているのが分かっていた。
けれども、ルリは現状を良しとせず、必死に恐怖と向き合っているのだ。
今自分がやっていいのは、彼女が無理な時また連れ出すことと、彼女が救いを求めた時駆けつけることぐらいだ。
グリースはその日はルリの望み通り彼女が眠るまで傍にいた。
ルリはその日一日、怯えを押し殺したような、助けを求めるような、そんな辛そうな色で顔を染めて凄し、眠るときも中々寝付けず、グリースはアルジェントに出ていくように言って、漸く眠りに落ちた。
ルリが再び城で過ごすようになって明らかに体調や、精神面に不調が出始めた。
精神面の安定のための食事も喉を通らない。
グリースが用意した精神安定剤を飲む用になった。
グリースが傍にいないと一睡もすることができず、誰かが目を離すと自傷行為に走るようになった。
――これは不味い――
グリースはあまりの状態の悪化に判断を変えた、ルリに何度も隠れ家に戻ろうと提案するがルリは首を振る。
強引に連れて帰るのも考えたが、それをするとルリの信頼を裏切る行為になりかねない、グリースは非常に悩んでいた。
だが一週間が過ぎることぴたりとそれらをルリは止めた。
薄い笑みを浮かべて遠くを見つめる様になったのだ。
反応は返す、そして相手が望む用な返事ばかりする。
だが、声に生きている音が感じられない、まるで人形が喋っているようだった。
誰も喜べなかった、「これは違う」「私が愛したルリではない」「私の敬愛しているルリ様ではない」と受け入れられなかった。
だが、受け入れられなかったアルジェントとヴァイスは自分が望むものではないと知りつつも、ルリが自分を受け入れるような甘い言葉を吐き出す誘惑に負けてしまった。
三週間が経過したころグリースはいつものようにルリが起きるか起きないかその位の時間帯に城のルリの部屋を訪れた。
ベッドの上で眠っているルリを覗き込む、この時ばかりは夢見の悪そうな表情を浮かべている。
目の下にもクマができており、肌色は悪い。
ルリの様子を見ていると、夢見が悪い状態から明らかにうなされているような状態に変化した。
「ルリちゃん、ルリちゃん」
グリースはルリの肩を揺する。
ルリはゆっくりと目を開けた、血色の悪い唇から荒い呼吸音が聞こえる。
ルリはきょろきょろと視線を動かしていたが、グリース目と合うと、安心した様にふにゃりと笑った。
グリースは深いため息をついて、自分にのばされた、ルリの手を両手でつかみ、祈るかのような体勢を取った。
「……ルリちゃん、戻ろう。これ以上ルリちゃんが自分を追い詰めるのを見ているのは俺にはできない」
ルリはゆっくりと起き上がり、笑顔で首を振った、相手の望むような返事をするルリが一つ返事をしないことだった。
グリースはこの一週間見てきたその笑顔に寒気がした。
生気がない、まるで仮面をかぶっているような作り物じみた風に見える。
ルリは自分で自覚ができない程、精神が壊れている。
それを残った精神が取り繕うとしているのが分かった。
だから、決して今のルリはグリースに「助けて」を言わないのが目に見えた。
自分の名前を呼ぶことはないと。
グリースはルリを抱きかかえた、ルリは何もわかっていないような表情をしたままぬいぐるみを抱きしめスマートフォンを握りしめている。
「グリース何をする気だ!!」
グリースが何かしようとしているのを察知したのかアルジェントが部屋に入ってきた。
ルリはアルジェントが来ても今では怯えもしない、薄い笑みを浮かべて何処か遠くを見ている。
「……二度目の判断ミスだ、手遅れかもしれないがルリちゃんを置いておくのはできない、お前らはああだしな!」
グリースは吐き捨てる様に言って、ルリを抱きかかえてその場から姿を消した。
グリースは隠れ家の前に転移した。
アルジェントに追跡はできないよう妨害の術も使用している。
身動きせずぬいぐるみとスマートフォンを持っているルリを抱きかかえたまま隠れ家の中に入り、扉を閉め、鍵をかける。
ルリを寝室に連れていき、ベッドに寝かせる。
ぬいぐるみを抱いている手からすっとスマートフォンを抜き取って仕舞う。
「ルリちゃん……」
グリースはスマートフォンを仕舞ってから、ぬいぐるみを抱いたままのルリの頬を撫でる。
ルリはグリースの方を見て、笑顔のまま口を開いた。
「グリース、愛してる」
まるで人形が言っているように聞こえる愛の言葉、グリースは吐き気がした。
グリースはルリの肩を掴んで縋るように言った。
「違うんだ、俺が欲しいのはそんな言葉じゃない」
「……違うの?」
「違うんだ、俺が言って欲しいのは違うんだよ」
――どうして助けてと言ってくれない――
グリースはルリを押し倒した。
ルリは少しきょとんとした顔をしてから、ぬいぐるみを手放し、作られたような愛らしい人形じみた笑みを浮かべてグリースに手を伸ばした。
「グリースも私のこと抱きたいの? いいよ……」
目はどこか虚ろだ、グリースの事を見ているのに、見ていない。
ぽた、ぽたた……
「……?」
グリースの灰色の目から二千年ぶりの涙がルリの顔に零れ落ちた。
「違うんだよ、違うんだよルリちゃん……君が、君が言わなきゃいけない言葉はそれじゃないだろう……?」
ルリはグリースの言葉をぼんやりと聞いている。
「なんで苦しいって言ってくれないんだ……辛いって言ってくれないんだ……どうしてそんな言葉ばっかり言うんだ……お願いだ、本心を言ってくれ、そんな他人にとって都合のよい言葉で自分の言葉を隠さないでくれ……」
グリースは言葉を吐き出した。
今までルリの言葉を待つことが多かったが、今のルリの状態はグリースは耐えられなかった、見たくはなかった。
傷ついて、怖くて、嫌で、嫌で、嫌でたまらないのに、それが辛いから心をばきりとへし折って、傷つかない様にして、笑顔をつくって、他人が望む言葉を喋って、望むままに体を開いて、そして夢でうなされる。
起きたらまた笑顔を作って、他人の望むように、求められるような反応をして、自分を壊していくルリには耐えられなかった。
自傷行為を始めた時点でここに戻すべきだった、彼女の言葉を信じるのではなかった、彼女の言葉を待つという約束を裏切ってでも連れ出すべきだった。
グリースは何度も言葉を吐き出す、違う、と。
涙を止められない、恋人と家族、友人たちを亡くして以来二千年もの間悲しくて泣いたことなどグリースは一度もなかった、だが今は悲しくてたまらなかった。
悔しくてたまらなかった、憎くてたまらなかった。
自分も、ヴァイスも、アルジェントも、憎くて、憎くて仕方なかった。
ああ、何て救いようがないんだ、俺たちは。
「……ぐ……りー……す」
しばらく何も言わずグリースを見ていた、ルリが口を開いた。
グリースは虚ろな目に生気が弱弱しいが戻ったのを見逃さなかった。
「……ルリちゃん、言っていいんだよ? お願いだ、俺に言って?」
ルリの唇が震える、まるで言ってはいけないことを言おうと葛藤しているようだった。
グリースは待った、ルリの、ルリが言いたい言葉を、必死に押し殺していた言葉を。
「グリース……たすけて……!!」
ルリは涙を流して押し殺し続けた言葉を口にした。
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