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第二章 縁結びの、ミニドーナツ
22.開店準備と推察3
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「み、水……」
「あ、皿が乾くとかいうやつか。待ってろ」
砂漠に放り出された旅人のように水を求める瓜生に、快は厨房からボウルに水をためて持ってくると、ざばりと頭からかけてやる。もう一度声をかけると、やっと瓜生は身体を起こした。
「いやあ、ありがとうございます。生き返りました」
「それはいいけど、なんでここにいるんだ? というか、河童の姿でここまで来たのか?」
「そんなそんな。もちろん、ひとの姿に化けて来ましたって。ただ力尽きて、ここにたどり着いたときに変化が解けてしまいました」
言いながら、瓜生はひとの姿に化けてみせる。だがその肌にはじんましんが出ていた。
「ああ、川が遠い……川が……」
水を求めて禁断症状が出ているらしい。河童も難儀なものだ。
「で、そんなおまえが、なんで店にまで?」
訊くと、はっと瓜生が我に返る。
「そうでした! 思い出したんです、葉月さんの言葉を!」
身を乗り出して言われたものだから、快は思わずのけぞった。それでもぐいとさらに乗り出そうとする瓜生を押し留めつつ「思い出したって、なにを?」と話を促す。
「えっとですね、たしか葉月さん、朝一、駅に集合だって言ってたんです」
かちっと、最後のピースがはまる音がした。快が悩んでいた、時間の情報だ。これで、葉月に会える確率はぐんと高まった。
「朝一か。たしか、トロッコ列車の始発って……」
「九時二分」
八尋がスマホで検索しながら答えた。現在時刻、八時四十五分。
「もうすぐ」
ひなたがドーナツを食べつつ、非情な現実を突きつける。快はさっと顔を青くさせた。
「おい、まだドーナツできてないぞ! 中学生、そんな早起きしないだろうと思って油断した!」
「快さん、女子中学生をなんやと思ってんの。部活の朝練とかあるし、けっこう早起きでしょ、あの子ら」
「ちょっと待て。時間が、えっと……急ぐから、ちょっと待て!」
このままでは間に合わない。快は混乱して、無意味に厨房と瓜生の間で視線をさまよわせた。いや、そんなことをしている場合ではなく、はやくドーナツを完成させなくては。
「ぼく、ちょっともう無理そうなんで、川もどりますね……もう、ほんと、無理……」
「わ、わかった。気をつけて帰れよ!」
禁断症状にうめく瓜生に叫びつつ、あわただしく厨房にもどる。
「快さん、なんや手伝おか?」
「てつだう?」
「いや、いい! 大丈夫だ!」
料理べたな八尋はドーナツを爆発させかねないし、ひなたはまだ子どもだ。さすがに、店の商品づくりをふたりに手伝ってもらうわけにはいかない。しかしこのままでは時間が足りない。
――仕方ない……!
快は厨房全体に意識を巡らせた。ここはもう、やるしかないだろう。
魔力を注ぐと、厨房内の調理器具がふわりと浮き上がる。絞り袋はひとりでにドーナツにクリームを注ぎ、生地は成形され、ドーナツは溶かしたチョコに沈みコーティングされていく。
「おお、すごいすごい」
「かい、すごい」
厨房の外からのんきな称賛を送ってくるふたりに言葉を返す余裕もなく、快は魔法を駆使しつつ、いつもの数倍の速さでドーナツを仕上げていった。魔法嫌いだなんだと言っている暇はない。
「あ、皿が乾くとかいうやつか。待ってろ」
砂漠に放り出された旅人のように水を求める瓜生に、快は厨房からボウルに水をためて持ってくると、ざばりと頭からかけてやる。もう一度声をかけると、やっと瓜生は身体を起こした。
「いやあ、ありがとうございます。生き返りました」
「それはいいけど、なんでここにいるんだ? というか、河童の姿でここまで来たのか?」
「そんなそんな。もちろん、ひとの姿に化けて来ましたって。ただ力尽きて、ここにたどり着いたときに変化が解けてしまいました」
言いながら、瓜生はひとの姿に化けてみせる。だがその肌にはじんましんが出ていた。
「ああ、川が遠い……川が……」
水を求めて禁断症状が出ているらしい。河童も難儀なものだ。
「で、そんなおまえが、なんで店にまで?」
訊くと、はっと瓜生が我に返る。
「そうでした! 思い出したんです、葉月さんの言葉を!」
身を乗り出して言われたものだから、快は思わずのけぞった。それでもぐいとさらに乗り出そうとする瓜生を押し留めつつ「思い出したって、なにを?」と話を促す。
「えっとですね、たしか葉月さん、朝一、駅に集合だって言ってたんです」
かちっと、最後のピースがはまる音がした。快が悩んでいた、時間の情報だ。これで、葉月に会える確率はぐんと高まった。
「朝一か。たしか、トロッコ列車の始発って……」
「九時二分」
八尋がスマホで検索しながら答えた。現在時刻、八時四十五分。
「もうすぐ」
ひなたがドーナツを食べつつ、非情な現実を突きつける。快はさっと顔を青くさせた。
「おい、まだドーナツできてないぞ! 中学生、そんな早起きしないだろうと思って油断した!」
「快さん、女子中学生をなんやと思ってんの。部活の朝練とかあるし、けっこう早起きでしょ、あの子ら」
「ちょっと待て。時間が、えっと……急ぐから、ちょっと待て!」
このままでは間に合わない。快は混乱して、無意味に厨房と瓜生の間で視線をさまよわせた。いや、そんなことをしている場合ではなく、はやくドーナツを完成させなくては。
「ぼく、ちょっともう無理そうなんで、川もどりますね……もう、ほんと、無理……」
「わ、わかった。気をつけて帰れよ!」
禁断症状にうめく瓜生に叫びつつ、あわただしく厨房にもどる。
「快さん、なんや手伝おか?」
「てつだう?」
「いや、いい! 大丈夫だ!」
料理べたな八尋はドーナツを爆発させかねないし、ひなたはまだ子どもだ。さすがに、店の商品づくりをふたりに手伝ってもらうわけにはいかない。しかしこのままでは時間が足りない。
――仕方ない……!
快は厨房全体に意識を巡らせた。ここはもう、やるしかないだろう。
魔力を注ぐと、厨房内の調理器具がふわりと浮き上がる。絞り袋はひとりでにドーナツにクリームを注ぎ、生地は成形され、ドーナツは溶かしたチョコに沈みコーティングされていく。
「おお、すごいすごい」
「かい、すごい」
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