転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲

文字の大きさ
14 / 37

10歳 その12

しおりを挟む
「はぁ……」
 お茶会も終わり、その夜。ベッドに寝そべってため息を吐く。
 リチャード様にフィリップにシリル、アレン。改めて攻略対象の4人と顔を合わせると、やっぱりここは「貴方と私で幸せに」ゲームの世界なんだと実感させられる。

 今日改めてはっきり思ったのは、今の私はどうやら前世の記憶に相当引きずられているらしいという事だ。薄々気が付いていたけれど、現世の私エイミーよりも前世の私木崎絵美としての意識が強く表面に出ている。
 言葉遣いや基本的なマナーなんかは、エイミーの経験が残っているし生きている。だから、エイミーとしての意識が全く無くなった訳ではないと思うのだけれど。物事を考える上で出てくる性格はほぼ木崎絵美のものだ。
 過ごしてきた年齢の長さの違いなのか、そうでない理由があるのかはわからないけれど、このままで良いのか少し悩んでしまう。

 今回のお茶会でも、迎えに来てくれたことにしろ、衣装の色にしろ、婚約者として大切に扱ってくれるその気遣いに嬉しくなると同時に胸が痛んでいた。
 前世の記憶が戻ってからはずっとこうだ。大事にされるたび離れがたい気持ちが出てきて、自分をたしなめてを繰り返す。
 スキンシップに慣れる事がなくてぎこちないままなのも、そのせいだとはわかっている。
 推しの婚約者。そんな素敵ポジションを満喫しながらも、いつかくる別れの日の事を考えてしまう。こんな事なら前世の記憶なんて戻らなければ良かったと思いに囚われる。
 いつか来る日の事を覚悟しようだなんて思っていても、結局はこの様だ。リチャード様と触れ合えば触れ合うほど、好きの気持ちが募っていく。そして別れを思うと苦しくなる。

 エイミーの記憶だけだとしたら絶対にありえなかった感情。本来であれば大好きな婚約者に大切にされたなら無邪気に喜べばそれでいいはずなのに。そんな簡単な事ができなくなっている。
 今のところは「照れ屋で控えめな婚約者」で済んではいるけれど、あまりにもこれが長続きすると流石に不審に思われそうだ。
 けれど、そもそもが前世の推しとのスキンシップに慣れるってところから始めないといけない訳で。前世からの気持ちが募っているだけに、正直に言えばあまり自信がなかった。

 でも、この後ヒロインは確実に登場するだろう。そしてリチャード様と恋に落ちる可能性がある。
 ヒロインが誰のルートを選ぶか未知数な以上、まだ「可能性」に過ぎない。なんて、自分にまた言い訳してしまう。

 時期的にゲームの開始はまだ先の事とはいえ、いつヒロインが現れるかわからない。ずいぶん後回しにしてしまったけれど、とりあえずゲーム中の設定だけでも思い出しておくべきだろう。
 ゲームの開始は5年後、貴族が通う学園にヒロインが入学するところから始まる。そして、そこから1年間でエンディング。
 攻略対象は5人。
 第二王子のリチャード様、伯爵嫡男のフィリップ、宰相息子のシリル、騎士団長息子のアレン。そこにヒロインの幼馴染のローランが加わる。
 リチャード様ルートとフィリップルートでのライバルキャラが私。シリルとアレンはそれぞれ婚約者がいて、ローランはライバルキャラは存在せず。
 ヒロインのデフォルトネームは、マリア・ロレーヌ。
 ブルネットの髪にブラウンの瞳。という日本人に近い配色のキャラクター。特別美人ではないけど愛嬌がある顔立ちという説明だった。
 キャラ立ちはそんなにしてなくて、割りと入り込みやすいように設定されたヒロインだったように思う。
 と、こんなところだろうか。本編の内容はルート次第で変わってしまうから、今思い出せる情報と言っても正直に言えばそこまで多くはない。

 後はそう。リチャード様ルートでエイミーがどんなふうに身を引くか。だとか。
 あのシーン感動的で何回もやったなぁ。それでエイミーに感情移入してうっかり泣いたりもして。
 忘れてしまいたいというか、無かったことにしてしまいたいという気持ちはあれど。あの時の彼女エイミーの覚悟を思うとそんな事も言ってられない。
 好きだけど、好きだからこそ身を引いて幸せを願うのが本当の恋愛なんじゃないかと。そんな事を前世では考えたりもしたっけ。
 まあ、その時の私ってば恋愛なんて乙女ゲーの中でしか体験していなかったけれどね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは
恋愛
多くの乙女ゲームで悪役令嬢を演じたプロの悪役令嬢は、エリーナとして新しいゲームの世界で目覚める。しかし、今回は悪役令嬢に必須のつり目も縦巻きロールもなく、シナリオも分からない。それでも立派な悪役令嬢を演じるべく突き進んだ。  そして、学園に入学しヒロインを探すが、なぜか攻略対象と思われるキャラが集まってくる。さらに、前世の記憶がある少女にエリーナがヒロインだと告げられ、隠しキャラを出して欲しいとお願いされた……。  これは、ロマンス小説とプリンが大好きなエリーナが、悪役令嬢のプライドを胸に、少しずつ自分の気持ちを知り恋をしていく物語。なろう完結済み Copyright(C)2019 幸路ことは

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜
恋愛
ある日前世を思い出したエレナは、自分が大好きだった漫画の世界に転生していることに気付いた。 推しキャラは悪役令嬢! 近くで拝みたい!せっかくなら仲良くなりたい! そう思ったエレナは行動を開始する。 それに悪役令嬢の婚約者はお兄様。 主人公より絶対推しと義姉妹になりたい! 自分の幸せより推しの幸せが大事。 そんなエレナだったはずが、気付けば兄に溺愛され、推しに溺愛され……知らない間にお兄様の親友と婚約していた。

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!    「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」   これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。   おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。 ヒロインはどこいった!?  私、無事、学園を卒業できるの?!    恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。   乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。 裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。 2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。   2024年3月21日番外編アップしました。              *************** この小説はハーレム系です。 ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。 お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)        *****************

処理中です...