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雪ちゃん劇場──男の前だけ“天使”、女の前では“悪魔”
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「ちょっと、並本さん。どういうつもり?」
私が怒りを抑えきれず声を上げた、その瞬間だった。
「酷いです……。
私、みんなと仲良くしたかっただけなのに……」
そう言って、彼女はぽろぽろと涙を流し始めた。
その突然の涙に、私たちは言葉を失った。
そこへ部長が通りかかり、眉をひそめる。
「まさか……社内いじめじゃないよね?」
──そして、私たちは呼び出された。
けれど、そこでは普段の人徳──
正確には、地道に積み上げてきた信頼が功を奏した。
人事がきちんと話を聞いてくれ、一時は派遣契約終了まで話が進んだのだ。
だが最終的に、彼女はなぜか営業部へ異動となった。
うちの会社は、総務経理と営業部でフロアが違う。
そのため、彼女と顔を合わせることはなくなった。
──あの時は、これで終わったと思っていた。
あの日以降、凛は彼氏と破局。
葉子は片想いの相手に振られ、
私たちは最悪の後味を抱えたまま、日々を過ごしていた。
だが、彼女の異動をきっかけに、営業部の女子たちとの関係まで悪化した。
まるで、誰かが裏で焚きつけているかのように……。
そう。
異動前から、社内には妙な噂が流れ始めていたのだ。
──「経理部の女性陣が意地悪して、並本さんを追い出したらしいよ」
……噂の出所など、探さなくても明らかだった。
一方、並本雪花は営業部に移ってからというもの、
“本性”を隠さなくなったらしい。
営業部は花形部署で、若い男性社員が多い。
最初こそ猫を被っていたが、次第にボディタッチが増え、
いつの間にか廃止されていた“お茶出し”を勝手に復活させた。
「外回りで大変な思いして帰ってきてるのに、
お茶くらい出してあげないと。
独身の子は、そういうところ気が回らないのよね~」
そう言って、夏は冷たいお茶、
冬は温かいお茶を給茶機で入れて配っていたという。
営業部の女子たちは、きちんと注意した。
「並本さんが個人的にやるのは自由ですけど、
私たちにまで求めるのはやめてくださいね」
だが、彼女は聞く耳を持たなかった。
“お茶出し最優先”、仕事は後回し。
──もはや、誰にも止められなかった。
それでも営業部の女子たちは、波風を立てまいと努力したらしい。
できるだけ穏便に、うまくやっていこうと……。
けれど、冬。
ついに事件は起きた。
外回りから戻ってきた若手営業社員に、雪花は言った。
「コート、預かりますね。お店みたいに~」
「私、末端冷え性なんです~」
そう言って、彼が脱いだばかりのコートを羽織る。
「わぁ……。
まだ○○さんの温もりが残ってて、あったかい……♡」
……ゾワッ。
さらに、営業部のホープ君が缶コーヒーを手にデスクへ戻ると、
彼女はその手ごと包み込むように握って言った。
「温かい~……」
もちろん、上目遣いで微笑みながら。
だが、ホープ君はモテる男だ。
さすがに慣れているのか、軽く手を外して言った。
「じゃあ、その缶コーヒーあげるから、持って行って」
──ここで普通なら、笑って流す場面。
しかし彼女は、唇を震わせて言った。
「酷い……。
私は、手が温まるまで借りたいだけだったのにぃ!
そういう態度って、酷くないですか?」
周囲の社員たちは、乾いた笑いしか出なかったらしい。
けれど、例の“馬鹿な男社員”たちは、こう言った。
「雪ちゃんは天然なんだから、優しくしてやれよ」
……どんな天然だよ!!
と、当時の私は思わず机を叩きたくなった。
──そう。
あの女は、どこへ行っても
男の前では天使、女の前では悪魔。
そういうタイプの人間だったのだ。
私が怒りを抑えきれず声を上げた、その瞬間だった。
「酷いです……。
私、みんなと仲良くしたかっただけなのに……」
そう言って、彼女はぽろぽろと涙を流し始めた。
その突然の涙に、私たちは言葉を失った。
そこへ部長が通りかかり、眉をひそめる。
「まさか……社内いじめじゃないよね?」
──そして、私たちは呼び出された。
けれど、そこでは普段の人徳──
正確には、地道に積み上げてきた信頼が功を奏した。
人事がきちんと話を聞いてくれ、一時は派遣契約終了まで話が進んだのだ。
だが最終的に、彼女はなぜか営業部へ異動となった。
うちの会社は、総務経理と営業部でフロアが違う。
そのため、彼女と顔を合わせることはなくなった。
──あの時は、これで終わったと思っていた。
あの日以降、凛は彼氏と破局。
葉子は片想いの相手に振られ、
私たちは最悪の後味を抱えたまま、日々を過ごしていた。
だが、彼女の異動をきっかけに、営業部の女子たちとの関係まで悪化した。
まるで、誰かが裏で焚きつけているかのように……。
そう。
異動前から、社内には妙な噂が流れ始めていたのだ。
──「経理部の女性陣が意地悪して、並本さんを追い出したらしいよ」
……噂の出所など、探さなくても明らかだった。
一方、並本雪花は営業部に移ってからというもの、
“本性”を隠さなくなったらしい。
営業部は花形部署で、若い男性社員が多い。
最初こそ猫を被っていたが、次第にボディタッチが増え、
いつの間にか廃止されていた“お茶出し”を勝手に復活させた。
「外回りで大変な思いして帰ってきてるのに、
お茶くらい出してあげないと。
独身の子は、そういうところ気が回らないのよね~」
そう言って、夏は冷たいお茶、
冬は温かいお茶を給茶機で入れて配っていたという。
営業部の女子たちは、きちんと注意した。
「並本さんが個人的にやるのは自由ですけど、
私たちにまで求めるのはやめてくださいね」
だが、彼女は聞く耳を持たなかった。
“お茶出し最優先”、仕事は後回し。
──もはや、誰にも止められなかった。
それでも営業部の女子たちは、波風を立てまいと努力したらしい。
できるだけ穏便に、うまくやっていこうと……。
けれど、冬。
ついに事件は起きた。
外回りから戻ってきた若手営業社員に、雪花は言った。
「コート、預かりますね。お店みたいに~」
「私、末端冷え性なんです~」
そう言って、彼が脱いだばかりのコートを羽織る。
「わぁ……。
まだ○○さんの温もりが残ってて、あったかい……♡」
……ゾワッ。
さらに、営業部のホープ君が缶コーヒーを手にデスクへ戻ると、
彼女はその手ごと包み込むように握って言った。
「温かい~……」
もちろん、上目遣いで微笑みながら。
だが、ホープ君はモテる男だ。
さすがに慣れているのか、軽く手を外して言った。
「じゃあ、その缶コーヒーあげるから、持って行って」
──ここで普通なら、笑って流す場面。
しかし彼女は、唇を震わせて言った。
「酷い……。
私は、手が温まるまで借りたいだけだったのにぃ!
そういう態度って、酷くないですか?」
周囲の社員たちは、乾いた笑いしか出なかったらしい。
けれど、例の“馬鹿な男社員”たちは、こう言った。
「雪ちゃんは天然なんだから、優しくしてやれよ」
……どんな天然だよ!!
と、当時の私は思わず机を叩きたくなった。
──そう。
あの女は、どこへ行っても
男の前では天使、女の前では悪魔。
そういうタイプの人間だったのだ。
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