41 / 83
第二章 縁結びの、ミニドーナツ
19.河童の証言3
しおりを挟む
「葉月さんってば、本当は簡単に友だちもつくれる子なんですけどねえ」
瓜生は遠い目になった。
「ちょっと真面目すぎるところはありますけど、いい子だし。本人が無理だって決めつけてるだけで、本当はできる子なんですよ」
それはそうだろうな、と快も思う。なかなか、瓜生もわかっているようだ。
「週末のクラスメイトとの予定も、瓜生がいないと無理だって思ってそうだったぞ」
「うーん、それは困りました。ぼくは行けないし……」
と、瓜生の目が快を映した。ぽんっと彼が手を打つ。嫌な予感がした。
「そうだ。快さんがぼくの代わりに行ってくれればいいのでは?」
「無理だ」
瓜生の提案をばっさり切り捨てる。
「な、なんでですか!」
「おまえは葉月さんと同い年くらいの外見だからいいけど、俺が女子中学生の輪に入るのはおかしいだろ」
「引率の先生かなってなるやろうね」
想像したのか、八尋がくすくすと笑う。快はそんな幼なじみに睨みを利かせつつ、瓜生につけたした。
「それに、俺より瓜生に励まされたほうが、葉月さんもうれしいだろうし」
「そうは言われても、ぼくは川から離れられませんよ」
瓜生は困った笑みを浮かべた。しばらく考え込む顔をする。彼なりに葉月のことを大切だと思っているのだろう。あれこれと考えたあとで、「じゃあ」と提案する。
「彼女に言づてをお願いできませんか?」
「伝言か。まあ、それくらいならいいけど」
「よかった。それから……、ドーナツをあげてもらえたら、うれしいです。ぼく、いつももらってばかりだったので、最後くらいお返しをしなければ」
「快さんのドーナツは高いから気ぃつけてな、瓜生くん」
八尋のからかいに、瓜生が飛び跳ねる。
「えええっ、そうなんですか? そんなものをいつも葉月さんにもらっていたなんて! どうしよう!」
「待て、うちのドーナツはふつうの値段だ。ぼったくり店主みたいな言い方はやめろ、八尋。……とはいえ、瓜生って人間の金を持ってるのか?」
ぴしっと瓜生が固まる。
人間と関わらないようにして生きてきたのなら、お金なんて持っていないだろう。さすがに快も、店を経営する身としてただ働きするわけにはいかないし。
瓜生は視線をさまよわせた。
「あーえっと、じゃあ……、特別に河童仕込みの胡瓜のぬか漬けをお裾分けするというのはどうでしょう? それがお代ということで、いかがです?」
「あ、ええなあ。河童が漬けた胡瓜って、めちゃくちゃ美味しいんよ。でも胡瓜は河童の好物やから、譲ってもらえることなんて滅多にないし」
八尋がうらやましそうな目で快を見る。快は特別漬物が好きなわけではないけれど、そこまで八尋が言うのであれば気になってくる。葉月のためになにかしてあげたいという思いもあるし。
「わかった。それで手を打とう」
「ありがとうございます! じゃあ、できれば当日に、葉月さんに渡してあげてほしいです。お友だちと食べてもらえるように、種類もたくさんそろえてもらえれば……、あ、ちゃんと数に見合った胡瓜はお渡ししますよ! 任せてください!」
胡瓜のぬか漬けを大量にもらっても困りそうではあるが、まあいいだろう。
「了解。で、届け先はどこなんだ?」
葉月の家か、出掛ける先を教えてもらえれば届けることはできる。瓜生は葉月と遊びに行く約束を一度はしているのだし、行き先くらい知っているだろう。と思ったのだが、瓜生はこてんと首をかしげた。
「さて……、どこでしょうね?」
瓜生は遠い目になった。
「ちょっと真面目すぎるところはありますけど、いい子だし。本人が無理だって決めつけてるだけで、本当はできる子なんですよ」
それはそうだろうな、と快も思う。なかなか、瓜生もわかっているようだ。
「週末のクラスメイトとの予定も、瓜生がいないと無理だって思ってそうだったぞ」
「うーん、それは困りました。ぼくは行けないし……」
と、瓜生の目が快を映した。ぽんっと彼が手を打つ。嫌な予感がした。
「そうだ。快さんがぼくの代わりに行ってくれればいいのでは?」
「無理だ」
瓜生の提案をばっさり切り捨てる。
「な、なんでですか!」
「おまえは葉月さんと同い年くらいの外見だからいいけど、俺が女子中学生の輪に入るのはおかしいだろ」
「引率の先生かなってなるやろうね」
想像したのか、八尋がくすくすと笑う。快はそんな幼なじみに睨みを利かせつつ、瓜生につけたした。
「それに、俺より瓜生に励まされたほうが、葉月さんもうれしいだろうし」
「そうは言われても、ぼくは川から離れられませんよ」
瓜生は困った笑みを浮かべた。しばらく考え込む顔をする。彼なりに葉月のことを大切だと思っているのだろう。あれこれと考えたあとで、「じゃあ」と提案する。
「彼女に言づてをお願いできませんか?」
「伝言か。まあ、それくらいならいいけど」
「よかった。それから……、ドーナツをあげてもらえたら、うれしいです。ぼく、いつももらってばかりだったので、最後くらいお返しをしなければ」
「快さんのドーナツは高いから気ぃつけてな、瓜生くん」
八尋のからかいに、瓜生が飛び跳ねる。
「えええっ、そうなんですか? そんなものをいつも葉月さんにもらっていたなんて! どうしよう!」
「待て、うちのドーナツはふつうの値段だ。ぼったくり店主みたいな言い方はやめろ、八尋。……とはいえ、瓜生って人間の金を持ってるのか?」
ぴしっと瓜生が固まる。
人間と関わらないようにして生きてきたのなら、お金なんて持っていないだろう。さすがに快も、店を経営する身としてただ働きするわけにはいかないし。
瓜生は視線をさまよわせた。
「あーえっと、じゃあ……、特別に河童仕込みの胡瓜のぬか漬けをお裾分けするというのはどうでしょう? それがお代ということで、いかがです?」
「あ、ええなあ。河童が漬けた胡瓜って、めちゃくちゃ美味しいんよ。でも胡瓜は河童の好物やから、譲ってもらえることなんて滅多にないし」
八尋がうらやましそうな目で快を見る。快は特別漬物が好きなわけではないけれど、そこまで八尋が言うのであれば気になってくる。葉月のためになにかしてあげたいという思いもあるし。
「わかった。それで手を打とう」
「ありがとうございます! じゃあ、できれば当日に、葉月さんに渡してあげてほしいです。お友だちと食べてもらえるように、種類もたくさんそろえてもらえれば……、あ、ちゃんと数に見合った胡瓜はお渡ししますよ! 任せてください!」
胡瓜のぬか漬けを大量にもらっても困りそうではあるが、まあいいだろう。
「了解。で、届け先はどこなんだ?」
葉月の家か、出掛ける先を教えてもらえれば届けることはできる。瓜生は葉月と遊びに行く約束を一度はしているのだし、行き先くらい知っているだろう。と思ったのだが、瓜生はこてんと首をかしげた。
「さて……、どこでしょうね?」
2
あなたにおすすめの小説
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる