マリンフェアリー

國灯闇一

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Ⅴ章――――夜に流れる光の音

26  映画館から出たような空気と冷やかし

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 少々たどたどしい部分がありながら物語を閉める。
 十数分の物語が終幕を迎えた時には、楽しげな雰囲気は影を潜めていた。しんみりとした空気、だろうか? 俺は落ち着かない気持ちを目にたくしてさまよわせた。
「大変だったなぁ」
 卵の形によく似た頭をしたオジサンがまったりと呟いた。
「運がよかったというかなんというか」
 俺に酒を勧めようとした兄ちゃんが感慨深そうに感想を口にする。
「まあ生きて帰ってこられたんだ。よかったじゃないか」
「そうですね」
 どうやら期待にはこたえられたみたいだな。妙な重圧から解放され、胸を撫で下ろす。

「それで、生死をわかつ経験を共にしたお前たちは、両想いになったわけか」
「はっ⁉」
 不意を突かれた気分だった。紙芝居を見聞きする子供みたいだった大人たちは、イヤらしくにんまりした表情で俺たちを見つめていた。
「いやあああ! 真夏の海で遭難。命からがら流された岩礁がんしょうで二人きり」
「助けようとした女の子が熱を出して健気に看病。自分も疲れてんのに、必死に食料を獲りに行って」
「もしオレが女なら、間違いなく惚れてるねぇ」
 熱視線。なんだなんだ⁉ 勘弁してくれ。
 ここにいる人たちは妄想が激しいようだ。いや、酒のせいか?
「あれあれ、もしかして図星かぁ?」
「二人とも顔真っ赤にしてぇ、いいねぇ~甘ずっぺええー!」
 え、折谷が?
 はたと視線を投げると、褐色の顔は熱を出した時より赤くして、いじけるように表情をむっとさせていた。

「何があってもおかしくねえからな……」
「ああ、海の上で同じ高校に通う男女が二人きり。いやぁ……これ以上は言えねえ」
 今にもムフフフフフ、とか下品な口から出そうな勢いで勝手なことを言っている。
 ここにいる人たちは同じ映像が見えているようだ。そういうのは俺たちのいないところでやってほしい……。
 俺が気苦労に肩を落としていると、隣で長机がバンっと叩かれた。
 突然のことに体がビクっとなり、目を見張った。

 不機嫌な顔をした折谷が机に両手をついて立ち上がっていた。
 大きな音は激しく妄想を膨らませている大人たちの口を一瞬にして封じてしまった。
 さすがに折谷の堪忍袋の緒が切れたかと、警戒して固まって数秒。折谷は俺の手を取り、強引に引っ張り出した。
「お、おい」
 俺はうろたえながら声をかける。
「行こ……」
 折谷はか細い声で言った。
「藍原君!」

 大きな声で呼び止められた。視線を弾くと、れいさんが走り寄ってきた。澪さんを捉えた瞬間、俺の手を引っ張る力が弱まったのを感じた。
 れいさんは安堵したように息を整えると、手に持ったペットボトルを差し出してきた。
「これ、二人で飲んで」
「あ、ありがとうございます」
 れいさんは顔を横に振る。
「お礼なんて言わないで。藍原君には感謝してるの。本当に、ありがとう」
「い、いえ」

 改めてお礼を言われるのも妙にこそばゆい。れいさんの言葉からは、心の底から感謝しているのがひしひしと感じられた。
「それで、もしよかったらなんだけど……」
 そう前置きしたれいさんは、俺に顔を寄せてきた。
「菜音歌のこと、これからもよろしくね」
 大人っぽい艶やかな声色に固まってしまい、うんともすんとも言えなかった。

「なにしてんの‼」
「あいたっ⁉」
 後頭部をバシッと叩かれ、しびれを切らした折谷に引っ張られる。
 後ろから冷やかす声と高い指笛の音が聞こえてくるが、足早に歩く折谷に連れられ、聞こえなくなるのにそう時間はかからなかった。
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